松山櫨(はぜ)復活奮闘日記

失われてしまった松山櫨の景観を復活させようと奮闘していく日々の記録。

櫨の石鹸プロジェクト その8 石鹸マイスター

2014-09-15 09:19:54 | 櫨ものがたり
9月初旬、いよいよ最初のかけらをもとに、まるは油脂で櫨の石鹸の次なる試作が始まりました。

画像はまるは油脂で20年の経験がある石鹸マイスターが櫨蝋に水酸化ナトリウムを加えて、湯煎しながら鹸化反応をおこしているところです。

鹸化反応が落ち着いてきた頃、林社長と北尾さんが鍋をのぞき込んでいます。

この画像を見る限り、普通の石鹸の作り方なので、誰が作ってもなんの変哲もないように見えますが、実はここに至るまでが大変だったそうです。

石鹸マイスターに聞いてみました。
私「櫨蝋だけで鹸化させていくって、やはり大変だったんですか。」
石鹸マイスター「他の油脂と同じようなやり方でしていると、すぐにガチガチに固まってしまって。」

他の油だったらこうとか、そんな固定観念を頭からいったん全部外す必要があったと言います。

私「そんなに櫨蝋って他の油脂と違ってたんですか?」
マイスター「はい。全然違いましたね。」

20年の経験があっても、櫨蝋は予想外のシロモノだったそうです。
その櫨蝋の性格を見つけ出すまでが手探り状態でした。

戦中戦後に作られては消えていった悪質な石鹸は、こうした櫨の性格が理解されないままに作られていたからではないかと思われます。

私「見つけ出すための、何かヒントとかはあったんですか?」
マイスター「ずっと前に他の、ちょっと変わったある油脂で作った時の、自分の経験が1つだけ手がかりになりました。」

考えてみると、油脂の種類は動物性・植物性、世界中にいろんな油脂があるので、数えると軽く60を超えます。最近では手に入りにくい鯨油でも少量だけ実験として石鹸を作られたそうです。

林社長は言いました。
「いろんな石鹸を作ったからといって、それがすぐに利益には結びつかない。でもいつも似たような素材で作っていても、そこから進歩しない。外から依頼されたモノは、それが変わったものであればあるほど、次の石鹸に生かすことができるし、なにより勉強になるからね。」

石鹸マイスターは液体の様子を見ながら、しばらく攪拌した後、手袋を外して鍋の石鹸溶液を舐めました。

私がびっくりして息をのむと、林社長が味で石鹸の状態がわかるんだよ、と説明。

水酸化ナトリウムは劇物ですが、鹸化反応によって物質が変わります。その途中の状態をちょっとだけ舐めて確かめるのだそうです。

石鹸づくりの経験が浅いと、鹸化が終わってないままに舐めてしまうため、舌がビリビリと悲鳴をあげるそうで、その苦い経験を繰り返しながら成長していくのだとか。

マイスター「んん。まだもう少しかかりますね。」

時間をかけて鹸化させ、あとは熟成です。熟成が終わって乾燥させた後、この石鹸の匂いに合う特別な香りをつけます。

私「良い石鹸ができそうですか?」
マイスター「まだわかりません。皆目見当がつかない。」

そ、そりゃそうでした。

櫨の石鹸づくりはまだまだ一歩踏み出したばかりなのです。

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ただいま試作石鹸が熟成中なので、この石鹸プロジェクトの話もいったん小休止です。
今後の進展はどうなるでしょうね?

櫨蝋で一番良い石鹸を目指すプロジェクト、今後もどうぞお楽しみに!

櫨の石鹸プロジェクト
その1 櫨蝋の使い道 はこちら。
その2 石鹸と零戦 はこちら。
その3 酔狂な試み? はこちら
その4 汚名返上へ はこちら
その5 最初のかけら はこちら
その6 匂いを香りに はこちら
その7 「炭鉱」に込められた香り はこちら

櫨の石鹸プロジェクト その7 「炭鉱」に込められた香り

2014-09-15 07:28:40 | 櫨ものがたり
2013年10月、福岡産業デザインアワードの会場に北尾菜保子さんはいました。

炭鉱施設をまちづくりに生かす取組を続けている福岡県大牟田市の「大牟田・荒尾炭鉱のまちファンクラブ」が、地元の風景をイメージした「香りのサシェ(匂い袋)」を会場で展示していました。

北尾さんは先祖の実家が大牟田にあるそうで、同ファンクラブの立ち上げから関わってきた副理事長です。

「香りのサシェ」は北尾さんのプロデュースでした。

サシェは三種類。ペパーミントで爽やかな「有明海」、ラベンダーで花の名所をイメージした「三池山」。そして、私が入手したのは白檀を使って落ち着いた大人の香りに仕上げられた「炭鉱」です。

香りはよく記憶に刻みつけられると言います。
幼い時の母の匂い。路地裏の匂い。学校の理科室の匂い…。

私はふと、「炭鉱」と名付けられたサシェに、香り成分が取れるまで何十年もかかる白檀を使ったのは、なぜだろうと疑問を持ちました。ペパーミントとラベンダーは割と一般にも馴染みがある香りですが、わざわざ貴重な白檀をセレクトしているのは何かワケがありそうな気がしました。

三池炭鉱は福岡県大牟田市、熊本県荒尾市にまたがる日本最大の産出量を誇った炭鉱です。かつては20万人が働き、1997年廃坑となってから今では合計6万人の人々が去りました。

地下深く網目状に、遠く海の底まで続く坑道。激しい炭鉱労働、400人を超える死者を出した大爆発。労働争議。

近代化する日本を支えたまち、それが大牟田・荒尾のまちなのです。

私も随分昔、前職で炭鉱・鉱害の仕事に少し関わったことがあり、研修見学で炭鉱に入ったことがあります。

炭鉱の少し奥に入っただけで、どんどん蒸し暑くなってくる坑道の空気の匂いや、支える杭、白いカビ群など、それはもう何もかも圧倒され、息苦しくなるほど強い印象を持ちました。

大牟田・荒尾は炭鉱のまちです。廃墟となった社宅、さび付いた巨大な機械が、がらんとした道路から遠くに見えるものの、今ではそれらの施設はほとんど崩壊しつつあるとニュースで知りました。

北尾さんのプロデュースした「炭鉱」には、そうした人々の失われた時間と場所の記憶を、歴史を重ねてきた白檀の香りによって蘇らそうとしているのではないかと思い到った時、私は北尾さんの故郷に込める思いの強さを感じました。

入手して一年たった今でも、サシェは部屋に置いてますが、十分香りを楽しむことができます。

北尾さんは、最初は他の一般的なアロマセラピストと同様に、自身の肌のアレルギートラブルが原因でアロマケアに目覚めたそうですが、そこから先の探求の道のりは大変なものがあります。詳しくはこちら。

櫨の石鹸に一番ふさわしい香りをつけるための、強力な助っ人が見つかりました。

その8 石鹸マイスターにつづく


櫨の石鹸プロジェクト
その1はこちら。
その2はこちら。
その3はこちら
その4はこちら
その5はこちら
その6はこちら