GOKIGENRADIO

バーボングラス片手のロックな毎日

64-ロクヨン-

2016-12-14 20:08:57 | MUSIC/TV/MOVIE
いつの間にか昭和って、すごく昔のことのように語られるようになってしまった。
昭和と言っても三丁目の夕日のような時代ばかりではない。あの頃は貧しかったがみんなが夢を持って明るかったなんて、過去を美化した幻想だ。砂埃と空き地のイメージしか持ってない。
昭和の後期はバブルが破綻する前で、クリスマスにはホテルが満杯になり、トレンディドラマの影響でおしゃれなbar(プールバーってのもあったな)でシャンパンやカクテルを飲む。DINKSって結婚しないカップルが出てきて、カウチポテトでレンタルビデオって楽しみ方もあった。
パソコンだってwindows'95が出るまでは一部のマニアックな人だけが使ってるもので、一般的にはせいぜいワープロ。もちろんSNSもグーグル検索もYahoo!も一般的ではなかった時代。

64-ロクヨン-はそんな昭和最後の年、たった7日間しかなかった昭和64年に起こった誘拐事件を題材にした映画。
原作は横山秀夫の『64(ロクヨン)』。
昭和64年1月に誘拐事件があり警察のミスもあり犯人を取り逃がす。誘拐された娘は殺され、マスコミは天皇崩御のためほとんどこの事件を報道しなかった。そして平成14年、この事件を模倣した誘拐事件が起きる。事件によりそれぞれ希望を失った者たちが、犯人を昭和へ引きずり戻す。
警察の隠蔽、所轄の意地、マスコミの対応、言論の自由と報道のあり方。かなり盛りだくさんのテーマを詰め込み、重たく暗く悲しいドラマですが、前後編一気に見て損はなし。

キャストも豪華。演技派のベテランから若手までずらりと並ぶ。
主演は佐藤浩市。椎名桔平 滝藤賢一 奥田瑛二 仲村トオル 吉岡秀隆 永瀬正敏 三浦友和
赤井英和 筒井道隆 瑛太 綾野 剛 緒形直人 窪田正孝 坂口健太郎 柄本 佑
主役クラスがゴロゴロ。だけどほとんど男ばかり。
女性陣は、夏川結衣 榮倉奈々 鶴田真由 烏丸せつこ。男社会だった当時の警察、いや社会を表してる。

事件は永瀬正敏の娘が誘拐されるところから始まる。身代金要求額は2000万円。犯人は金をスーツケースに入れ、永瀬に車で運ぶことを指示。喫茶店や美容室など様々な店の電話を次の指令の受け取り場所に指定して、警察の捜査班を翻弄する。ここらへんはちょっとダーティーハリーによく似ている。実際の事件でもかなり模倣されたみたいだ。これも今みたいに携帯電話やスマホが普及してなく公衆電話や固定電話の時代だからこその手口。
橋から身代金の入ったスーツケースを指示に従って川に投下するも、後日、被害者の少女は死体となって発見される。犯人は捕まらず回収されたスーツケースからも金は紛失していた。そして昭和天皇の崩御により、ほとんど報道されず迷宮入りとなったこの少女誘拐殺人事件は、県警内部で「64(ロクヨン)」と呼ばれることになった。

64事件が時効まであと1年となった平成14年、この誘拐事件の際刑事だった佐藤浩一は今では県警の広報管理官。報道の自由を盾に実名報道を要求する記者クラブに手を焼いている。この記者クラブの主幹が瑛太。憎たらしい役なんだが、後編ではジャーナリズムを発揮する。現在の報道のあり方にも一石を投じる内容だ。
自分のことしか頭にない、県警は腰掛けくらいにしか思ってないキャリア県警本部長を演じる滝藤賢一。これがまた憎たらしいんだ。1週間後に警察庁長官による、時効が1年後に迫った「ロクヨン」担当捜査員を激励するために視察に訪れるのを、自身のキャリアアップのことしか考えてない。
その時に長官は被害者の家を慰問予定してるから、永瀬の了解を取り付けろという命令が佐藤浩一に下される。事件以来10数年ぶりに訪れた永瀬正敏のふけこみ具合がハンパない。別人かと思った。

滝藤にせっつかれて、当時の捜査員に当たるとなぜか不自然な点が出てくる。実は当日、犯人からの脅迫電話の録音に失敗してた事実を県警上層部が隠蔽してた。つまり犯人の声は電話を受けた永瀬正敏しか聞いておらず、そのため犯人を絞り込めなかったと責められた録音担当員は、そのことを自責して引きこもりになっていた。彼と同僚だった吉岡秀隆は警察をやめ警備員をしている。当時の上司はちゃっかりどこかの警察署長に収まってる。刑事部長になった奥田瑛二は隠蔽を正当化している。刑事部を警視庁出向のキャリアが仕切る計画に反発してて、それに反対・抗議した佐藤浩一を本部キャリア椎名桔平は完全に舐めた口調で追い払う。捜査一課長の三浦友和は何かと佐藤浩一の味方になってやりたいが、組織化された警察機構ではなかなか思うようにいかないし立場もある。佐藤浩一の妻夏川結衣は元警官。彼女との間に娘がいるが現在家出失踪中。
そしてまるで14年前の事件を模倣したかのような誘拐事件が起こる。64事件を知る者の犯行と踏んだ県警は匿名報道にし、ほとんど情報を報道に降ろさない。下手をすれば64事件の闇が暴かれてしまうから。ますます対立する記者クラブとの関係。

とまぁドロドロ、ゴタゴタ、いろんなことが次々と出てくるので、理解するのも大変。時系列で並べて順番に見せてくれたらわかりやすいんだが、ちょっとだけ描かれて次の場面に移ってしまったりするから「あれ?これどういう意味だ?」とか「なんだこのシーンは?」って悩んでしまう。そしてその後謎解きとか説明のように再度描かれる。
小説を実写化したから仕方がないのか、それとも脚本がそうなのか。編集の段階でわざと複雑にしているのでは?って疑いたくなるくらい全容がなかなか見えないのはちょっといらつく。
それでも、特に後半(後編)は目が離せない。

若い世代が見たら違和感だらけかもしれない。
今では部屋の中でタバコを吸うとかできないんだけど、この当時は平気で吸えたからみんなプカプカ吸ってる。
公衆電話なんて使ったこともないだろうし、位置情報サービスやGPS機能がないことが理解できないだろう。
そんな置き忘れられた昭和を感じる長編映画。
見終わった後はかなり疲れますが、是非。