さて、3年目に突入した『太陽にほえろ!』は、またもや大胆な賭けに出ます。松田優作に続いて全く無名の新人俳優をキャスティングするワケですが、これまでの人気を築いたショーケンさんや優作さんの、長髪で反体制的なイメージとは正反対な人を選んじゃうんですよね。
それがテキサス刑事こと勝野 洋さんです。角刈りで、いかにも体育会系の爽やかさですから、マカロニやジーパンのアウトロー的な格好良さに憧れてたファンは、それこそ「なんじゃこりゃあー!?」てな反応だったかも知れません。
実際、私より上の世代の男子は、テキサスで視聴をやめちゃったと仰る人が多いです。当然、それは覚悟の上のキャスティングだったかと思います。でも、まだ幼かった私はコワモテのジーパンよりもテキサスの方が親しみ易くて、かえって『太陽』ワールドに引き込まれる羽目になりました。
『太陽』の生みの親である岡田晋吉プロデューサーは、番組の視聴率が30%を超えた時点で、若者以外のファン層を意識されるようになったそうです。子供からお年寄りまで、幅広い層に受け入れられるキャラクターが必要だと。
それと、番組人気が拡大した分、社会的な責任も負わなくちゃならないって事で、若い世代の模範になり得るキャラクターにもしたかった。ずっと青春ドラマを創って来られた方だけに、非常に生真面目なんですね。
マカロニは長髪だし反抗的だし言葉遣いは悪いし、ツバは吐くわ立ちションするわでw、その不良性こそが魅力とは言え、若者の模範には程遠かったワケです。ジーパンは純朴キャラだけど、ボソボソ喋るし煙草は吸うしグラサンしてるし喧嘩は強すぎるし、でもカッコイイから子供は真似したがるワケで……
30%以上の家庭で観られる番組になったからには、視聴者に与える影響も考えてドラマ創りをしないといけない。そんな『太陽』の良心を象徴するキャラクターがテキサスなんですね。
なお、シンコ(関根恵子=高橋惠子)はジーパン殉職を機に退職、お茶汲みの久美ちゃん(青木英美)もテキサス登場から間もなく降板。代わって2代目マスコットガール「チャコ」こと長山久子役で浅野ゆう子さんがレギュラー入りします。
ご存知でしたか? 後にトレンディー女優の代名詞になる浅野さんが、七曲署でお茶汲みをしていた事を! 実は浅野さん、『太陽』ファンの女性達から嫌われ、カミソリ入りの手紙を山ほど送られて、やむなく1クールで降板せざるを得なくなったんだそうです。
当時まだ14歳のアイドル歌手だった浅野ゆう子さんですが、どうやら華があり過ぎたんですね。前任の青木英美さんも洗練されてて色気があったけど、同時に庶民的な感じもあって女性の反感は買わずに済んだ。
キャラクター的にはクミもチャコも大して変わんないのに、あまりに整いすぎた浅野さんのルックスと、何より14歳という若さが、殿下あたりに萌える女子たちの嫉妬を思いっきり買っちゃったワケです。
まだ少女の浅野さんにはお気の毒でしたが、これも当時の『太陽』人気を物語る裏エピソードかと思います。
#112 テキサス刑事登場!
さて、3代目の新人刑事、その名は三上 順。ちなみに初代のマカロニが早見 淳、次のジーパンが柴田 純。なので三代目の「ジュン」って事で三上順。
ニックネームの「テキサス」は、自分の命を狙う犯人をおびき出そうとした彼が、より目立つようにとテンガロン・ハットを被ったから。
実際は岡田晋吉プロデューサーやチーフ脚本家の小川 英さんらがミーティング中に、テレビをつけたら西部劇をやってたもんだから「よし、テキサスで行こう」とw
意外と安易なプロセスで決まっちゃう『太陽』新人刑事のニックネームですが、勝野洋さんを見てると本当に「テキサス」そのもの、他の名前は全く考えられないのが凄いです。
勝野さんは劇団員ではあったものの本来は裏方志望で、実はこの大抜擢オファーを何度も断ってたんだそうです。
それでも岡田Pに食い下がられ、根負けして「ほんとに僕は芝居出来ないですよ」と念押しし、渋々出演する事にw で、いざ撮影が始まったらホントに芝居が出来なかった!
ボス=石原裕次郎さんが「やれやれ、『太陽』もテキサスで終わりだな」とボヤかれた位、初期の勝野さんはホントに下手だった。だけど、それでも一生懸命に取り組む姿が劇中のテキサス像と重なり、視聴者のハートに響いたのか、気がつけばマカロニやジーパンを凌ぐ人気者に。
と同時に、芝居が拙いテキサスをカバーすべく他のレギュラー刑事たちの活躍もより一層強化され、全員が主役として成立する『太陽にほえろ!』のスタイルが確立する事にもなりました。
テキサスで終わりどころか、いよいよ巨大なお化け番組となって日テレの看板を背負う存在になった『太陽』は、同じブレーンで萩原健一&水谷豊の探偵物『傷だらけの天使』、松田優作&中村雅俊の刑事物『俺たちの勲章』等、副産物としての新たな人気ドラマも生み出して行きます。
それを見て他局が手をこまねいてる筈がなく、大スターを起用して勝負をかけた刑事ドラマが次々と登場する事になります。その中でいち早く人気を獲得したのが、丹波哲郎さんをボスに据えたTBSの『Gメン’75』です。
#116 マカロニ・ジーパンそしてテキサス
着任早々、早くもテキサスが絶体絶命の危機に陥り、一係メンバーたちの脳裏にマカロニとジーパンの死がよぎります。
その回想シーンで、私は初めてマカロニ刑事の姿を観ました。本放映当時、私はジーパン時代の後期から番組を観始めたので、映像でマカロニを見る機会がそれまで無かったんですね。
当時の私は小学生で『太陽』以外は特撮ヒーロー物やアニメしか観てなかったから、ショーケンさんの事もよく知らず、ゆえにあの独特な佇まいには衝撃を受けました。新人刑事が背広を着てる事が、逆に新鮮でもありました。
悪役ゲストは真屋順子さんと「死神博士」こと天本英世さん。お2人とも実に不気味でしたw
#122 信念に賭けろ!
ゴリさん(竜 雷太)に恋人が出来ます。お相手の道代さん(武原英子)は実直なお人柄で、誠実で不器用なゴリさんとお互い敬語で会話する初々しさが、観ていて微笑ましく心地良かったです。
殿下(小野寺 昭)は既に2人の女性(有吉ひとみ、真野響子)との恋愛が描かれてますが、貴公子のスマートなロマンスには興味ありませんw
#126 跳弾
テキサスが犯人追跡中に、川の水面に向けて威嚇射撃した弾丸が、川べりを歩いていた通行人に当たって重傷を負わせてしまいます。
弾丸が水面上で跳ねて方向が変わってしまった不慮の事故なんだけど、テキサスが水面に向けて撃った事実が証明出来なければ、免職どころじゃ済まなくなってしまう……
現実にも起こり得る問題をドラマに取り入れた意欲作で、こうして拳銃の使用を巡って刑事が裁かれる立場に回っちゃうエピソードは、以降も『太陽』でたびたび描かれることになります。
☆1974年
#132 走れ!ナポレオン
『ドーベルマン・ギャング』だったかと思いますが、訓練されたドーベルマン犬が銀行強盗に利用されるアメリカ映画がヒットして、『太陽』でもそれをモチーフにしたエピソードが創られました。
ここで強盗の片棒を担ぐのは3匹のシェパードで、その内の1匹がナポレオン。負傷したナポレオンは、面倒を看るテキサスと心を通わせるようになり、犯人逮捕に協力します。
そしてナポレオンは警察犬に採用され、「ジュン」と改名されて『太陽』のセミレギュラー出演者として長期に渡り活躍、私らファンも「犬シリーズ」と呼んで楽しみにしてました。
今の眼で見ると、テキサスの殉職を知ったジュンが涙を流したりw、ちょっと擬人化が過ぎて苦笑しちゃう場面も多いんだけど、そんな演出にも何となく納得させられるような勢いが、当時の『太陽』にはありました。
現に、明らかにこの犬シリーズの影響を受けたであろう『刑事犬カール』や『爆走!ドーベルマン刑事』といったTVシリーズが、後に創られましたからね。多部未華子さんの『デカワンコ』もその延長線上にあると言って差し支え無いでしょう。
#149 七曲藤堂一家
ボスに昇進の話が持ち込まれますが、一係メンバーを家族のように思うボスにその気は無い。けど、「君が動かなきゃ部下(山さん)も出世できないじゃないか」と言われて、心が揺らぐ……
張り込み捜査で銭湯に入ったテキサスが、ゲイだと勘違いされてオジサンに迫られる珍場面があるんだけど、後に中村雅俊&勝野洋の劇場映画『刑事珍道中』でも又、銭湯で「ホモ牛乳」を呑む勝野さんを見て雅俊さんがビビる場面がありましたw 実際に勝野さんがやたらゲイにモテるのをパロったネタらしく、どちらも鎌田敏夫さんによる脚本です。
「藤堂一家」と言うとヤクザみたいに聞こえるけど、これはストレートに「家族」の意。決して「軍団」とは呼ばせない所が『太陽』の『太陽』たる所以かと思います。
#155 家族
『太陽』はある意味、ドラマの総合デパートです。ボスが主役ならハードボイルド、テキサスなら青春(成長)ドラマ、ゴリさんなら熱血アクション、殿下なら女性絡み、山さん(露口 茂)なら本格ミステリーと、誰がその週の主役を勤めるかによって並ぶ商品が違って来るんです。
そんな中で最年長の長さん(下川辰平)は、最もスタンダードな捜査ドラマを見せてくれました。現実の警察関係者たちが口を揃えて「長さんが一番リアル」と評した程に、最も刑事らしい刑事が長さんでした。
捜査一係で唯一人、ごく普通の家庭を築いてる点でも、長さんってスタンダードな存在なんですよね。山さんは奥さんが病弱で子供が授からず、後に養子をもらう事になるし、他のメンバーはボスをはじめ全員、チョンガー(独身)ですからね。
だから長さんは『太陽』デパートのホームドラマ売り場も担当、娘の思春期から結婚問題、息子の反抗期から受験、就職問題に至るまで、10年に渡って描かれる事になります。
で、この『家族』ってエピソードは長さんファミリーが旅行先で事件に巻き込まれる話で、とても印象に残ってます。
刑事の家族が危険に晒される話は他のドラマにもあるでしょうけど、家族全員が犯人と対決する羽目になるシチュエーションって、けっこう珍しいのでは? 全員キャラが立ってる長さんファミリーだからこそ成立するエピソードかも知れません。
#163 逆転
完全犯罪による殺人を目論んだのは、山さんに捜査のイロハを叩き込んだ先輩刑事にして、現職の警視(西村 晃)。自分の手の内を知り尽くす師匠を相手に、山さんはその完璧なるトリックとアリバイを突き崩す事が出来るのか?
髪の毛が伸びるにつれ、服装や仕草が刑事コロンボ化して来た山さん(露口茂さんは実際、ピーター・フォークの自然な演技に感銘を受けておられたそうです)。その主演エピソードも、身分の高い知能犯と取調室や法廷で対決する、コロンボ的な内容が多くなって行きます。
でも、単なるコロンボの劣化コピーに留まる事なく、切れ味鋭い山さんならではの渋い味わいと、露口さんの計算され尽くした演技力、そして藤堂一家メンバー達のサポートにより、どれも実に見応えある作品に仕上がってました。
#167 死ぬな!テキサス
マカロニもジーパンも着任から丸1年で殉職したもんだから、心配したファン達から「テキサスを殺さないで!」っていう助命嘆願書が局に殺到し、殉職をあまりパターン化させたくない岡田Pの意向もあって、テキサスの寿命はもう1年延びる事になりました。
この「死ぬかと思ったら助かっちゃった」エピソードもまた恒例となり、テキサス以降の新人刑事は代々、着任から1年目で必ず死にかける事になりますw
でも実際、仕事を覚えて自信がついて来た時期に、つい調子に乗って危ない目に遭うというのは、一般社会でもありがちな事かも知れません。
このエピソードをもって、1人の新米刑事の成長過程を描く青春ドラマとしての『太陽にほえろ!』は終焉を迎え、ボン(宮内 淳)が登場する次回からは又、新たなステージへと進む事になるのでした。
(つづく)
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます