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夏の思い出 21

2021-10-16 10:19:28 | 日記
「またね!」

いつもの様に手を振るまゆみ。


…何だろう…、まゆみ、さびしそうだった。

めいっぱいの笑顔を久しぶりに見た気がするのに、とてもさびしそうだった。

それに、手を振りながら背を向けたまゆみが、何か言いたげだった気がしてならなかった。



それから玲子は、帰郷するといつも出掛ける近所の川原の散歩に出かけた。

外はいつの間にか、すっかり日が暮れていて、長い時間をまゆみと話し込んでいたんだなぁ…と、思いながら、久しぶりの散歩道を踏みしめて歩いた。

川原の夏の散歩は、大好きだった。

流れる川の水に耳を傾けて、往復30分程度の細道を歩く。

パリパリ…と、小石を踏んで歩く音が響く。



「玲子…」

え?


……まゆみ?


振り返ると、誰もいない。


呼ばれた気がした。   

この川原は、二人でよく歩いた。

まゆみが何かいい忘れた事があって、戻って来たのだろうか?と思った。


気のせいか…。
 
お腹が空いた。

帰郷するといつも母が作ってくれる煮物が楽しみだ。

とりあえず帰ろう!

夏の思い出 20

2021-10-15 11:11:35 | 日記
「気持ちを伝えるだけでいいの。」
と、ニコッと笑った。

健気なまゆみの表情に、なぜか涙が出そうだった。

「そのあとは、どうするの?」

「どうするって?」

「もしも、OKだったら?」

「大丈夫!そんなこと無いから!とにかく、諦めるために気持ちを伝えたいの」

「諦めるため?」

「うん。もう、次に行かないと!」

次に行く?

…他に好きな人が出来たのかな?

吹っ切れたようなまゆみの表情に、病院の気配はほとんど無かった。


「まゆみが前に進めるならいいんじゃない!」

「うん!」



すっかり外は暗くなって、時間が経つのも忘れて話し込んでいた。

「さてと、もう、帰らなきゃ」

「久しぶりに、ゆっくり話が出来て嬉しかった!」

「私も!ありがとう!じゃ、またね!」

いつもの様に手を振るまゆみ。


夏の思い出 19

2021-10-14 09:03:42 | 日記
まゆみが地元に残ったのは、家の事情もあったけど、タカシが地元に就職した…というのも、理由の一つだ。

玲子は、引っ込み思案のまゆみが、何か行動を起こせるワケは無いだろう…と思った。

だけど、何か少しでもチャンスがあれば、素敵な展開も起こせるかも知れない…と、少し期待もしていた。

ところが、隆司には恋人が出来ていたらしい…という噂。

相手は、まゆみが可愛がっていた後輩。


「告白…しようかな?」

「え?」

「りさちゃんとの件は、まだ本当かどうかわからないし…。ダメ元で。」

「おぉ!まゆみにしては、すごい決断だね!いいと思う。応援するよ!進展出来るように祈ってる!」

「…でもね。私は、タカシくんに気持ちを伝えるだけでいいの。」

「え?」

「もしも、タカシくんが私に好意を持ってくれたとしたら嬉しいけど、その気持ちがずっと続くのかどうか…、いつも不安になるし、しんどい…。」

「…だけど、恋愛ってそんなものじゃ…」

…そうか…。まゆみは心の病だとしたら、これが本音なんだと思った…。

「気持ちを伝えるだけでいいの。」




夏の思い出 18

2021-10-13 10:38:45 | 日記
二人は縁側に座り、話し込んだ。

二人にとっては、昔からの定番のおしゃべり位置です。

二人の会話は、恋の話しから仕事の話と尽きません。

まゆみも将来、都会へ出てファッション関係の仕事をするのが夢でしたが、家の都合で地元へ残った。

「仕事、大変なんでしょ?忙しい?」

「新しい仕事が、思った以上にトラブルが多くて、四苦八苦してる。この間も~………」

玲子が仕事が順調で、期待されているらしい…という話は、まゆみにとっても、自分のことのように嬉しそうで、身を乗り出すようにして、聞いてくる。

「ところで…、まゆみ。タカシとは、どうなってるの?」

「どうにもなってないわよ~!」

カラカラと笑った。

まゆみの笑顔を久しぶりに見た。

「タカシくんには、恋人がいるみたい。」

「え?まさか、マリ子じゃないよね」

「違う、違う!私が学生時代に、同じ部活の後輩の子。りさちゃんって知ってる?」

「あ、まゆみが可愛がっていた子だよね。」

「うん。もう、付き合って半年くらいになるのかな?結婚するって話を聞いたよ。」

「結婚?!」

「うん。噂だけどね…。りさちゃんは、いいこだから、応援したい!」

「…そうなんだ…。うまくいくといいね…。」

「うん。」

まゆみが、とても寂しそうな顔をしたのを見逃さなかった。



夏の思い出 17

2021-10-12 09:31:20 | 日記
帰郷した玲子は、
昔と変わっていない自分の部屋で、ひといき。

時間はまだ、夕方。


玲子の自室は裏庭に面していて、縁側もあり、夏の日の夕涼みをするには最適だ。

まゆみは、留守電を聞いてくれただろうか…。

すると、ふと人の気配を感じて庭先を見ると、満面の笑みのまゆみが立っていた。

「帰ってたの~?」
「うん!さっきまゆみの家に電話したんだよ。」

「元気?」
「元気、元気!久しぶりだね~!」

まゆみは、少し痩せていて、顔色もあまり良くない…。
玲子は、久しぶりにまゆみに会えた感激で、どこから話をはじめたらいいのか迷った。

「痩せた?」
「うん、少し。玲子も痩せたね。」
「仕事、忙しくて。」

まゆみは、心の病であることを人伝に聞いていたが、痩せた理由が何なのか…聞くことは憚れた。

「少し、病んでてね…」
「え?」
「仕事も思い通りに行かず、いろいろと悩んでばかりいて…、少し病んじゃった。」

まゆみの方から、話をしてくれた。

「もう、大丈夫なの?」
「うん。もう、大丈夫。病院でもらった薬がとても効いてくれて、ある日、嘘みたいに気力が回復したの」
「良かった!」