リベラル保守の論客、保坂正康が、今回の衆院選の結果を分析し、日本人(日本国有権者のこと)の選択に憂いている。11月5日の朝日新聞のインタビュー記事『哲理なき現状維持』のことである。
私も彼の憂いに共感する。
彼は、今回の衆院選挙の結果を、つぎのように語る。
《 1つは国民は何にも増して現状維持を望んだということです。》
《 2つ目は、……総体的に保守勢力の追認という枠内にあり、護憲・戦後体制の崩壊、あるいは空洞化という結果になった。》
《 そして立法府の無力化が更に進むのではないか、という懸念が3つ目のです。》
《 つまり哲理なき現状維持です。》
辞書を引くと、「哲理」とは「人生・世界の本質にわたる深い道理。哲学上の道理」のことだそうだ。
私の担当している21歳の子どもの家は母子家庭であるが、自民党の総裁選をテレビでみていて、岸田文雄はなにもしそうもないから、首相に一番良いねとみんなで話していたという。
本当に、岸田は「なにもしない人」だろうか。
保坂はつぎのように指摘する。
《 しかし、岸田文雄首相は憲法に反する『敵基地攻撃能力』の保有について『あらゆる選択肢を検討する』と否定せず、自民党の公約で軍事費の大幅増を掲げました。・・・・・・専守防衛から敵地侵攻へ転じることは、まさに地続きの戦前への逆戻りです》
《 敵を想定しその敵地を侵攻するという狂気は、一度始めると際限がなくなるのです。》
今回の選挙公約で、自民党は、防衛費をこれまでのGNP比1%から2%以上にするとしている。また、相手領域内でミサイルを抑止する能力をもつとしている。これまでのタガを自民は はずした。
岸田文雄は安倍政権で外務大臣を4年を越えて務めた。そのあと、自民党の政調会長として安倍政権を支え、安倍晋三から政権を禅譲されると思っていたら、去年、菅義偉・二階俊博コンビに総裁の座を奪われた。今回、安倍・麻生・甘利コンビのもと、総裁の座を奪い返した、正真正銘の安倍路線の継承者である。
保坂は安倍の政治スタイルを「行政独裁」だと言う。
安倍晋三は首相の座を「立法の長」と言う。これは欧米民主主義の三権分立の伝統を破るもので、「立法府」は みんな等しく国民の代表であるから 平等である。首相が「立法の長」でなく、「議長」が国会の議論をしきり、「立法府」が法を制定していく。首相はあくまで行政府を指示・監視する「行政の長」である。
《 行政独裁に歯止めをかけるのは、政策を立案して行政にぶつける政党の役割です。自らの哲学をもって政府の基本姿勢を根本から問い続ける。》
《 国民が困っているなら、困らないようにする政策はこうだ、と議論すべきで、いくらばらまくよというのは政治ではないし、有権者を侮辱しているとしか思えません。》
選挙中の岸田は驚くほど多弁であった。何も考えていない、哲理がないから、平気で「新しい資本主義」と言えるのだ。一方、社会保障制度には何の言及もない。実体のない「賃上げ」をいうだけである。政府が企業に税制優遇すれば、賃上げが起きるというのは、子どもだましにすぎない。
岸田は、本当に、石川健治のいう『民主的「皇帝」』になりうるのか。それが喜劇で終わるのだろうか。保坂のいうように、それは、ほかの国からみれば喜劇でも、日本人にとって悲劇になるかもしれない。戦前の世界のように、ファシズム(熱狂)は、哲理なくとも、黙って忍び寄ることができるのだ。
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