そう言えば、このドラマを今までレビューしたこと無かったです。
1974年10月から翌年3月まで、日本テレビ系列の土曜夜10時枠で全26話が放映された、東宝&渡辺企画の制作による青春アクションドラマ。日本における「バディ物」ドラマのパイオニアとも云われてます。
殉職という形で『太陽にほえろ!』を降りたばかりの萩原健一さんに、同じ制作陣から言わば「卒業記念」としてプレゼントされたような企画で、俳優としてのショーケンに興味を引かれた深作欣二、恩地日出夫、神代辰巳、工藤栄一etcといった映画畑の一流監督たちが演出を引き受け、視聴率では苦戦したものの今や伝説として語り継がれてる名作中の名作。
だからショーケンさんの代表作であると同時に、その「相棒」役に抜擢された水谷豊さん(当時、もう役者を辞めるつもりだった)の大出世作としても忘れちゃいけない作品。
なのに今までレビューして来なかったのは、その楽しみ方が放映当時ガキンチョだった私にはイマイチ解らなかったから。社会の汚さや残酷さをある程度、身をもって知らないと共感しづらいドラマなんですよね。
『太陽にほえろ!』はそういった苦難を乗り越えて成長するヒーローの物語だけど、『傷だらけの天使』の主人公たちはそのタイトル通り、いつも負けて終わっちゃうから観てもカタルシスが得られない。
当時流行ったアメリカン・ニューシネマみたいなもんで、実際ショーケンさんも『真夜中のカーボーイ』あたりを強く意識されてたそうです。
今回のエピソードは水谷さんが主役だけど、まさに「負けたまま終わるドラマ」の真骨頂と言える内容で、やっぱりガキンチョ時代の私が観たらどう受け止めてよいやら戸惑ったはず。
でも、今観たら解りすぎるぐらいよく解るし、バッドエンドなのに後味は決して悪くない。むしろ、これこそ青春のリアルだよねって、こういうことを経てオレらは大人になったんだよねって、『太陽〜』とは違ったカタルシスを感じたりします。
☆第19話『街の灯に桜貝の夢を』(1975.2.8.OA/脚本=市川森一/監督=恩地日出夫)
主人公は綾部探偵社のしがない下請け調査員の、オサム=木暮 修(萩原健一)とアキラ=乾 亨(水谷 豊)。
弟分のアキラは目下、場末のキャバレーで知り合ったホステスの明美(関根恵子=現・高橋惠子)とチョメチョメな仲で、彼女の「ヒモ」になることで兄貴分のオサムと決別しようと画策中。そりゃガキンチョが観ても共感できやしませんw
そこで思いついたのが、綾部社長(岸田今日子、残念ながら今回は欠場)から無料で借りてるペントハウスを、当時流行ってた絨毯バー(アットホームに演出した個室パブ?)に改装し、ポン引きした客の相手を明美にさせ、2人でスナックを開く資金を稼ぐこと。
実はアキラ以上にお人好しなオサムは、それで2人の夢が叶うならと協力します。
今さら言うまでもなく、私がこのエピソードをレビューに選んだ理由は『太陽にほえろ!』のレギュラーだった関根恵子さんがゲストで、マカロニ&シンコの組み合わせがまた観られるから。
水谷豊さんも『太陽〜』には計4回ゲスト出演されており、ことに第30話『また若者が死んだ』ではシンコを人質に取って逃走し、マカロニと対決する犯人の役でした。
そりゃ相手が関根恵子さんだけに客はみんな喜び、ある程度の儲けにはなる。けど、自分のカノジョにコールガールまがいの仕事をさせてる罪悪感に、さすがのアキラも苦しみ始めます。
そんな折り、綾部社長のアシスタント……というより忠僕である辰巳(岸田 森)が、勝手にペントハウスを商売に使った代償として、オサムとアキラに新たな仕事を命じます。
それは、明美に大手建設会社の社長である板倉(森 幹太)を誘惑させ、チョメチョメする現場を写真に撮るというミッション。つまり不倫スキャンダルを捏造する為のハニー・トラップ。
社長の追い落としを狙う専務一派による依頼で、オサムたちにも100万円の報酬を約束するという。
主人公がそんな仕事を引き受けてしまうのが『傷だらけの天使』という作品なんです。その報酬で明美を絨毯バーから解放してあげたい!ってな心情はあるにせよ、『太陽にほえろ!』の公明正大なヒーローたちとは対極にいるキャラクター。
どっちがドラマとして面白いかは置いといて、どっちが人間のリアルを描いてるかと言えば、やっぱコッチですよね。
理想は『太陽』だけど現実は『傷だらけ』。多少デフォルメされてるにせよ人間の本質はこんなもん。そうじゃないごく一部の人だけがヒーローになれる。
ターゲットの板倉社長が5年前に女子大生だった娘を交通事故で亡くしてることを知ったオサムとアキラは、明美に女子大生の役を演じさせます。(関根さんのメガネ姿はレアかも?)
「ずいぶん汚い手を使うのね」と言いつつも、彼らと同じように現状から抜け出したい願望を持つ明美は、暴漢(を演じるアキラ)に襲われる女子大生をみごとに演じ、板倉の気を引くことに成功するのでした。
そりゃあ、こんな瞳で見つめられりゃオヤジはイチコロです。いや、もしかするとイチコロだったのは、得意の空手でアキラを一瞬でノックアウトしたセレブ社長を見つめる、明美の方だったかも?
そしてイチコロで倒されたアキラはどこまでもブザマ。天は社長に二物も三物も与え、若さだけが取り柄のアキラには何も与えない。これもまたリアル。
努力した者としなかった者の差だと人は言うだろうけど、世の中には努力する=自分を追い詰めることに生き甲斐を感じるド変態がいるんですよ!
それこそが天に与えられた「才能」だと私は思う。努力しない自分を責めてるあなた、ド変態になりたいんですか?
しかしミッションはどうやら成功し、社長が「おちる」のも時間の問題。
「考えてみりゃ男の運命なんて儚いもんだ。1代で築き上げた地位も名誉も財産も、たった1枚の写真で脆くも崩れ去る。要は権謀術策さ。叩き上げなんてのはもう流行らん。知恵だよ。最後に笑うのは知恵者だけだ」
辰巳の言い分もこれまたリアル。世の中なんてそんなもん。この歳になっても私が毎日あくせく働いてるのは、知恵が足りないからだと自覚してます。
もちろん、アキラや明美がこんな事になってるのも知恵が足りないから。だけど兄貴分のオサムには、ちょっとだけ知恵があった。
「最後に笑うのはよ、オレたちだよ」
みごと板倉社長のチョメチョメ現場をカメラに収めたオサムは、そのフィルムを辰巳に渡すんじゃなく、板倉自身に買い取らせようと画策します。そうすれば百万どころじゃ済まない値がつくだろうと。
「アニキ、最初からそのつもりだったの?」
「違うよ。おまえがあのジジイにぶっ飛ばされてからだ。いくらカラテ映画が流行ってるからってよ、なにもキザに空手なんか使うことねえじゃねーかよ」
「だけど、ヤバいよ」
「アキラ、希望は大きく持てよ。オンナを好きなようにされて、おまえ悔しくねーのか」
「そりゃ悔しいよ」
「だろ? いまどき百万で何が出来るっつーんだ。スナックやりてえんだろ?」
「……オレ、スナックもだけど、その前に所帯持つよ」
「……明美とか」
「そろそろ、マジメに身固めたいしね。オレ、結婚すんだ」
「……おまえ、よっぽど好きなんだな、あの女」
「へっ、オレってバカだからさ、きっとこんな事でも無きゃいつまでも気がつかなかったろうに」
「そうだな……ちょっと早いなって気持ちはあるけども、所帯持つっていいもんな、温かくて」
そして1本の薔薇を用意したアキラは……
「苦労させたけど、オレ所帯持ったら、ココロ入れ替えて、もう二度とあんな悲しいことさせないよ」
「アキラちゃん……なにも聞かないで、そのフィルム私にくれない? ううん、どうしてもちょうだい」
「そりゃまあ、これは明美ちゃんが写ってる写真だけど……」
そう言いかけて、アキラはふと、明美がスーツケースに自分の衣服を詰め込んでることに気づくのでした。
「どっか行く? どこ行くの?」
「……あの人のとこ……板倉さんがね、私を待ってるの」
「……へっ、まさか!」
「こんなこと言っても信じてもらえないだろうけどさ、あのヒトとっても優しくって……私、今までずっとあんなヒト探してきたような、そんな気がするの」
「騙されてんでしょう!?」
あまりに板倉社長に優しくされて、罪悪感に苛まれた明美は、実はこれがハニー・トラップであることを正直に話してしまったらしい。
「ごめんね……あの人もさ、最初はびっくりして、でもすぐに笑って、そのフィルム、こっちの言い値で買ってくれるって言うのよ。だからさ、あの人に売ってあげて」
「……惚れてる?」
「……今更こんな私が、おかしいでょ? でもさ、あのヒト神様みたいに優しくて……それに比べて私、あのヒトに何にもしてあげられなくてね……」
明美は、絨毯バーで稼いだ金の預金通帳を「これで堪忍して」とアキラに渡すんだけど、あれだけ働いて約30万しか貯まってないのがまた切ないです。
「……板倉、どこにいるの?」
「……言えないわ」
「ほらぁ、オレっていつもこうなんだよ! あんなジジイのどこがいいの!? 金持ちだから? だったらオレも一生懸命働くから!!」
「……私ね、そのフィルム渡したら、あのヒトの前から姿消すつもりよ」
「なんだよそれ、カッコつけて」
「違うわよ。バカな女だったけど可愛いヤツだったって、あのヒトにそう思って欲しくて……それだけよ!」
「じゃあオレはどうなんの?」
「あんたにはオサムちゃんがいるじゃない」
「そんなの自分勝手だよ! 男どうしで何が出来んの!? びえ〜ん!😭」
アキラ、ついに号泣。これが男のリアルですよねw
ホントこれが青春だし、これが恋愛だと思う。かくも女性はシビアなリアリストであり、弱くて知恵もない男は恋のライバルにすらなれない。
「勝手言ってごめんね……フィルムは、あんたの好きにして」
「ありがとう……本気で所帯持とうって言ってくれたの、あんたが初めてよ。嬉しかった」
結局フィルムは諦めたのに、それでも女は出ていっちゃう。ガキンチョにはこの矛盾が理解できないけど、一度でも本気で恋をした人なら解るはず。
アキラは確かに弱いし知恵もないけど、明美のことは本気で好きだったようで、ペントハウスの階段を降りた彼女の足元に、プラスチックの小さな筒が転がって来ました。
「アキラちゃん……」
いちいち解説するのは野暮だけど、もしかすると若い読者さんは見たこと無いかも知れません。アナログカメラのフィルムを収めたケースです。
そのあとフィルムを受け取りにやってきたオサムの手を握って、アキラがまた号泣。
レビューするために本作を観たちょうどその日、趣里さんが主演するNHKの次期朝ドラ『ブギウギ』の番宣が放映され、一瞬だけどヒロインが号泣するシーンが流れて、泣き方がお父さん(念のため、水谷豊さん)そっくりなのに私は感動しましたw カエルの子はカエル。そういや2人ともカエル顔かも?
さて、ことの顛末を報告しに来たオサムとアキラに、どうやら板倉建設の専務一派の企みは事前に洩れていたらしいと辰巳が告げます。
「策士、策に落ちるとはこの事だ。専務の方が逆に足をすくわれ、失脚した。こちらも骨折り損のくたびれ儲けだった。で、あの女はその後どうしてるんだ?」
「板倉社長と結婚すんじゃないの?」
「ふっ、そうか。板倉って人はそんなロマンチストなのか。怖い男だね、あの人は。知らないらしいから教えてやるけどな、2日前に箱根の山中で女の変死体が見つかった」
「手口から言ってプロの殺し屋だ。もちろん迷宮入りだろう」
「板倉って人は苦労人だからな。そのへん、やることにソツがない。昔から客に惚れる遊女はいたが、遊女に本気で惚れる客なんか滅多にいやしない。キミらも甘いな」
数日後、箱根の山中にオサムの姿が。顔を隠したいのか防寒なのか、何にせよ「ショーケン巻き」とでも呼ぶしかない俺ジナルな着こなし。
箱根に来た目的はもちろん、別荘から東京に戻る板倉を撃ち殺すこと。
だけど、同じことを考えてライフルを構えるアキラを見つけたオサムは……
自分の用意した拳銃を放り出し、夢中でアキラにタックルするのでした。
「バカヤロウッ! テメーにいつ人殺し教えたコノヤローッ!?」
「だってえーっ、だってよおーっ!! びえええ〜〜〜ん!!!😭😭😭😭😭」
オサムにしがみついて号泣する、アキラのこの上なくブザマな姿でジ・エンド。これが『傷だらけの天使』というドラマです。
2人とも殺人犯にならずに済んだのは良かったけど、明美ちゃんの末路を思えば究極のバッドエンド。
しかしそれは、世の中にはどうにもならない壁があり、触れちゃいけない闇もあることを示したメタファーなんですよね、きっと。
根っこは誰もが一度は経験する大失恋のストーリーで、だからこそ哀しくもあるけど甘酸っぱくもある。まさに青春ドラマ。
当時のショーケンさんは本当に神懸かり的な天才役者だったけど、今回に限っては水谷豊さんが素晴らしすぎました。つくづく凄い俳優さんです。もちろん関根恵子さんも!