翌朝は早起きして宿のホテルくらまを出発、向かいのセブンイレブンで朝食のサンドイッチとコーヒーを購入して、徒歩で豊郷小学校へ向かいました。途中の阿自岐神社に立ち寄って境内や庭園を見学し、朝の清掃をしておられた社務所の方と少し話をして、庭園の中島の祠をのぞいたりしました。
鳥居近くのベンチで朝食を食べた後、近くにある「阿自岐の郷」と呼ばれる顕彰公園や安色西古墳を見ました。安色西古墳は前方後円墳の前方部が残ったような状態で、段丘状の輪郭が割合に保たれているのがちょっと珍しかったですが、これは方墳かもしれないなと考えたりしました。
それから、さらに歩いて阿自岐神社の南参道入口が置かれる四十九院の交差点で旧中山道に折れ、街道筋に断片的に残る中近世の景観の面影を見つつ、日本北限のスズムシバナの自生地と龍王石祠を見ました。龍王石祠がまつられる場所は、たいてい湧水地か古代の井戸のあった地であり、要するに水が豊富で湿地だったところが多いと聞きます。阿自岐神社の庭園もおおもとは湧水地であったらしいので、水にまつわる歴史がけっこう多いのだろうな、と感じました。
そういえば、近くの四十九院と通称される唯念寺は、天平時代の731年に行基によって創建されたと伝え、行基建立伝の49番目であることが通称の由来であるようです。
行基は、周知のように地域のインフラ整備事業を行って仏教を民間に広めた事で知られ、その寺院建立の実態は地域の開発事業の拠点設置でありました。行基の得意分野は治水対策、灌漑事業でありましたから、本来水に恵まれていたこの地には、開発の余地がふんだんにあったことでしょう。
なので、古代の東山道筋と古代安色郷の要である阿自岐神社の境内地がクロスする場所のすぐ南に唯念寺が位置するのも偶然ではなく、当時の集落地域がその辺りに存在したことの証左であろうと思います。阿自岐神社の参道が南に開かれるのも東山道筋に向けてのものであり、地域の中心的なムラが東山道筋にあったことの表れでしょう。
中世戦国期に四十九院が室町幕府の避難所になっていた歴史はよく知られていますが、唯念寺自体が城塞化して現在もその痕跡を地割と周囲の路地に残しており、その周辺の街道筋に中世集落の特徴の一つである短冊タイプの地割がいまも見られます。
要するに、このエリアが古代安色郷および中世の四十九院村と枝村の中心地であったわけです。市座や関所も置かれて商業の中心となり、四十九院が本願寺系に帰属して勢力を拡大し、それらの繁栄による街区と経済力が室町幕府の避難地としても注目されたということでしょう。
こうしてきちんと観察してゆくと、色々と歴史的に見どころがあるなあ、と思いつつ旧中山道筋を歩いていると、私の横に車が停まりました。Kさんでした。挨拶を交わして、そのまま豊郷小学校まで乗せていただきました。
9時に開いた酬徳記念館に入って、すぐに昨日の作業の続きにとりかかりました。一階の左棚のミニフィギュア群の追加展示および名札設置を進めました。
上図はバンダイのR-styleシリーズ5体です。独特の感覚でHTTを造形表現している典型例であり、アニメキャラクターの再現における思想がメーカー毎に異なることをよく示したミニフィギュアです。けいおんというアニメに対するメーカーごとの姿勢が様々に展開していたことが伺え、資料的価値も高いです。
単なるオモチャとしてみるだけでは、なかなかその価値に気付きませんが、他のシリーズも揃えて比較出来る状態を整えておくことで、見る側に発見の楽しみをさりげなく提供しておく。そういう細やかな配慮も、博物館展示にはごく普通のことでありますので、ここ酬徳記念館けいおんコーナーにも、色々と応用してみた次第です。
現在では入手が困難とされる一番くじきゅんキャラわーるど「映画けいおん」の10体シリーズのうちのロンドン地下鉄休憩バージョン5体も、Kさんの尽力によって見事に揃いました。このうち平沢唯と中野梓の2体は別バージョンがありますので、いずれその2体も追加する予定です。
ねんどろいどぷちシリーズには、アニメスタイル付録の1体として山中さわ子がありますが、これも今回追加展示が成りました。これでグッドスマイルカンパニーのねんどろいどぷちは全16体が揃いました。
従来、寄贈品の2体が半壊状態で物置に仕舞われていた、キャラアニのトイズワークスよんてんごシリーズの10体も全てが揃いました。軟質素材で壊れやすいため、中古品市場でも完形品をなかなか見かけませんが、それ以上に10体全部が揃うというのは稀です。資料的価値も高くなります。
一番くじシリーズの華とうたわれて人気も高い割には、市場在庫品がそんなに出回っていないパーティー時間シリーズのサンタコスには、別にローソンのクリスマスケーキ予約特典の限定品の平沢唯が存在しています。そのピンクの平沢唯も、御覧の通り左端に追加され、全6体が揃いました。
この日ようやく届いた品の一つが、バンプレストの「でふぉるまにあこれくしょんぽけっと」シリーズです。従来、寄贈品の4体しかありませんでしたが、残る4体も追加されて、2期全8体が揃いました。これも独特の表現スタイルで奇妙な存在感を示し、見る人によってはジワジワくるという噂です。
造形的にはディフォルメの限界のような感じで、一部の方々からはキワモノ扱いされているようですが、そういう品も揃えて展示しておくことで、けいおんミニフィギュアの全体像が客観的に捉えられるようになります。博物館的な陳列展示とマニアのコレクションとの境目は、「客観的に全体像を把握可能になっているか」です。
アオシマのモビップシリーズは、私がKさんにパッケージからの取り出し展開を提案していましたが、その通りに陳列していただきました。スペースが無かったため、下段に拡張して範囲をひろげたことで、ようやく展示スペースが確保出来、上図のようにパッケージを背景がわりにして4体全部が並びました。
その展示空間の上方に、私の提案で針金を曲げて通して、メガハウスのキューティーフィキュアマスコットシリーズ2期全18種を吊り下げ展示しました。この陳列設置はKさんにやっていただきましたが、針金のセッティングでかなり苦労したとのことです。
けいおんミニフィギュアの中で、最多のラインナップを誇るタカラトミーアーツのSRシリーズも、4セット全28体が勢揃いしました。従来は寄贈品の12体が半壊および台座紛失の状態で見るに耐えない状態でしたが、Kさんの精力的な修復と追加品確保の流れにより、見違えるようになって並びました。
ここに至って、100パーセントまであと5体という、堂々たる陳列展示が成立しました。展示キャパシティを8割と想定して設計した仕込み棚でしたが、最終的には残る2割を下段に追加することで当初の陳列計画をクリアしました。この整然とした並びによって、見やすく分かりやすくなりました。展示とは、このように誰でも見られるようにしなければ意味がないと思います。
上図は上段の右側です。
同じく上段の左側です。残る5体である、バンダイのちびボイスシリーズもちゃんと陳列スペースが確保されています。
同じく下段の左側です。もとは他アニメフィギュア等の展示スペースでしたが、それらをKさんが圧縮整理した結果、これだけのけいおん陳列スペースが出来ました。上段に入りきらない追加展示品を収容出来たため、ミニフィギュア群の展示は、前人未到の100パーセントを達成することになりました。
同じく下段の右側です。上に棚を追加してタカラトミーアーツのSRシリーズを全て並べたのが、展示改変の全てです。
以上の追加展示作業により、一階左側の棚は、国内唯一のけいおんミニフィギュア群全市販品の展示コーナーとして整備出来ました。ミニフィギュアファンはもとより、そうでない方も楽しめる展示になれば、と願う次第です。 (続く)