☆第703話『加奈子』(1986.7.18.OA/脚本=古内一成/監督=高瀬昌弘)
建設中のビルから宮田(山本紀彦)というビジネスマンが転落死します。その時、宮田と一緒にいた加奈子(竹井みどり)というOLは、彼の恋人=ひとみ(佐藤恵利)のルームメート。
以前ひとみに紹介されて面識のあった宮田が、街でたまたま加奈子を見掛け、車で送ってくれる途中で夜景を見るためビルに上り、悪ふざけしてる内に誤って転落したという加奈子の証言に、ダサいマイコン(石原良純=笑)はあっさり納得しますが、ダサくないデューク(金田賢一)は違和感を覚えます。
後日、事故現場における検証を行い、デュークは加奈子の証言の細かい矛盾点を次々指摘し、彼女の反応、特に目線の動きを観察します。
最初にデュークは「緊張をほぐす為に」と言って出身校の校歌を唄わせ、加奈子が記憶を掘り起こす際の目線の動き、その癖を確認した上で、事故に関する質問に入りました。
人は嘘をつく時、通常とは逆方向に目線が動く傾向があり、それを観察すれば証人がどの質問に対して嘘をついてるかが判別出来る。そういう心理学を応用した尋問法は今でこそポピュラーだけど、当時はほとんど知られてなかった筈で、やっぱりデュークはマイコンと違って優秀です。
結果、加奈子の証言に複数の嘘があることを確信したデュークは、彼女と宮田の周辺を徹底的に捜査し、事故当夜、実は加奈子が宮田を呼び出して喫茶店で会っていた事実を突き止めます。
加奈子は、ルームメートであり無二の親友でもあるひとみが、過去に何度も男に騙されて来たもんだから、くれぐれも大切にしてやって欲しいとお願いする為に、宮田を呼び出した。それを警察に隠してたのは、ひとみに知られたくなかったから、と証言を新たにします。
「分かります。いくら親友でも、そういうことを言われたと知れば傷つくに決まってますからね」
そんなダサいことを言うのは勿論マイコンで、ダサくないデュークは全然納得しません。
「彼女はまだ2つ嘘をついている。1つはホトケを呼び出した理由。そしてもう1つは、ホトケが落ちた状況だ」
これはまるで、山さん(露口 茂)が言いそうな台詞です。しかし既にこの時、山さんは殉職して七曲署に存在しません。
当初はスコッチ(沖 雅也)、ジプシー(三田村邦彦)に次ぐ「クールでハードな一匹狼」キャラとして登場したデュークが、名探偵ホームズや刑事コロンボを彷彿させる理論派の謎解き刑事、つまり山さんの路線を引き継ぐキャラクターにシフトチェンジしてるのが、このエピソードを見るとよく分かります。
しかもこの時期、ボス=石原裕次郎さんも病気療養のため長期欠席中なんですよね! ボスも山さんもいない上、マイコン以外のメンバー=ドック(神田正輝)、マミー(長谷直美)、ブルース(又野誠治)、トシさん(地井武男)も別の事件を捜査中で、本筋にほとんど絡んで来ない。
だから今回はほぼデュークの一人舞台で、描かれる事故(事件?)の内容といい、まるで『相棒』を観てるような錯覚に陥ります。それがかえって新鮮とも言えますが、久々に観るとあまりに刑事部屋が広く見えて、めちゃくちゃ寂しいです。
ピンチヒッターとして署長(草薙幸二郎)が指揮を執ったりしてるのがまた、余計に『太陽』らしさを損ねてる感じで、ホントまるで別の番組を観てるようです。
まぁそれはともかくとして、デュークの飽くなき追究により、やがて真相が明かされます。
親友のひとみを傷つけたくないっていう、加奈子の気持ちは本物だった。けど、そうやって他者のことばかり気遣う優しさと生真面目さが、加奈子自身の心を疲弊させていた。
で、1年ほど前に加奈子は「別人になりたい」と思い詰め、一度だけ派手めのメイクをしてホテルのバーに出掛けた。その時にちょっとしたイケメンからナンパされ、一夜限りの関係を結んだものの、何ら心が満たされることはなく、残ったのは後悔だけ。
そして数ヶ月後、ひとみが新しい彼氏として連れて来たのが、その一夜限りの関係を結んだナンパ男=宮田だったから驚いた! あんな最低ナンパちんぽこ豚野郎と付き合ったら、またひとみが傷つく事になってしまう!
そう、加奈子が宮田を呼び出した本当の目的は、ひとみと別れさせることだった。で、宮田はそれを了承しながらも「その代わり一発やらせて!」と迫り、逃げる加奈子を捕まえようとして足を滑らせ、ビルから転落した。ほんと、これはまるで『相棒』みたいなお話です。
「出来ればこんなこと、ひとみには知られたくなかった……」
「知ることは無いでしょう。いつか、彼女にも恋人が出来ます。勿論あなたにも。その時もう一度、彼女と会ってごらんなさい。きっとまたいい友達に戻れますよ」
刑事として冷徹に真実を追及しながら、人間としては加奈子の気持ちを尊重し、真実は闇に葬ることを決めたデューク。到底マイコンには出来ない芸当です。理由は、ダサいからです。
「結局、新しい事実は何も出なかったのか? ご大層なことを言いおって」
さんざん捜査を長引かせておいて、当初の見立て通り単なる事故死かよ!?とご立腹の署長に背を向け、独り歩き去るデューク。それがラストシーン。ここで本来なら、ボスがねぎらってくれるんですよね。やっぱ寂しいです。めちゃめちゃ寂しい。
だけど、殿下(小野寺 昭)みたいなルックスをした山さん、とでも言うべき新しいデューク刑事像は確立しつつあり、なのにその完成を待たずして番組終了が決定、しかも最終回直前に降板という顛末は、かえすがえすも残念でした。
アクションは駄目だったけど、山さんのキャラを受け継ぐなら問題無いし、台詞回しにやや難はあったけど、それも場数を踏めば向上していった筈。もうちょっとデュークの活躍を見たかったですね。
ヒロイン=加奈子を演じた竹井みどりさんは、当時27歳。女優デビューは16歳で、特撮ヒーロー物から日活ロマンポルノまで幅広く活躍。
刑事ドラマでは『熱中時代/刑事編』のレギュラー(潮田めぐみ役)が印象的ですが、他にも『非情のライセンス』『夜明けの刑事』『西部警察』『鉄道公安官』『警視庁殺人課』『噂の刑事トミーとマツ』『私鉄沿線97分署』『スーパーポリス』『あぶない刑事』『あいつがトラブル』『刑事貴族』等々、ゲスト出演多数。
中でも『太陽にほえろ!』は3回、『特捜最前線』は6回、『Gメン'75』に至っては9回と、まさに引っ張りだこ。刑事ドラマのミューズですよね。
1 コメント
コメント日が
古い順 |
新しい順
- Unknown (ムーミン)
- 2019-01-11 22:36:38
- 竹井みどりさん素敵でしたよね。今は所在不明らしいです。残念ですね。
- 返信する
規約違反等の連絡