場末の雑文置き場

好きなことを、好きなときに、好き勝手に書いている自己満ブログ。

山本周五郎人情時代劇 第十一話「おもかげ抄」感想

2016年03月11日 | BSジャパン時代劇

いい話なんだけど、あんまり好みではなかったかもしれない。

なにが引っかかったんだろう。孫次郎と小房の年の差かなあ。一回りくらいはありそうだったよな。若くて綺麗なお嬢さんが、こんな年上のおっさんにあっさり惚れるってのがちょっとなあ。当時は今よりも年の差婚多かったんだろうし、こういうのも普通だったのかもしれないけど。

今回はすごく「普通の時代劇」っぽかった。「腕の立つ武士」という主人公の設定といい、危ないところを救ってくれた男に女が惚れる展開といい、幽霊妻の話を抜きにするとザ・王道って感じ。クオリティは高くなかったけど、チャンバラもしっかりあったし。
「チャンバラがなく、特に優秀なわけでもない普通の人が主人公の話」ってところがこのシリーズの魅力だと感じていた私としては、そこもイマイチに感じた一因なのかもしれない。

男が女をピンチから救い出して、女がその男に惚れるっていうの、フィクションでは非常によく見かけるパターンだけど、実際はどうなんだろう。
助けてくれたら感謝はするだろうけど、それと恋愛感情とはまた別の話だよな。よっぽど容姿が優れているとかでない限り、そこですぐ惚れるなんてことはないんじゃないかな。どういう人かもまだよくわからない状態なんだし。

というわけで、孫次郎と小房の恋愛の話は、私はあまり好きになれなかった。だけど、孫次郎の死んだ妻の亡霊が出てくるところは意外性があって良かった。いままでのこのシリーズの傾向からいって、まさか幽霊話をやるとは思わなかったから。
この亡霊の姿が、痩せていて表情に生気がなくて本当に死人みたいで良かった。小房は綺麗だけど、私はこっちの人のほうが好みだ。年齢的にも孫次郎と釣り合ってる感じだし。孫次郎に前向きに生きてもらうためにはそれが必要っていうのはもちろん分かるんだけど、この人が最終的にいなくなってしまうのはやっぱりちょっと残念。


山本周五郎人情時代劇 第十話「泥棒と若殿」感想

2016年02月11日 | BSジャパン時代劇

山本周五郎人情時代劇、いつも誰も実況してないのに今回に限って某巨大掲示板に実況スレが立っていて、しかも地上波並みに伸びていたので、何事かと思って驚いた。実況が盛り上がりそうな話だとは思ったけどまさかここまでとは。
ちょっと調べてみたら「優情」というタイトルで漫画化されていて、それがネット上で有名なんだと分かった。私は全然知らなかったけど。

今回のストーリーを一言で表すなら、おっさんとおっさんがイチャついてる話。導入部からちょっとギャグ要素が入っていて、すぐ引き込まれた。
突然現れた同居人が甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる、というところまでは第八話の「あだこ」と一緒。それが「あだこ」では可愛い女の子だったけど、こっちは小汚いおっさんだというのが大きな違い。

女性は一切登場せず、画面に映るのはひたすらおっさん、おっさん、おっさん。おまけに赤井英和があのビジュアルなので、絵面は相当暑苦しい。だがそこがいい。これ、伝九ポジションが女だったらすげえつまらん話になっていたと思うんだ。

伝九と信さんの二人が本当に仲良くて、もうこいつらデキてんじゃねえのかと思わせるようなやり取りがあってニヤニヤしてしまった。特にすごかったのが↓。

信さん「二人でどこかへ行くか」
伝九「お前さえいてくれたら、俺はどこでどんな苦労でもするぜ」

すごい……。その台詞は決定的だよ伝九。そんなに信さんのことが好きだったのか。

最後は、やっぱり二人は別れることになる。信さんはやっぱり運命には逆らえなかった。二人の仲の良さが微笑ましかったので、ずっとこのままでいて欲しかったとは思う。でも、原作も漫画も全く知らない私でもこうなるのは分かってたし、これは仕方ない。
切ないけど前向きで、いいエンディングだったと思う。ああいう経験をした信さんなら、きっと庶民のことを考えてくれるいい殿様になれる、はず。


山本周五郎人情時代劇 第九話「しじみ河岸」感想

2016年02月04日 | BSジャパン時代劇

今回はいつもと趣向が全然違ってミステリー物。主人公が探りを入れようとすると命の危険に晒されたり、緊迫感が漂う展開。

前回、前々回あたりと比べると、ちょっと暗い話かもしれない。お絹のいた長屋の雰囲気がジメジメしててね。みんなある種の諦めの念を抱いていて。差配人曰く、「貧乏人が何を言っても世間に通用しないことを身にしみて知っている」らしい。
だからお絹も、恋人の死を悲しんでも、殺した男に怒りを向けない。「怒り」は生きるエネルギーにもなりうるけど、完全に気力を失っている人間にはそういう感情もなくなるのかもしれない。

単なるノスタルジーじゃなくて、社会の理不尽さも描いているんだね。そう言えば、第六話の主人公・塚次にも第七話の主人公・お民にも壮絶な過去があったし、第五話には病気の母親のために身売りをした女も出てきた。割と一貫して、苦しんでる庶民の姿が描かれいたんだ。それが話のメインになることはなかったけど。

最終的に無実の女の命は助かり、真犯人も捕まるが、それでめでたしめでたし、とはならない。やっと真相がつかめた、と思ったときにお絹が初めて語った本音が悲しい。
お絹は働き詰めで疲れ果てて、生きる気力を失っていた。牢獄での束の間の休息と、そしてやがて訪れる死すらも「救い」と感じていた。もとの生活に戻ることは死ぬより辛いことだった。
ブラック企業で働いて、疲弊して自殺する人もこういう心境なんだろうな。主人公の奔走はお絹にしてみれば「余計なこと」だったということだ。

お絹を救うつもりだったが、却って苦しめる結果になったんじゃないかと悩んでいる主人公に「お前は正しいことをしたのだ」って言って励ましたのが嫌味な同僚、高木新左衛門だったってところが面白い。根は悪い人じゃなかったんだね。
この人、いい味出してたな。ネチネチ演技が面白かった。


山本周五郎人情時代劇 第六話「こんち午の日」感想

2016年01月31日 | BSジャパン時代劇

山本周五郎のシリーズを第八話まで見てきたけど、この第六話が一番好きだ。特に主人公は断トツで好き。ものすごくいまさらだけど、ついこの間二回目を見たので感想をば。

地味な普通の人が主役ってところがすごく私好みだった。強くもなく、働き者ではあるけど特別仕事ができるというわけでも(多分)なく、男前ですらない。多分普通の時代劇なら、腕っ節の強い主人公に助けられるゲストキャラにしかならないタイプ。

豆腐作りの過程を割と丁寧に描いているところも、絵面の地味さに拍車を掛けていていい感じ。塚次の腕が上がってきたことを表すのにお犬様を使っているのが面白い演出だと思った。最初は見向きもしてくれなかったのが、一年経ったら喜んで食べてくれるようになっていたりして。
 
塚次のこういう普通さ、素朴さに親近感がわくし、応援したくなる。でも、この人は腕っ節は強くないけど芯はとても強いんだよね。大切なものを守るのに一生懸命な姿がいいんだ。これまでの主人公の中で一番真っ当でいい人だと思う。真面目で働き者で優しくて。
「まだおすぎさんのこと忘れられないの?」って訊かれたときの答えにもジーンときた。豆腐屋の夫婦のことをあんなに心配してたのか、なんていい人なんだ、って。あれは惚れる。

とてもいい人なのに、妻にはグズ次なんて呼ばれて馬鹿にされまくった挙句結婚二日目で逃げられるわ、やくざに殴られるわでろくな目に遭わない塚次。この人に幸せになってほしい、報われてほしいと心底思いながら見ていたので、ラストの幸せそうな笑顔を見たときはホッとした。おとっつぁんが死んじゃったことだけが残念。

豆腐屋の夫婦(特におとっつぁん)との血の繋がらない親子の絆やおすぎの悪女っぷりも良かった。
おすぎ役の大西礼芳は大人しめな役でしか見たことなかったから、今回の悪役ぶりには驚いた。二回目の視聴ではおすぎに注目して見てみたけど、面白い。塚次を相手にしているときと長二郎を相手にしているときで声色が全然違っていたり、長二郎が父親に刃物を突きつけたときちょっと動揺していたり。岡っ引きに連れ去られるとき、一瞬だけ無言で振り返るんだけど、その表情もいい。
悪役だけど、自分の意思とは関係なく好きでもない男と結婚させられたことについてだけは気の毒に思う。当時はよくあったことなんだろうけどね。
そして、一つだけいいこともしたかな。おすぎが止めてくれたおかげで塚次は人殺しにならずに済んだ。そのせいで大ピンチになったけど、ちょうどいいタイミングで助けが入ったので結果オーライ。

本筋と全く関係ないのに妙に気になってしまったのが、おすぎと一度は恋仲になったことがあるという女形? の役者。そこそこ台詞もあったし存在感もあったのに、番組HPの出演者一覧にも載っていなかった。
有名人みたいで、塚次と話してるときに周りの女性たちがメッチャ見ていて、塚次から離れたらみんなに追いかけられたりしてたな。こういう人気者と恋仲になるってことは、おすぎってかなりモテる女なのかもしれない。
女性の格好で女性のような喋り方だけどヘテロセクシャルなんだな、いやそれともバイセクシャルなのかな、とか、おすぎって長二郎のような男くさいタイプだけじゃなくてこういう人も守備範囲内なんだ、とかつまらんことをいろいろ考えてしまった。この二人がどういう経緯で恋仲になったのかって話、すごく見てみたい。


山本周五郎人情時代劇 第八話「あだこ」感想

2016年01月14日 | BSジャパン時代劇

前回と同じく悪役もいなくて誰も死なない、明るい話だった。女性受けよりは男性受けが良さそうな感じの、男の夢ファンタジー。
無気力ニートのもとに、ある日突然若い女の奉公人が来て、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれて、顔をわざと汚しているけど洗ったら美人でした、なんてね。まるで今時のラノベのようじゃないか。

こう言っちゃなんだが、あだこって要するに「都合のいい女」なんだよな。あだこだけじゃないか。友人たちもそうだな。主人公の周りにいる人たちみんながいい人で、親身になって主人公を助けてくれる。接待してくれる。主人公自身は……特になんもしてないね。

主人公の周りはいい人ばっかり。でもあだこは周囲の人に恵まれず、ずっと苦労してきたんだよね。母親からも守ってもらえず。
夢物語みたいな話なのに、あだこの回想部分だけは妙に生々しくて現実的だった。当時、弱い立場の女性に狼藉を働くクズ、実際多かったんだろうな。

ラスト、結局二人は恋愛関係になるっていう解釈であってるのか? 素直に見るとそうなるよね。
ただ、恋愛話にするには、主人公に魅力がなさすぎる気がしないこともない。主人公があだこに惚れる要素は沢山あるけど、あだこが主人公に惚れる要素が全く思いつかん。事情があるとはいえ、ただの怠け者だしな。乱暴なことをしなかったのは他の奴らより幾分マシかもしらんが、それって本来当たり前のことだし。

こんなこと書いてると批判してるみたいだけど、好きなんだよこの話。爽やかなハッピーエンドで良かったし。
筋だけ書くとすんごい陳腐な感じになるんだけど、見てる最中はそんなこと気にならなかった。後で冷静になって考えてみるとラノベだなと思うだけで。

見せ方がうまいのかな。時代劇というクッションもいい方向に働いていて、都合の良さへの違和感をかなり緩和してくれていた気がする。
主人公がお米屋さんに説教されるシーンなんかは本当に素晴らしかった。お米屋さん、出番は少ないながら、あの一シーンだけでものすごいインパクトを残してくれた。