☆第14話『エンゼルの怒り』
(1980.4.24.OA/脚本=山野四郎/監督=高橋繁男)
ある夜、ごく一般的庶民の津田(左右田一平)が家族で経営する自動車整備工場に、無人のダンプカーが突っ込みます。それは事故じゃなくて、立ち退きを迫るいわゆる地上げ屋、つまりヤクザどもによる嫌がらせ。
さらに無言電話や誹謗中傷の貼り紙、葬儀用の花輪が届くなどの嫌がらせが続き、たまりかねた長男の泰男(清水昭博)が所轄署に駆け込むんだけど、警察には「民事不介入」の原則があり、刑事事件に発展しない限りは動けません。当然、ヤクザどもはそれを分かった上でやってるワケです。
誰に頼ることも出来ず、ヤクザどもの隠れ蓑である会社「峰林金融」に乗り込み、直談判しようとした泰男は、当然ながらフルボッコにされた挙げ句、こう言って脅されます。
「なんなら親父さんやお袋さんに分からせてやってもいいんだぞ? そうだ、中学生の妹さんがいたな?」
結果、事務所襲撃の罪で逮捕された泰男は「オレが勝手に飛び込んで暴れました」と証言せざるを得なくなります。
息子を助けたい一心で峰林金融に駆け込んだ津田もまた、何度も机に頭を打ち付けられる暴行を受け、土地明け渡しの書類に捺印するまで帰れない、つまり監禁状態にされてしまうのでした。
兄が逮捕され、父親も帰宅しないという事態になり、今度は中学生になったばかりの津田の長女=サッチンこと幸子(鮫島久美)が110番通報します。
「お願い、お願いです! 民事ってどういうことか私には解りません。でも、誰も助けてくれないんです! どうしたらいいんですか?!」
民事不介入の原則を守り、津田ファミリーの件とは距離を置いてた「四機捜」の加納主任(杉良太郎)も、その切実な通報をたまたま聴いてしまい、動かざるを得なくなります。
まずは所轄署から泰男の身柄を引き取り、病院へ連れていくと、彼は肋骨にヒビが入る重傷を負ってることが判明。本人がいくら否定しようが集団リンチを受けたのは明白です。
続いて加納主任は峰林金融に乗り込み、監禁されてた津田を連れ帰るついでにヤクザどもをフルボッコ。
もちろん、それで連中が諦める筈もなく、さらなる報復がファミリーを襲う可能性が高いため、加納は何とか法の力で封じ込めようと駆け回るんだけど、生活課も防犯課も「民事不介入」を理由に門前払い。信頼する上司の大滝隊長(山内 明)にまで圧力をかけられ、いよいよ加納の怒りが爆発します。
「力を持たない一般人が警察から見捨てられたら、一体どうやって戦って行きゃいいんだ?! あんたらそれでも警察官かっ?!」
そうして啖呵は切ったものの、警察官であるからこそ何も出来ないジレンマに苦しみ、ヤケになった加納は、とりあえず自宅に戻って牛乳を呑むのでしたw
そこに、幸子から思い詰めた様子で電話がかかって来ます。先に本部で電話を受けた都築刑事(本阿弥周子)が、大滝隊長の制止を無視して自宅番号を教えてあげたのでした。
「加納さん……お兄ちゃんのこと、どうもありがとう。一言お礼が言いたくて……」
「……どうかしたの?」
「……じゃあ、さようなら」
「サッチン!」
加納はすぐさま立ち上がり、電話しながら部屋を飛び出します。
「何があったの?」
「……お父さん、死んじゃったの」
「?!」
ヤクザ事務所で何度も机に頭を打ち付けられた津田が、帰宅したあと脳出血で倒れ、そのまま息を引き取ったのでした。
「仕返しをしてあげたい……でも、私に出来るかどうか……」
「サッチン、なに考えてんだ?」
「仕返しよ。あの人たちにね、一生忘れないような事したいの」
「ダメだ! 今すぐに行くから待ってなさい!」
「もう行くの。さようなら、加納さん」
「サッチン!!」
時速300キロぐらいで車を飛ばした加納が峰林金融に駆け込むと、ヤクザたちの前でガソリンをかぶった幸子が、今まさにライターで火を点けようとしてました。
「サッチン、よせえーっ!!」
時すでに遅く、ガソリンは一瞬で燃え上がります。が、加納は躊躇なく炎の中へ飛び込み、自ら火だるまになりながら、幸子についた火を上着で消し止めます。
この場面、杉サマはスタントマンに頼ることなく、全て自分で演じておられます。
これ、凄いです。私は鳥肌が立ちました。画像をご覧下さい。炎が杉サマのお顔を直撃してるし、大事な股間が無惨に燃え上がってますw
もちろん安全対策は万全にされてるだろうし、同じスタントを『西部警察』シリーズで渡哲也さんや舘ひろしさんもやられた記憶はあるけど、ここまで激しくは無かった筈です。
しかも、それを『西部警察』だとスローモーションでじっくり(ちゃんと本人が演じてるのが判るように)見せてたのに対して、この『大捜査線』は通常のスピードで撮ってる! つまり本人が演じてることを強調するより、シーンの流れを止めないことを優先してるワケです。
このドラマが徹頭徹尾「杉良太郎オンステージ」なのは、決して杉サマが目立ちたい一心だからじゃなく、看板を背負った「座長」としての覚悟と責任感がそうさせてるんだと、この場面を観て私は確信しました。
この人は本気です。作品に命を懸けてます。今の若手スターたちに同じことが出来ますか? あるいは所属事務所にやらせる度胸がありますか?
ジャッキー・チェンの映画を観て、ストーリーを褒める人はいませんw それでも我々の心を打つのはこういう事です。本気で命を懸けてるからです。『相棒』とか『ドクターX』じゃこの興奮は絶対に味わえません。
閑話休題。なんとか火を消し止めた加納主任は、ボーッと突っ立ってるヤクザどもに迫っていきます。
「お前ら……この子が焼け死のうとするのを黙って見てたのか?」
言いながらガソリンをポリタンクからバケツに移し換えてる加納を見て、ヤクザどもは血相を変えて逃げようとしますが、遅かった! ありったけのガソリンを連中に浴びせ、加納はライターを構えます。
「動くなっ! お前ら社会のクズだ……死ねえーっ!!」
実際には「死ねえーっ!!」とまでは言ってません。そこだけ私の心の声ですw
「主任! お願いです、もう終わったんです! 主任、今この人たちを殺したら……主任っ!!」
駆けつけた都築刑事や沢木刑事(神田正輝)らに説得され、最終的にはいつものフルボッコで手を打つ加納主任なのでした。
私はやって欲しかったですね。やっても良かったんじゃないですか? これまでの展開をちゃんと観てたなら、クレームをつける馬鹿はいくらなんでもいないでしょう。マッドポリスなら多分やってますw
さて、果たしてヤクザどもはちゃんと裁かれたのか? 具体的には語られないけど、ラストシーンにおける幸子と加納主任の笑顔を見れば、聞くまでもありません。
お母さん(八木昌子)は健在だし、勇気ある兄ちゃんの泰男もいるし、いざって時は君のために死ねる加納主任までいるし、きっと幸子は幸せになる事でしょう。
幸子を演じた鮫島久美さんに関する情報は乏しく、『陽はまた昇る』や『青い瞳の聖ライフ』等のドラマに出演されてたみたいだけど詳細は不明。とても端正な芝居をされる方で、もっと活躍されてても不思議じゃないんだけど、学業を優先されてたのかも知れませんね。