先日の記事「惜別の歌」の補遺。
01)「惜別の歌」の詩は、島崎藤村「若菜集」所収の「高楼(たかどの)」の一部である。
02)「若菜集」と、のちの自選詩集「若菜集」とでは、「高楼」に僅かな異同がある。
03)「高楼」は、すべて平仮名・歴史仮名で書かれている。
04)「惜別の歌」は、「高楼」の一部を使った、藤江英輔の作曲である。
05)藤江は、1941年の作曲当時、中央大学の工場動員学徒であった。
06)藤江は、旧知(小学校同級)の巌本真理から、ヴァイオリンを教わっていた。
07)猪間駿一は、1966年12月に、同時代同窓として藤江について講演した。
08)藤江は、2010年10月に、「惜別の歌」について講演した。
09)「高楼」は、藤村の愛した小諸城址(写真は電網から一部借用して加工)と推測される。
10)以下、著作権等に留意して紹介する。
島崎藤村自選詩集(青空文庫による。ただし、平仮名詩を仮に悠山人が漢字交じり表記にした)
高 楼
別れゆく人を惜しむと今宵より
遠き夢路にわれ山訪はむ
妹 遠き別れに 堪へかねて
この高楼に 登るかな
悲しむなかれ わが姉よ
旅の衣を ととのへよ
姉 別れと言へば 昔より
この人の世の 常なるを
流るる水を 眺むれば
夢はづかしき 涙かな
妹 慕へる人の もとに行く
君の上こそ 楽しけれ
冬山越えて 君行かば
何を光の わが身ぞや
姉 ああ花鳥の 色につけ
音につけわれを 思へかし
今日別れては いつかまた
相見るまでの 命かも
妹 君がさやけき 目の色も
君くれないの 唇も
君がみどりの 黒髪も
またいつか見む この別れ
姉 汝が優しき 慰めも
汝が楽しき 歌声も
汝が心の 琴の音も
またいつ聴かむ この別れ
妹 君の行くべき 山川は
落つる涙に 見え分かず
袖の時雨の 冬の日に
君に贈らむ 花もがな
姉 袖に覆へる 美しき
汝が顔ばせを 上げよかし
汝がくれなゐの 顔ばせに
流るる涙 われは拭はむ
惜別の歌(中央大学HPの表記による)
作詞 島崎藤村/作曲 藤江英輔
一 遠き別れに耐えかねて
この高楼に 登るかな
悲しむなかれ わが友よ
旅の衣を とゝのえよ
二 別れといえば 昔より
この人の世の 常なるを
流るゝ水を ながむれば
夢はずかしき 涙かな
三 君がさやけき 目のいろも
君くれないの くちびるも
君がみどりの 黒髪も
またいつか見ん この別れ
四 君の行くべき やまかわは
落つる涙に 見えわかず
袖のしぐれの 冬の日に
君に贈らん 花もがな