ハリソン君の素晴らしいブログZ

新旧の刑事ドラマを中心に素晴らしい作品をご紹介する、実に素晴らしいブログです。

『LOVE MY LIFE』

2021-03-30 00:00:03 | 日本映画







2006年秋に公開された、川野浩司 監督・金杉弘子 脚本による日本映画。「やまじえびね」さんの連載漫画を実写化した作品です。

翻訳家を目指して語学学校に通う18歳の女の子=いちこ(吉井 怜)には、弁護士を目指す大学生=エリー(今宿麻美)というカッコいい同性の恋人がいて、ある日、有名な翻訳家である父親(石田衣良)にそのことを打ち明けたら「実はパパもママもゲイなんだよ」と逆カミングアウトして来るもんだから驚いた!

しかも「死んだママには女性の恋人がいたし、パパには今も付き合ってる男性がいるんだ」とか「子供が欲しいから仕方なく結婚したけど、いちこが生まれてくれて嬉しかったよ」とか言うもんだからどうリアクションして良いやら分からない!

……と、そんな序盤の展開が一番面白くて、あとはカップルがすれ違いや衝突を乗り越えて絆を深めていく、これが男女の話だったら平凡極まりない筋立て、と言うほかありません。

だからストーリーはどうでもいいんですよね。現在まさにトレンドと言えるLGBTの問題を、いかにして重くならずオシャレに描けるか、その工夫に全神経を集中させて創ったような印象を私は受けました。

オシャレ系(?)の作家である石田衣良さんが父親役だったり、人気ガールズポップバンドの音楽が随所に流れたりするし、セリフもやたら気取った文学調だし、ヌードや濡れ場はあっても全然エロチックじゃないし。原作はいわゆるレディース・コミックですから、明らかにこれは女性向けの百合映画。なのに下世話なオッサンがうっかり観てしまいましたw

いちこの親友=タケちゃん(高橋一生)もゲイで、周囲にカミングアウトするかしないかで悩んでたり、いちこがバイト先で知り合ったモヒカン女子(川合千春)と浮気しちゃったり、ママ(小泉今日子、写真のみ)の元カノ(秋本奈緒美)と偶然再会したら新しい恋人(浅田美代子)を連れてたり等して、どんだけぇ~!ってくらい世の中が同性愛で溢れてるw 身近にこれだけゲイがいるなら、もはやマイノリティじゃないですよね。

実際はどうなんでしょう? 私はこれまで50年以上生きて来て、1人だけニューハーフの人がいたぐらいで、ゲイらしき人はほとんど身近にいなかったけど、実は隠してるだけで結構いたりしたのかなあ……?

とにかく、日本じゃ珍しい女性が観て楽しめる百合映画として、そういうのをお探しの方にはオススメ出来そうです。ブレイク前の高橋一生くんや平岩紙さんも大学生役で出てたりするし、キャスティングも総じてオシャレ。

そんなワケでセクシーショットは、ファッションモデル出身の今宿麻美さんと川合千春さん、そしてグラビアアイドル出身の吉井怜さん。吉井さんと今宿さんはこの映画がヌード初披露作となりました。


 

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『スクールガール・コンプレックス/放送部篇』

2021-03-28 21:40:24 | 日本映画










 
可愛くて演技力のある若手女優を10人挙げるとしたら、森川葵さんと門脇麦さんの名前は確実に入って来るんじゃないでしょうか?

そのお2人が女子高を舞台に「百合」を演じる映画と聞けば、そりゃ観ないワケにはいきません! 百合っていうのはつまり、女性どうしの恋愛を意味し、キスしたり、運が良ければチョメチョメしたりするかも知れないんだから!

森川さんも門脇さんもすっかり売れっ子でキャリアを積んでおられますから、もはや若手とは言えないんじゃないの?って声も聞こえそうだけど、この映画は2013年に公開されてますから、当時は紛れもなく若手。そんなお2人がもしかしたらキスしたり、運が良けりゃチョメチョメですよ!? チョメチョメ! チョメチョメ! チョメチョメ!

しかし、先に結果を言えば、残念ながらチョメチョメはおろか、キスもちゃんと見せてくれない(したのかしてないのか、あえて想像に委ねるような)淡白演出でした。

まぁチョメチョメはともかくとして、私は百合映画を観るとき、主役の2人が初めてキスする瞬間を何より楽しみにしてるもんだから、それを見せてくれないのは非常に残念です。

レズビアン映画の金字塔『アデル、ブルーは熱い色』や、ドラマ『Lの世界』なんかはキスシーンだけでもドキドキさせてくれたもんです。これが男女の恋愛なら「ええからはよ脱げ!」って思うだけなのに、女どうしだとキスだけで私は興奮できます。(男どうしに関してはノーコメント)

今回の映画は写真家・青山裕企さんのベストセラー写真集『スクールガール・コンプレックス』が原案ってことで、監督の小沼雄一さんはその「見えそうで見えない」世界観を尊重されたんでしょう。だから仕方ないとは思うけど、キスぐらいええじゃないスかねえ?w ムツゴロウさんなんかゴールデンタイムのテレビで動物とディープキスしてましたよ?

ただ、そこはすこぶる残念でも、作品そのものを否定するつもりは毛頭ありません。たとえ行為は描かれなくとも、百合の世界には、特に思春期の女の子どうしの恋には、我々オジサンをキュンとさせる何かがあるんですよね。

10年以上前、私は百合の要素を絡めたアクション映画の製作に携わり、その参考にと監督さんから薦められたアニメ『マリア様がみてる』を観て、百合世界の虜になっちゃいました。(2010年にブレイク前の波瑠さん&未来穂香さん主演で実写映画化もされてます)

今野緒雪さんの人気ライトノベルを原作としたそのアニメは、厳格なカトリック系の女子高を舞台にした青春ドラマで、女の子どうしの恋愛を絡めながらも、それはあくまで純愛。キスシーンは無いしチョメチョメなどもってのほかでしたw

なのに、この私が、そんな目的でしか作品を観ない私が強烈にハマったんだから、百合モノには他のジャンルに無い大きな魅力があるワケです。

その魅力の正体はいったい何なのか、考えに考えて出した私の結論は、思春期の百合はおおよそ実らぬ「儚い恋」だから、というもの。

それは男女でも同じかも知れないけど、同性どうしとなると周囲の偏見もあるし、結婚にはまず結びつかないし、学校を卒業すれば自然消滅しちゃうイメージがあるから、熱くなればなるほど儚くて、切ない……と私は思うワケです。

今回の映画『スクールガール・コンプレックス』でも、描かれた恋はことごとく成就せずに終わってます。だから美しいんですよね。女子高の放送部が舞台ってことで、演劇部が舞台の『マリア様がみてる』と雰囲気もよく似てます。

ただし! 『マリア様~』では決してあり得ないであろう、男の介入によって関係が崩れちゃうというバッドエンドは、とても後味悪かったです。百合の世界に男が立ち入るのはマジ最悪!(友情より男を選んだ彼女の人生も、先行きは暗いことでしょう)

現実世界じゃよくある事だろうけど、百合映画にそんなリアリティーは要りません! 『マリア様~』みたくファンタジーに徹して欲しかったです。『放送部篇』だけで終わっちゃったのは、そこに原因があるのかも?

けど、百合じゃなく青春映画として考えると、そういう醜い現実も描かなきゃいけない。それは解るんだけど、結局どっちつかずだったのがイマイチな印象を与えた気がします。

とは言っても、やっぱり森川葵&門脇麦の百合ですから、それだけで見応えは充分。つくづく、このお2人はホントに上手い!

加えて、近藤真彩、吉倉あおい、今野鮎莉、高井つき奈、そしてまだ無名だった新木優子、といった若手キャスト陣の瑞々しさ! もうそれだけで心が洗われ、萌えますw

特に、森川さんに片想いする近藤真彩さんが凄くイイ! 言っちゃ悪いけど主役の2人ほど美少女じゃないところに切なさがあり、私は彼女に泣かされちゃいました。もちろん演技も素晴らしくて、彼女の存在が無ければ作品の評価はもっと低かったと思います。

あと、これは明らかに原案の写真集に添った演出だけど、足フェチにはたまらん映像が満載です。冒頭、いきなり門脇さんのナマ足(足の裏もバッチリですよ、ムーミンさん!w)を舐めるように見つめる森川さん、という場面から始まりますから、エッチな展開も期待させてホント罪な映画ですw

そんなウワベだけのフェチじゃなく、もうちょいエロの領域に踏み込んでくれてたら、私は手放しで絶賛したと思います。チョメチョメが無くてもエロは描ける!

やっぱりねぇ、カッコつけちゃダメですよ。男目線で百合の世界を描くなら、そこは正直にいくべきでした。実に惜しい! けど、とにかくキャスティングが素晴らしいですから、一見の価値は十二分にアリです。


 

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『カツベン!』

2021-03-24 12:00:03 | 日本映画






 
2019年に公開された、周防正行 監督・片島章三 脚本による東映配給の日本映画。

私が城定秀夫さんと同じくらい敬愛申し上げてる周防監督の最新作だけど、巷から評判が聞こえて来ないし、タベリストgonbeさんがブログに書かれた感想からもイマイチ感がひしひしと感じられ、イマイチなんだろうなあ~と思いながら観てみたらやっぱりイマイチでしたw

およそ100年前、映画がまだ「活動写真」と呼ばれてた時代の関西地方。無声映画の上映時にナレーションを生披露するカツベン=活動弁士に憧れる貧乏青年の成長を、当時の喜劇映画よろしくスラップスティック調に描いた純然たるコメディー。

gonbeさんと私にはチャップリンの映画(つまりあの時代のサイレント喜劇)が大好きっていう共通点があり、題材との相性はバッチリな筈なのに、このイマイチ感はどこから来るのか?

登場する男のキャラがみんな横柄なのは「そういう時代だったから」と理解はするものの、それにしたって皆そろって魅力が無さすぎる。

それ以上に私が気になったのは、ギャグのキレの悪さ。同じ周防監督の作品でも『シコふんじゃった。』や『Shall we ダンス?』にはキレがあったと私は思う。だからファンになったんです。

果たしてこのキレの悪さが、100年前の映画(の演出)を模倣してるからなのか、あるいは周防監督の感性が老いてしまったからなのか?

たとえ100年前の映画でも、チャップリンやキートンの笑いには多分、いま観てもキレがある。その点で日本の無声喜劇はどうだったのか、ほとんど観たこと無いから分からないけれど……

ってことはつまり、周防監督の演出にキレが無くなったということなのか? 振り返れば前作『舞妓はレディ』の時も、現代の映画とは思えないキレの悪さを何となく感じたけど、それは意図的に古き良き時代の日本映画を再現してるから、と私は好意的に解釈しました。

今回はもっと古い時代の演出を、それこそハッキリ意図的に再現してるんだから、キャラクターが皆ステレオタイプなのも当然かも知れない。けど、それにしたってギャグのキレが…….特にタンスの引き出しを使ったドタバタなんて、ドリフのコントなら爆笑必至だろうに……

そもそも主役の成田凌くんが二枚目すぎる、っていうのも大きな足枷になってる気がします。ドタバタ喜劇は滑稽さがあって初めて笑えるんだから。

ヒロインの黒島結菜さん(祝・朝ドラ主演決定!)は弾けた演技で笑わせてくれそうなのに、逆におとなしい役で勿体なかった気がします。それも時代背景を考えると仕方ないんでしょうけど。

関西弁の竹野内豊、永瀬正敏、高良健吾、成河(ヨカナーンよ!乳首よ!)、小日向文世、井上真央、酒井美紀、山本耕史、池松壮亮、そしてお馴染みの竹中直人&渡辺えりコンビに田口浩正、徳井優etc…と、そうそうたる顔ぶれなのに、演じるキャラに魅力が無いから活かされない。

本編の内容よりも、劇中で上映される無声映画、それもよく知られた古典名作のキャストがなにげに上白石萌音ちゃんだったり城田優くんだったりシャーロット・ケイト・フォックスさんだったりするのが面白くて、創ってる人たちもそこを一番楽しんでるように感じちゃうのは如何なもんでしょう?w

たぶん、ギャグにキレが無いと感じるのは「毒」が足りないから。『Shall we ダンス?』あたりまでは充分あったのに、草刈民代さんと結婚されてからどうも……ってな見方は意地悪に過ぎないかも知れないけど(私、草刈民代さんがイマイチ苦手で……)。

結婚し、守るべき家庭が出来て、影響力が桁外れに強そうな奥さんがいて……となると創る作品の内容も確実に変わって行きます。かく言う私の文章のキレも確実に鈍ってるしw 乳首よ!

だけどしかし、やっぱり意図的に古典を再現してるがゆえのキレの悪さだと、私は思いたい。次ですよね。この次の作品でそこがハッキリ見えて来るんだろうと思います。

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『私たちのハァハァ』

2021-03-22 17:10:43 | 日本映画








 
ここ数日の流れを受けてピンク映画と誤解しそうなタイトルだけど、この「ハァハァ」はあの「ハァハァ」ではなく、もっと爽やかな「ハァハァ」です。『スイートプールサイド』の松居大悟監督による、2015年公開の青春ロードムービー。

北九州市に住む女子高生の一ノ瀬(井上苑子)、さっつん(大関れいか) 、チエ(真山朔)、文子(三浦透子)の4人が、人気ロックバンド「クリープハイプ」のライブ会場で出待ちしてたらボーカルの兄ちゃんに「東京のライブにも来てね」と声をかけられ、すっかりその気になって東京は渋谷を目指し、無謀な自転車の旅に出かけるというストーリー。

途中で自転車がパンクしてヒッチハイクしたり、資金が底をついてキャバクラでバイトしたり等のトラブル&冒険を経て、対立と和解も乗り越えて、渋谷の会場まで「ハァハァ」言いながら走って辿り着いたら、もうライブ終了寸前で……と、つい最近レビューした『リトル・ミス・サンシャイン』を例に挙げるまでもなく、ロードムービーってだいたいこんな展開だよねって、冷めた言い方をすればそんな感想でした。

『~サンシャイン』の時ほど私がのめり込めなかった理由は、大雑把に2つあります。まず1つは、女子高生たちが夢中になってる「クリープハイプ」っていう実在の人気バンドにまったく魅力が感じられなかったこと。これは単なる嗜好の違いだから仕方ありません。

それともう1つは、本作の長所でもあるかも知れないんだけど、女子高生たちがまったく普通の明るい子たち、つまりマジョリティであること。『~サンシャイン』のファミリーみたいにそれぞれが深刻な問題を抱えたマイノリティじゃないんですよね。

彼女らの家庭環境とか学校でのポジションとか、背景がほとんど描かれてないから断言できないけど、見る限りじゃイジメられっ子でも極端な不良でもなく、学校にいる時も同じようにキャピキャピしてそうな普通の女子高生。それが悪いって言うんじゃ勿論ないけど、集団生活にまったく馴染めなかった私にとっては共感度が低いワケです。

クリープハイプってバンドがまさに、そういう多数派を喜ばせる為に音楽やってるミュージシャンの代表みたいに見えちゃう。実際はそうじゃないかも知れないけど、この映画で見る限りはそう感じてしまう。

窮屈な日常から脱出したい気持ちはよく解るし、自転車によるツーリングも学生時代に(日帰りだけど)したことあるから、まったく共感できないワケじゃないんだけど、他人事と感じてしまうとちょっと、こういう映画はノレないですよね。

けど、それでも最後まで楽しめたのは、女子高生を演じる若手女優さんたちの演技がとても自然で、芝居臭くないから。これにはホント感心しました。

もちろん松居監督の演出力も凄いんだろうけど、もし昭和の頃の若手俳優を使って同じことしたら、たぶん映画として成立しないんじゃないでしょうか?

それはきっと、演技力の問題とはまた違うんですよね。彼女らの演技がいくら自然で素晴らしくても、だからって多部未華子さんみたいにどんなキャラにでもなり切れるかといえば、多分そうじゃない。

監督はおそらく、4人のキャラクターをほぼ「素」で演じられる子たちをオーディションで選んだ(あるいは脚本を彼女らに合わせて当て書きした)筈で、彼女らが演じてるのは自分自身なんだろうと思います。

今の若い人らは生まれた時からカメラで撮られ続けて、すっかりカメラ慣れしてるもんだから、素をそのまま撮られることに抵抗がない。本作の素晴らしさは、彼女らのそんな資質をうまく生かしたのと、そうすることで今どき女子の生態をリアルに描き出したこと。それに尽きるんじゃないでしょうか?

だから、憧れのバンドがクリープハイプだろうがくりぃむしちゅーだろうが何だっていいんです。とにかく今を生きる女子高生、まさに等身大の17歳女子たちの言動を、犯罪を犯さずに覗き見できる、そこにこそ価値があるんだと私は思います。

自分たちの旅をSNSで公開し、助けを求めたりバッシングの的にされたり、カレシがいるくせに行きずりの池松壮亮(要するに見た目のいいヤツ)と簡単にディープキスしたり、まったく罪悪感なくタバコを吸ったり等、そういうのがすっかり日常風景になってる感じが、まあオジサンだからよく知らないけど多分リアルなんですね。

1つだけよく分からなかったのが、北九州から東京まで自転車で行くつもりの彼女らが、出発時に学校の制服を着てること。もちろん途中で着替えることになるんだけど、だったら最初から軽装で行きゃええやん!ってw、しょっぱなで疑問が沸いちゃったのも感情移入の妨げになりました。

朝から登校すると見せかけて……なら解るんだけど出発は夜だし、荷物が増えるだけの話で何のメリットも無い。もし、映像的に映えるからとか、ポスター写真を制服姿にしたかったからとか、そんなつまらん理由だとしたら心底ゲンナリです。

制服が窮屈な日常のシンボルで、最後にまた制服姿に戻ることが「旅の終わり」なんだと、そういう意味が込められてるのかも知れないけど、だとしたら演出過剰ってもんじゃないでしょうか? 何でもかんでも比喩すりゃいいってもんじゃない。

そんなワケでオジサンのハートに突き刺さるものは無かったけど、最初からオジサンなど対象外でしょうからw、なんの問題もありません。

クリープハイプってバンドがどれくらい人気あるのか知らないけど、ああいう音楽が好きなマジョリティにはオススメしても大丈夫そうです。

それと、今の若手俳優たちの凄さですよね。『スイートプールサイド』にせよ『アルプススタンドのはしの方』にせよ、今でなければ成立しそうにない。そこは素直に拍手を贈りたいと思います。


 

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『悦楽交差点』

2021-03-21 09:15:09 | 日本映画






 
2016年に公開された、城定秀夫 監督・脚本によるピンク映画。第28回ピンク大賞で優秀作品賞と新人女優賞を獲得した傑作です。

街の交差点で交通量調査のバイトをしてたフリーター男・春生(麻木貴仁)は「1000人目の女を嫁にする」と決め、実際に1000回目でカウントした女性・真琴(古川いおり)をロック・オン。

5年後、町工場で働くようになった春生は、真琴がエリート商社マンの夫と住む家のすぐ近所にアパートを借り、夜な夜な真琴の生活を覗き見、朝は真琴が出したゴミを持ち帰ってチェックする等、立派なストーカーになっていたのでした。

読唇術まで習得し、真琴と夫の会話を読み解き、プライバシーを全て把握する春生の本格ストーカーぶりに、最初は笑いつつも嫌悪感を抱くんだけど、街で真琴にちょっかいを出すチンピラに殴りかかってフルボッコにされる姿など見る内に、春生の想いは純粋に恋なのではないかと思えて来ます。

もし1000回目にカウントした女性が全く好みのタイプでなかったら、いくらバカでもこんな事はしてないでしょう。たまたま1000人目の女性がストライクど真ん中だっただけで、そういう意味じゃ運命の出逢いと言えなくもありません。

だけど、どんなに彼が真剣に彼女を想ったところで、所詮はストーカーの一方通行。積もり積もった欲求不満を馴染みのデリヘル嬢を抱いて晴らすんだけど、その翌朝に目覚めて横を見ると、憧れの真琴がすぐそばで寝てるから驚いた!



ここで、真琴の出したゴミを春生が漁った数日前まで話が戻り、今度は真琴の視点から同じ出来事が描かれていきます。

その時に真琴が捨てた「お宝」の歯ブラシ(春生は毎日それをしゃぶってる)が実は旦那の物だったことやw、一緒に捨てたワンピースが旦那の実家から送られたプレゼントだったことが判明します。しかも彼女は「今日はお宝よ」と呟きながらゴミを捨てるんですよね。

つまり、こっそりストーキングしてるつもりの春生の存在に、真琴はとっくの昔から気づいてた。さらに理想的な円満夫婦に見えた旦那との関係が実はそうじゃないらしいこと、そして真琴という女が見かけ通りの天使じゃないってことが、この1シーンだけで分かっちゃう巧みな構成。

真琴は、良妻を演じて夫とセックスだけしてりゃ裕福な生活を送れると思ってる実はビッチな女で、夫が会社の同僚と不倫してることも見て見ぬフリをしてる。

だけどやっぱり人間だから、夫が出張を装って外泊した夜には気分がモヤモヤし、酒に酔って春生のアパートを見下ろしてみたら、ストーカーのくせにヤツは商売女を連れ込んでる。その怒りと酔った勢いで春生の部屋に忍び込んだ真琴は、その状況を夢だと思った春生にキスされ、そのままチョメチョメしちゃったというワケです。

それが夢じゃないと判ってうろたえる春生に、真琴は「一言でも何か喋ったら警察に訴えるわよ」と言って脅し、その日から気が向けば春生を呼びつけセックスするようになります。

発言を許されない春生は真琴のなすがままの奴隷であり、主人公の視点が入れ替わったと同時に加害者と被害者の立場も逆転しちゃったワケです。

いや、春生はそもそも真琴の為(真琴を嫁にする為)に就職し、引っ越しまでしてるワケだから、最初から彼女に全てを捧げる人生なんですよね。

それが男と女、オスとメスの最も自然な関係であり、愛人を作りながら妻を養う真琴の夫も、種付けこそが使命であるオスの生き方を忠実に実践してる。城定監督はそういうことを描きたかったのかも知れません。

結局、真琴の夫は社内不倫がバレて地方へ左遷されることになり、それを知って春生は想いを彼女に伝えます。

「あんな男のことは忘れて、俺と一緒に暮らそう!」

「喋んないでよ。今のままが良かったのに」

「結婚しよう!」

「……じゃあ、指輪。私、安い女じゃないの。飛びっきり大きなダイヤがいいな」

それで春生は、新薬の人体実験という裏バイトでお金を稼ぎ、一世一代の買い物をするんだけど、真琴は夫と一緒に地方へと引っ越しちゃう。

夫婦が乗った車を愚直に走って追いかける春生に、たまたまそれを見かけた馴染みのデルヘル嬢が「ガンバレ~!」って声をかけて、さわやかに物語は幕を閉じますw

哀れと言えば哀れだけど、オスの本能に沿った明確な目標を持ち、なんの疑問も抱かずに突っ走る春生に対して、最初に感じた嫌悪感はもうありません。ただ無意味に「生きてるだけ」の私から見れば、むしろ羨ましいぐらい。

それは真琴にも言えることで、結婚の本質なんて大方あんなもんでしょう。それを幸せと感じられた者の勝ちです。

ろくでもない人間しか出て来ないのに本作が心地好いのは、主人公たちがとにかく前しか向いてないからだろうと私は思います。ホントそうありたいもんです。

この映画、クオリティーは城定秀夫級だけど描かれるキャラは城定さんっぽくない(だから他の監督の作品だろう)って思いながら観てたのに、最後のクレジットでやっぱりこれも城定作品だと判って、私はもう感服致しました。

今までレビューした城定作品群の中でも『エロいい話』シリーズみたいなファンタジー喜劇もあれば『僕だけの先生/らせんのゆがみ』みたいに暗いサスペンスもあり、作品がバラエティー豊かでどれも面白い。

ケーブルテレビの録画予約は作品のタイトルだけ見て選んでますから、別に城定作品を追いかけてるワケじゃない。なのにこうして頻繁に観てる=作品数もずば抜けて多い。それでいてほとんどハズレが無いという驚異的な高打率。エロ映画の世界にこんな凄いクリエイターがいたなんて!

主演の古川いおりさんも、以前観た別監督によるVシネマの時よりずっといい。新人女優賞受賞も頷けます。ストーカー役の麻木貴仁さんも上手いし、やっぱり役者を生かすも殺すも演出しだい。

今回は特に、ストーカーする側とされる側の視点の逆転、その鮮やかな見せ方にやられました。エロ描写の有無は関係なく、これは映画として純粋に面白かったです。


 

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