☆第5話『まぼろしのニューヨーク』
(1980.11.4.OA/脚本=柏原寛司/監督=黒木和雄)
「ダニ―」と呼ばれるバンドマンでバーの経営者でもある男が、とあるソープ嬢のアパートで他殺死体となって発見されます。賀津警視(勝 新太郎)ら今宿署の刑事たちが捜査に乗り出し、例によって本庁からやって来た辺見刑事(金子研三)も、エリート風を吹かせながら事件関係者たちとこんな会話を交わします。
「私は本庁の辺見だ」「えっ、ホンチョウの変態?」
「私ね、正子(しょうこ)っていうの」「証拠はあるのか?」
下らないですw しかも今回、辺見刑事の出番はこれだけw だんだん彼が好きになって来ましたw
で、バーで専属歌手を務めるジャズシンガーの洋子(宮崎正子)は、事件当夜ずっと取り立て屋の「大ちゃん」こと結城大(原田芳雄)とカード遊びをしていたって言うんだけど、その時間に結城がソープ嬢のアパート近くを歩いてる姿を目撃されており、賀津警視はこの2人に疑惑を抱きます。
ちなみに賀津と結城が初対面で交わした会話が、これ。
「私の名前ですか? 結城大(ゆうき だい)です」
「言う気ない?」
「言う気ないじゃなくて結城大です」
揃って名優で大スターでもある、あの勝新太郎と原田芳雄の会話とは思えませんw
捜査の結果、実力派シンガー・洋子のお陰で金儲けして来たダニ―が、本場ニューヨークで唱う夢を実現させつつあった(つまりバーを辞めようとしてた)洋子からパスポートを取り上げた事実が判明。それを取り戻そうとした洋子がダニ―と揉み合いになり、恐らく弾みで……
それを確かめるためバーを訪れた賀津に、結城がこんなセリフを吐きました。
「行きますか? コンチクショへ」
「コンチクショ?」
今宿署(こんじゅくしょ)に引っ掛けたダジャレで、勝新さんの反応から見てたぶん原田さんのアドリブですw
「刑事にでもなるかい?」
「ハハ、死にますよ。2日で」
「面白いぞ、刑事も」
続いて出たこれらのセリフも明らかにアドリブ。かくも独特なライブ感に『警視―K』の真骨頂、通常の刑事ドラマじゃ味わえない面白さがあるんですよね。
結城は、夜の街で働く女性たちを助けるため、格安のギャラで取り立て屋と子守りまで引き受けてるナイスガイ。
事件当夜に現場へ行ったのも恐らく、洋子がダニ―を殺した証拠を隠すため。ニューヨークで唱うという彼女の夢を叶えるべく、結城は全ての罪を被ろうとしてるのでした。
で、賀津は結城とポーカーで勝負し、負けたフリをするんですよね。もしかして賀津は、洋子の罪を見逃してやるつもりなのか?
罪悪感に耐えきれず、出発前夜にニューヨーク行きをやめると言い出した洋子に、結城は「お前1人の夢じゃねえんだぞ!」と言って尻を叩き、無理やり「ニューヨークに行きます」と約束させます。
で、翌日。空港でニューヨーク行きの便を見送った結城を、賀津が迎えに来ます。それで促されて覆面パトカーに乗り込もうとしたら、後部座席に手錠を掛けられた洋子が乗っていた! 賀津よ、見逃してやるんじゃなかったのか!?
「…………」
結城は、黙って賀津の顔にパンチをお見舞いします。
「…………」
賀津も、黙って結城を殴り返しますw
つまり今回、賀津警視=勝新さんは悪役に徹してるんですよね! たぶん、結城の優しさと器の大きさ=原田芳雄さんの魅力を引き立てることだけを考えて、こういう結末にした。
じゃあ、なんでポーカー勝負で負けたフリをしたの?っていう謎が残るんだけど、あの時は見逃してやる=自分がヒーローになるつもりでいたのかも知れません。けど、ラストシーンを撮る段になって気が変わったw なにせ『警視―K』っていう作品は全てがアドリブなんです。
大好きなゲストを引き立てる為なら、自分が悪役になることも厭わない。それが勝新太郎というスターであり、だからこそあんな不良で厄介者でも皆に愛されたんでしょう。
男から見ても感じる色気を持った二人のスターと、説明をいっさい省いたシンプルなストーリー、そしてどこまでも映画的なカメラワーク。現在のテレビ番組じゃ観られないものばかりで、いま観ればこそ新鮮だし、シビれます。
洋子役の宮崎正子さんは実際にジャズシンガーで、ソフトロックバンド「ザ・カルア」の元ボーカリスト。'78年にリリースされたソロデビュー曲『ゲット・マイ・ウェイブ』のレコードジャケットが劇中にも登場します。たぶん、勝新さんが彼女のために構想されたストーリーなんでしょう。