縁側でちょっと一杯 in 別府

東京から別府に移住してきました。
のんびり温泉に浸かり、美味しい魚で一杯。
夢に見た生活を楽しんでいます。

麻薬、刑務所、『ミッドナイト・エクスプレス』

2010-04-06 23:52:23 | 芸術をひとかけら
 今日、中国で日本人への死刑が執行されたそうだ。赤野光信さんという65歳の方である。ご冥福をお祈りしたい。

 赤野さんの罪状は覚せい剤の密輸。2006年9月、中国・大連空港から日本へ覚せい剤2.5kgを運び込もうとしたところ身柄を拘束され、2009年4月に死刑判決が確定していたとのこと。
 亡くなった赤野さんやご遺族の方には大変申し訳ないが、残念ながら仕方のない結果といえよう。中国の刑法では、覚せい剤50g以上の密輸は懲役15年か無期懲役または死刑となっているそうだ。2.5kgといえば、その50倍。法律に照らし死刑と言われても、あまり文句を言える筋合いではない気がする。日本人の感覚からすると「高々覚せい剤の密輸で・・・」と思わないでもないが、それが中国の法律なのである。
 ましてや、相手は人権よりも体制の維持を優先する中国である。世界で最も死刑を執行している中国である。如何ともし難い。

 死刑を巡る問題については以前書いたので(2007/6/30、『 “ドラえもん”が提起する死刑の問題 』、http://blog.goo.ne.jp/engawadetyotto/e/460cec6ce926ded12f5f5896b0b67ede)、ここでは繰り返さない。以下、この件で思い出した映画のことを少し話したい。

 映画の名前は『ミッドナイト・エクスプレス』。イギリスのアラン・パーカー監督の代表作、1978年の作品である。
 トルコのイスタンブール空港から2kgのハシン(大麻)を密輸しようとして逮捕されたアメリカ人が、当時(1970年頃)の国際情勢に翻弄され、不当に長い刑を宣告される。さらに、収容されたのがとんでもない刑務所で、主人公は言いようのない恐怖を感じ、孤独感にさいなまれ、脱力感を味わう。この刑務所に入ったら最後、廃人にされるか、ミッドナイト・エクスプレスに乗る、つまりは脱獄するか、選択肢は二つに一つ。

 僕がこの映画を見たのはもう25年前、あまり詳しい内容は覚えていない。が、自分ならとても正気でいられない、生きてはいけない、と大きな衝撃を受けたことを覚えている。
 主人公のアメリカ人青年は、言葉の通じない異国、それも異教の地の刑務所で、虫けら同然の扱いを受ける。殴る・蹴るは当たり前、独房や拷問も日常の話、あげくの果てに看守(男性)からレイプされる。コカインのようなハードドラッグならいざ知らず、高々ハシン2kgで、なぜこんな仕打ちを受けないといけないのだろうか。

 この映画は見て楽しい映画ではないので強くお勧めはしないが、今の生活に満足していない方、日々不満を感じている方には是非ご覧頂きたい。たとえ貴方がどんな生活をしていようと、この主人公に比べれば、自らを幸せと思えるに違いないから。何があろうと最後まで希望を持って生きて行こう、と前向きな気持ちになれるから。

 ところで、この映画を見た数年後、僕はトルコに行った。そして、イスタンブールから帰国しようと飛行機に乗ろうとした時、係員の制止を受けた。ちょっと隅に寄れと言う。僕はさほど大きくないバックパックを背負っていた。係員はそのバックパックを指さし、鞄はずっと自分の手元にあったか、誰かから何か預からなかったか、と尋ねた。
 麻薬、刑務所、狂気の世界・・・・。『ミッドナイト・エクスプレス』が頭の中でフラッシュバックし、一瞬にして凍りつく僕。あぁ~、無事日本に帰れるだろうか。
 係員にバックパックを開けるように言われ、素直に従う僕。係員はざっと中を確認し、OKと言った。やれやれ、無罪放免だ(って、もともと無罪だけど)。

 前言撤回。海外でいわれのない恐怖を感じたくない方は、決して『ミッドナイト・エクスプレス』を見ないように。