弁護士太田宏美の公式ブログ

正しい裁判を得るために

判事ディード法の聖域 ファン編 ブレア夫人パートタイム・ジャジ判決

2011年09月04日 | 判事ディード 法の聖域

判事ディード法の聖域の放送が終わって1週間、これまででしたら
まとめに頭を悩ましていたことです。懐かしく感じています。

デイリーメールで、ブレア元イギリス首相の夫人(バリスター・法廷弁護士)
がレコーダー(Recorder)すなわちパートタイム・ジャジとしてした
判決に関する記事が載っていました。
ディードのドラマを思い出しながら、ご紹介です。

レコーダーは一度ジョーもしたことがありました(真実の闇(Defence of the
Realm))。ディードがワーウィックに研修講師として派遣され、モラグと初めて
会い、ジョーはマイケルのことで脅迫され、自身もあわやビルから転落の危険
にあった回です。
もともとブレア夫人はジャッジを希望していたということでしたが、夫が首相を
辞めたので、いよいよ本格的に活動を始めたものと推測されます。

アイルワース(Ileworth)というグレイター・ロンドンの刑事法廷(Crown Court)
とのことです。ジョーの務めた裁判所も中心から少し外れていたようですので、
新人はそういうところからはじめるのかもしれません。

事件はコカインの密輸です。アメリカから「GIFT」として送られてきたもので、
税関ではそのまま通して、配達され、受領したところで、逮捕したようです。
現行犯逮捕です。日本でも同じようにするはずです。

ということで、陪審員も評決までに3時間もかからず共謀を認めたということです。
ただ、首謀者というのではなく、しかし、密輸グループのトップクラスに近い
存在ではないかが争われたようです。
陪審員が有罪の評決をしたので、今度はジャッジであるシェリーが量刑を決め
判決を言い渡したのですが、それが実刑ではなく12か月の猶予だったのです。
量刑理由は、拘留期間が240日あったことと長年のアルコール中毒で肝硬変
を患っていたこと、拘留期間中に心臓発作を起こしたことがあったことからなど
の健康状態を考慮したというものです。

ただ、このような事例の場合は、5年から9年の実刑が相場のようです。

ということで、検察側が控訴したのです。ドラマで馴染みのあのロンドンの
オールドベーリーです。

控訴審では3人の判事が「驚くべき、欠陥のある、不当に寛大」だとシュリーの
一審判決を痛烈に批判して、これを破棄し、3年半の実刑を言い渡したとのこと
です。
麻薬は日本でもそうですが、社会に与える影響が大きいので、結構重い判決に
なります。特にコカインはそうです。ここでも「public dimension」といわれています。
ただ、5年から9年が相場ながら、3年半というのは240日の拘留期間とか
健康状態が考慮されたものと思われます。

なお、このケースは法務長官(Attorny General)が控訴に持ち込んだようです。
顔が浮かんできます。

シャーリーは人権派弁護士といわれており、しゃきしゃきの労働党員であり、
夫のブレアより左寄り左派だといわれていますので、そういう感覚なのでしょうか。
ジョーを思い出しました。最後の方では名前ではなくあの「radical」グループの、
と揶揄的に言われていましたが、もういうセンスが続くと、たとえ元首相夫人でも
ジャッジとしてはどうかなということになるかも知れません。

こうして実際の裁判レポートに触れると、改めて判事ディードのドラマは現実に即した
極めて良質なドラマだったことがわかります。

もとの記事はここからどうぞ

 


判事ディード 法の聖域 最終回 害悪の痕跡

2011年08月30日 | 判事ディード 法の聖域

判事ディード「法の聖域」の最終回は「害悪の痕跡(原題はEvidence of Harm)」です。
私は、素直に「損害(あるいは有害)の証拠」が良いと思います。

幻の2話

実は、最初のBBCの放送時には、沈黙の侵略(Silent Killer)(第22話)と戦争犯罪
(War Crime)(第23,24話)との間にもう2つのエピソードがあったのです。

 「One Angry Man」 と「Heart of Darkness」です。
メインは「Heart of Darkness」の方ですが、その前哨戦的に「One Angry Man」
の方でも、扱われている「三種混合ワクチン」について、ドラマでは危険だとしているの
ですが、これは信頼性に欠けるということで、DV化の際以降、ドロップされました。
日本でも三種混合ワクチンの有効性と副作用との関係について、議論があり、
必須接種から任意接種に変更になっているはずです。

詳細は分かりませんが、インターネットでのプロットの紹介などを見るとこのようなことが
あったようです。

 「One Angry Man」では、とうとうディードが陪審員を務めることになったようです。
長期にわたるもので、イアンの妨害計画は着々と進行していたのです。
「Heart of Darkness」では、ジョーはマークに対する不信感はあるものの結婚式の
設定にこぎつけましたが、ディードの嫉妬から式のリハーサルに遅刻したり、式当日の
朝に開かれる司法関係の会合に出席を強制されるなどの妨害があるので、結局は、
結婚は取りやめになったのではと推測します。しかし、ディードは一方ではモラグとの
関係は続けているようです。
22話から引き続くイラク未亡人の事件(モラグ担当)とワクチン接種拒否事件(ディード
担当)の結果について懸念する政府は、ディードとモラグに対する陰謀を企てたようです。
モラグはディードと別れることにし、ディードについては、ICCへという道筋ができたのでは
ないかと推測します。

ディードの陪審員としての働きぶり見たかったですね。久しぶりの700万越え、730万の
視聴率でした。

解説

1 今回のテーマはひとつはLeagal Aid(司法支援)です。
  イギリスの司法支援は充実しているといわれています。
  しかし、一方で、その額が大きくなることに対する批判もあります。
  たとえば、ブレア元首相夫人のシェリー・ブレアやキャメロン首相の弟について、司法支援
  から多額の収入を得ていることが話題になっていたと思います。
  司法支援は政府や弁護士会から独立していますが、財源は税金ですから、政治の影響
  があります。
  である以上、今回のドラマのように、政府に不都合な争いに関しては支援をしないという
  こともあり得ます。
  50%以上勝訴のチャンスといいますが、実際は、明らかに不当なものでない限りOKなの
  ですが、それが口実になります。
  また、仕事についての競争がなくなれば、弁護の質も落ちてしまいますし、政府側に都合の
  いい弁護活動をする者を優遇するなどもあり得ます。
  今回のドラマの背景には、そういう深刻な問題があるのです。
  日本も法テラスができましたが、むしろ提供するサービスの質は低下したとの声を利用者
  から聞きます。

2 もう一つは、司法支援を通して、政・産・官の癒着に取り込まれる司法の危機感を描いたのだと
  思います。
  ジョン・チャニング卿が今回の見直し裁判から手を引くようにイアンから懇願されたときに
  「正義の女神ユスティティアが伝統的に遠くを見つめている姿で描写されるのは、ジャジは
  個人の当惑・厄介とか、特に政府の当惑・厄介などといった、無関係なことに影響されるべき
  ではないとの理想があるからだ」と説明していました。
  今回のテーマはやはり、政治のご都合で司法は振り回されてはいけないということだと思います。

  天秤と剣を持つテミスの像はあちこちで見ますが、こういう深い考えがあったのですね。
  なお、もともとは目隠しかもしれませんが、実際は目隠しなしが多いと思います。
  ジョン・チャニング卿も目隠しではなく「disatntly」と表現していたのはそういうことと思います。

    ロンドンの刑事裁判所の正義の女神の像です。
  目隠しなのでしょうか。それともなしでしょうか。私には遠くを見ているようにみえますが。
  それはそうと、最近の回では、ディードは伝統のあるロンドンの中央刑事裁判所で執務する
  ようになっていますが、古いだけに判事室も含め、狭いようですね。
  なお、イアンがICCにいると思ったなどと言っていましたので、戦争犯罪のときだけではなく、
  そうするとハイコートジャッジとの兼務なのでしょうか(念のため、ICCの裁判官の任期は
  9年です)。  

3 メインは司法支援の打ち切りを妥当と認めたニヴァン判事の決定の適法性ですが、
  全部を見直すというのではなく、ニヴァン判事に偏見、バイアスがあったかどうかです。
  その見直しを、ディードがすることになったのです。
  最近のディードはやや慎重になっていてジョーが代理人の裁判を回避したいようですが、
  引き受け手がなく、やむなく担当することにしたのです。
  ところで、高等法院には3つの部(Divisin)があり、通常は一人の裁判官が担当しますが、
  事件によってはDivisinal Courtと言って2人または3人で審理しなければならないものが
  あるようです。本件は、そういうものだったのですね(多分、いったんなされたDecisionの
  見直しReviewなので、日本の抗告のような感じかもしれません。ハイコートジャッジの判断
  に対する見直しなので、一人ではできないということだと思います。)。
  イギリスでは事件の担当はややいい加減に決まっているようなので、こういうこともあるのでしょう。
  だからこそ、ニヴァン判事が担当することになった経緯が問題とされたのです。
  ニヴァン判事は医学の勉強もしてたのですね。
  ニヴァン判事が医師や医薬品業界と近いことについては、チャーリーが大学性の時に
  マッキンゼー・フレンドとして、エイズの母親の代理をした件で、既にチャーリーが指摘していましたね。

  一人での審理は、当然無効になる可能性があるのですが、ディードは強行します。
  ジョン・チャニングは、いったん断ったものの、ディードに助け舟です。2人で審理することにした
  のです。イアンであれ、ディードであれごまかしには屈しないと言っていましたが、根っからのジャッジ
  なのでしょう。あるいは孫娘のチャーリーの頼みだったこともありそうです。
  しかし、もっと根本には、近年の政治や官僚の干渉に我慢がならなくなっていたのです。

  最初はニヴァンにバイアスがあったかどうかが審理の対象のはずでしたが、これは、審理を始める
  ためのディードの作戦だった可能性があります。
  本件について調査を進めるにつれ、見知らぬ女性に誘われたり、尾行されるなど身辺に不審な
  動きが見られるようになり、またチャーリーが家探しにあったり、専門家証人の自殺に見せかけた
  死など真相隠ぺいの工作などがあり、例の嗅覚で、何かがあること睨んでのことだったのです。

  また、法廷の使用も妨害されます。アスベストが口実です。ということは、イギリスでもアスベスト
  の被害が明らかになっていたのですね。おもしろいですね。
  いずれにしても、ここまで妨害があるということは、トップが深くかかわっているということです。

  ジョーが、内務省、健康省の事務次官と製薬会社のCEOの三者会談があったことを明らかに
  するや、すぐさま実体審理に入ることを宣言しましたが、これは最初からの計画かもしれないです。
  司法委員会の代理人のピーターが反対すると「ICCのやり方は違っている、その影響かもしれない」
  などと煙に巻いて一向だにせず、強引に進めます。

  司法委員会の担当者、内務省の事務次官、次局長、製薬会社のCEOと大物を次々を喚問して
  行くのは、気持ちいいですね。
  これはもう、ディードの独り舞台です。法廷侮辱罪に問われて、身柄拘束されるなど(ディードなら
  やるかもしれません)みっともないというわけで、みんな応じないわけにはいかないのです。
  司法委員会の担当者から内務省の関係者の名前をうまーく聞き出しましたね。挑発して証言させる
  ディードのテクニックは凄いですね。

  事務次官は民間緊急事態法の修正法案のことをつい喋ってしまいます。
  ディードが背後の動き、真相を知るきっかけになります。

  例によって、事件の関係者の協力を得て、HDDの不正操作を暴き、専門家証人の証言で、兵士
  たちに投与されたワクチンの有害性(1000人のうち2、3人)を、製薬会社も政府も最初から
  知っていたことが明らかになります。

4 結局、この修正案というのは、将来に向けてというよりは、むしろ、このワクチン事件について
  製薬会社に免責を与えることを目的とした動きだった可能性があります。
  修正案が成立する前に、ワクチンの有害性やそれを最初から知っていたことなどが明らかに
  なっては、修正案の目的が一般に知れてしまいます。当然、成立はあり得なくなります。
  そこで、この事件を葬ることにしたのです。
  司法支援をするしないは司法委員会が決めること、内務省や製薬会社は関係ない、それに
  法律が専門の司法委員会が勝訴の可能性がないと判断したのは、ワクチンが有害だと認め
  られなかったからだ、と主張できるわけで、これ以上に好都合なことはありません。

  これまで、ディードの暴走?を止めるために、イアンやニール、法務大臣たちが集まり、いろいろな
  方法を検討しています。スパイ係までいます。そして、ディードを陪審員にするとかICCに送り込む
  とか、想像もつかないような方法を取っています。ニールがいうように陪審員なんて本来、無作為
  のはずですが、そんなことはどうにでもなるというわけです。
  また、民間会社は事業に莫大な投資をしています。ですから、儲けの邪魔をするような者に対しては
  手段を選ばない、全く躊躇しないというわけです。

  善良な市民には想像もつかないような企みが常に行われているということです。

5 結局、審理の結果、ニヴァンが司法支援の中止の決定をしたのは、バイアスでないことはわかりました。
  ニヴァンの知らないところで不正操作がおこなわれ、勝訴の可能性がないとされたのです。
  しかも、勝訴の可能性がなくなったのは、専門家証人が死亡したからです(これは
  自殺ではなく、自殺に見せかけた殺しだったのです。ギャンブルをまったくしないにもかかわらず
  ギャンブルの借金で困っていたなどの偽の証拠を作っていたのです。警察を管轄する内務省なら
  簡単にできることです)
  そういう意味では、ニヴァンの決定は間違っていなかったわけです。
  しかし、さらなる審理の結果、勝訴の可能性がないどころか、政府も製薬会社も最初からワクチン
  の有害性を知っていたことがわかりました。だから不正操作をしたのです。
  訴訟をすると50%チャンスどころか勝訴の可能性が大きいのですから、チャニング卿は見直しを
  するよう命じたのです。

   なお、冒頭で題は「損害(あるいは有害)の証拠」の方がいいと書きましたが、今回の争点は
   「50%勝訴の可能性」なのです。訴訟を提起するための第一歩である司法支援を得ることができな
   ければ一歩も進みません。
   「50%勝訴の可能性」すなわち「損害(あるいは有害)の証拠」です。

   ディードは何度も専門家の証人がいなければ駄目だというのはそういうことなのです。
   ですから、相手も自殺に見せかけた殺人やHDDの書き換えなどの証拠隠滅をしているのです。

6 弁護士は本来、不正と戦う存在です。しかし、税金で賄われることで、その財源の
  分配元である政治や行政の支配下に組み込まれてしまったのです。
  前途洋洋、新進気鋭の弁護士生活をスタートさせていたはずのチャーリーが、仕事がないと
  愚痴っていました。
  いずれは、CPSに登録するかもと言っていました。また、新しい仕事は、どうやらそういうところ
  から来たようです。

  日本でも、法科大学院ができたものの司法試験には合格できず、また司法試験に合格したもの
  の卒業試験に失敗し(ただし多くは追試で救済)、ようやく弁護士になったものの仕事はなく
  イソ弁どころか軒弁でも良い方、法テラスや国選などの割り当てがほとんどなどとあまり明るく
  ない感じです。

  今回のドラマは法曹界の問題提起もあるように思います。

7 それにしてもハイコートジャジの権限は強大ですね。
  以前ディードは、不正との戦いについて、中にいて中から戦う、と発言していましたが、そのとおり
  ですね。ハイコートジャジの身分があるからこそできることです。
  窓際に追いやられそうなのですが、反骨精神と群を抜く優秀さと有能さで生き残っているのです。
  また、ディードの正義が人々の良心を覚醒させ、共感を呼ぶのです。そういう意味では、
  権力の外には健全な良識が残っているのです。

  ジョーは過激グループの仲間になったようですが、良識的な世界で正義を貫くことは難しいという
  ことなのでしょうか。

8 ディードは国際組織であるICCから何を学んだのでしょうか。
  今回のディードの法廷は、going my way だったようです。それがICCから学んだこと?
  その可能性もあります。
  というのは、ICCは国際的な組織です。こういう組織って、誰の監督を受けているのでしょうか。
  誰の利益のために働いているのでしょうか。国際社会というのは、国と違って、統一体ではあり
  ません。圧力団体などないのではないかと思います。
  ですから、力があれば、自由に動けるのではと思います。

9 ドラマというのは、回が重なるほど、複雑になってきます。
  複雑になればなるほど、カッコよく一刀両断的にはいかなくなります。
  ディードも悩みは深くなるばかりです。ジョージすら本来ならば内務大臣をパートナーに得て
  幸せなはずですが、そうでもなさそうです。
  人生も同じです。長く生きれば生きるほど問題がいっぱいです。盛りを過ぎて朽ちていくわけです。
  国も同じです。アメリカをみてもわかるように、アメリカ一強から普通のアメリカへ移行を始めた
  ようです。

  司法の世界がどうなるのか、私たちに大きな問題を投げかけて、ディードのドラマは終了を迎え
  ました。
  海の向こうのドラマの世界だけの問題ではありません。
  私たちの現実社会の問題でもあります。ディードのドラマを見たことで、気づいたり、
  考えさせられたりしたことがたくさんあります。
  そういう目で、私たちが生きている社会をもう一度見直してみたいと思います。

  約半年間でしたが、日本の現実の社会では、東日本大震災、原発事故の発生から一段落した
  時期です。何かが崩れてしまいました。
  新しい社会がどうあるべきか、まだまとまりませんが、このドラマから学んだことから何かヒント
  が得られるように感じています。

10 埋葬の場での弔辞?はイギリスの19世紀の詩人クリスティーナ・ロセッティの「Remeber」
  の最後の部分でした。
  全部の朗読(約1分)を見つけました。聞いてみてください。ここをどうぞ。
  
  こういうのも楽しみのひとつでした。

11 私のつたないコメントを楽しみにしていてくださった方がいらっしゃらなかったら、ここまで続けられ
   なかったと思います。
   ありがとうございました。
   これからも、ディードのことはときどき思い出すはずです。
   毎回言い足りないことがいっぱいでした。一度、場外で盛り上がってみたい気もします。

   では・・・・・
  


判事ディード 法の聖域 第23、24回 戦争犯罪

2011年08月22日 | 判事ディード 法の聖域

判事ディード 法の聖域第 23回は戦争犯罪(War CRIME)です。

イアンの所属が確認できました!!
裁判所の入り口の検査で身分証明書を提示していました。
DCAと言っていましたので、憲法事項省(Department of Constituional Affairs)でした。
前回のところで説明しておきましたが、もともとはLord Chancellor の部門でしたが、
機構改革で憲法事項省になっていたのです。
私の推測に間違いがなかったようです。ほっとしています。
なお、字幕は検察となっていましたが、例によって間違いです。

この8月3日の北部ロンドン、トテナムから始まった一連の暴動を連想しました。

長引くイラク戦争に対する嫌悪、またいろいろな事情がわかるにつれ、イラク戦争の合法性に
対する疑問も起こっていました。
民族や宗教の対立も激化してきていました。特にイスラム教の信者は、移民先の社会に
溶け込まず、宗教・習慣・服装など自らの文化をそのまま持ち込んでいました。
それに対する不安が、旧来の勢力とりわけ極右の政党に対する支持という形で表れてきました。
こういう政党は、扇動が得意ですので、ますます衝突が起こってしまいます。
2つの事件は、そういう当時の不安定な社会背景があり、また、ディードやチャニング卿に対する
脅迫(爆弾)も起こりえたのです。イスラムや極右政党は、過激で、手段を選ばず、
実力行動に出ることを躊躇ったりしないので、暴力が暴力を呼び、収拾がつかなく
なってしまうのです。
なお、公共秩序法(Public Order Act)は1986年、人種・宗教憎悪法(Racial and Religious
Hatred act)は2006年ですから、こういう特別立法を必要とするほど社会が混乱していたのです。

1 ディードは控訴審判事として、チャニングやモンティと、極右政党のBNP(British National Party)
 の幹部の事件を扱います。公共秩序法違反等の事件です。
  どうやら、単なる思想の発表か、扇動(agitate)になるかが争点のようです。
  法務長官の法廷での主張でも、言葉そのものからは、扇動とはいえないことは認めていました。
  ただ、その後に起こったことをみると、まさしく、扇動というものだということです。
  被告人側のジョーは単なる発言は表現の自由であり、犯罪にはならないというものです。

  3人の判事の評議では2:1で、ディードは一審の有罪を維持したいのです。
  被告人の国民党の幹部(顧問)は非常に巧妙なだけで、扇動の意図(intent)は明白だという
  考えです。他の2人は意図だけでは罰することができないという考えです。そういう条文に
  なっていないというわけです。
  2人の考えが法律的には正論と思います。しかし、実体としてはディードの考えが正しいとの思いが
  あるのです。だから、チャニング卿は「ジレンマ」だと言っているのです。

  最終的にはディードが説得されて、逆転無罪の判決言渡でした。
  ただ、理由が興味深かったです。一審で、陪審に対する説示が間違っていた(つまり、意図だけでは
  駄目だということを説明していなかった)ので、と理由を説明していました。
  多分、陪審員の有罪、無罪の評決について、控訴でどこまで争えるのか何らかの制限があるのだと
  思います。法律の解釈は判事の権限内です。陪審員の判断が間違ったのは、判事が適切な説示を
  しなかったからというわけです。だから、一審の有罪を破棄して無罪にするのだというわけです。
  チャニング卿はわざわざ条文を引用していました(これはドラマの視聴者に対するサービスもあると
  思います。特別法なので、必ずしもみんなに馴染みがあるとはいえません)

2 イギリスの控訴審判事は、超ベテラン揃いですね。ディードほどのベテランでも控訴審では末席なんです
  (法壇に向って右、裁判長の左、日本でも同じで、裁判長の右に座っている裁判官は右陪席といいます。
   左陪席はジュニアです)。日本では高裁でも右も左も若いです。特に左などは裁判官になって数年の
  場合もあります。誤判があって当たり前です。

3 被告人席、いわゆるドッグの前に柵がありました。お気づきになりましたか。横に護衛がついていました。
  こういう柵をみるのは初めてですが、いわゆるドッグが、ガラス張りの個室になっているのを見たことは
  何度もありました。
  今回の事件は暴動に関わっていたので、被告人を個室に閉じ込めることにしたのでしょうか。

4 チャニング卿、ディードにも爆弾脅迫がありました。イスラムからの脅迫ですね。
  BNPは反イスラムなんです。ですから無罪にするなという警告です。
  本論とは関係ありませんが、チャニング卿が「ギャリック・クラブ」とタクシー運転手に指示していました。
  「ギャリック・クラブ」だけで通用するところなんですね。歴史のある、紳士のクラブだとわかりました。

5 ジョーはもともと正義のために戦う弁護士でしたが、今度のBNPの事件の弁護には違和感があります。
  ジュニアバリスターのサイモンは今回初めての登場です。
  BNPは政党ですし、しかも、極右政党です。こういう政党の幹部の弁護というのは、政治色が極めて
  強いです。法廷活動も政治的目的で行われることが多いです。
  これまでのジョーは、強いものに立ち向かうときでも、普通の市民のためでした。明らかに質が違っています。
  ディードが、そういうことをしていては判事になれないよとアドバイスしているのは、
  やはり、ジョーの弁護活動が政治活動の中に取り込まれたからです。おそらくサイモンは
  そういう弁護士なのだと思います。
  日本でも、弱い者のためと言いながら、要は政党や政治活動の一環として弁護活動をしている人は
  多いです。私は、そういう人たちは好みませんが、マスコミ受けするので、いかにも正義と思って
  いる国民は多いです。ディードの正義はちょっと違います。私はディードの正義が好きです。

6 なぜ、ディードが国際刑事裁判所なのか、そもそも国際刑事裁判所の事件なのか?どうしてという感じです。
  なお、国際刑事裁判所(Internatinal Criminal Court)と国際司法裁判所(Internatinal Court  
  of Justice)とは、いずれもハーグに本部があり、間違いやすいですが、全く違います。
  ICCは個人の犯罪を扱いますが、ICJは国家間の法的紛争を扱うものです。
  裁判所の建物、超モダンです。ICJの方はクラシックです。一度見学したことがあります。

  ICCは国際的に非難を浴びたアフリカや旧共産圏の事件などの戦争指導者を裁くところと認識して
  いました。今回の被告人のprivate クラークなどは一兵卒に過ぎず、そういう小さな事件を
  扱う裁判所ではないと思っていました。

  また、ディードがアドホックな感じで、イギリス政府の代表として裁判官の一員となるというのも
  わかりません。

  ICCについては、知識がないので、そういうものだとの前提で、ここでは論じたいと思います。

7 BBCは、日本のNHKと同じような立場にある公共放送です。しかし、BBCは、しばしば政権批判
  の放送をしています。
  実際このような事件があったのかどうかわかりませんが、泥沼化するイラク戦に対する反対世論
  を受けて、出口戦略を検討していたことはあると思います。
  イギリス兵がイラク当局に身柄拘束されたこともあると思います。
  職務を果たした兵士が犠牲にされることもあったようです。遺族たちが声をあげたこともあったように
  思います。
  ブレアはブッシュに利用され、違法なイラク戦争に国民を駆り立てたという声が世論となりつつあった
  のです。

  ディードのドラマは、戦争の責任は政治家にある、現場で戦った戦士を犠牲にするのはおかしいの
  はないかということを、こういう形で主張したかったのだとおもいます。
  これが国民の声だったのでしょう。

  事実がどうかは別にして、このドラマだけに集中して、述べてみます。

8 民間人を11人も射殺したということで、イラクからクラークの引き渡しの要求があったのでしょう。
  ですが、なぜここまで政治的になったのかわかりませんでしたが、General(少将)の証言で初めて
  わかりました。アルジャジーラのテレビで、誰かが携帯で撮影したものが流れたということのようです。
  アルジャジーラは中東のマイナーなテレビ局でしたが、今年のアラブの春では大活躍でした。
  それで、イラク側が騒ぎ始め、イギリス政府としても世界中の人が目撃者となったわけですから
  無視できなかったのですね。

  しかし、イギリス側としては正当な戦闘行為ということだし、何よりも、イランに
  おいては公正な裁判など期待できないことはわかっています。
  ICCの女性検察官のマリー・マドセンもイラク大使のただ正義を求めるだけだという相談に対し、
  イラクでの裁判はリンチと見られる、ICCが一番ふさわしい(Sphisticated)と説得しています。
  本来であれば、イギリス側が特別な手続をする必要などないと思うのですが、
  おそらくイラクを宥めるためには何らかが必要だったか、あるいはICC側の動きでしょうか。
  最後の方でpretrialという言葉がでていました。準備に1年を要しているわけです。
  軍法会議(Marcial Court)の話も出ていましたが、おそらく、軍側としては有罪などの判決を
  出すわけにはいきません。また無罪の判決ではイラク側が納得しないでしょう。
  (これも最後の方でわかりますが、内部調査が行われ通常通り処理されています)
  そこで、一番簡単な方法として、クラークに意思能力がないということで、実体審理をせずに終わらせる
  こともありますが、これは事実に反するので、軍側としてすんなり応じるわけにはいかないし、
  なによりもクラークの名誉にかかわります(クレークは少将の証言によると有能で勇敢な若い兵士です)。
  いずれにしてもイラク側の非難をかわすのは難しいというわけです。
  今回は国防大臣(太り気味の人と思います)が頻繁に登場しますが、大臣としても矢面に立ちたくは
  ないというのが正直なところです。しかもイラク戦争では8000人の派遣兵のうち3000人が
  厳しい状況にため脱走しているというのです。軍の士気にもかかわるので軽率に動くわけには
  いかないのです。

  イラクはローマ規程には加入していないので、ICCの締約国ではありません。正式の要請があれば
  できるとブレヴァン・クロード裁判長は言っていましたので、多分、イギリス側と内々に話し合ったうえ
  なのだと思います。首相(当時はブレア)がそうしたい、といことがよく出てきていましたので、
  その筋が動いていたのでしょうか。
  最後のところで、背景が少しわかるようになっていますが、アメリカとの違いをだすためにもICCに
  任せたとありました。アメリカはICCの条約には署名したものの批准は否定していたということですが、
  ブッシュ政権になった2002年には署名すら撤回していたのです。
  首相としては、公正な第三機関であるICCの判断だといって、国内からの批判に対して逃げることが
  できます。イラク側には、クラークを擁護しないことを約束したのだと思います。ICCで裁判をすること
  については、両国間で取引が行われたのだと思います。

  ただ、イギリス政府の代表としてどうしてディードなのかわかりませんが、ディードが人の指示で動く
  人間でないことは、イアンだって、法務長官だって、何度も煮え湯を飲まされているのですから
  わかっているはずですが、人間の世界ってこういうものかもしれません。
  厄介事があれば、ディードだというような条件反射的考えなのでしょうか。

9 秘書のクープも一緒にホテル住まいで引っ越しです。
  でも、イギリスの判事の仕事も引き続きしているわけです。このあたりはわかりません。

10 裁判長のブレヴァンは裁判の実務経験が少ないので、自分の経験が生かせるとディードが言って
  いましたが、そのとおりのようですね。
   今回はディードはICCの裁判長や女性検察官から嫌がらせや妨害を受けます。特に女性検察官は
  野心家で、色仕掛けです。
   女性に弱いと評判のディードですが、彼女の罠にはかかりません。ディードは彼女のことを
  クープにforceful という表現をしていました。きっと、ディードはそういう女性は嫌いなのだと思います。
  何とか辞任させようとジョーとの関係を法廷で持ち出します。例によってディードは押しの
  強さで裁判長を封じ込めてしまいます。
   更に執拗に法廷外で裁判長に頼みこんでディードを排除しようとしますが、裁判長はディードを
  辞めさせるのは難しいという意見です。それでもと引き下がない彼女に、裁判長は、そのかわりに
  ジョーを辞めさせることに決めます。いつも立場の弱いものにしわ寄せです。
  イギリスでのパターンの再現です。
  ジョーが例によってディードに泣きつきます。どうやら、裁判長は撤回したようです。というのは
  その後の法廷にジョーが出ていましたから。
   そうすると、今度は、女性検察官はディードが誘惑したと嘘を言ってブレヴァン裁判長に再び
  泣きつきます(このあたりは、ストレートに出てきませんが、そういうことです)。
  実際は、ディードを誘惑しようとして失敗したのです。その腹いせもあったかもしれません。
  ディードがブレヴァンに、彼女について「less sex ,more law」でなければいけないというのは
  それを言っているのです。このクラスになると間接話法で話をするのです。
  彼女にはストレートにブレヴァンとの関係を非難しています。
  彼女がしばしばブレヴァンの部屋に出入りしているのです。
  ディードは最初に女性検察官のマリー・マドセンに「文化の違いだ」という言い方をしていましたが、
  フランスという国は、こういう感じなんでしょうか。
  IMFの元専務理事のストラス・カーンのニューヨーク・ホテルのメイドの事件を思い出しました。
  いすれにしても、ブレヴァン裁判長もマドセンとの関係を仄めかされて、諦めたようです。
  なお、イラク大使とも何かあったと思うのですが、いかがでしょうか。
  (イラク大使と彼女が手をつないでいる場面はそれを暗示しているのだと思います)

  裁判長も検察官もフランス人だと思います。起訴状を読み上げていた書記さんも含め、フランス語?
  なまりの英語だったと思うのです。

11 ディードが最初、クラークの意思能力を問題としていたのは、よくわかりませんが、多分、裁判官として
  疑問点はきちんとしておきたいという純粋な動機のように思います。
   いつものとおり、ディードは、審理に積極的に関与し、公正な手続きのよる公正な判決を目指して訴訟指揮
  をします。
   ブレヴァン裁判長も百戦錬磨のディードには太刀打ちできないということがわかったようですね。多分、
  公正な判事だということがわかったのでしょう。   

   ディードが真剣になったのは、イギリス政府の真意(クラークを犠牲にする)が明確になったからです。
   クラークの精神鑑定の書類が検察官から提出されたときにわかったのです。
   ジョーの異議に検察官は今日手に入ったと弁解します。
   1年前の予備審問(pretrial)のときに要求してあったのが、国防大臣の呼び出しがあった後になって
   初めて提出されたのがわかったときです。
   また、一方、裁判長や検察官はイギリス政府が悪い、政治家が悪いということで、政府を引きずり出そう
   としますが、これに対しては、ICCは個人を裁くところであるとして裁判長らを説得しています。

   国防大臣の代わりにだれか証人尋問する必要があるとの裁判長の指示にディードの提案で
   Generalを尋問することになりました。佐官(Field Officer)の経験もあり、実戦のことを良く知って
   いたのです。最初は、政府側の作戦に従った証言でしたが、クラークをスケープ・ゴートにするという
   作戦について、軍隊にはないという形で、政府の戦略だったことを暗に認めてしまいます。
   もともとはクラークの判断は正しいと思っているので、政治家の戦略にそのまま乗ってしまうことは
   できなかったのでしょう。軍人としての誇りを完全に捨てることはできなかったのです。

   そのほか、クラークが急に有罪答弁に変更した時にもディードがマーク軍曹の関与を暴きます。

   ディードの干渉はいつも真実発見につながっています。つまり真相を見つける嗅覚が鋭いのです。
   先のBNPの事件でも、もしディードが判事であったなら、行間に隠れている意図(Intent)を
   暴きだしていた可能性があるような気がします。

   今回のICCの裁判でもディードの本領は最大限発揮されたようです。
   これをみるとディードだからこそ、どこにいってもいつものディードでいられるのです。本当の実力とは
   こういうものなのだと思います。

   フランス人やもう一人の国籍はわかりませんが、イラクの戦争については、英米以外の国では
   批判が大きかったのでしょう。バズラを中心にイラクの混沌について、イギリスの責任を問いたい、
   クラークを罰することでイギリスを罰したい、そういう気持ちが強いことは明明白白です。
  

   結局、いつものとおり、政府の思惑には反し、しかし裁判の当事者に対しては正義が実現できました。
   裁判長が判決の言い渡しをディードに譲りますが、それはディードに敬意を表したのです。
   無罪に導いたのはほかでもないディードの功績ですから。
   クラークの戦闘序列、バズラの状況、ストレス(8000人のうち1500人が精神を病んだとありました)、
   常に対応の必要がある攻撃にさらされていることなどを考慮して、無罪にしたのは、尤もです。
   ICCは個人を裁くところであって、国家ではありません。しかし、もしディードがいなかったならば、
   クラークが有罪になっていたことは間違いがありません。
   裁判長も、もう一人の判事も、イラクの混沌にイギリスの責任があると確実に信じています。クラークが
   結果として11人(あるいは4人はテロだった?)の民間人を殺したことは事実です。
   そうするとクラークが一兵卒などという考えは吹っ飛ぶものなのです。一兵卒に過ぎないクラークが
   国を代表する人間になってしまうものです。
   裁判長、もう一人の判事は完全に興奮していました。
   なぜ、政府はクラークを守らないのだと憤っていました。そうすると、むしろクラークはかわいそうとなる
     なるはずですが、クラークしかいないので、国や政府が悪いのはお前のせいだというようになり、
   結局はクラークが極刑になるのが、オチなのです。   
   こういう人を説得するのは普通の人ではできません。ディードだからです。しかも、ディードが中にいるから 
   です。そして、ディードにはかなわないと思っているからなのです。

12 ICCの法廷はイギリスのとはかなり違っていましたね。
   照明が暗いように思いましたが、ああいうものでしょうか。
   もともと、ヨーロッパは、間接照明で、日本のように、部屋中を影がないように明々と照らすというのは
   ないのですが、それにしてもという感じです。
   法服の首周りの飾り(bandsといいます)が、イギリスにくらべ優雅な感じがしましたが、やはりフランス
   の影響でしょうか。

13 法廷も含め、ヨーロッパ大陸とイギリスでは、文化が大きく異なることがわかったように思います。
   ちょっぴり、旅行をした気分にもなりました。

14 イスラムとの文明の衝突、テロや戦争の脅威など、日本にいては平和ぼけでわからない、緊張感や
   危機感を共有することができました。
   バヴリ博士のことやテロリストによる脅迫については特に触れませんでしたが、
   こういう不穏な雰囲気の中で、自分を失わないということは稀有のことです。
   ICCという外国に場所を移して、だからこそ、イギリス全体の抱える問題点にズバリと切り込むことが
   できたのだと思います。

   最初はなんでハーグと違和感がありましたが、見ごたえのある良いドラマだったと思います。
   それと同時に国際的な場所での公正な裁判は本当は難しいのではないかという気もしました。
   法律と政治との関係について、女性検察官は「法律は政治家が作る、だから法律は政治にコントロール
   されるのは当たり前」という発言がありました。ある意味その通りです。
   だからこそ、政治は法律に対して抑制的でなければならないと思うのです。それがディードの立場だと
   思います。

15 福島原発事故についてすら、何も手を打たない政治というのは、世界では理解されないと思います。
   今、日本円が超円高になっています。
   本当に日本は異質です。円もドルもユーロも不安です。原発事故のあった日本は、本来なら一番不安
   だと思います。それが超円高になるのは、日本だけが円だけが異質だからです。
   今の円高は、経済の実態とは何の関係もありません。さしあたりの避難先です。
   考えようによってはクラークのような感じでしょうか。

16 こういう芯のあるドラマが公共放送であるBBCで作れるというのは、イギリスがまだ健全だということ
   でしょうか。

   イラクの戦闘の現実やそこに派遣された兵士たちの過酷な状況も、関係者の証言が控えめで
   あるだけに、如実にあぶり出され、戦争の悲惨さを改めて知ることができました。
   


判事ディード 法の聖域 第22話 沈黙の侵略

2011年08月19日 | 判事ディード 法の聖域

判事ディード 法の聖域 第22話は沈黙の侵略(原題 Silent Killer)です。

Silent Killerというのは、運動ニューロン病の原因と主張されたmicrowaves
やイラク未亡人の死亡の原因と主張されている劣化ウラン(depleted uranuim)
のことと見ることができます。

今回のテーマは地方公共団体(council)や政府(government)の責任です。

権力的活動による個人の損害に対する救済の問題で、いわゆる行政事件といわれるものです。

今回はいろいろな職名が出てきますので、整理しておきましょう。

Attorney General  法務長官(国、政府の最高法律顧問、検察部門の最高責任者)
   Solicitor General というのも出てきました。これはAttorney Generalとは違います。
   字幕ではAttorney Generalと混同していましたが。
   Deputy of the Attorney General  です。
   Solicitorといわれますが実際はbarrister から選任されています。
  なお、Attorney Generalについては、単にAttorney という表現が多かったようです。

 Lord Chief Justice  2005年憲法改正法(Constitutionl Reform Act 2005。2006年
   4月3日施行)によってイングランドとウェールズの司法組織のトップとなりました。それまではトップが
   Lord ChancellarでLord Chief Justice は2番目に高いランクでした。
   首席裁判官と訳されていますが、控訴院長官という感じです。
   控訴院(Court of Appeal)の刑事部の長です。判事の配置や仕事の割り当てなども仕事の一つです。
  なお、Chief と省略していることが多かったようです。字幕ではChief をAttorneyと混同
  していることが多かったようです。ハーグの国際戦犯法廷にディードを送ろうとするのはChief であって
  Attorneyではありません。Attorneyにはそのような権限はありません。
   モラグがイアンに会った後、欧州刑事法廷の件をディードに話していましたが、法務長官ではなく
   首席裁判官の方からの頼みです。Chief と言っています。ディードはどうしてChief が自分に直接聞
   かないのかという具合です。

 Lord Chancellar もともと、Lord Chancellarには3つの主な役割がありました。
   ・ 司法組織のトップとしての役割  (司法)
   ・ Lord Chancellar’s Depertment の大臣 (行政)
   ・ Speaker of the HOUSE of LORDS(上院の議長) (立法)
  すなわち、司法、行政、立法という三権全部のトップだったのです。
   したがって、権力の分立の原理に反すると考えられ、2005年の改正により、
   司法に関するものはLord Chief Justice に、 立法に関するものは 新設のLord Speaker 
   に委譲されたのです。
    そして、行政部のトップとしてのLord Chancellar’s Depertment の大臣の
   役割に集中することになったのです。Lord Chancellar’s Depertment は
   Depertment of Constitutional Affairs(2003年6月12日)となり、さらに
   Ministry of Justice(2007年5月9日)となり現在に至っています。
   裁判官の選任や裁判所の組織・運営などについての権限を有しています。
   イアンはこの部門の事務方トップではないかと思います。
   ですから、モラグのハイコートジャジの選任に便宜を図ったのではないかと推測されます。

Ministry of the Home Office 内務大臣 ニールです。
    内務省は移民や旅券、楽物取締、犯罪、テロ、警察などを管轄しています。  
    2007年のMinistry of Justice(司法省)設立のときに、内務省の権限の
    一部(刑務所など刑の執行に関するもの)をMinistry of Justiceに委譲しています。
    いずれにしても、警察、犯罪などを通してMinistry of Justiceや
    Lord Chief JusticeやAttorney General と密接な関係があるわけです。

Master of the Rolls 記録長官
    Lord Chief Justiceにつぐ2番目のポストです。  
    控訴院(Court of Appeal)の民事部の長です。

イギリスの裁判所組織については末尾に図を載せておきます。
2009年10月1日の改正前と改正後です。参考にしてください。日本のような画一的な制度ではありません。
きっと理解が深まると思います。
なお、19回から22回までは、2006年1月放送です。

それでは、今回、気づいたことを述べてみます。

1 ブリッジズの件(運動ニューロン病)で、モンティは、ディードに担当させたいのです(あるいは自分は
  やりたくない)。ディードはなんだかんだと口実をつけて断ろうとしていますが、そこはモンティ。
  ティム・リストフィールドの名前を出せば、ディードが食いついてきました。しかしディードもさすがです。
  イラク未亡人の件を押しつけます。(後でわかったことですが、本当はモラグに期待されていたのですね。)
  それはそうと、ティム・リストフィールドについては、バロン殺人にかかわったとして何らかの処分があったと
  思っていたのですが、どうなったのでしょうね。また、何らかの裏の手をつかったのでしょうか。
  モンティも含めてティム・リストフィールドとは関わりを持ちたくないようですね。
  いずれにしても、イアンたちは、ディードはずしを画策しています。

2 その一つが、ディードを外国に追っ払ってしまうことです。
  ハーグの国際戦犯法廷にディードを送り込むことです。ディードは早速ジョセフ・チャニング判事と
  話をして情報を収集してしています。
  ディードが生き残っているのは、こまめに準備をしているからと思います。なお、この場面で
  Chief を法務大臣と訳していますが、間違いです。どこかで首席判事と訳していいましたが
  だとすると、この場面でも首席判事と統一すべきでしょう。 

3 ブリッジズの民事手続きですが、モンティはディードにdirections hearing を頼んでいます。
  公聴会と字幕にありましたが、違うと思います。
  日本にはないのですが、裁判前の手続きのようで、今後の進行をどうするかについての審理の
  ようです。
  カウンシルの代理人のジョージは2004年の高裁判決を例に法律上の根拠がないと主張し、
  これに対して、ジョーは電波塔の種類が違う(テトラマスト)等の説明をします。
  どうやらディードは高裁の判決にしたがうつもりはないようです。ということで、
  結局、本審理(full hearing)をすることになり、しかも原告の病状の進行状況から期日を早く
  入れることにしたようです。
  日本でも事実上こういうことがないわけではありませんが、大抵は電話とか書面とかで書記官を
  とおして事務連絡のような形でするだけですが、イギリスでは口頭で法廷で審理をするという
  ことのようです。つまり法廷中心主義ということがわかります。
  いずれにしても、この事前手続きで、不要な裁判をふるいにかけ、実質審理をする事件数が大幅に
  減少したようです。

4 原告の取下の申請に対するディードの訴訟指揮ですが、この程度のことは、当然のように思います。
  低電磁波の影響ですが、ジョージの危険性の証拠はないとの発言に、ニールが安全性の証拠もない、だから
  心配だというのが、あるいは本当のところかもしれません。
  いつものブラムズ教授の証言ですが、どの程度有効だったか疑問です。
  最後の爆弾証言(中止の助言を無視した)はこれだけでは決定的ではありません。  
  原告側の証人の神経外科医のマンスリッジですが、完全に逃げています。
  本来なら、被告側の女性証人のように、明確に言い切らなければいけないのですが、
  それができていません。
  ジョージの証人尋問は上手いと思います。
  マンスリッジが「政府が安全性に関し、長期的な検証をしていない。なぜだろう。」と答えていますが、
  多分これは、安全性の検証を望んでいない、あるいはむしろ逆の結果になることを恐れ(知って)て
  ということもあり得ます。これに対して即座に「安全だったからでは」と質問しましたが、答えをしていませんね。
  マンスリッジは安全とは思っていないのですよね。それで、委員会の監査役だったことを持ち出し、
  きっちりと回答させています。
  ただ、ディードの事前手続きで控訴判決に対するコメント(フリーズドライではない)などの訴訟指揮から
  何をやってもむなしいという感じになると思います。
  そういうジョージの気持ちがよくわかりますね。

  さて、ジョーがブリッジズの取下げを翻意させようとするときに、strongest case と言って説得
  していますが、新しい判断が出るのは、理屈以前に何とかしなくてはいう気持ちになるものである
  ことが、一番重要なのです。
  つまり、結論は決まっている。あとは如何に理屈を考えるかというものでなければならないのです。

5 原告が勝つか被告が勝つかは、このケースの場合はどちらもありです。
  おそらく、保守的な判事の場合は被告の勝ちとするような気がします。証明がないという理由です。
  ディードの理由は、生物物理学協会のレポートを根拠に最小限のテストしかせず、それでも健康上の
  問題の可能性があるときに、それでも新しいテクノロジーを採用するのは刑事問題になるほど
  無責任だという考えです。
  内務省などの技術の進歩に犠牲がつきものというような、人命軽視の考えが許されないことは
  事実ですが、どこまで責任を認めるかは、難しい問題もあると思います。
  ただ、カウンシル側のやり方は分譲所有者に事前の説明もなく、屋上の使用権を譲渡
  するなど所有者・居住者に対する軽視ぶりや、居住用のビルの屋上に建設しなければ
  ならないという必要性も認められないなど、17・6メガヘルツは特に危険だということは
  立証されているようですので、これらを考慮すると、ディードの結論は、正義にかなうように
  思います。
  ディードが控訴されたら、審理する判事たちの家族がこういうところで眠れるかと聞いてみれば
  いいというのは、尤もな気がします。

6 イラク未亡人ケースはどうでしょう。
  イラク未亡人の場合は、ブリッジズがカウンシル(自治体)であるのに対し、国(国防省)が相手で
  ある点と劣化ウラニウム弾という軍事機密に関するもので、より政治性があるという点で異なって
  いますが、公権力による損害賠償という点では同じです。日本でいえば国家賠償法に関するものです。

  ただ、問題は、イラクで発生したものであること、直接の被害者も原告もイラク人であることなど
  インターナショナルなので、裁判権の問題が生じるということのようです。
  こういう複数国家が関わる事件の裁判管轄がどこになるかは、法律的に大変難しいのです。
  専門的にいうと「conflict of law」と言って、まだまだ法律的に整備されていない分野なのです。
  私も個人的にそういう事例を扱ったことがありますが、考え方の問題で何が正解(理論的に正しい)
  とは言えないのです。

  ジョセフ・チャニング判事は、南アフリカのアスベスト事件の判例を根拠に、イギリスで裁判できる
  可能性がある(現地では実質的正義が行われないというような場合)と考えているようです。
  「forum non conveniens」と言っていました。
  「forum non conveniens」というのはラテン語で「「forum not agreeing」という意味だそうです。
  「便宜でない法廷」という意味で、英米法における国際民事手続法の法理で、管轄を有する裁判所
  であっても、この法理を理由として、訴状が拒否される場合があるという意味だということです。
  そうすると、これもどうやらストレートではないようです。
  だから、ディードはチャーリーに詳しくリサーチするように頼んでいるのです。そして、チャーリーが
  ディードに「イギリスで訴訟を提起する権利を認めたことは事実だ」でも「使えるかしら」と報告して
  いるのは、ストレートではないからです。
  なお、私の経験では、ズバリそのものの判例でない場合は、裁判官はやはり斜めに構えるようで、
  結構しんどい法律論が続くものなんです。

  ただ、南アフリカは確かコモンウェルスの一員で、イギリスと特別な関係があり、法律的にも
  例外的に宗主国であるイギリスの裁判所に上訴できるなどの制度があったと思いますので
  この判例があるからと言って、安心というわけではありません。
  だから、チャニング判事のいうように、長い長い法律論争が続く可能性があるわけです。
  訴訟をイギリスで起こすとなると、すぐに直面する問題です。
  しかし、主張の足がかりになる判例が見つかったことは、前進に向けての一歩です。

  ところで、モンティは、ファイルを見て深刻な問題だと思ったようですが、直ちに裁判を起こすという
  やり方では、失敗する、その前に「judicial review」をすべきとディードにアドバイスします。

  この「judicial review」(司法審査)という手続きは日本にないので、どのように考えるか
  難しいですが、若干、調べたことをもとに、私なりに、分析してみました。

  モンティが言っているのは、国防省(MOD)は、どうやら通常の審問で、劣化ウラニウムの使用を
  否定したようです(字幕ではこのあたりのことがわかりませんが、拒否したということが大事なのです)。
  MODが否定しているのに、劣化ウラニウムの繰り返し使用が直接の原因で死亡したと主張しても
  どうしてそういうことが分かるというのだ、というわけです。だからまず「judicial review」をすべきと
  いうのです。
  それに対し、ディードは「1998年法の判例はあるのか」と聞いているわけです。イギリスでは
  いつも判例は?となるわけです。
  モンティは、ある、イギリスの占領時のイラクで身内が死亡した事件について、欧州人権条約の対象外
  だとしたケースがある、だから「judicial review」をすべきだというのです。
  ちょっとわかりにくいのですが、「judicial review」が認められる場合というのは2つで、一つは欧州人権条約
  に該当する場合、もう一つは1998年人権法に違反する場合などです。
  モンティのこういう説明の仕方を考えると、この事例もストレートではないのだと思います。しかし、
  欧州人権条約に該当しないというのに「judicial review」が認められているというのは
  1998年人権法違反と認めたからではないかと言っているのだと思います。
   「may that quite clear」というのはそうではないかと思うのです。
  なお、「judicial review」を求めるときに、この1998年人権法違反というのは、迷えば兎に角、人権法
  違反を主張しておけば、さしあたりはOKというような、非常に使い勝手のよい便利は主張なのだと
  思います。

  その後、ディードはモラグに「judicial review」を担当してはどうかと勧めています。そのとき、MODの劣化
  ウラニウム弾の使用に関する調査(public inquiry)の拒否について見直しをしてはどうかと言っています。
  なお、その前段階としてモラグに行政裁判所(administrative court)のジャッジになったことを
  確認しています。
  「judicial review」というのは、administrative courtの管轄なのです。このadministrative court
  で一定の要件に該当することが認められ、 「judicial review」をするとの判断を得て初めて可能なのです。
   「judicial review」をするかどうかは、法律の定める条件がありますが、かなり裁判官の裁量による
  部分も大きいようです。
  なお、先ほどからMODの拒否(refusal)があったと何度も説明しているのは、行政機関による何らかの
  処分(disition)があることが前提だからです。処分(disition)があるから見直しができるわけなのです。
  こういうものの考え方はある種日本でもあるのです。
  わかりやすくいうと拒否したことが違法かどうかを審理するのが「judicial review」というわけです。
  私も日本の行政事件は詳しいのですが、通常の事件とは違って、訴えの利益がないということで、実体審理に
  入る前に却下されることが多いのです。日本では、普通の裁判所で、普通の手続きで行いますが、
  イギリスでは、事前に、特別の「judicial review」という手続きをしなければならないということのようです。

  結局、モラグは「judicial review」を認める判断をしました。ただ勝負はこれからで、見直しをした結果
  やはりということもあるわけです。でもさしあたりは一歩前進ということです。

7 例によってディードの裁判を中止させようとする妨害の謀議が執拗に続いていますが、それぞれ
  の立場が微妙に違っていて足並みが必ずしもそろわないのが面白いです。
  リストフィールドは例によって汚い手段です。イアンたちは、ディードを陪審員にするとか、ハーグの
  法廷に異動させるなど、信じられないようなことを考えているようです。外務省に責任が押し付けられるから
  いいなどのイアンの発想はいかにも役人的です。

8 モラグが異例の抜擢をされたのはイアンがスパイの役割を期待してのようですが、なかなか思い通りに
  いかないようです。
  イアンが法務長官に信頼できる判事がいるからと自信を持って言っていますが、そうではないようです。
  イアンがモラグの法廷を荒々しく出たことについて、モラグが文句を言っています。
  イアンにしたら恩を仇で返されたという感じでしょうが、モラグにしていみれば、自分はハイコートジャッジ
  なんだからというわけです。
  選挙の時には、有権者に頭を下げて一票をお願いしますが、当選すれば、自分のしたい放題をする
  政治家、特に菅直人の姿がちらっと浮かびました。
  モラグをadministrative courtのジャジにしたもの、おそらくイアンでしょう。
  administrative courtのジャジはハイコートジャジの中から選任されるのですが、名誉あるポストの
  ようですね。
  モラグがモンティに「所詮、小娘(just girl)の私に」と言っているのはそういう感じでしょう。
  また、同時にモラグのカマトトぶり?はちょっと印象的でした。

9 モラグはイアンのプレッシャーにもかかわらず、「judicial review」を決めてしまいました。
  法務長官のいうように戦争中だからと言ってすべてが秘密というわけにはいかないというのは
  正論です。
  モラグは、結構、芯のある女性ですね。
  特に、その法廷で、フセイン夫人がテロ防止法違反で逮捕されたことがわかったときに、即座に今後の
  審理に影響がないとして、「judicial review」を決めたことは印象的でした。
  実際、審理が始まってしまえば、代理人がいるわけですから、本人の不在や身柄拘束は法律的には何ら
  影響がないはずのものです。

  こうして外国のドラマをみていて勉強になるのは、ものの考え方についてです。
  今の世の中、法律や規則だけでは、現実の事態に対応できません。そういう場合は自分の頭で考えなければ
  なりません。いまやグローバル化の時代です。そういう中では、どこででも通用する価値観とか考え方の
  基準が必要です。
  イギリスでは、ジャジはもとより一般人も発想は柔軟です。ドラマの具体的な事件をフォローしながら
  考えられるのは、本当の勉強になります。

10 前々回で気がかりを述べましたが、マークの異常ぶりが表面化してきましたね。
  2人の将来に暗雲が??

11 チャーリーは、フセイン夫人の突然の逮捕が内務省の差し金だと聞いて、ニールのところに抗議に
  出かけます。ディードそっくりですね。この父にしてこの子ありですね。

12 フセイン夫人の逮捕がアメリカの要請であることがわかりました。もちろん、互いに緊密な連携を取って
   のことでしょう。extradutionの要請ということでしたが、また飛躍しますが、アサンジのスエーデン検察
   からのextradition請求のことが頭をよぎりました。
   こういう政府間の政治的思惑によるやり取りは結構あるのだと思います。

13 日本では、本来の審理もそうですが、directions hearingや「judicial review」をするかどうかなど
  の事前的な審理は大抵、書面のやり取りです。本来の裁判の審理も証人尋問以外はすべて
  書面のやりとりです。これでは、裁判官が何を考えているかわかりません。
  ですから、日本の場合は、判決を見るまでは、裁判官が何をどのように考えているかを知ることは難しいので
  す。ですから、そんな風に考えているなら、きちんと証拠を出して説明できたのにと思うことがしばしば
  あるのです。ある意味、判決で不意打ちをくらうということです。
 
  こうして、民事についても何回かイギリスの裁判を見てきました。法廷の場で、書面ではなく、口頭で
  議論すべきと思いました。
  そうすることで、裁判官の考え方もわかるし、相手方の考えもわかり、その場で、問題点を深めることが
  できます。真実の発見がやりやすいです。
  日本では、裁判官は何も言いません。だから何を考えているのかわかりません。そして、疑問点を深める
  こともせず、どうだといわんばかりに問答無用の判決です。これって卑怯なやり方ではないかと思います。
  そして、公開の場で議論することで、実力もわかります。政治家のような現実を無視した議論ではありません。
  証拠に基づいて議論するのです。
  裁判のやり方を口頭主義に変えることで、政治の場も、個人生活の場も、もっと透明性のあるものになる
  のではと思います。

  実際のところ、日本の法律でも口頭弁論主義なのですが、時間がかかるということで、形骸化しているのです。
  刑事事件では裁判員制度の採用などで、調書主義ではなく、法廷での生のやりとりで判断するように
  なっています。
  民事事件についても、同じ流れになってほしいと思います。

今回は法律的に難しいものでしたが、それだけに、おもしろかったし、勉強になりました。

最後に、イギリスの裁判所組織図を示しておきます。

ますは、2009年前のものです。ということはこのドラマの時代のものです。
(ペンギンライバラリーのLAW 辞書から)

 

現在の裁判組織です。インターネットからの引用です。
Supreme Court は全く新しいものです。


判事ディード 法の聖域 21話 わが子よ

2011年08月12日 | 判事ディード 法の聖域

21話はわが子よ(原題はLost Youth)です。

今回は、ディードとジョーの愛憎劇部分?がかなりな部分を占めていました。
こういうことで取り乱した?ディードは、個人的には、あまり好きではありません。
秘書さんのクープも最近はうんざりとした様子がみえみえです。
男女の愛のもつれは、やっかいですが、
ディードには、内面はどうであれ、対外的にはもう少しクールであってほしいです。
(それじゃ、ディードらしくない??難しいですね。)

今回は、法廷での審理の流れについては、特記すべきことはありません。
今回のテーマはこどもの死に直面した親たちの思いでしょうか。

1 マクドナルドは、ディードの厳しい判決を受け、自殺してしまいました。

  携帯電話の窃盗については、実刑というガイドラインがあり、それに従って
  マクドナルドは施設送りになったのですが、
  事件の流れをみると、いつものディードなら、「社会内での更生」のように思い
  ますので、ジョーに対する腹いせの可能性もあるように思います。 

  ただ、実際のところどうかというと判断は難しいです。
  人が犯罪を犯すのは悪い人だからというわけではありません。
  むしろ「弱さ」であることが多いのです。いわゆる「いい人」は
  往々にして犯罪に巻き込まれ、自覚なしに犯罪を犯すものです。

  モンティが実弟の例を話していましたが、要は本人次第です。
  最終的には、マクドナルドのお母さんもそれがわかったようです。

  としても、子供を亡くした母親も悲しみ、つらさに変わりありません。
  ただ、現実を受け入れ、その悲しみ、つらさを乗り越えて、前に進む
  しかないのです。
  クープも一瞬の不注意でプールで息子を溺死させたという辛い過去が
  あったのですね。

  ただ、携帯電話を盗めば必ず実刑というガイドラインは、ばからしいと
  思います。
  携帯を持っているから金持ちの子だ、という検察側の主張は、日本では
  理解できない気がしますが、いずれにしろ、実刑にすべきという
  根拠は何なんでしょうね。

2 ディードのいいところは間違っていたと思うとそれを直ぐに正すことでしょう。
  ただ内務大臣のニール・ハウトンのディナー・パーティに酔っぱらって押しかけた
  のは、いかがなものかと思いますが・・。
  あるいは、そういうところが魅力なのでしょうか?

3 アイフォン君の蘇生をするかしないかについては、本当に気の重くなる
  ような決断が迫られています。
  日本では、こういう裁判はあまり見ませんが(死亡した後で、同意があるない
  で争うことがありますが)、英米ではよくあるのでしょうか、ドラマでは
  良く見ますね。

  ディードは、事実上の措置として、実際に病院にいって、アイフォン君の
  様子をみ、看護婦さんたちの意見をききます。
  ディードは現場主義です。現場に行くといろいろ見えてくるものです。
  手を握ったときの力強さに生きていることを感じたのかもしれませんね。

  心臓移植を拒んでいた子供の事件のときも、直接病院にいって話をしていましたね。

  ただ、命を止めるという決断はなかなかできないことのようです。
  ディードがクープに判例のことを話していました。
  あれはきっと、親にとって子供というのは、現実に生きている(肉体)から
  意味があるというわけではなく、死んでも、魂が、その精神が、親の心
  に生きている、それが重要なんだというようなことだったのだと思います。
  そうすると、必ずしも、苦しむのを無理に生かしておく必要はないということに
  なるのでしょう。

  アイフォン君の場合はミラクルが起こったようです。
  このようにミラクルが起こる可能性があるので、命を絶つことに手を貸したくない
  ということになるのだと思います。

4 内務大臣に反旗を翻らせるために、ディードやモンティが密談をしていますが、
  どうやら成功しそうということでした。

  これは、当時のイギリスの司法を巡る状況を知っていなければ理解が困難と
  思います。
  大法官府が三権の全部に関わるといういう巨大権力になっており、それを
  改善する必要がありましたが、どのような形にするかについては、それぞれの
  利害関係者間で綱引きがあったようです。ブレア政権下のことです。

  判事たちは政府が基準を決めることについて、決していい感じを持っていません。
  ディードが「好かれているというよりは、内務大臣が不人気なだけだ」とありますが、
  これも内務大臣個人なのか、そういうポストなのかはどちらともいえません。
  判事たちの反乱は、自らの自由が奪われることに対する反感です。
  自ら旗振りはしないとしても、ついては行くというわけです。

  結局、イアンのいうように、司法が機能不全に陥るというわけです。
  そういうことで、ニールも妥協せざるを得なかったというわけです。

  大法官府、憲法事項省、内務省の関係が落ち着くのは、もう少し後になって
  からです。このドラマのころは、司法そのものが不安定な時期だったのです。

5 ジョーの恋人のマークがイアンの手先ということでしたが(前回)、女性判事の
  モラグこそ、イアンのスパイだということが明らかになりました。 
  彼女は最年少のハイコートジャッジでしたし、またDameに叙せられることになった
  ようですが、この異例の抜擢はスパイとの引き換えだったわけです。
  ディードだけでなく、判事全体の動きを知るためなのでしょうか(そのようです)。
  その狙いは何なのでしょう。これから見えてくるのでしょうか。
  イアンの動きがもうひとつわかりません。

  モラグはディードに積極的に近づいていましたので、これからの展開が
  面白くなりそうです。でも、モグラはディードに魅かれているようなので、
  イアンを裏切るなどということも?
  ただ、モラグで気になったのは、彼女は「ヒューム夫人」と呼ばれていました。
  ヒュームといえば、第6回の「権力の乱用」で自殺したパープル判事がヒューム
  でした。関係あるのでしょうか?

6 チャーリーですが、仲間のバリスターにストーカー?されているということでした。
  ストーカーといってもどちらがより熱心かということだけだそうですが・・
  ソレルですが、以前にカントウエルから注意されたというのが彼でした。
  ですが、最近は、一人前のバリスターになったようで、検察側、弁護人として
  よく法廷に出るようになっています。

  なお、チャーリーは最近ではパンツスーツが多いようです。
  例の通達以降、女性たちもパンツをはくことが多くなったのでしょうか。
  なんたって海の向こうのアメリカではヒラリーのパンツスーツが有名になって
  いますものね。
  世界的な流れです。

7 この6日、ロンドンで暴動が発生し、それがマンチェスターやバーミンガムに広がり
  深刻な状態が続いています。
  原因については、まだはっきりしたことはいえませんが、貧困層の若者の存在、
  不良グループの存在などが指摘されており、特に犯罪行為の蔓延に対する
  社会の不安は大きいものがあるようです。
  判事も量刑にあたって、こういう社会の動きを無視できませんが、政治家である
  内務大臣などは有権者である世論の動向には神経質になります。

  判事ディードのドラマも、そういう社会背景の中で製作されたものだということを
  知っておくと、ドラマの理解がより一層深まるように思います。

8 このところモンティの個人的なことが少しづつわかってきています。
  イギリスは身分社会と言われていますが、それでも実力によって這いあっていける
  社会でもあり、あるいは落ちていく社会でもあることが垣間見られます。
  モンティの娘はプラマー(配管工)と結婚していることが前回わかりました。
  多分、配管工というのは労働者階級の典型的職業ではないかと思うのです。
  というのは、オバマの大統領選挙のときに、プラマーのジョーだったと思うのですが、
  一躍有名になったことがあるからです。

  また、ディードの養親はパンやさんでした。
  一方、ディードの前妻のジョージは父はジャッジであり、娘のチャーリーも
  バリスターであり、三代続いた法曹一家です。ジョーは今度は内務大臣と
  結婚しようとしています。

  ちょっと飛躍しますが、キャサリン王妃は中産階級出身です。
  貴族が存在し、叙勲制度がのこっているものの、努力が報われる社会、
  チャンスがある社会であることは事実のようです。
  一億総中産階級的な、みんな平等の日本とは違っているようです。

9 最後にディードはジョーとの関係で奇跡を誓いますので、これからも
  二人の縺れた関係はきっと続くのでしょうね。

私は、その国の社会を本当に知るためには、裁判を見るのが一番と考えています。
ディードのドラマをみるとその通りだと思います。

ますます楽しみです。