悠山人の新古今

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高楼

2017-08-29 00:00:00 | literature

先日の記事「惜別の歌」の補遺。
01)「惜別の歌」の詩は、島崎藤村「若菜集」所収の「高楼(たかどの)」の一部である。
02)「若菜集」と、のちの自選詩集「若菜集」とでは、「高楼」に僅かな異同がある。
03)「高楼」は、すべて平仮名・歴史仮名で書かれている。
04)「惜別の歌」は、「高楼」の一部を使った、藤江英輔の作曲である。
05)藤江は、1941年の作曲当時、中央大学の工場動員学徒であった。
06)藤江は、旧知(小学校同級)の巌本真理から、ヴァイオリンを教わっていた。
07)猪間駿一は、1966年12月に、同時代同窓として藤江について講演した。
08)藤江は、2010年10月に、「惜別の歌」について講演した。
09)「高楼」は、藤村の愛した小諸城址(写真は電網から一部借用して加工)
と推測される。
10)以下、著作権等に留意して紹介する。

島崎藤村自選詩集(青空文庫による。ただし、平仮名詩を仮に悠山人が漢字交じり表記にした)

高 楼

別れゆく人を惜しむと今宵より
遠き夢路にわれ山訪はむ

妹 遠き別れに 堪へかねて
  この高楼に 登るかな
  悲しむなかれ わが姉よ
  旅の衣を ととのへよ

姉 別れと言へば 昔より
  この人の世の 常なるを
  流るる水を 眺むれば
  夢はづかしき 涙かな

妹 慕へる人の もとに行く
  君の上こそ 楽しけれ
  冬山越えて 君行かば
  何を光の わが身ぞや

姉 ああ花鳥の 色につけ
  音につけわれを 思へかし
  今日別れては いつかまた
  相見るまでの 命かも

妹 君がさやけき 目の色も
  君くれないの 唇も
  君がみどりの 黒髪も
  またいつか見む この別れ

姉 汝が優しき 慰めも
  汝が楽しき 歌声も
  汝が心の 琴の音も
  またいつ聴かむ この別れ

妹 君の行くべき 山川は
  落つる涙に 見え分かず
  袖の時雨の 冬の日に
  君に贈らむ 花もがな

姉 袖に覆へる 美しき
  汝が顔ばせを 上げよかし
  汝がくれなゐの 顔ばせに
  流るる涙 われは拭はむ


惜別の歌(中央大学HPの表記による)
作詞 島崎藤村/作曲 藤江英輔

一 遠き別れに耐えかねて
 この高楼に 登るかな
 悲しむなかれ わが友よ
 旅の衣を とゝのえよ  
 
二 別れといえば 昔より
 この人の世の 常なるを
 流るゝ水を ながむれば
 夢はずかしき 涙かな

三 君がさやけき 目のいろも
 君くれないの くちびるも
 君がみどりの 黒髪も
 またいつか見ん この別れ

四 君の行くべき やまかわは
 落つる涙に 見えわかず
 袖のしぐれの 冬の日に
 君に贈らん 花もがな