ささやかな幸せ

SUPER EIGHT、本、美術鑑賞、俳句、お茶が好き!
毎日小さな幸せを見つけて暮らしたい。

『この女』『じっと手をみる』

2019-05-05 17:33:09 | 
『この女』 森絵都 筑摩書房
 釜ヶ崎のドヤ街に暮らす僕に、奇妙な依頼が舞いこんだ。金持ちの奥さんの話を小説に書けば、三百万円もらえるというのだ。ところが彼女は勝手気侭で、身の上話もデタラメばかり…。彼女はなぜ、過去を語らないのか。そもそもなぜ、こんな仕事を頼んでくるのか。渦巻く謎に揉まれながら、僕は少しずつ彼女の真実を知ってゆく。
 阪神淡路大震災の起こった1995年1月17日へと話は進む。その後、オウム真理教の強制捜査があったことを私たちは知っている。過去を知っているからこそ、カウントダウンのようにその日へ向っていくドキドキ感が半端ない。ラストは「えっ?」と思うが、読み終わって、もう一度最初に戻って読むべし。しみじみと「大輔くん、よかった」「きっとどこかで二人は生きている」と思うはず。
 結子のたくましさには舌を巻く。しかし、それで礼司も救われていく。幸せを「生きるだけで必死の人間には無用の長物やと見なしてきた」「望んだこともなかった」という礼司くん、幸せになってええねんで。
 私自身は、あいりん地区に住む松ちゃんが好き。「社会から弾かれやすい性分の人間は、どんだけ必死で地に足をつけて歩いとったって、あかん風が吹いたら一息で飛ばされてしまうんや」「人間、弱みがあったかて、強いところを伸ばせばなんとかやってける」と言うこともいいけれども、やっていることもスゴイのだ。
 ただ、入れ子の小説部分と現実の部分が混ざり合っているので、私は読みにくかった。
 北野、六甲道、六甲山の天覧台と神戸の知っているところが出てくるので、リアルに場面を思い浮かべることができた。

『じっと手をみる』 窪美澄 幻冬舎
 富士山を望む町で介護士として働く日奈と海斗。老人の世話をし、ショッピングモールだけが息抜きの日奈の生活に、ある時、東京に住む宮澤が庭の草を刈りに、通ってくるようになる。生まれ育った町以外に思いを馳せるようになる日奈。一方、海斗は、日奈への思いを断ち切れぬまま、同僚と関係を深め、家族を支えるためにこの町に縛りつけられるが……。
 表題を見て、石川啄木の短歌「はたらけどはたらけど猶わが生活楽にならざりぢっと手を見る」を連想する。短歌から介護に携わる人の安い賃金、介護する人・介護される人の手を見ることからその人の人生を思い浮かべる。題名のつけ方が上手いなと思う。
 感想を一言でいうと閉塞感。地方都市のやるせなさを感じる。
 がんばっている日奈と海斗には幸せになってほしい。
 
コメント
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