候補者10

2020-09-05 07:43:12 | 日記
彼の結婚が今までうまくいかなかった理由を探したかった。

だけど、優しい家族の表情しか見えず、今のところ、見つからない。

家があまりに遠いところか…。

確かに、こんな山奥に住むとなると、さすがに抵抗がある。



「こんな山奥、驚いたでしょう?」

「あ、いいえ!自然が豊富でホットします。」

食事中、突然の質問に答えたが、嘘に聞こえたかな?

確かに驚くほど山奥だけど、嫌じゃない。



囲炉裏を囲んだ山の幸の素朴なのに高級感が感じられる料理に、美枝さんはあらためて自然の偉大さに興奮してしまうほどだ。



「私は、陶芸をしています。なので、こんな山奥でも生活は出来ていますが、息子は違います。サラリーマンが性に合ってるようなので、都会で暮らしていいと思っています。」

敬さんの父親は、陶芸家だ。

自然豊富な山奥のこの場所の方が仕事には向いているんだと思う。

しかし、息子は、自分なりの生き方をして欲しいという。

…だから、この山奥で暮らす必要は無さそうだ。

…しかしながら、敬さんの家族は、とても温かく優しい。むしろ、ここで暮らしてもいい…とさえ思いはじめていた。


「敬は、気が利かず努力が足りないでしょう?こんな息子ですが、よろしくお願いします」

お義母さんが頭を下げた。

「と、とんでもない、とても優しい人で、私にはもったいないです」

「もったいないだなんて、美枝さんは優しいね~!」

妹もケラケラと笑い、美味しそうに山の幸を頬張る。

素直でかわいい義妹だ。



……う~ん、いったい何が原因なんだろう?

彼がフラれる要素が見当たらない。


お母さんが猫を被っているのか…、

はたまた、彼の本性がこれから現れるのか…、

お父さんが、くせ者か…。妹か…。


しかし終始大歓迎で、美枝さんは楽しい時間を過ごした…。




「ここが、寝室ですよ」

お母さんに通された部屋は、10畳ほどの和室。

広すぎる部屋の真ん中にぽつんと布団が一組敷いてあった。