「へへ、お客さんを連れて来たよ。ショッカーの一味だ」
「えっ、ショッカー?」
捕虜にした戦闘員を連れ込み、ドヤ顔で笑う本郷 猛(藤岡 弘)を見て、ショッカーに父を殺された身である緑川ルリ子(真樹千恵子)は、ちょっとイラッと来たかも知れませんw
「さぁ、アジトを吐いてもらおうか」
「言いなさいよ!」
猛よりもルリ子の迫力に圧されたのかw、戦闘員はアジトの場所を素直に吐いたようで、猛はサイクロン号を飛ばします。
ブレザーにネクタイ、しかもノーヘルという格好で、バイクを猛スピードでかっ飛ばす正義の味方w ヘルメット着用が義務づけられるのはこの翌年であり、猛は優秀なレーサーである前に科学者ですから、衣裳はいつもブレザーなのです。
ちなみにこの衣裳は藤岡さんの自前で、たった1着しか無かったそうですw バイクも通常バージョンと変身後バージョンそれぞれ1台ずつしか無く、日々のメンテナンスが大変だったとか。それほどギリギリの予算で創られてたワケですね。
ショッカーの秘密アジトも毎回場所が違う設定なのにセットは1つしか無く、美術さんがいつも徹夜で壁に彩色を施し、違う場所に見せてたそうです。
そういった1つ1つの苦労が、味となって画面から伝わって来ますよね。ライダーマスクの造形が変わって行くのも破損と改修を繰り返してたからで、その違いを見分けるのがまた、マニアの楽しみになってたりするワケです。
そうした手造りの作品から伝わって来る楽しさや温かみは、CGなんかじゃ絶対に味わえません。それこそが昭和の特撮ヒーロー最大の魅力じゃないかと、私は思います。
さて、予定の12時ピッタリにユキエの改造テストを開始する、律儀で真面目なショッカーたちw
当時大流行してたミニスカート姿で手術台に縛りつけられたユキエ(篠 雪子=後の太田きよみ)が、もがきながら「あ……ああ……んん……」なんて声を洩らすもんだから、戦闘員たちのタイツが一斉にモッコリします(うそw)。
そしていよいよ…と思ったところで空襲警報みたいなサイレンが鳴り響き、あえなく中止。悪党のくせにスケジュールに縛られてるから、そんな事になるw
ライダーvsショッカーの第2ラウンドは、ライダーがサイクロン号で戦闘員たちを片っ端から跳ね飛ばすという、なかなかに凶暴な戦法。
そのままアジトの壁を突き破って改造手術室に乱入したライダーは、ユキエの姿を見た途端に自分の股間(ライダーコック)を両手で隠します(うそw)。
「とおーっ!!」
同じく股間を隠してる戦闘員たちを蹴散らしたライダーは、ついにユキエを救出します。
ところが、一難去ってまた一難。怪人サラセニアンが戦闘員No.3を暗殺に向かってる事をユキエから聞いたライダーは、ルリ子の部屋へトンボ返り。
サラセニアンは既に戦闘員No.3をオーソドックスに絞め殺し、ケンジ(五島義秀)を守るルリ子とひろみ(島田陽子)に迫ってました。この場面がまた、東映のお家芸とも言える怪奇ホラー風味で、怖いったらありゃしないw
番組初期はこのホラー演出こそが売りだったんだけど、視聴者から「子供が怯えて困る」とのクレームが殺到し、2号ライダー篇のスタートを機に明るい作風に切り替えたんだそうです。
あわやのところで駆けつけた本郷ライダーの登場カットがまた、暗闇&逆光の中で、ライダーの赤い眼だけが光るという不気味さなんだけど、それがまた鳥肌ものの格好良さ!
恐ろしさと格好良さは表裏一体で、仮面ライダーにせよウルトラマンにせよマジンガーZにせよ、悪魔的とも言えるルックスのいかつさこそが、実は最大の魅力なんじゃないでしょうか?
第3ラウンドは暗闇の中におけるライダーvsサラセニアンの一騎討ち。夜間撮影が多いのも旧1号篇の特徴で、それはダークな世界観を創り出す目的もありつつ、タイトなスケジュールで膨大な撮影量をこなすには、夜もぶっ通しでやるしか無いという、現実的な事情があったのかも知れません。
ライダーが必殺技を繰り出す際に、ジャンプ&空中回転する事でベルトの風車に風圧を与え、エネルギーを充満させる過程がそのつど描かれるのも、初期にしか見られない演出だったように記憶します。
「ライダーキック!!」
「エヘ…エヘ…エヘエヘエヘ……」
何しろ植物の怪人だけに、これといった武器も持たないサラセニアンは、ライダーの敵ではなかったようで、あっけなく倒れます。
戦闘員1人を殺した以外は誘拐ぐらいしかしてないし、元は普通の人間であった事を思えば、ちょっと気の毒な感じもしちゃいますね。
ケンジの頭を撫でてから、暗闇の中をサイクロン号で去って行く仮面ライダー。このビジュアルはもしかすると、近年のクリストファー・ノーラン版『バットマン』シリーズに影響を与えてるんじゃないでしょうか?(撮り方がソックリです)
「あのお兄ちゃんは誰?」
「ケンちゃん。あのお兄ちゃんが、仮面ライダーなのよ」
「仮面ライダー?」
まだ仮面ライダーが世間に認知されてない世界観が、今となっては新鮮ですね。ストーリーに子供が絡んだのも今回が初めてで、ショッカーからの「逃亡者」が「ヒーロー」としての第1歩を踏み出した、記念すべき瞬間かも知れません。
「ケンジ!」
「お姉ちゃん!?」
ライダーと入れ替わりに、本郷 猛がユキエを連れて現れました。この辺りは先発ヒーローの『ウルトラマン』を意識した作劇でしょうか?
翌朝、猛の職場である城南大学生化学研究所の表で、ケンジとユキエが猛を待ってました。あらためてお礼を言うケンジの頭を、猛がそっと撫でます。
「あれぇ? 仮面ライダーとおんなじだ」
「えっ……何が?」
「ライダーも、お兄ちゃんと同じに頭を撫でてくれたよ」
「ハハ、お兄ちゃんはね、仮面ライダーみたいに強いお兄ちゃんじゃないんだよ」
「でもさ、約束守ってくれたじゃん。お姉ちゃんを連れて来てくれたもん」
ヒーロー番組としては何でもない会話だけど、初期ライダーは猛の孤独が強調して描かれてるだけに、これは結構グッと来ます。猛がユキエの捜索に動いたのは、ケンジの懸命さがあればこそ。姉と弟の絆が、今回の事件を解決に導いたワケです。
しかし、手をつないで駆けて行く姉弟を見送る猛の表情は、なんだか切なそうに見えます。そこで、中江真司さんのナレーションが……
「人々は皆、互いに支え合う者を持っている。兄弟、恋人、夫婦……様々な愛の絆で結ばれている。しかし今の本郷 猛には、そのどの愛も許されてはいない。改造人間としての猛には、いつ果てるともない、ショッカーとの暗く孤独な戦いが、明日もまた待っているのだ!」
暗いのだ! 切ないのだ! だが、恐らくこれこそが、原作者=石ノ森章太郎が本来描きたかったヒーロー像なのだ! だから……
これでいいのだ!
仮面ライダーは本当に神様の存在を感じずにはいられません。
藤岡さんの事故による変身ポーズの登場、あと真偽は不明ですが視聴率が振るわないので巨大化案もあったようで、13話のトカゲロンはその名残で怪獣ライクなデザインらしいです怖
旧1号は私も昭和ライダーで一番好きですが、藤岡さんが事故らなければとんでもない実験作品になったかもしれませんね…
数々の偶然と必然が重なって出来た作品のフォーマットが、結果的にそのジャンルのスタンダードになった点では初代ウルトラマンやマジンガーZ、太陽にほえろ!等も同じで、それらが'70年代初期に集中してるのは決して偶然じゃないんでしょうね。
テレビ番組に大胆な実験、冒険が許された時代背景があればこそ生まれ得た番組たちで、エヴァンゲリオン以降そんな番組は生まれてないし、もう二度と生まれないのかも知れません。