私は「忠臣蔵」の物語があまり好きではない。はっきり言ってしまうと、嫌いだ。いつも、このストーリーには強烈な違和感をおぼえる。赤穂浪士たちの、あの集団ヒステリーみたいな感じが気持ち悪くて。こんな話が大勢の人に支持されているのが、不思議で仕方ない。
忠義ってものを美しいと思えないからかな。「伽羅先代萩」の正岡も苦手。そんなものより、自分や家族の命を大事にしろよって思ってしまう。
浅野は本当に短気でアホなどうしようもない殿様だ。仮に吉良からひどいいじめを受けていたとしても、行動が軽はずみすぎる。立場上、そんなことをしたらどういう結果になるかくらいわかるだろうに。浅野一人が罰を受けるのならそれでもいいが、奴のせいで大勢の藩士が路頭に迷ったわけで。
赤穂浪士たちがこのバカ殿の無念を晴らすために立ち上がることに、ちっとも感動できない。「君君たらずとも臣臣たらざる可からず」と言いたいのかな、と冷めた目で見てしまう。
同調圧力の強さも、私が「気持ち悪い」と感じる要因のひとつかな。「討ち入りになんて参加したくねえよ」と言わせない雰囲気がある。参加しなかった人間を、フィクションの中で悪者として描いていたりするし。いつか見たドラマでも、堀部安兵衛?だかが、参加を渋る連中を斬り捨てようとしていて、うげえと思った。
浅野のカミさん、瑤泉院が大石内蔵助に「なんで敵を討ってくれないの」って責めるシーンがあるけど、私はあれを見るたびにイラっとくる。いや、あんたの旦那のせいで家臣たち全員路頭に迷ってるんですよ。むしろ「迷惑かけてすみませんでした」ってなるのが筋でしょうに。
しかも敵討ちとなれば命がけだ。自分は安全なところにいながら、他人に命を捨てさせようとする。昔のお偉いさんだから当たり前のことなんだろうけど、やっぱり傲慢だと思う。
あとこれ、吉良側から見たら完全な逆恨みだ。「喧嘩両成敗」って言うけど、吉良は一方的に斬りかかられただけだし。浅野をいじめたという話も、創作ではないかと言われているし。あまりにも理不尽に思えて、学生時代は、「吉良上野介を弁護する」とか「吉良の言い分」なんかを必死に読んでたな。
討ち入りのやり方だって結構アレだ。深夜の、みんなが寝ている時間を見計らって、一方的に攻めてきて。卑怯だと思う。みんな寝ぼけてるんだから、そりゃ勝てますわ。しかも12、3歳の、丸腰の子供が必死に逃げているところを惨殺したりもしている。鬼だ。
吉良上野介の養子、義周もまた可哀相で。あの事件のあと、ずっと死ぬまで監禁されていて。二十歳かそこらで亡くなるんだったかな。浅野のバカ殿の百倍は可哀想だ。というか浅野は自業自得だ。