弁護士太田宏美の公式ブログ

正しい裁判を得るために

Law&Orderからみるアメリカ、中絶、同性婚、価値の混乱

2012年02月11日 | Law&Order

インフルエンザに花粉症、最悪です。

さて、5話は、中絶問題でした。
アメリカでは、中絶問題は政治的議論の争点でもあります。
特に大統領選では、共和党支持者は中絶反対が核です。
今回は胎児を守るために、手術をする予定であった医師を殺した事件でした。
最初から正当防衛の主張でしたから、中絶問題を
主争点にするのが弁護側の狙いです。
なお、第三者の命を守るための正当防衛は、防衛手段が相当な範囲内であれば
認められています。

胎児の命を守る、その子がどういう重度の障害があっても、という主張は
人の心に響くものがありますから、弁護側の戦略はもっともです。

ただ、人とはいっても、胎児はまだ生まれていません。
重度の障害があるのですから、生まれてくるかもわかりません。
また、生まれても、ぜいぜい2日の命しかないのです。
こういう主張は明確にはなされていませんが、
というのはこういう主張は嫌悪を持って迎えられ、反発を買うだけだからです。
しかし、事実としては、提示されています。

一方、中絶手術が失敗し生まれてしまった場合に、そのまま手術を続行する
ことにした例がありました。
これはまさしく殺人です。結局、妊娠後期の中絶は、実際の殺人と紙一重なのです。
多分、コニーがこだわったのもそこだと思います。

ただ、カッターの最終弁論は、誰の命もかけがえのないものと、通常は、弁護側が
主張する理屈に乗っかって、医師の命も大事だというものでした。
被告人は、胎児とは何の関係もない人です。抽象的、一般的に
主義主張によって人を殺しただけといってもいいわけです。

ということで、今回は勝訴でした。しかし、この種の事件について、とにもかくにも
中絶反対派が敗訴したことは、アメリカの世論も中絶容認派に有利に動いている
ことの表れと思います。

最後にマッコイが、graet messy time 価値の混乱の時代だというのは、
社会の根本的な価値観が激しく流動していることをいっているのだと思います。
ただ、日本人には、ここまで拘る理由が少々理解できませんが・・・・

価値といえば、同性婚についても、アメリカでは、激しく争われています。
ニューヨーク州に引き続き、8日ワシントン州議会が同性婚合法化の議決を
しました。
同じころの7日、連邦のカルフォルニア高裁は、カルフォルニア州の同性婚を違憲とする
憲法を合衆国憲法14条に違反するとの判決を出したばかりでした。
同性婚を認める動きに大きな流れが生まれたようです。

今回のことで、エレン・デジェネレスが同性愛者だと初めてしりました。

つい最近、オバマ夫人の腕立て伏せを紹介しましたが、それは、
このエレンのショーでした。
また、アメリカン・アイドルの審査員をしていました。
何だか、変わった雰囲気の人だと思っていました。悪い意味ではなく。
同性愛者と聞いて、わかったような感じも・・・・・

これがアメリカなんですね。

なお、昨日紹介したシャチの件については、8日、憲法は人間にだけ
適用されるとして却下されたということです。当然ですが、
私はどちらかというと、シャチには裁判を起こす権利がないというのかな
と考えていましたが・・・・・
こういうことに時間と労力を費やす裁判所というのは、いかにもアメリカ
らしいです。


 


LAW&ORDERからみるアメリカ、政治的腐敗

2012年02月06日 | Law&Order

Law&Orderのシーズン19の最終回とシーズン18の最終回は
いずれもシュルボイ・ニューヨーク知事にかかわるもので、
密接に関係しています。

18の方の知事の売春婦との関係については、実際にニューヨーク州知事
に起こった不祥事です。
あの頃は、私はオバマウオッチングをしていましたので、
かなりアメリカ事情には詳しいのです。

マネーロンダリング絡みで高級コールガールの組織が盗聴されていました。
盗聴中に、顧客の中に、当時のエリオット・スピッツァー、ニューヨーク知事がいたのです。
夫人は夫とともに記者発表に立ち合い、夫を支える姿勢を示したのですが、
結局、世論の非難には耐えられず、辞任することになりました。
2008年3月のことです。
そういうときに引き合いに出されるのは、常にビルとヒラリークリントンでした。
「stand by her man」という言葉がマスコミに溢れていました。
こういうときはhusband ではなくman なんですね。
リタ・シャルボイは、そういうことは真っ平御免という態度でしたが・・・
なお、スピッツァー夫人も有能な弁護士だったのですが、夫のためにキャリアを
捨て、政治家夫人として陰で支えていたようでした。

19の方の最終回は、ブラゴエビッチ・イリノイ州知事の汚職疑惑が下敷きです。
オバマ大統領の後任の上院議員のポストを巡って、
空席の指名権があるイリノイ州知事が、その席を金で売ろうとしていたのです。
2008年12月、汚職容疑で逮捕されました。
最終的には2011年12月に14年の禁固刑の言い渡しがありました。

いずれの事件も大々的に報道されましたから、アメリカの人は、
この2回のドラマをみれば、実際の政治の腐敗を嘆くはずです。

マッコイの政治腐敗との戦いというのは、2008年を通して、世間を騒がせた
州知事の腐敗問題があったのです。

Law&Orderはアメリカ社会に対する鋭い問題提起を含んでいるのですね。

最後の夫婦の騙し合いはちょっと悲しいですが、
マッコイのいうように家族は政治家にとっては道具なのかも知れません。

【アメリカ法の豆知識】
配偶者間の秘匿特権について
アメリカのドラマをみていると配偶者が証言を拒否する場面が出てきます。
今回も、夫人のリタは、夫の知事に証言させないことができると
言っていますが、それに対して、夫の知事は例外がある、
ネックレスを持ちだしたからという趣旨の発言をしていますね。
実は、配偶者間の秘匿特権には二つあるのです。

一つは、配偶者間の免除(Spousal immunity)というものです。
 これは、一方の配偶者は他の配偶者に対する証言を拒否できる
 ということです。
 言いたくない配偶者はいわなくてもいいというだけです。
 当の配偶者が、この特権を行使せずに、自ら証言しようとするときは
 他方の配偶者は、これを止めさせることはできないのです。
 これは刑事事件だけです。

もう一つは、婚姻上の秘密情報の伝達に関する秘匿特権(Confidential
Marital Communication)というものです。
 これは、婚姻関係という親密な関係にあるもの間で信頼してなされた情報について
 相手方の配偶者に情報を開示させないという特権です。
 ですから、こちらの方は、一方の配偶者が証言したくても、他方の配偶者は
 証言させないことができるのです。 
 これは民事、刑事の双方に適用されます。
 夫人が言っていたのはこちらの方です。
 したがって、夫人は知事が不利なことを喋ろうとしてもこれを阻止できるというわけです。
 しかし、これには例外があって、その配偶者に対する犯罪がある場合は
 認められないのです。
 ネックレスを夫に黙って持ち出すことは、横領かなにかの犯罪になるはずです。
 ということで、夫の知事は、妻の犯罪について、自由に証言できるというわけです。
 知事の座と引き換えに夫人を売ったというわけです。

最後は、カッターが駄目押しをし、結局知事も辞任に追い込みましたね。
本当に知恵比べ、騙し合いの真剣勝負です。
そこがLaw&Orderのおもしろいところでしょう。

今年は、アメリカ大統領選挙の年です。
オバマの再選がかかっています。
どうなるのでしょうか。今年は仕事や経済の問題が前面にでているので、
4年前の選挙とは全く雰囲気が違っています。


LAW&ORDERからみるアメリカ、世界は狭く、不思議な繋がり

2012年01月29日 | Law&Order

昨日のブログでは、マドフからヒントを得たシーズン19の17話をとりあげました。

私のお気に入りのディリーメールhttp://www.dailymail.co.uk/home/index.html
をチェックしていると、そのマドフの妻の記事を見つけました。
有罪になったのは、本人だけであり、こどもは男性が二人だったということで
事実とは違っているようですが、
夫婦の愛情や子供との関係については事実に近かったようですね。
改めて記事になったのは、マドフ一家についての本が出版されることに
なったからのようです。ここをどうぞ。

世界が狭いと感じたのは、たまたま私がこのブログで取り上げたのがその前日
だったからです。
日本の東京で、マドフ一家や投資詐欺事件と全く関係のない私が、たまたま
日本でのLaw&Orderをみて、私の切り口で説明したのです。
それなのに、こうして繋がりが見えてくるって不思議です。

人が生きるということは、目に見えない地下のマグマで、世界中の人々と
繋がっていることではないかと思うのです。
だから、何かに関心を持てば、即、そこに繋がりが、道ができるのでは
ないかと思います。

ということは、何に関心を持つかということは極めて重要なことなんですね。

そして、もうひとつ、私はニューヨークタイムズに読者登録しています。
そうすると、メールが届き、無料でインターネット版が読めるんです。
昨日、配信のニュースによると、ニューヨーク警察のトップcommissioner、
の息子、地元ケーブルテレビニュースのアンカーをしているのですが、
知人の女性をレイプしたとして告訴されたこと、
ということで、警察が捜査を担当するのは相応しくないとして、
地方検事(DA)のサイラス・バンスが直接捜査をすることになったことが
報道されていました。
そうです。Law&Orderではマッコイのポストです。
「one of the nation’s most prominent prosecution offices」と
ありました(なお、ここでnationというのはニューヨーク州のことです)。
マッコイやカッターやコニーの姿が浮かんできてしまいました。
あのIMFの元専務理事のストロスカーンの捜査を指揮したのもサイラス
でした。
Law&Orderで見るように、テレビのインタビューで起訴断念の発表を
していました。
ドラマの世界と現実の世界が混同してきそうです。

だからこそ、おもしろいですね。

【アメリカの法律の豆知識】
 18話では、殺人未遂が無罪になり、暴行罪(assult)だけで有罪になりましたが、
 その後、被害者の母親の希望で生命維持装置を外したため、死亡しました。
 最終場面でカッターに電話が入りましたね。
 早速、殺人で起訴するようマッコイが指示しましたね。
 評決のときは生存していたので、殺人未遂とか暴行(日本的にいえば傷害です)
 にしか問えなかったのですが、しかし傷害の結果、死亡すれば、殺人に問えるのです。
 最近は多くの州で見直ししているということですので、既にニューヨーク州も
 廃止しているかもしれませんが、 
 伝統的には「1年と1日ルール」というのがあり、傷害の日から1年と1日以内に
 死亡した場合は、殺人となると定まっていたのです。
 アメリカというか英米法の国ではこういうおもしろいルールがありますね。
 ただというわけにはいかないので1ドル(これはニューヨーク市長の報酬(年)が1ドル、現実の話)
 州の土地を永久に、しかも無料で貸すわけにはいかないので99年間1ドル
                (シャルボイ知事がFBIを味方に取り込むために、
                 99年間1ドルで貸すことでしたという話がありましたね。
              このLaw&Orderのシーズン18の最終回については別に書きたいです。)

 被害者の死亡は悲しいニュースですが、無罪で悔しい思いをしていたマッコイらには
 朗報でした。既に暴行罪で有罪になっているからです。殺人罪というのは、この有罪となった
 暴行罪から時の経過で生じたものですから。こんどこそ有罪にできるという
 わけです。・・カッターが説明していましたね。
 ということで、悔しむべきか喜ぶべきか悲しむべきか、3人とも曖昧な微妙な表情でしたね。

 


LAW&ORDERからみるアメリカ、多様な文化、モルモン教一夫多妻制

2012年01月08日 | Law&Order

昨日に引き続き、Law&Orderです。
シーズン19の第3話は原理主義モルモン教の一夫多妻制を扱った
ものでした。
たまたま、事件がニューヨークで起こったという設定で、Law&Orderの
出番となったわけですが、モルモン教といえばアリゾナ州です。
6番目の妻、16歳で52歳の男性と結婚した女の子が、ニューヨークへ
逃げてきたのです。それに絡んだ殺人がきっかけですが、
裁判そのものは、証人となった女の子をアリゾナに戻すことの適否が争われた
ケースでした。

結局、2人の子供があり、しかも、裁判中に夫の子供を妊娠していたことがわかり、
子供を育てるためには、戻るしかないと諦めてしまうのですが、
女性の検事捕のルビローサは遣りきれないものの理解しますが、
男性のカツター次席検事は全く理解できない、
そして、マッコイはといえば、そもそも一夫一婦制が自然なものかどうかわからない
などと冗談?でごまかし、要は宗教には立ち入りたくないという姿勢です。

実は、2011年の8月4日に、実際にモルモン教の一夫多妻の教祖に対する
有罪判決があったのですが、このドラマの制作時には、逮捕などで騒ぎが
あったころと思います。
アメリカでも重婚は犯罪ですが、実際には徹底していないのですね。
この有罪事案は78人の妻、24人の子供、15歳、12歳の子供に対する
性的暴行と極めて悪質だったからです。

21世紀のアメリカでのことです。
検事たちの意見がわかれているように、いろいろな考えがあるでしょう。
もちろん、判事は、一夫多妻制のもとでの本人の意思に反する男女関係を
認めるわけにはいかないと判断したのですが、
妊娠がわかって本人がその意思に従って帰ることを選択した場合には
なすすべもないわけです。
「意思にしたがった」といっても、諦めからくるものですが、成人である以上
第三者があれこれ口を挟むわけにはいかないでしょう。

アメリカの多様性というのは、信じられないほどの複雑極まりない、底なしの、
絶望的とも言いうるものを含むものなんです。

アメリカの代表、象徴ともいえるハリウッド映画が世界中の人々を魅了するのは、
アメリカそのものが地球の縮小版ともいえるからなのではないかと
気づきました。

なお、共和党の大統領候補のトップを走っているロムニーはモルモン教ということ
です。ただ、知事経験者であり、成功したビジネスマンということなので
あまり影響はないのでしょうか。
黒人が大統領は難しいと考えられていましたが、実際はオバマが大統領に
なりました。
それほど、アメリカの懐は大きくて深いということでしょう。

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また、話がそれますが、Law&Orderの直前の番組は「ビッグバン・セオリー」でした。
これは、草食系オタクの4人組(物理学者でエリート)の爆笑コメディーですが、
そこで、携帯の着信音にLaw&Orderのテーマー曲が出てきました。
「あ、Law&Orderだ」なんて即座に反応する場面がありました。
(私もあれと一瞬思いました)
この「ビッグバン・セオリー」はアメリカでは高視聴率ドラマです。
2011年のエミー賞でジム・パーソンズ(シェルドン役)が主演男優賞を受賞したばかり
の注目番組なんですが、
そこでLaw&Orderのテーマー曲が出てくるというのは「Law&Order」はアメリカ人なら
誰でも知っているドラマということなのでしょう。

 


LAW&ORDERからみるアメリカ、安楽死・尊厳死について

2011年12月12日 | Law&Order

Law&Order のシーズン18が始まりました。
これからが楽しみです。
シーズン18は2008年1月から5月に報道されたものです。
最近のアメリカについて、以前に比べ、知識が増加してきましたから、
背景事情を知っていることで、作品の理解に深みができたように
感じるのです。

18の#1は、安楽死というか尊厳死というか、痛みの激しい末期患者
の自殺を助ける行為です。
実は、Law&Orderはニューヨーク・ポストの第一面の報道記事をヒントに
テーマを選択しているということでした。ただ、出来上がったものは
実話とは全く関係ないということでした。
ですから、どこまでが実話でどこまでが創作なのかも気になっていました。

今回の#1は、多分、「死の医師」として知られていた実在の
ジャック・ケボーキアン氏に関係しているのだと思われます。
同氏は自らの末期患者を約10年にわたり総計130人尊厳死させたとして
1999年にとうとう自殺ほう助(第二級謀殺罪)で有罪になっていたのですが、
2007年に仮釈放になっていたのです。
条件は自殺ほう助はしないということでした。
なお、同氏は、自殺装置をみずから考案していたのです。
薬物を利用したものと一酸化炭素中毒を利用したものがあり、
いずれも患者自身が装置を作動させる仕組みだったのです。
また、1999年の有罪のきっかけはCBSテレビで、実際にほう助の様子を
放映させたことでした。

こういう背景事実を知っていると、#1はかなり事実に近いものがあります。
おそらく、死の医師の仮釈放に刺激されたものと思います。

しかし、その後は創作ではないかと思われます。
というのは、ドラマでは法廷の場で効き目があらわれるよう、薬物を自ら
服毒して自殺をするのですが、
現実の死の医師であるジャック・ケボーキアン氏は、その後も選挙に出るなど
活躍し、今年の6月3日、83歳で自然死をしたのです。
皮肉なものですね。

なお、安楽死・尊厳死に使う薬が死刑執行に使うのと同じというのも、考え
させられます。事実というのはこういうものなんでしょうね。

アメリカでは、医師の処方の下での末期患者の自殺について、
1997年にオレゴン州で、2009年にはワシントン州で法律で認められる
こととなり、その後、連邦最高裁判所でも合憲との判決があったという
ことです。

ということは、#1は自殺をする権利についての、賛成、反対のそれぞれの
立場を法廷という場で明らかにして見せたものといえましょう。
そして、自殺する権利は憲法で認められたものだと、証人席で証言しながら
法廷で自殺を完結させるという、Law&Orderのドラマは、
現実の法律の世界でのその後の動きをみると、極めて象徴的です。

多分、これがLaw&Orderの魅力なのでしょう。

また、若干余談になりますが、シーズン18では、地方検事のアーサーに
かわりマッコイがその後任になるのですが、
シーズン17の最終回でマッコイが辞職願を出し、アーサーに受理を拒否され
撤回する場面があります。
そのときに、アーサーがマッコイの検事昇進を示唆した際、マッコイは
自分は政治に関心はないと言い、アーサーは最初はみんなそういうと答えて
います。
アーサー役のフレッド・ダルトン・トンプソンは、俳優でもありますが、
共和党の上院議員もした政治家で、Law&Orderのアーサー役を降りたのは
2008年の大統領選挙に共和党から立候補するためだったのです。
立候補表明はしたものの、撤退したということです。
オバマの対戦候補になる可能性があったのですね。
最後の場面のアーサーの言葉はとても深い意味があったのですね。

ますます楽しみです。