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ITでない「回転すし」(かっぱ寿司の元社長逮捕)にも適用された不正競争防止法の「営業秘密」の条件とは<営業秘密管理指針>

2022-10-08 11:03:18 | 社会保険労務士
 営業秘密は「秘密管理性」「有用性」「非公知性」の条件が必要<特に「秘密管理性」を創り上げることが重要> 

 かっぱ寿司の長谷川元社長が、以前勤めていた「はま寿司」の食材の原価・取引先のデータ等「営業秘密」を不正に取得したとして、不正競争防止法違反の疑いで9月30日(=22年)逮捕された。不正競争防止法の「営業秘密」の侵害行為(不正取得)とは、不正の利益を得る目的又はその損害を加える目的で、その営業秘密の使用等を行う行為であり、従来IT関係などの企業秘密に適用されていたものです。例えば、2014年東芝の半導体メモリーの研究データを元技術者が無断複製したものとした事件が挙げられるところです。それが、回転すし業界に適用されたというからおどろきです。それほどまでに、回転すし業界は、競争が激しいとも受け取れます。

 そもそも、回転すしの食材の原価・取引先のデータは、「営業秘密」にあたるのでしょうか。 いわゆるITや半導体技術等の高度な技術・情報しか営業秘密に当たらないのでしょうか。不正競争防止法の保護対象となる「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法その他の有用な技術上または営業上の情報であって、公然と知られていないもの」(同法2条6項)とされています。この営業秘密として、具体的に管理するやり方として、経済産業省が定めた「営業秘密管理指針」がありますので、これに沿って、その内容をちょっと見たいと思います。営業秘密として保護されるためには、「秘密」として管理されるという「秘密管理性」、それが客観的に「有用性」を有していること、一般的には入手できないという「非公知性」の3つの条件を満たす技術又は営業上の情報であることが必要です。

 「秘密管理性」が認められるためには、企業がその情報を秘密であると単に主観的に認識しているだけでは不十分であって、企業が秘密として管理しようとする意思が、具体的状況に応じた経済合理的な秘密管理措置によって、従業員に示され、結果として、従業員がその秘密を管理する意思を容易に認識できる必要がある。取引先に対しても同様。この秘密管理措置に関しては、一般的には、情報にアクセスできる者が制限されていること(アクセス制限)、情報にアクセスした者に当該情報が営業秘密であることが認識できるようにされていること(認識可能性)の2つが管理性を判断する重要なファクターであると説明されてきていたが、これにはむしろ従業員等の「認識可能性」の方が重要ということで、必ずしも十分な「アクセス制限」がないことを根拠に秘密管理性が否定されることもないとしている。

 ただし、企業が相当高度な秘密管理を網羅的に行った場合に、法的保護が与えられると考えることは適切ではなく、営業秘密はそれを企業の内外で組織的に共有することによってその効用を発揮するものであって、リスクや対策費用の大小を踏まえて、その効率的な運用が行われることが必要であります。特に最近では中小企業が営業機密を活かして運用しているところで、これらの企業に鉄壁の秘密管理を求めることは、むしろ現実的ではありません。

 そこで、具体的に必要な秘密管理措置の内容・程度は、企業の規模、業態、従業員の職務、情報の性質その他の事情のよって、異なるものであるとしている。企業における営業秘密の管理単位(営業秘密情報を管理している独立単位)における従業員が、それを一般的に容易に認識する程度のものが必要としている。小規模事業では会社全体で管理しているかもしれないし、その商品を取り扱っている課で行っているものかもしれないが、一般的には、当該管理規定等を設けることが必要で、事業所全体で管理する場合にはすくなくとも、労働基準法にいう「就業規則」にする必要がある。(事業場の労働者のすべてに適用される定めの場合は、就業規則に定めるとある。労働基準法89条)

 「非公知性」が認められるためには、一般的には知られておらず、又は容易に知ることができないことが必要である。具体的には、当該情報が合理的な努力の範囲内で入手可能な刊行物に記載されていないとか、公開情報や一般に入手可能な商品等から容易に推測・分析されないなど、保有者の管理以外では一般的に入手できない状態である。ここで、一般に知られている情報の組み合わせによっても「専門家により多額の費用をかけ、長時間にわたって分析すことが必要である」なものは、非公知性があるとされている。(大阪地判平成15年2月27日)

 「有用性」が認められるためには、その情報が客観的に、事業活動にとって有用であることが必要である。有用性の要件は、公序良俗に反する情報(脱税・有害物質の垂れ流し等)などの正当な利益が乏しい情報を外した上で、広い意味で商業的価値が認められる情報を保護することに主眼がある。したがって、一般的には秘密管理性、非公知性を満たす情報は、有用性が認められることが通常である。また、必ずしも現に事業活動に使用・利用することを要するものではない。

 したがって、営業秘密の対象が「非公知性」(知られていない・容易に知ることができない)であって、会社の「秘密管理措置」が施されていれば、一般的には、客観的に商業的価値も認められところであり、それは「有用性」が認められるところであって「営業秘密」の条件を満たすことになります。回転すしの原価等が「営業秘密」に該当するかについては、同様に、これも「非公知性」「秘密管理措置」そして、それによって「有用性」の3つが揃う可能性は十分あることになります。田辺容疑者は「かっぱ社の水準を把握するため」と言い、警視庁ではかっぱ社の強みや弱みを把握・経営に役立てたとみているとされ、そうであれば「有用性」は認められるところであり、不正競争防止法にいう「秘密」にあたる可能性は十分あることになります。
 
 ここで営業秘密であるかどうかは、「非公知性」「有用性」についてはおのずと決まってくるところであり、問題は会社で秘密管理措置が創り上げられているかが重要となってきます。先に述べたように、結局のところ、従業員にアクセス制限、認識可能性の管理をちゃんと行うことが営業秘密として認められるかの境目になってくるということです。

 このように、不正競争防止法では、元従業員であれ、誰であろうと不正を犯せば違反罰則となるが、要件が厳格なため、あまり認められてこなかった経緯がある。しかし、労働法の世界では、労働契約を締結した労働者には、労働契約上の付随義務として、信義則に基づいて営業秘密義務を負っている。これは、不正競争防止法の営業秘密の範囲内に入らないものについても、広く及ぶのである。ただし、労働契約の終了後も、この義務があるかは解釈上争いがあり、就業規則さらには退職時に個別契約を結んで秘密保持を守らせようとしている事業所が多い。

 参考 詳解労働法 水町勇一郎著 
    厚生労働省 営業秘密管理指針  
 
 

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