徳丸無明のブログ

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緩衝地帯としてのウクライナ――NATOとロシアの間に

2022-03-13 22:59:40 | 時事
国際情勢には詳しくないので、あまり具体的なことは言えないんですけど、現在のウクライナ情勢についてちょっとだけ考えたことを書きます。
戦争が始まる前、ロシアのミハイル・ガルージン駐日大使がテレビ(たしかNHK)のインタビューで、「ウクライナがNATOに加盟したら、NATO圏からモスクワまでの弾道ミサイル到着時間が5分程度になってしまう。それはロシアとしては受け入れられない」って答えてたんですよね。正確な言葉を覚えていないし、5分じゃなくて10分だったかもしれませんけど、とにかくウクライナがNATOに加盟すると、NATOの最前線がロシアの国境に隣接してしまうことになるから、国土防衛の観点から認められない、という意味の主張でした。
僕はそれを聞いて、この先ロシアとNATOが事を構えることなんかあるのか?理論的にはたしかに、ミサイルの到着時間が短くなれば危険性が高まるんだろうけど(到着時間が長ければ迎撃できるけど、短いと難しくなるから)、それはあくまで理論上の話であって、現実的ではないんじゃないか?って思ったんですね。
しかし、現実的ではない脅威も現実的にとらえるのが政治に携わる人々であるようで、ロシアのウクライナ侵攻は現実のものとなってしまいました。
ウクライナがNATOに加盟すると、モスクワの危機が高まる。だからNATO加盟は認められない。それは言い換えるならば、「ウクライナであればNATOのミサイルが落ちてもかまわない」ということです。これがロシアの本音。ウクライナを、NATOとの間の防御壁にしたい、ということです。同胞だの同じ民族だのと聞こえのいいことを言っていますが、自分たちの身を守るためにウクライナを都合よく利用したいだけなのですね。
そして残酷なようですが、逆もまた真なりで、NATO側にも同じことが言えるのです。NATOにとってウクライナは、ロシアとの間の防御壁になる。もちろんNATOは、「ウクライナは我々にとっての防御壁だ」などとは口が裂けても言わないでしょう。しかし冷徹に地政学を分析している当事者がいれば、当然そのような結論に達しているはずです。
現状NATOはウクライナの側に立ち、様々な支援を行っています。それは純粋にウクライナのことを思い、戦争の終結を目指して行われている面もあるでしょう。しかしそれのみならず、ウクライナを自分たちにとっての都合のよい防御壁とすべく自陣に引き寄せようとしている、という功利的・戦略的な側面もあるはずです。
つまりこの戦争は、ロシアとNATOのどちらがウクライナを安全保障上都合よく利用できる国に変えるか、という綱引きをしている戦争だとも言えるのです。ヨーロッパとロシアの間に挟まれる形となってしまった不運。この歴史的・地政学的不運が今、戦争という具体的な事象となってウクライナを襲っているのです。
NATO側に付こうがロシア側に付こうが、防御壁扱いされてしまうという点においては、選ぶところがないのです。防御壁としての依存度の強弱の差と、その見返りの多寡の差があるにせよ、想定される戦争においてまず攻撃を受け、ダメージを集中させるための前線として扱われてしまうことに変わりはない。それでもウクライナが「よりまし」な選択肢として主体的にNATO側を選び取るのであれば、その意志は尊重されてしかるべきではありますが。(念のため申し添えておきますと、国際政治というものは、つねに他国との利害のすり合わせによって「よりまし」な選択を強いられており、それら妥協と落としどころの蓄積によって国際情勢は成り立っているのであって、何も今回のウクライナばかりが不都合な2択を迫られているわけではありません)
この先戦況がどのように推移しようとも、NATOは軍事介入を行わないでしょう。軍事介入すれば、戦火がヨーロッパにまで及んでしまうかもしれないからです。NATOには、国土を損壊させてまでウクライナを守ろうという気概はない。自分たちの防御壁にしか過ぎないもののために、そこまでの犠牲を払うわけにはいかないからです。こちらはNATOの本音。
緩衝地帯としてのウクライナ。大国間に翻弄される国の、典型的なひとつの姿がここにあります。


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