リポーターは次のようなことを大統領に尋ねた。
「大統領閣下、食料不足のために国じゅうで多くの人々が飢え死にしつつあります。この状況にどう対処なさるおつもりですか?」
「餓死したものはまだ一人もいない」と大統領は答えた。
ニュースが終わると、父さんは首を振って、顔をそむけた。
「どうしてあんなことが言えるの、父さん?」とぼくは尋ねた。
「世の中には眼の見えない人もいる」と父さんは言った。「だけど、この人は見ないことを選んだのさ」
その日の午後、世の中とはどういうものなのか、突然、ぼくにもはっきりと見えた気がした。
どうして飢餓が起こることになったのかまではわからなかったけれど、これだけははっきりしていた。
人は誰でも自分のために生きている。
自分のことは自分でしなければならないということだ。