長期年次有給休暇は諸状況を蓋然性に基づき判断せざるを得ないので事前調整なしでは使用者に裁量的判断の余地を認めざるを得ない<時事通信社事件(最3小判平成4年6月23日)>
年次有給休暇については、労働者が具体的な休暇の日を特定<時季指定権>すれば、そのまま年休は与えられるが、これに対し「事業の正常な運営を妨げる場合」には、使用者は休暇の時季の変更<時季変更権>を行うことができるとされている。(労基法39条5項) 年次有給休暇は休暇の期間が法律上は「時季」とされているように、季節単位の長いのが本来の趣旨であったように思えるのだが、実際の会社においては(日本においてはと付け加えるべきか・・)そう長く休暇を取ることはない。そこで、使用者は労働者が年休が取れるように代替要員の確保の措置等通常の配慮をすべきであり、そのことをしなかったならば「事業の正常な運営を妨げる場合」には該当しないとされる。(弘前電報電話局事件)
ところが、長期休暇の場合はどうなるのか。時事通信社事件(最3小判平成4年6月23日)の最高裁判例があります。このような事案です。
●事実●
Y社の記者であるXは、科学技術庁の記者クラブに1人だけ配置。Xは、昭和55年当時において、前年度からの繰り越しを含めて40日間の年休日数を有し、同年6月30日に休暇及び欠勤届を提出・年休の時期指定(8月20日から9月20日まで、このうち所定の休日等を除いた年休日数は24日である。)。これに対し、部長は、Xが1か月も不在になれば取材報道に支障をきたすおそれがあり、代替記者を配置する人員の余裕もないとの理由から、Xに対し2週間ずつ2回に分けて休暇を取ってほしいと回答した上で、後半の2週間の時季指定については事業の正常な運営を妨げるとして時季変更権を行使。しかし、Xは、8月22日から9月20日の間欠勤。
そこで、Y社は、時季変更権を行使した「9月6日から20日までの勤務を要する10日間」につき業務命令違反としてXをけん責処分にして、賞与についても減額。Xは時季変更権は違法であり、けん責処分の無効確認と賞与の減額分の支給を求めて訴えを提起。1審は時季変更権を有効、原審はXの請求をほぼ認容、そこでY社が上告。
(以上、最重要判例200労働法・大内著よりの主旨)
●判決内容●
「事業の正常な運営を妨げる」かどうかについては、長期休暇の実現には使用者の業務計画や他の労働者の休暇請求などとの調整の必要性が生じ、しかも使用者はこの調整について休暇期間中の業務量、代替勤務者確保の可能性、他の労働者の休暇請求の状況などに関する蓋然性(=可能性、確率)に基づいて判断せざるを得ないので、労働者と使用者との事前調整が必要であるとし、その調整を経ない時季指定に対しては、使用者にある程度の裁量的判断の余地を認めざるを得ない。この事件では、請求された期間の後半部分は代替勤務者の確保が困難であるとした使用者の裁量的判断は、労基法39条の趣旨に反するものとはいえず、時季変更権行使は適法であった、と判示 (以上、菅野著労働法、最重要判例200労働法・大内著よりの主旨)
すなわち、長期休暇の届けの申請の過程において、労働者及び使用者との事前調整が必ず必要であることが、この最高裁判例からは言えることになります。
現在の判例の立場からは、労働者の義務として、事前の調整を行うよう就業規則に明示しておいたほうが、トラブル前の事前の策としてベターであろう。こうすることで、労働者としては、判例ではこうなっているという予見が可能であり、使用者としても業務がスムーズに進むことになる。(確認規定ともいえるもので必ずしも労働者にとっては、不利益とはいえない。)
そこで、石嵜信憲著「就業規則の法律実務」の本則55条においては、次のように記載してある。
なお、「長期」休暇は2週間以上となっているが、この裁判例からきたものであろう。また、「事前届出」は、1週間前となっているが、場合によっては業態・業種等によってもっと長めの期間が必要なものがあると考えるところ、あくまでも合理的範囲内の設定が必要でしょう。
第55条(長期年次有給休暇の申請手続き)
従業員は、欠勤期間が暦日2週間以上にわたる長期継続の年次有給休暇を申請する場合、指定する最初の休暇日の1週間前に届け出て、その休暇取得に関し、会社と事前の調整をしなければならない。
参考 就業規則の法律実務 石嵜信憲著 中央経済社発行
最新重要判例200 大内伸哉 弘文堂
労働法 菅野和夫
年次有給休暇については、労働者が具体的な休暇の日を特定<時季指定権>すれば、そのまま年休は与えられるが、これに対し「事業の正常な運営を妨げる場合」には、使用者は休暇の時季の変更<時季変更権>を行うことができるとされている。(労基法39条5項) 年次有給休暇は休暇の期間が法律上は「時季」とされているように、季節単位の長いのが本来の趣旨であったように思えるのだが、実際の会社においては(日本においてはと付け加えるべきか・・)そう長く休暇を取ることはない。そこで、使用者は労働者が年休が取れるように代替要員の確保の措置等通常の配慮をすべきであり、そのことをしなかったならば「事業の正常な運営を妨げる場合」には該当しないとされる。(弘前電報電話局事件)
ところが、長期休暇の場合はどうなるのか。時事通信社事件(最3小判平成4年6月23日)の最高裁判例があります。このような事案です。
●事実●
Y社の記者であるXは、科学技術庁の記者クラブに1人だけ配置。Xは、昭和55年当時において、前年度からの繰り越しを含めて40日間の年休日数を有し、同年6月30日に休暇及び欠勤届を提出・年休の時期指定(8月20日から9月20日まで、このうち所定の休日等を除いた年休日数は24日である。)。これに対し、部長は、Xが1か月も不在になれば取材報道に支障をきたすおそれがあり、代替記者を配置する人員の余裕もないとの理由から、Xに対し2週間ずつ2回に分けて休暇を取ってほしいと回答した上で、後半の2週間の時季指定については事業の正常な運営を妨げるとして時季変更権を行使。しかし、Xは、8月22日から9月20日の間欠勤。
そこで、Y社は、時季変更権を行使した「9月6日から20日までの勤務を要する10日間」につき業務命令違反としてXをけん責処分にして、賞与についても減額。Xは時季変更権は違法であり、けん責処分の無効確認と賞与の減額分の支給を求めて訴えを提起。1審は時季変更権を有効、原審はXの請求をほぼ認容、そこでY社が上告。
(以上、最重要判例200労働法・大内著よりの主旨)
●判決内容●
「事業の正常な運営を妨げる」かどうかについては、長期休暇の実現には使用者の業務計画や他の労働者の休暇請求などとの調整の必要性が生じ、しかも使用者はこの調整について休暇期間中の業務量、代替勤務者確保の可能性、他の労働者の休暇請求の状況などに関する蓋然性(=可能性、確率)に基づいて判断せざるを得ないので、労働者と使用者との事前調整が必要であるとし、その調整を経ない時季指定に対しては、使用者にある程度の裁量的判断の余地を認めざるを得ない。この事件では、請求された期間の後半部分は代替勤務者の確保が困難であるとした使用者の裁量的判断は、労基法39条の趣旨に反するものとはいえず、時季変更権行使は適法であった、と判示 (以上、菅野著労働法、最重要判例200労働法・大内著よりの主旨)
すなわち、長期休暇の届けの申請の過程において、労働者及び使用者との事前調整が必ず必要であることが、この最高裁判例からは言えることになります。
現在の判例の立場からは、労働者の義務として、事前の調整を行うよう就業規則に明示しておいたほうが、トラブル前の事前の策としてベターであろう。こうすることで、労働者としては、判例ではこうなっているという予見が可能であり、使用者としても業務がスムーズに進むことになる。(確認規定ともいえるもので必ずしも労働者にとっては、不利益とはいえない。)
そこで、石嵜信憲著「就業規則の法律実務」の本則55条においては、次のように記載してある。
なお、「長期」休暇は2週間以上となっているが、この裁判例からきたものであろう。また、「事前届出」は、1週間前となっているが、場合によっては業態・業種等によってもっと長めの期間が必要なものがあると考えるところ、あくまでも合理的範囲内の設定が必要でしょう。
第55条(長期年次有給休暇の申請手続き)
従業員は、欠勤期間が暦日2週間以上にわたる長期継続の年次有給休暇を申請する場合、指定する最初の休暇日の1週間前に届け出て、その休暇取得に関し、会社と事前の調整をしなければならない。
参考 就業規則の法律実務 石嵜信憲著 中央経済社発行
最新重要判例200 大内伸哉 弘文堂
労働法 菅野和夫
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