縁側でちょっと一杯 in 別府

東京から別府に移住してきました。
のんびり温泉に浸かり、美味しい魚で一杯。
夢に見た生活を楽しんでいます。

舞台と映画の違い その2 ~ 『リトル・ダンサー(ビリー・エリオット)』

2024-11-08 17:34:07 | 芸術をひとかけら
 ミュージカルを映画化することは多いが(詳しくは舞台と映画の違い ~ 『ジャージー・ボーイズ』の場合、2014/11/25をご覧下さい)、その逆、映画をミュージカルにするのは、ディズニー・アニメを除き、少ない。この『リトル・ダンサー(原題:ビリー・エリオット)』はその中の大きな成功例である。映画を見たエルトン・ジョンがいたく感動しミュージカル化を熱望、自ら曲を書いたのであった。
 映画の公開は2000年、ミュージカル化は2005年。ロンドンで上演され、好評により公演は2016年までのロングランに。2008年にはブロードウェイでも上演され、トニー賞で作品賞はじめ10部門を受賞する大ヒットとなった。

 僕は、ミュージカルを2010年にロンドンで見たが、映画はほんの1週間前に見たばかり。正直、ミュージカルは時間の経過もあるし、そもそも英語でよく分からなかったこともあり、若干記憶があやふや。全体に映画の方が楽しめたと思う(やはり字幕は偉大)。音楽はミュージカルのエルトン・ジョンの曲の方が好きだが(実は劇場でCDを買った!)、映画のマーク・ボラン(T・レックス)の曲も躍動感があってなかなか良かった。

 そして、ストーリーというか構成は断然映画の方が上。映画もミュージカルも、「強さや逞しさを良しとする男性優位の炭鉱の町で、家族の反対や社会の偏見に負けず、ビリー少年がバレエー・ダンサーになる夢を追い求める」という基本は変わらない。家族の優しさや、保守的な町の人まで暖かく見守るというのも同じ。
 しかし、映画の方がストーリーに深みがあるというか、多くの要素を盛り込んでいた。例えば、炭鉱ストライキの生々しさ等当時の社会情勢、子供のため仲間を裏切ろうとする父親の苦悩、LGBTやヤングケアラーを彷彿させる話、ませた女の子の小学生とは思えない会話など。

 一方、ミュージカルは話を単純化している。「バレエに惹かれる少年、家族そして社会の偏見、生来の才能と努力、家族や地域社会の変化、夢の実現」がメインの道筋。映画にはあっても、この筋に必要性の薄い出来事や話題はびしばしカットしている。よって話は分かりやすく、感情移入もしやすい。余計なことを考えずに観客はフィナーレへと向かって盛り上がって行く。ビリー少年の夢が、明日に希望の持てない炭鉱の町全体の夢になるという独自の演出もより感動を高める。まったくよく出来た構成である。

 複雑な映画と単純なミュージカル。この違いには、ミュージカルの制約、つまり舞台装置を頻繁に変えられないこともある。映画では場面の切り替えや挿入は何ら問題ないが、ミュージカルには限度がある。よってストーリーを単純化せざるを得ない。
 しかし、それ以上に芸術色が強いか、娯楽色が強いかという違いもあるのではないだろうか。ミュージカルは見終わった後「わぁー、楽しかった」で良いが、映画はそれだけではダメ。映画監督というもの、観客に「共感できた」、「考えさせられた」、「あれはどんな意味だったんだ」等々、何か爪痕を残して終わりたいのだと思う。概してヨーロッパの映画にこの傾向が強いが、これはイギリス映画である(もっとも単純なハッピーエンドが好きなハリウッド映画なら、また違った印象を持ったかもしれないが)。

 この夏から東京と大阪で『ビリー・エリオット』のミュージカルが行われており、まだ大阪での公演が残っている。映画も今まさにデジタルリマスター版が全国で公開されている。まだの方はこの機会に是非。

井上道義のラスト・オペラ、『ラ・ボエーム』

2024-10-23 17:48:46 | 芸術をひとかけら
 「いやぁー、良かった。」
 別にこの12月で引退する指揮者井上道義の最後のオペラだから褒めているのではない。ただただ純粋に素晴らしい舞台だった。
 『ラ・ボエーム』は19世紀前半のパリが舞台。若い芸術家たちの貧しいながらも自由で気ままな生活。そんな生活の中での出会い、愛、やさしさとうそ、そして永遠の別れ。
 残念ながら、生でオペラを観るのは40年振りという僕に、歌や演奏について的確で気の利いたコメントはできない。ただ見終わって、心地良い高揚感とともに、オペラって良いな、また観たいなと思ったことは確かである。オペラが、音楽、演劇、舞踊、美術など、すべてを網羅した“総合芸術”と言われるのが少し分かった気がする。

 今回の『ラ・ボエーム』は2024年度の全国共同制作オペラであり、全国7都市で8公演行われる。なんと指揮者や主要キャスト以外(オーケストラ、合唱団、児童合唱団など)は各々地元の方である。私が観たのは10月19日熊本県立劇場の公演。因みに残すは10月26日の金沢、11月2日の川崎の2公演のみとなっている。
 全国共同制作オペラというのは、単独ではできない大掛かりで費用の掛かるオペラを、複数の劇場・コンサートホール等で連携して実現する、それも新たな演出で行うというプロジェクトである。我々庶民にとってはオペラを安く観ることができるメリットがある。海外オペラの引越し公演だとS席は6、7万円するし、国内のオペラでも3万円近くする。それが今回はS席で12,000円。それでも高いが、オペラは出演者・裏方など数百人規模の人間が関係することを思えば安いもの。とってもお得である。

 プロジェクトは2009年度から始まった。新演出ということで近年は野田秀樹や野村萬斎などオペラ畑ではない方が演出されているようだ。
 今回の演出はダンサー、振付師である森山開次。この舞台では演出、振付のほか美術と衣裳も担当される等多才な方である。この舞台の新演出として、画家役のマルチェッロの風貌や衣裳を藤田嗣治風にしたのは、ちょっと時代が違うものの、特段違和感はない。かえって親近感を覚える。児童合唱団の衣裳を、藤田の愛した猫のデザインにしたのはご愛敬。が、「芸術の息吹」という4人のダンサーを加えたのはどうだろう。踊りがメインで脇役というかBGMのような存在。まあ、原作に無いものを加えたから新演出なのだろうが・・・

 井上道義の指揮は読売日響などで何回か聴いたことがある。12月で指揮活動を引退されるためオペラはこの『ラ・ボエーム』が最後。指揮自体は12月30日の第54回サントリー音楽賞受賞記念コンサート(サントリーホール)が最後となる。これは聴きに行けないが、氏が愛する『ラ・ボエーム』の渾身の指揮を聴くことができて本当に幸せだった。マエストロ、長い間お疲れ様でした。ありがとう!

TOBに応募するのって大変!

2024-10-08 12:14:28 | お金の話
えーっ、野村證券に口座を作らないとダメなの?
 - 昔は野村に口座を持っていたけど、もうネット証券だけでいいやと4、5年前に解約したのに・・・。
おーっ、NISA口座で保有している場合は課税口座への振替が必要だって?
 - 面倒くさいし、時間が掛かりそう・・・。
うーん、これは市場で売るしかないか。
 - 初めてだし、面白そうだからTOBに応募したかったのに・・・。

 新NISAでの投資先として、予て伊藤忠によるTOB(株式公開買い付け)の噂がある(株)デサントの株式を100株買った。そもそも噂だけで実際にTOBがあるかどうかは分からないが、NISAで配当金に税金が掛からないこともあり、実現を夢見つつ気長に待つつもり。が、思いのほか、その日は早くやって来た。
 8月5日、伊藤忠がデサントにTOBを実施し、完全子会社化する旨発表したのである。株価は4,350円。過去6ヶ月の終値平均に対し25%強のプレミアムを加えた金額である(もっとも年初は株価が高く、僕の場合、そこまでのプレミアムはなかった)。

 TOBについての知識はあるつもりだが、実際に対象会社の株主というのは初めて。TOBは海外での手続きの関係で11月上旬頃までに開始予定とのこと。のんびり待とう。株主として住所は登録してあるのだから、郵送で必要書類等が送られてくるのだろう。
 ところが、これは大きな誤解、間違いだった。書類は何も送られて来ない。TOBは自ら情報収集し、判断しなくてはならない。そして僕は9月30日の伊藤忠の発表を見落としていた。TOBを10月1日に開始するとの発表があったのである。

 僕は1週間遅れでこの事実を知った。たまたま取引証券からの10月1日付けメッセージを見たのである。いつもはアプリを開いても株価ばかりでメッセージはほとんど見ないが、このときは偶然開いた。ラッキーだった。で、冒頭の状況に。
 TOBは10月29日までであるが、それまでに公開買付代理人である野村證券に口座を開き、デサント株式を移管し、TOBへの応募申込書を提出する必要がある。事前にデサント株式をNISA口座から課税口座に振り替える必要もある。頑張れば間に合わないことはないが、やはり面倒だ。もう市場で株を売ってしまおう。4,350円で売れれば同じだし、その方が全然楽だ。

 なんと株は公開買付価格を上回る4,355円で売却できた。この期に及んで公開買付価格より高く買う人がいるとは驚き。対抗TOB等で価格がつり上がるケースもあるが、本件は伊藤忠による買収が既に決まったも同然。価格が引き上げられることはないだろう。とするとTOB終了後に伊藤忠がスクイーズアウト(少数株主の株式を強制的に買い取る)する際に(あるいはその前に相対で取引?)、利益が得られると考えているのだろうか。株を集めた方がその可能性は高まるのだろう。いずれにしろ素人は手を出さない方が良いに違いない。

 結論。TOBは、自らの取引証券が公開買付代理人であるか否かを問わず、市場で売るのが一番。対抗TOBをする先がないか等状況を見ながら、公開買付価格以上で株を売却できれば御の字だ(因みにデサントの場合もTOB発表後株価が4,445円まで上がったときがあった)。

「別府八湯アンバサダー」をご存じですか?

2024-10-04 23:00:20 | 別府の話
 「別府八湯アンバサダー」について話す前に、そもそも「別府八湯ってなに?」という方のために説明を。
 “別府八湯”とは、別府市内にある八つの温泉(浜脇、別府、亀川、鉄輪、観海寺、堀田、柴石、明礬)を総称したものです。別府はご存じの通り、源泉数、湧出量とも日本一の温泉の町。市内には泉質や歴史、街の趣などに違いのある温泉がなんと八つもあるのです(詳しくは『別府良いとこ 八度はおいで(?)- 別府八湯の話』をご覧下さい)。

 で、「別府八湯アンバサダー」ですが、これは別府八湯を自分の足で周り、その地域を自分で案内できる知識を持った人材を育成するための資格です。それも昨年作られた新しい資格。新しく資格を作った背景には、日本一の温泉地別府でも温泉に興味がなく、別府にどのような温泉があるのか知らない、泉質による温泉の効能の違いすら分からない人が多いとの問題意識がありました。哀しいかなホテルや旅館のスタッフですら状況は変わりません。まったく残念なことです。せっかく来た観光客の方に別府八湯の魅力を知って欲しい、もっと別府八湯を楽しんでもらいたい。そのためには、まず別府八湯を理解し、その良さを説明できる人間が必要だと「別府八湯アンバサダー」は創設されたのでした。
 「NPO法人別府温泉地球博物館」が、別府市の支援の下、「別府八湯アンバサダー」の認定等を行っています。資格は、簡単な温泉知識の学科試験(e-ラーニング)と別府八湯の地獄ハイキングコース1つへの参加で取得できます。つまり、3時間の勉強と2時間程度のハイキングに参加するだけであなたも「別府八湯アンバサダー」です。費用は5,000円しか掛かりません。

 ところが、あなたに今だけのお得な情報があります。というとテレビショッピングの宣伝のようですが、これは本当にお得です。費用が掛からないどころか市営温泉の無料入浴券(8カ所分)までもらえるのです。その手順は以下のとおりです。
 ①  「別府八湯アンバサダー養成講座」を受講(別府八湯の泉質、歴史、特徴等に関する1時間の講義)
 ② 市営温泉8カ所(10カ所ある対象施設から選ぶ)に入浴し、スタンプを8つ集める
 ③ 別府市観光協会にて「別府八湯アンバサダー」の認定を受ける
 さらに先着100名様には(というとさらにテレビショッピングっぽいですが)、記念品(ステキな温泉マイスターのTシャツ)まで贈呈されます。
 私も一昨日「別府八湯アンバサダー」の認定を受けTシャツを頂きました。まだTシャツは充分残っていましたが、お早めに講座を受講することをお勧めします。残る講座は、
 10月 6日(日)13時~14時30分 熱の湯(鉄輪温泉)
 10月19日(土)15時~16時 海門寺温泉(別府温泉)
 11月 4日(月・祝)13時30分~14時30分 末広温泉(別府温泉)
 11月13日(水)13時30分~14時30分 柴石温泉(柴石温泉)
の4回となっています。

 私は“一宿一飯”ならぬ“八湯(入浴)一T(シャツ)”の義理もあって書いていますが、温泉の知識が習得でき、なおかつタダで温泉巡りができる、またとない機会であることに違いはありません。別府市内、あるいは大分県内の方、さらには別府愛や温泉愛の強い方は奮ってご参加の程!

【移住の話】健康で文化的なそこそこの生活? その3

2024-09-05 17:00:44 | 別府の話
 移住に不安を感じる方のため実際に移住した人間が(まだ若葉マークですが)地方での暮らしを紹介するシリーズの3回目。

 まずは前回予告した『別府アルゲリッチ音楽祭』の話から。
 別府では1998年より別府アルゲリッチ音楽祭が開かれている。地方創生、町おこしイベントの走り、成功例の一つである。日本のオーケストラすら滅多に来ないクラシック辺境の地・別府に、世界的なピアニストであるマルタ・アルゲリッチが毎年やって来るのである。当時の別府市長がダメ元で大分に来たアルゲリッチにオファーしたのが始まりというから世の中何が起こるか分からない。おかげで我々別府市民は毎年アルゲリッチの演奏や一連のコンサートを聴くことができる。
 因みに私は音楽祭でアルゲリッチとクレーメル(ヴァイオリン)、鈴木愛美(ピアノ)、遠藤真理(チェロ)と實川風(ピアノ)、の3つのコンサートに行った。最後の遠藤・實川のコンサートは大分市の平和市民公園能楽堂で行われた。この能楽堂は渋谷のセルリアンタワー能楽堂より一回り大きい。なぜ地方にこんな立派な能楽堂があるのかまったく不思議である。田舎ではあるが大分も捨てたものではない。

 次に演劇の話。某サイトで別府だけではなく大分県全体で今買うことのできる演劇のチケットを調べてみた。なんと6件しかない(期間は11月末くらいまで)。もちろん全国向けのサイトを使わない公演もあると思うが、いずれにしろ絶対数が少ないことに変わりはないだろう。
 地元限定という意味では『別府市民劇場』という会員制の演劇鑑賞団体がある。この組織は別府に限らず多くの地方都市にある(例えば九州では17都市)。前進座、俳優座、文学座など新劇の劇団を主に2ヶ月に1度公演が行われている。劇団にとっては全国の市民劇場での公演が収入の安定化に繋がり、一方地方の住民にとっては東京などに行かなくても生の舞台を見ることができ、いわばwin-winの関係である。ただ新劇が対象なので、劇団☆新感線やキャラメルボックスは別府には来ない。宝塚も来ない。
 ところが、大手の人気劇団の中で『劇団四季』は毎年大分にやって来る。さすがは劇団四季、北は北海道から南は九州まで全国公演を行っているのである。今年は「ジーザス・クライスト=スーパースター」。公演が楽しみだ。

 前回書いたクラシックも今回の演劇も、確かに別府での公演は少ない。東京と比べれば、二桁、三桁どころではなく四桁(五桁?)は少ない数だろう。しかし、東京にいたときクラシックや演劇の公演に頻繁に行っていたわけではない。読売日響の会員だったので月に一度は聴きに行っていたが、他にはクラシック、演劇合わせ年に2、3回行くかどうか。多くの選択肢がある中、探すのが面倒、予約が大変、あるいはいつでも行けるという安心感などがその理由だろう。
 一方、別府に来てからは選択肢が少ないため情報が簡単に手に入り、面白そうと思ったら皆行くようになった。このため、大分、佐伯、北九州など近隣の都市も含め、公演に行く回数は東京にいたときより増えている。だから移住を考える皆さんもご安心を。毎週のようにクラシックや演劇を見ていた方は別として、普通にクラシックや演劇の好きな方であれば地方に移住して困ることはない。地方でもそれなりに(そこそこ?)楽しむことができる。