ささやかな幸せ

SUPER EIGHT、本、美術鑑賞、俳句、お茶が好き!
毎日小さな幸せを見つけて暮らしたい。

『黒い海』『内角のわたし』『成瀬は天下をとりにいく』

2023-12-12 13:11:54 | 
『黒い海 船は突然、深海へ消えた』 伊澤理江 講談社
 2008年、太平洋上で碇泊中の中型漁船が突如として沈没、17名もの犠牲者を出した。波は高かったものの、さほど荒れていたわけでもない。周辺には僚船が複数いたにもかかわらず、この船――第58寿和丸――だけが転覆し、沈んだのだった。なぜ、沈みようがない状況下で悲劇は起こったのか。この海難事故を調査した運輸安全委員は乗組員の過失と高波が合わさり転覆に至ったと結論付ける。だが、その報告書に記載された内容は生存者や救助に向かった僚船の乗組員の証言とことごとく食い違いをみせるものだった。ふとしたことから、この忘れ去られた事件について知った、一人のジャーナリストが、ゆっくり時間をかけて調べていくうちに、「点」と「点」が、少しずつつながっていく。そして、事件の全体像が少しずつ明らかになっていく。
 一気読み。読み応えがあった。いろんな人に勧めたい一冊。
 著者が調べていく過程は、圧巻。漁業関係者と客船の乗員の命に格差をつける人たちに食いつく著者の姿がすばらしい。そして、潜水艦の当て逃げではないかという推論にたどりつく。こんなことがあったなんて。しかも、潜水艦浮上時の船の衝突が結構あることに驚かされた。
 調査報告書はなぜ、生存者の声を無視した形で公表されたのか。国民の命をないがしろにして、誰に忖度して、真実を隠そうとしているのか?国民を守らない日本という国に怒りを隠せない。
 

『内角のわたし』 伊藤朱里 双葉社
 若くて可愛い女の子、いつまでそう扱われるの? 愛され守られたい、自立し強くありたい、無関心で平穏に過ごしたい――3つの本心に引き裂かれながら、社会が望む女性像に擬態して生きる森。その異質な気配に気づいた職場の同僚に声をかけられるが……。
 脳内にいる三人の人格が会議しつつ森は暮らしている。その設定に始めは戸惑ったが、こういうことってあるよなと思う。
 女性の生きづらさがひしひしと伝わった。
 新人くんの「加害者には自覚がない」というのは、共感。おじさんは、無知な女の子に教えてやっているのだから。そして、女の子が反撃したら、姑息な方法で叩きつぶすのだ。やれやれだ。

『成瀬は天下を取りにいく』 宮島未奈 新潮社
 2020年、中2の夏休みの始まりに、幼馴染の成瀬がまた変なことを言い出した。コロナ禍に閉店を控える西武大津店に毎日通い、中継に映るというのだが……。M-1に挑戦したかと思えば、自身の髪で長期実験に取り組む。今日も全力で我が道を突き進む成瀬あかりから、きっと誰もが目を離せない。
 周りの空気を読んで、忖度して、目立たないように同調して。そんな生活を送っている身にしては、群れない、媚びない、驕らない成瀬は、カッコイイ。痛快でもある。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 写真de俳句で人 | トップ | 「長沢芦雪」 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

」カテゴリの最新記事