円谷幸吉・命の手紙。2019年10月10日発行 文藝春秋。
『先日、実家の2階の和室を後片付けし、
押し入れ上部の天袋を開けたときでした。
震災で壊れた段ボールの箱の中から、
幸吉叔父さんの手紙の束がひょこり顔を出したんです』
円谷幸吉氏。
わが青春真っただ中に起こった円谷幸吉氏の自殺でした。
そして、三島由紀夫の割腹自殺。
あっという間に半世紀が経ちました。
円谷幸吉氏の遺書。
遺書はすぐには発見されなかった。
机の引き出しの裏にテープで貼り付けてあったからだ。
遺書は2通。1通は両親と親族に宛てたもの(2枚)。
もう一通は自衛隊体育学校の幹部に対して書いたもの(一通)。
父上様、母上様、三日とろろ美味しゅうございました。
干し柿、モチも美味しゅうございました。
敏雄兄、姉上様、おすし美味しゅうございました。
克美兄、姉上様、ブドウ酒とリンゴ美味しゅうございました。
巌兄、姉上様、しそめし、南ばん漬け、美味しゅうございました。
喜久造兄、姉上様、ブドウ液、養命酒美味しゅうございました。
またいつも洗濯ありがとうございました。
幸造兄、姉上様、往復車に便乗させて戴き有り難うございました。
モンゴいか美味しゅうございました。
正男兄、姉上様、お気を煩わして大変申しわけありませんでした。
幸雄君、秀雄君、幹雄君、敏子ちゃん、ひで子ちゃん、良介君、敬久君、
みよ子ちゃん、ゆき江ちゃん、光江ちゃん、彰君、芳幸君、恵子ちゃん、
幸栄君、裕ちゃん、キーちゃん、正嗣君、立派な人になって下さい。
父上様、母上様、幸吉はもうすっかり疲れ切ってしまって走れません。
何卒お許し下さい。
気が安まることもなく御苦労、御心配をお掛け致し申しわけありません。
幸吉は父母上様の側で暮らしとうございました。