通された部屋は、10畳ほどの和室。
ひとりで寝るには広すぎる。
かと言って、敬さんと一緒…というワケにもいかない。
「まだ、結婚前だし、ひとりで寝るのも仕方ないか…」
ゆっくりと部屋を見回した。
枕元の、1畳ほどの床の間には、高価そうな壷が飾ってあったが、
それ以外は、何も無い殺風景な部屋。
少しカビくさいような古くさいにおいがするが、これだけの古い家だと仕方がない。
障子の外にミシミシと軋む音がする廊下。
その外には広い庭。
…庭と言っても、どこからどこまでが庭なのかわからないほどの自然が広がっている。
樹木の先は、漆黒の闇だ。
野生の動物が現れても不思議じゃない。
「ほー、ほー」
ふくろうが鳴いている。
静か過ぎて…眠れるだろうか…。
「大丈夫?」
敬さんが部屋を訪ねて来た。
「部屋が広過ぎて、眠れないかも…敬さんは、どこに寝るの?」
「自分の部屋。お袋が、学生時代のままにしててくれてるんだ。実家に帰るといつもソコ」
「…そうなんだ」
「寂しい?一緒にここで寝ようか?」
「いいよ、大丈夫!」
「…そっか。それじゃ、おやすみ…」
敬さんの足音が遠ざかる。
彼が去った後の広い部屋は、再び静寂に包まれ、シンと鎮まりかえった。
「ギシ…………ギシ………」
裏山の樹木の軋む音まで聞こえてくる…。
「いいや…、とにかく寝てしまえ」
「ギシ…………ギシ………」
それにしても、樹木の軋む音が気になる。
あれ?ふくろうが鳴いてない…。
ふくろうも休む時間なのかな?
「ギシ…………ギシ………」
樹木の軋む音が大きくなった。