連続ドラマは、刑事物に限らず「第1話」を観るのが一番好きです。その理由は3つ。
まず1つは、新鮮なものが観られるワクワク感。刑事物みたいにやり尽くされたジャンルなら尚更、どんな手を使って我々をサプライズさせてくれるか楽しみでなりません。(だからこそ凡庸な内容だとボロカス書いちゃう)
2つめは、まぁ当たり前のことだけど、初回は最も大事な「つかみ」だから。映画でも「ファーストカットで全てが決まる」みたいな批評がよくあるように、スタートダッシュで創り手の力量と熱量が計られる。だからスタッフもキャストも自然と気合が入るし、他の回より予算もかけてる筈。
そして3つめは、創り手がその作品で何をやりたいのか、つまり「コンセプト」ってヤツが明確に表れるのが第1話だから。
近年の連ドラは余程のことがないかぎり途中でコンセプトが変わることは無いけど、長丁場(短くても2クール以上)を前提に創られてた昭和の連ドラは違う。視聴者の反応によってガラリと趣が変わっちゃうことも珍しくなかった。刑事ドラマならアクション派から人情派へ、あるいはコメディータッチからシリアスタッチへのシフトチェンジがよく見られました。
それは大半を占める保守的な視聴者たちが、斬新だったり奇抜だったりする作品に拒否反応を示しがちで、保身しか頭にないスポンサーやテレビ局の偉い人たちがすぐに迎合しちゃうから。
最初は尖ってたものがムリやり丸くさせられるワケで、それは現場の創り手たちが本来やりたかったことじゃない。結果的に観易くなったとしても、そこに創り手たちの魂はこもってないはず。
キザな言い方になりますが、私は作品を通して作者と対話がしたいから、やりたいことを最もストレートにやってる第1話が一番好きってワケです。
『西部警察 PART II 』は1982年5月から’83年3月までテレビ朝日系列の日曜夜8時枠で全40話が放映された、石原プロモーション制作による刑事ドラマ。
文字通りシリーズ第2弾ではあるけど、続編というよりはリニューアル版で、’80年代作品だけあってパート1(’79年スタート)よりポップなイメージに生まれ変わってます。
そこには時代の変化もありつつ、放映局と制作会社の垣根を越えた“兄弟番組”と言える『太陽にほえろ!』が、神田正輝さんや渡辺徹さんの起用による“ポップ化”でみごと低迷期からの復活を遂げた影響もあったかと思われます。
それを象徴してる(と私は思う)のが、この俳優さんの起用です。
三浦友和さん。前身番組である日テレの『大都会』シリーズが、やはりパート2で自社の所属俳優じゃない松田優作さんをフィーチャーし、みごと視聴率をアップさせた成功例を再現したんでしょう。
けれど当時、私は友和さんに対して「文芸映画や大映ドラマ、グリコのCM等で百恵ちゃんの相手役を務めるハンサムボーイ」そして「百恵ちゃんのハンサムな旦那さん」っていうイメージしか抱いてなかったもんで、このキャスティングには本当に驚きました。
ハンサムだけに角刈りも似合うけど、本当に大門軍団(鉄拳と銃弾ですべてを解決し、ついでに全国の建造物や乗物を爆破して回る狂人グループ)の一員が務まるの?って。
蓋を開けてみて、また驚きました。ハマってる! カッコいい!
のちに友和さんが書かれたエッセイ本『被写体』(引退後の百恵ちゃんを延々とストーキングするマスコミ連中とのバトルが綴られてます) を読んで私は納得しました。この方には元よりワイルドな素地がお在りだったんですよね。
それをいち早く見抜いたのか、あるいは評判を聞いたのか、いずれにせよ「西部警察のパート2は三浦友和で行こう!」と決めた、当時の石原プロはやっぱり凄い。まさに絶頂期。パート3に社長の甥っ子をねじ込んでから徐々に凋落して行くんだけどw
☆1982年5月30日に放映された第1話『大門軍団・激闘再び-沖田登場-』は、新井光脚本&小澤啓一監督による作品。
大型トラックにニトログリセリン(振動を与えるだけで大爆発する超デンジャラスな液体)入りの瓶を仕込んだという、言わば爆破予告の電話が西部署に入り、大門軍団が出動するんだけど……
そのトラックにはトラップが仕掛けてあり、先に駆けつけたパトロール警官たちがニトロの餌食にされちゃう。
さらに犯人は、乗客を40人近く乗せた観光バスにもニトロを仕掛けたと通告して来ます。
しかも今度は、午前10時に首都高速の豊洲インターチェンジでそのバスが吹っ飛ぶと言う。それがヒントになってバスはすぐ特定出来たものの、時限装置なしで犯人はどうやって予告通りに爆発させるつもりなのか?
先回りした大門軍団をあざ笑うかのように、ビルの屋上からライフルの銃声が聞こえて来ます。その手で来たか!
運転手が撃たれてバスは暴走! なんとかして止めなきゃ間違いなくバスはクラッシュし、ニトロが爆発してしまう!
大門団長(渡 哲也)が“マシンX”こと日産スカイライン2000GTターボで、“ポッポ”こと鳩村刑事(舘ひろし)がスズキGS600Gで追跡するも成す術なし!
と、その時!
いきなり角刈りの男が通りすがりのトラックを捕まえ、有無も言わさずバスへの接近&並走を強要! 角刈りに命令されたら怖くて逆らえない!
「やめろ、馬鹿野郎っ! 爆発するぞ!!」
鳩村たちの制止を無視し、バスの扉を蹴破って車内に飛び込む角刈り男!
間一髪! ハンドルに飛びつき、幹線道路の真ん中を横切るムチャな幼稚園児たちを避けて側道へと舵を切った角刈りは、サイドブレーキを引いてなんとかバスを停止させます。
が、これだけ動いてニトロが爆発しなかったことがむしろ奇跡で、角刈りは人命救助したにも関わらず軍団に詰め寄られます。
「ムチャしやがってこの角刈り野郎! 何者なんだテメエはっ!?」
「沖田五郎。西部署捜査課の刑事」
「西部署だと? ふざけんなっ!」
「そうだ! ウチの署に角刈りはもう沢山なんだよ!」
「…………。」
セリフに少しアレンジを加えましたが、実際には有り得ません。渡哲也さんの前でこんなアドリブが許されたのは社外俳優だけ、中でも松田優作さんぐらいでしょう。
それはさておき、沖田五郎の軍団入りを知ってたのは二宮係長(庄司永建)だけで、木暮課長(石原裕次郎)も知らなかった模様。
その木暮が調べてみると、沖田は東大卒のエリートであり、当然キャリア街道まっしぐらだった筈なのに、暴力刑事の吹き溜まりである大門軍団に“飛ばされた”とすれば相当な問題児。先の博打的スタンドプレーにも頷けるってもんです。
「やっぱり角刈りにはロクな奴がいねえな、大さん」
「…………。」
↑無論ここにも私のアレンジが入ってます。この2人に限ってそんな確執はありません。
さて、観光バスの爆破を阻止された犯人が、今度は都内に5,892台ある路線バス(当時)のどれかにニトロを仕込んだと通告。当然すぐに見つけられるワケがなく、バスはあえなく爆破され、多くの犠牲者が出ちゃいます。
ここで沖田が動き出し、6年前に担当したニトロ爆弾事件で逮捕できなかった容疑者=立花(亀石征一郎)を洗い直すんだけど、その情報提供者(当時の先輩刑事)として北村総一朗さんがワンシーンのみご登場。
のちに『踊る大捜査線』で全国的に名が知られるけど、当時はまだ「知る人ぞ知る」程度の俳優さん。
とはいえ本作の2ヶ月前に放映された『太陽にほえろ!』の“500回記念作”じゃメインゲストですから、こんなワンシーンだけのチョイ役に甘んじるような存在じゃなかった筈。
そう言えば数年後の『太陽にほえろ!』山さん殉職スペシャルにも(今回と似たような“情報提供者”役で)2シーンのみ登場されてました。役の大きさにこだわらず、とにかく演技すること(あるいはテレビに出ること)が好きで好きでたまらないっていうお人柄が伺えて、今更ながらファンになっちゃいました。
閑話休題。沖田はその甘いマスクを活かして風俗方面にもネットワークを持っており、お姐ちゃんから情報を得て立花のアジトに単独突入!
けど逃げられて、同じ角刈りでもパチキ(剃り込み)が入ってるぶん迫力が違う団長に睨まれます。
「どうして立花のことを自分に言わなかった?」
「今回の事件のホシだという確信が無かったんです」
「捜査は1人や2人でやるもんじゃない。もっと早くお前が立花のことを話していれば、とっくにヤツを逮捕できた筈だ」
「…………」
「また次の犠牲者が出る可能性がある」
「……申し訳ありませんでした」
確かに団長のおっしゃる通りで、一匹狼はいいけどそれが事件解決の妨げになったんじゃ話にならない。
本庁にも顔が利く木暮課長の調べによると、沖田は1年前、凶悪犯に籠城された喫茶店の人質を1人で救出しようとして弾丸を食らい、人質も1人死なせてしまった。
それ以来、なぜか西部署“大門軍団”入りを熱望し、あえて警部からヒラ巡査への格下げを自ら申し出たらしい。
「どうにも解らん男だ。時が経てば、もう少し詳しく分かるだろう」
その言葉通り、回が進むにつれ沖田が軍団入りを志望した理由と、それが最終章(パート2最終回の予定がパート3序盤に持ち越し)への伏線になってることが徐々に明かされて行きます。
石原プロのアクションドラマで、これほど丁寧にキャラクターが描かれたのは本作が唯一でしょう。(倉本聰さんがメインライターだった『大都会』パート1は別物として)
さて、立花がまたしても爆破を予告して来ます。しかも、バスの被害どころじゃ済まない量のニトロを、今度は部下たちにジャックさせた大型フェリーに仕込んだらしい!
「要求があるなら言ってくれ。カネか?」
「違う。オレが欲しいのは大門軍団だ」
「大門軍団?」
「今から大門軍団はオレの指揮下に入ってもらう。命令に背けばニトロが爆発する」
その立花の命令とは、大銀行の金庫を空けて全員を退去させること。やっぱカネやんけっ!?
「立花……ぶっ殺す!」
……って口には出さずとも、沖田がM36チーフスペシャルから持ち換えたM29PPCカスタム(44マグナム)を見れば、その想いが伝わって来ます。
予告編やOPタイトルを除くと、この瞬間こそ日本のTVドラマにおいてPPCカスタムが登場した最初の場面。こんなデカくてクソ重たいハンドガンを持ち歩く刑事なんて、世界中を見渡しても西部署以外にはいないでしょうw
と思ったら翌年、七曲署(太陽にほえろ!)に新登場するブルース刑事も使い始めたから驚いた! 私の知るかぎり他の番組で使われた例はなく、つくづく兄弟番組なんですよね。
立花は大門軍団に銀行への先導と、さらにジェット機を羽田空港に待機させることを要求して来ます。
「ヤツら、ジャックした船を使い捨てにするつもりだ!」
おそらく今度のニトロには起爆装置が付いており、立花が日本を離れた瞬間に爆破される。それまでにフェリーを見つけなきゃ何人の命が奪われるか分からない!
そこで木暮課長が、300名の乗客を乗せた東京湾フェリー“しらはま丸”が連絡不能になってるとの情報をキャッチします。
「団長、時間はあと30分ちょっと。どうしますか!?」
「……ヘリを使おう」
「自分が行きます!」
「行かせて下さい、団長!」
ここで初めて沖田が「団長」という呼び名を口にしました。イコール、絶対服従への誓い。不謹慎だけど「ハイル・ヒトラー」みたいなもんです。
「課長、大丈夫でしょうか? あの沖田で。この大事な時に!」
「大事な時だからこそ、団長はヤツに賭けた。ヤツが本当の団員として迎えられる為にもだ。オレも大門に賭ける」
300人の命を博打に使うとは、まさに狂人中の狂人たち!
「ポッポ、わざとゆっくり先導して時間を稼げ!」
この圧倒的な物量たるや! タイトルバックにも流用されるショットとは言え、これぞまさに“第1話”の凄味です。
一方、若手の“ジョー”こと北条刑事(御木 裕)とヘリを飛ばし、上空から“しらはま丸”とライフル部隊の姿をキャッチした沖田は、またもや命知らずな行動に出ます。
「何をするんです、ムチャですよ!」
「ボケっとしてないで援護しろ!」
空からジョーが撃ちまくり、沖田が船上でトドメを刺す。こんなアクションが毎週、当たり前のように観られた夢の時代。
「お前は騙されてるんだ。誰もお前を迎えに来やしないんだよ!」
聞き分けの無い見張り役を殴り倒し、沖田は起爆装置の解体にチャレンジするも……
振動を与えずに解体するのは不可能と判断し、ニトロを抱えたまま縄梯子で上空へと舞い上がり……
「もっと船から離れろっ!!」
爆発に巻き込まれる危険も顧みず、ニトロを東京湾にポイ捨てするのでした。
フェリーの無事を確認した団長が、スペシャル仕様の日産サファリ4WDで立花の行く先を塞ぎます。
「何のつもりだ、大門!? 船が吹っ飛ぶぞ!」
「フェリーのニトロは処理した。立花、やってみろ!」
銃撃戦という名の皆殺し、開始!
『西部警察』シリーズも徐々にコンプライアンスを気にし、敵の生死が曖昧になって行ったような記憶があるけど、今回はまだちゃんと殺してます。
そりゃ何十人もの命を平然と奪った連中ですから、処刑されて当然。現実世界じゃ有り得ないからこそ、ドラマの中でやるんです。
なにはともあれ、事件解決。パート2がスタートして初めて、団長が笑顔を見せました。
「よくやったな、角刈り!」
「あざーす、角刈り!」
何度もすみませんw 実際は「ゴロー、よくやったな」「団長……」という掛け合いでした。新入りが初めて団長に下の名前(あるいはアダ名)で呼ばれる時が、すなわち“団員”として認められた瞬間。2回も死にかけてやっとです。
徹底して荒唐無稽!
だからこそ大好き! 唯一、「団長の為なら死ねます」みたいな軍隊スピリットが非常にニガテだけど、それも今となっては昭和の風物詩として楽しめます。いやホント、それを見て笑ってられる平和が続いて欲しい。
1話の中で陸海空の大型モビルをチャーターし、2箇所におけるアクションを同時展開させるハリウッド大作並みの見せ場作りも、通常の3倍にあたる(と云われてる)制作費をかけた『西部警察』シリーズならでは。
ただ、さすがに毎回ここまで豪華には出来ないから、やっぱり第1話はスペシャル中のスペシャル。このシリーズは最終回も凄かったけど、ここから始まるワクワク感は初回でしか味わえません。至高です。
セクシーショットは捜査課の事務員=美子役の小野田かずえさんと、七重さん(吉行和子)の営むスナックで歌手を務めるアイ子役の豊島ひとみさん、そして二代目となる団長の妹=明子役の登亜樹子さん。
さすがにこの若さで団長(推定40歳)の妹ってのは……