彼の結婚が今までうまくいかなかった理由を探したかった。
だけど、優しい家族の表情しか見えず、今のところ、見つからない。
家があまりに遠いところか…。
確かに、こんな山奥に住むとなると、さすがに抵抗がある。
「こんな山奥、驚いたでしょう?」
「あ、いいえ!自然が豊富でホットします。」
食事中、突然の質問に答えたが、嘘に聞こえたかな?
確かに驚くほど山奥だけど、嫌じゃない。
囲炉裏を囲んだ山の幸の素朴なのに高級感が感じられる料理に、美枝さんはあらためて自然の偉大さに興奮してしまうほどだ。
「私は、陶芸をしています。なので、こんな山奥でも生活は出来ていますが、息子は違います。サラリーマンが性に合ってるようなので、都会で暮らしていいと思っています。」
敬さんの父親は、陶芸家だ。
自然豊富な山奥のこの場所の方が仕事には向いているんだと思う。
しかし、息子は、自分なりの生き方をして欲しいという。
…だから、この山奥で暮らす必要は無さそうだ。
…しかしながら、敬さんの家族は、とても温かく優しい。むしろ、ここで暮らしてもいい…とさえ思いはじめていた。
「敬は、気が利かず努力が足りないでしょう?こんな息子ですが、よろしくお願いします」
お義母さんが頭を下げた。
「と、とんでもない、とても優しい人で、私にはもったいないです」
「もったいないだなんて、美枝さんは優しいね~!」
妹もケラケラと笑い、美味しそうに山の幸を頬張る。
素直でかわいい義妹だ。
……う~ん、いったい何が原因なんだろう?
彼がフラれる要素が見当たらない。
お母さんが猫を被っているのか…、
はたまた、彼の本性がこれから現れるのか…、
お父さんが、くせ者か…。妹か…。
しかし終始大歓迎で、美枝さんは楽しい時間を過ごした…。
「ここが、寝室ですよ」
お母さんに通された部屋は、10畳ほどの和室。
広すぎる部屋の真ん中にぽつんと布団が一組敷いてあった。