現時点で、MR.BIGはフェアウェルツアーを終了している。
どうなるかは判らないが、少なくとも現状で彼らはライヴをする事はもうない。
一応、アルバム制作に関しては未だに靄がかかった言い回しをしているが、今回のツアーに於けるサプライズとしてリリースした感じにはなったと思う。
10枚目のスタジオアルバムとなる『TEN』。
このアルバムでのドラムは、ニック・ディヴァージリオがメンバーとして加わり叩いている。
パット・トーピーが居なくなってから、MR.BIGとしての探求心というか、メンバー間のバンドマンシップに何か陰を落とすようになっていた様な気がしていた。
いや、もっと言えば、パットの病気の悪化が判明した時点と考えられるか。
MR.BIGは、エリック・マーティン、ビリー・シーン、ポール・ギルバート、そしてパットの4人で完全成立しているバンドだと、個人的には思っている。
ポールが離脱した時に活動休止、暫くしてからリッチー・コッツェンが加入したものの、他の3人の間柄が悪化して結局解散に至る羽目に(リッチーは寧ろ被害者だね、あの時は)。
そしてポールが戻る形をとってから活動再開した時の彼らは『BUMP AHEAD』辺りまで遡った様な雰囲気を持った『WHAT IF..』をリリースした事で、バンドとして順調な滑り出しを見せてくれた。
そして、パットが重度のパーキンソン病が進行していると告げられた時。
この時、メンバーは何とか一緒に乗り切っていこうという結束力を見せていた。
バンド当事者たちは勿論そうだろうが、ファン目線からしても、「MR.BIGはこの4人であるからこそ」、という思いは強いのだろうと見て取れる。
だから、パットの病状が公表されてからリリースされたアルバム2枚(『...THE STORIES WE COULD TELL』と『DEFYING GRAVITY』)は、何となくネガティヴな雰囲気がバンドから滲み出ていた気がするし、正直オレは殆ど聴かずじまいでいる。
そーいう意味では、パットでなくとも、他のメンバーがこのバンドから立ち去る事になっていたら、MR.BIGのキャリアを今度こそ閉じる事を考えただろうと思う。
今回の『TEN』に関しては、そんな暗いトンネルから抜け出した雰囲気が少しでも感じ取れる様な内容であると言える。
1stアルバムを彷彿とさせる雰囲気で作られたアルバムと言われているが、それにしたってこのバンドももう35年を迎えるキャリアを誇る。
かつての様な野心に溢れる輝きを持っているワケではないのは認めるしかないだろう。
スーパープレイヤーとしての集まり以上に、一つのバンドとしての融和性の方が、サウンドからも聴いて取れる。
まァ、エリックがもう当時の様な勢いというか、歌唱にパワーが乗せれない感じになっているのも大きいとは思う。
そこが却って、彼らが元々標榜としていたブルーズ・ロックバンドへと近接したのは皮肉でもあるだろうか。
1st~3rdまでは、ポピュラリティの強さがありながらも頑としてハードロックと言えてしまう魅力が詰まっていたと、個人的に思っている。
なので、今の彼らは年相応に落ち着いてきてしまったバンドであると、オレは見えてしまっている。
それでも、ソレが悪いワケではなく、悪いと言いたくはない。
今回のアルバム、初期と比べれば地味な印象ではあるが、アルバムとしての出来がダメというのではないからね。
これがラストアルバムとなる見込みはかなり高そうだが、そうであるなら、良い形で終わりを迎えられたのではないかと思う。
「Never say never(決して無いとは言えない)」という言葉を、事あるごとに彼らやその周囲は使ってきていたが、もうそろそろ、解放してあげて良いとは思うよ。