縁側でちょっと一杯 in 別府

東京から別府に移住してきました。
のんびり温泉に浸かり、美味しい魚で一杯。
夢に見た生活を楽しんでいます。

【移住の話】健康で文化的なそこそこの生活? その3

2024-09-05 17:00:44 | 別府の話
 移住に不安を感じる方のため実際に移住した人間が(まだ若葉マークですが)地方での暮らしを紹介するシリーズの3回目。

 まずは前回予告した『別府アルゲリッチ音楽祭』の話から。
 別府では1998年より別府アルゲリッチ音楽祭が開かれている。地方創生、町おこしイベントの走り、成功例の一つである。日本のオーケストラすら滅多に来ないクラシック辺境の地・別府に、世界的なピアニストであるマルタ・アルゲリッチが毎年やって来るのである。当時の別府市長がダメ元で大分に来たアルゲリッチにオファーしたのが始まりというから世の中何が起こるか分からない。おかげで我々別府市民は毎年アルゲリッチの演奏や一連のコンサートを聴くことができる。
 因みに私は音楽祭でアルゲリッチとクレーメル(ヴァイオリン)、鈴木愛美(ピアノ)、遠藤真理(チェロ)と實川風(ピアノ)、の3つのコンサートに行った。最後の遠藤・實川のコンサートは大分市の平和市民公園能楽堂で行われた。この能楽堂は渋谷のセルリアンタワー能楽堂より一回り大きい。なぜ地方にこんな立派な能楽堂があるのかまったく不思議である。田舎ではあるが大分も捨てたものではない。

 次に演劇の話。某サイトで別府だけではなく大分県全体で今買うことのできる演劇のチケットを調べてみた。なんと6件しかない(期間は11月末くらいまで)。もちろん全国向けのサイトを使わない公演もあると思うが、いずれにしろ絶対数が少ないことに変わりはないだろう。
 地元限定という意味では『別府市民劇場』という会員制の演劇鑑賞団体がある。この組織は別府に限らず多くの地方都市にある(例えば九州では17都市)。前進座、俳優座、文学座など新劇の劇団を主に2ヶ月に1度公演が行われている。劇団にとっては全国の市民劇場での公演が収入の安定化に繋がり、一方地方の住民にとっては東京などに行かなくても生の舞台を見ることができ、いわばwin-winの関係である。ただ新劇が対象なので、劇団☆新感線やキャラメルボックスは別府には来ない。宝塚も来ない。
 ところが、大手の人気劇団の中で『劇団四季』は毎年大分にやって来る。さすがは劇団四季、北は北海道から南は九州まで全国公演を行っているのである。今年は「ジーザス・クライスト=スーパースター」。公演が楽しみだ。

 前回書いたクラシックも今回の演劇も、確かに別府での公演は少ない。東京と比べれば、二桁、三桁どころではなく四桁(五桁?)は少ない数だろう。しかし、東京にいたときクラシックや演劇の公演に頻繁に行っていたわけではない。読売日響の会員だったので月に一度は聴きに行っていたが、他にはクラシック、演劇合わせ年に2、3回行くかどうか。多くの選択肢がある中、探すのが面倒、予約が大変、あるいはいつでも行けるという安心感などがその理由だろう。
 一方、別府に来てからは選択肢が少ないため情報が簡単に手に入り、面白そうと思ったら皆行くようになった。このため、大分、佐伯、北九州など近隣の都市も含め、公演に行く回数は東京にいたときより増えている。だから移住を考える皆さんもご安心を。毎週のようにクラシックや演劇を見ていた方は別として、普通にクラシックや演劇の好きな方であれば地方に移住して困ることはない。地方でもそれなりに(そこそこ?)楽しむことができる。

【移住の話】健康で文化的なそこそこの生活? その2

2024-08-29 21:36:06 | 別府の話
 前回の移住して“健康的”に暮らせるかの話(「健康で文化的なそこそこの生活? その1」)に続き、今回は“文化的”な生活ができるかという話。

 東京で当たり前のようにできたことが、田舎ではできないことが多い。田舎では選択肢がガクッと減ったり、そもそも存在しないこともある。

 例えば、映画館。別府に映画館は2つしかない。一つは以前ブログに書いた別府ブルーバード劇場(2018年10月20日「別府ブルーバード劇場に行こう!」)。そしてもう一つは成人映画館。今時珍しいが、さすがは温泉地である。
 もっともお隣の大分市に行けば(電車で15分程度)、シネコンが3つあるし、ミニシアターも2つある。このため大手映画会社のロードショーを見るには問題ないし、ミニシアター系の映画も、時期が遅れることは多いが、それなりに見ることはできる。因みに最近見た映画『猫と私と、もう1人のネコ』は東京での封切りは3月22日だったが、別府ブルーバードは7月26日からと4ヶ月遅れ。これが、地域で多少の差はあるにしろ、地方都市の映画館事情である。

 続いて、私の趣味で申し訳ないが、クラシック音楽の話。
 別府は勿論、大分県を見てもプロのオーケストラはない。日本オーケストラ連盟には27のオーケストラが加盟しているが、九州は九州交響楽団(福岡市)だけ。その九響だが、大分県には数年に一度しか来ない。福岡市を中心とした福岡都市圏の人口は260万人というが、おそらく福岡市でも演奏会の集客は厳しいだろう。まして県全体で100万人しかいない大分など論外である。よっぽどのスポンサーが付くか、ベートーベンの第9など万人受けするプログラムでない限り、演奏会をやっても人が集まらずペイしない。これはNHK交響楽団、読売日本交響楽団、東京都交響楽団のいわゆるオーケストラ御三家でも同じ。哀しいかな、これがオーケストラを巡る地方の現実である。地方で生のオーケストラの音を聴くのは極めて難しい。

 ところが、唯一、こんな大分に毎年やって来るオーケストラがある。日本フィルハーモニー交響楽団である。なんと1975年に九州公演を開始し来年で50周年。今年は2週間で福岡から鹿児島まで9都市を回っている。
 知らなかったが、日フィルの九州公演は地元企業の支援のほか、公演を行う各都市の市民の方がボランティアとして協力している。地元の方が演奏会の企画・運営にも携わる等、地方ならではというか、東京では見られないユニークな体制となっている。地元が資金的にも人的にも支援しているのである。だからこそ地方での公演が可能なのだろう。おかげで年1回は確実にオーケストラの生の演奏を聴くことができる。クラシック・ファンは高齢者が多く将来に一抹の不安はあるが、これからもずっと続いて欲しい。

 そして、オーケストラではないが、別府には世界に誇るクラシックのイベントがある。皆さまご存じ、『別府アルゲリッチ音楽祭』である。申し訳ないが、話が長くなりそうなのでこれは次回に。




【移住の話】健康で文化的なそこそこの生活? その1

2024-07-25 21:26:09 | 別府の話
 移住に興味があるものの、新しい土地での生活に不安を感じ、なかなか踏み出せない方が多いと思う。田舎の生活は退屈に違いない、田舎には仕事がない、濃密な人間関係に疲れそう、子供の良い学校はあるのか、そもそも地下鉄のない所には住めない等々、確かに考えれば不安の種は尽きない。
 東京から別府に移住して1年にも満たない私であるが、そうした方の何かの参考になればと私の経験をお話したい。
 憲法第25条第1項で「すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と規定されている。いわゆる生存権である。この“健康”と“文化的”について別府の生活を考えてみたい。

 まず“健康”について。
 健康を支えるものといえば、やはり食べ物。その点別府は山海の幸に恵まれており、食生活は都会よりはるかに豊かだ。JAの直売所はあるし、ほとんどのスーパーに産直コーナーがあり、いつでも新鮮な野菜が簡単に手に入る。魚といえば関アジ・関サバ、そして城下カレイに臼杵のフグ。残念ながらこうしたブランド魚は高くてなかなか手が出ないが、普通の魚も十分美味しい。おまけに安い。肉は豊後牛が有名であるが、同じく食べる機会は少ない。しかし大分県(大分市)は鶏肉購入額で全国1位、鶏肉が安くて旨い。豚肉は、産直で買う、お隣り日出町の「日出ポーク」(これも安くて旨い)が我が家の御用達。全国広しといえどもこれだけ食材に恵まれている県は珍しい。

 そして温泉。ご存じの通り、別府は源泉数、湧出量ともに日本一。美味しいものを食べ、温泉で癒やされる。これで健康に暮らせないわけがない。さらに万一病気になっても別府は病院が多いので安心だ(温泉と病院について詳しくは『猫も歩けば温泉にあたる(2024/7/7))』をご覧下さい)。最先端の先進医療を受けるのは難しいかもしれないが、大抵の場合そこまでは必要ないだろう。

 もっともプラス材料ばかりではない。別府では運動不足になりやすい。
 そもそも別府市民(というか田舎全般に当てはまると思うが)は歩かない。東京だと電車で通勤・通学するだけで毎日結構歩く。一方、電車やバスが1時間に1本や2本しかない別府の移動は車が基本。おそらく一日1,000歩、2,000歩しか歩かない人も多いことだろう。また山の近い別府は坂道が多く、自転車も電動アシストの比率が高い。これでは自転車もあまり運動にならない。よって、別府では健康のためには自ら意識して運動しなくてはいけない(因みに、私は意識して歩き、自転車は自らの力で漕ぎ、そして筋トレをし、別府に来てから3kg痩せた)。

 もう一つ健康に関して重要なのはストレス。仕事や家庭のストレスはさておき、地元での人間関係のストレスについて。
 よく田舎では近所の人が突然家にやって来る・上がり込む、毎回町内会の行事に出ないといけない、消防団にかり出される等々、ご近所付き合いが極めて大変、気が狂いそうといった話(噂?)を聞く。
 別府はどうかというと、まったくそんなことはない。私は東京でも別府でもマンション住まいであるが、別府での近所との関係は東京ほどドライではない。かといってべったりでもない。東京から来た人間でも気にならない距離感である。これは、田舎といっても別府は人口11万人の町であること、元々移住者の多い町であること(実際周りには東京、大阪、福岡などからの移住者がいる)、別府が観光の町であること(よそ者にやさしい?)等が理由だと思う。但し、同じ別府市内でも鉄輪は人間関係が濃いと言われており、そこは若干事情が違うかも知れない。
 こうした話は実際に地元の方に聞かないと分からない。よって移住を決める前に現地に足繁く通うのが良い。私もこの10年は年に1,2度別府に来ていたし(初めはただの観光だったが)、家探しには2年近い時間を掛けた。

 長くなったので “文化的” については次回に。あしからず。

「別府八湯」温泉道名人への道

2024-07-14 16:44:24 | 別府の話
 別府市にある八つの温泉(浜脇、別府、亀川、鉄輪、観海寺、堀田、柴石、明礬)を総称して「別府八湯」というが、その温泉文化への理解・浸透や観光振興を目的に“別府八湯温泉道”が行われている。公式ホームページによれば、「その豊富な源泉と多様な泉質を誇る日本一の温泉地「別府」だからこそ可能な、温泉を味わい尽くす「湯の真理を得んとする求道者(無類の温泉好き)のためにある、厳しくも愉快な入湯修行(スタンプラリー)の道」とのこと。早い話、別府の温泉にたくさん入ってスタンプを集めようというプロジェクトである。

 “別府八湯温泉道”には共同浴場・外湯、旅館・ホテルなど150ほどの施設が参加している。そのうち8つの湯に入ると初段、16湯で二段、以後8湯入る毎に昇段し、80湯で十段、88湯で見事“名人”となる。参加者は温泉に入り、パスポートならぬ“スパポート”に入湯印(各施設独自のスタンプ)を集めて行く。スパポートはパスポートを模したスタンプ帳で、観光協会等で1冊110円で購入できる。また最近はスマホのアプリ(温泉ハンター)でも参加できるようだ。

 以下、いくつか参加にあたっての注意事項を。湯船に入る前にかけ湯をする・体を洗う、湯船にタオルを浸けない等は当然のこととして、別府には別府だけのローカルルールがあるからだ。
 一つめ、浴槽のふちに座らない。これは私も温泉に行くと必ずやるが、ここ別府では絶対NG。別府では、浴槽のふちは腰掛けて休むためではなく、頭を乗せるためにある。湯船に入りながら(あるいは洗い場に寝っ転がって?)頭を乗せる所にお尻を乗せるなどもってのほか、ということらしい。あと、単に邪魔だからかもしれない。温泉の湯量豊富な別府では、温泉はタダ・水や沸かしたお湯はお金がかかる、が常識。このため体や髪を洗うのには浴槽のお湯(温泉)を使う。皆、浴槽の前に座り、洗面器で浴槽からお湯を汲んでいる。浴槽のふちに座られると洗うスペースが狭くなるし、お湯が汲みにくくなってしまう。
 二つめ、湯船に勝手に水を入れない。別府市民は熱いお湯が好き。それに源泉を薄めることを嫌う人もいる。こんな熱さは無理だと思ったら、周りの方に断ってから水を入れよう。共同浴場は地元の方が守っている温泉であり、お金を払ったお客さんの立場であっても地元の方へのリスペクトが大切だ。リスペクトという意味で、脱衣所や浴室に出入りするときの挨拶も忘れずに。

 別府市民は各々近所に行きつけの温泉を持っているのが普通。このため湯巡りをする人は少ない。よって温泉道の参加者は温泉好きで別府に何度も来ている人や私のような別府への移住者が多いようだ。既に名人は延べ12,000人弱。名人11回の永世名人も200人以上いるため、名人の実人数は10,000人もいないだろう。それにしてもすごい数だ。別府八湯の魅力の賜物である。
 私も先日無事名人の称号を頂いた。スケジュールの空いた日に温泉を集中して回ったので一日5件、6件はざら。温泉のはしごは疲れるし、本当に名人へのつらい修行(?)だった。これからは永世名人を目指すよりは気に入った温泉にのんびり入りたい。その方が別府市民らしいだろう。

別府良いとこ 八度はおいで(?)ー 別府八湯の話

2024-07-12 15:56:15 | 別府の話
 「別府八湯」とは市内にある八つの温泉(浜脇、別府、亀川、鉄輪、観海寺、堀田、柴石、明礬)の総称である。いずれも古い温泉であり、新しい温泉でも開湯は江戸時代に遡る。温泉の掘削が始まったのは明治以降のため当初はどの温泉も自然湧出だった。やはり最近の深~く深く掘削して掘り当てた温泉とはパワーが違う。また別府八湯は10種類ある温泉の泉質のうち7種類がある極めて珍しい温泉である。
 
 別府八湯の中で一番有名なのは鉄輪(かんなわ)温泉。このブログのカバー写真がまさに鉄輪。いたるところから湯けむり立ち上る“ザ・温泉”といった風情だ。未だに貸間旅館といわれる湯治宿が数多くある。自炊のできる宿、さらには温泉から噴き出る高温の蒸気を利用した「地獄蒸し」のできる宿もある。共同浴場も多く、人口密度ならぬ“温泉密度”は鉄輪が日本一だと思う。

 個人的には明礬(みょうばん)温泉がオススメ。第一に、なんと言ってもお湯が良い。明礬泉といわれる強酸性の含鉄泉。殺菌効果が強く、古い角質を除去してくれる。お肌すっきり、若返りの湯だ。緑や青っぽいお湯の色は神秘的。身体だけでなく心も癒やされる。
 第二に、眺めが良い。明礬温泉は伽藍岳の中腹に位置し別府八湯の中で最も標高の高い場所にある。別府市内や別府湾が一望でき、また東側が海のため水平線から上る日の出を見ることができる。小さな赤い太陽が上っていく様は本当に美しい。
 三つめのオススメ理由、美味しい。勿論宿の食事も良いと思うが、ここでは岡本屋売店を取り上げたい。一番有名なのが「地獄蒸しプリン」。地獄蒸しの効果なのか、最近はやりの柔らか・なめらか系ではなく、ちょっと硬めの昔ながらのプリンである。あと「地獄蒸したまごのサンドイッチ」もオススメ。以前は手作り感満載だったが、いつからか包装がきれいになり、サンドイッチがちょっと小さくなった気がする。でも美味しいからつい買ってしまうのである。

 僕は別府八湯すべて行ったが、残りの6つの温泉も各々泉質や町の趣が違っていて面白い。温泉には個人の好みや合う・合わないがある。だから皆さんには別府を何度か訪れ、自分のお気に入りの温泉を見つけて欲しい。別府は温泉の引き出しが多い町なのできっと見つかると思う。