私が『仮面ライダー』を観始めたのは2号ライダー(佐々木 剛)から、それも午前中(夏休み?)の再放送だったと記憶してます。
だから初代の本郷 猛=藤岡 弘さんは、復帰後の「新1号ライダー」のイメージが強かったですね。
特撮ヒーローファンの間じゃ常識的に知られてる事ですが、藤岡さんは第10話あたりの撮影中にバイク事故で複雑骨折の重傷を負い、しばらく戦線離脱を余儀なくされました。つまり2号ライダーの登場は予定されてた事じゃなくて、主役負傷という大アクシデントによる苦肉の策だった。
藤岡さんが無事に復帰出来るか否か未知数だったにも関わらず、その復活を信じ、それまでの繋ぎとして、藤岡さんと仲の良かった佐々木さんが2号ライダー役を引き受けたんだそうです。
現在のテレビ業界じゃ絶対にあり得ない事だけど、番組初期は藤岡さんが自らライダーマスクを被って、変身後のアクションも演じておられたんですね。
その上、低予算ゆえの過密スケジュールで、疲れがピークに達してる時にバイク走行の撮影をし、恐らく集中力が一瞬途切れて転倒されたんじゃないかと推察します。
その時の藤岡さん並びに番組関係者たちの焦りと絶望たるや、計り知れないものがあった筈ですが、それが2号ライダー登場という画期的なアイデアを生み、藤岡さんの復帰によってWライダー揃い踏みというイベント篇まで生んで、それが更なる人気爆発に繋がったワケですから、まさに究極の「怪我の功名」と言えましょう。
で、ここではバイク事故前の仮面ライダー(いわゆる旧1号)を取り上げたいと思います。
子供の時は後期の明るい王道ヒーローぶりが好きだったけど、今あらためて(オトナの眼で)観ると、少々ダークでハードボイルドな旧1号篇が、そのシンプルなコスチュームも含めて一番カッコ良く感じます。
中でもこの第4話は、あの市川森一さんが脚本を書かれた唯一の『仮面ライダー』だったりします。(企画から参加されてたものの、他作品で忙しく、1本しか執筆出来なかったそうです)
☆第4話『人喰いサラセニアン』
(1971.4.24.OA/脚本=市川森一&島田真之/監督=折田 至)
♪迫る~ショッカー~地獄の軍団~…っていうお馴染みの主題歌『レッツゴー!!ライダーキック』ですが、なんと最初期は藤岡さんが自ら唄われてたんですよね!
初めて旧1号篇を観た時に、一番驚いたのがコレでした。子門真人さんの歌声がDNAレベルで染みついてましたからね。藤岡さんの歌唱力については、ノーコメントとさせて頂きますw
第4話は向ヶ丘遊園のシーンからスタートします。「花のオランジェリー」なる植物園で、歳の離れた姉弟が食虫植物のキングサラセニアを観察していると、なんと植物が怪人サラセニアンに変身し、姉のユキエ(篠 雪子=後の太田きよみ)を蟻地獄みたく地中に引きずり込んだ!
「きゃあーっ! 誰かたすけてぇーっ!!」
「お姉ちゃん!?」
初期の『仮面ライダー』は「SF怪奇アクションドラマ」と銘打つほど、ダークで不気味な演出を売りにしてただけに、この場面もチビッコ視聴者にとってはトラウマ必至の恐ろしさ。
植物園を飛び出した小学生の弟=ケンジ(五島義秀)は、たまたま遊びに来てた緑川ルリ子(真樹千恵子)と野原ひろみ(島田陽子)に保護されます。
緑川ルリ子は、ショッカーに拉致されて改造人間の開発に協力させられた(つまり仮面ライダーの生みの親)緑川博士の一人娘で、やがて本郷 猛に想いを寄せるようになるんだけど、藤岡さんの戦線離脱により巻き添え降板させられた悲劇のヒロインでもあります。
その親友でセミレギュラーの野原ひろみを演じるのは、デビューして間もない頃の島田陽子さん。この後『続・氷点』や『われら青春!』等で注目され、米国ドラマ『SHOGUN』に抜擢されて国際女優と呼ばれるようになります。
「えーんえんえんえん。お姉ちゃんが、お姉ちゃんが。えーんえんえんえん、えーんえんえんえん」
当時の子役たちは、本当に演技がヘタクソですw ちゃんと感情を作って、本物の涙を自由自在に流して見せちゃう現在の子役たちとは雲泥の差。
上手な子役は数少ないゆえギャラが高騰し、低予算の番組じゃ雇えない事情もあったでしょうが、明らかに眼薬の涙を単調に拭いながら棒読みで台詞を「言わされてる」感じが、当時としては当たり前の光景でした。
私なんかは、その方が観てて安心します。幼い子供が自由自在に涙を流せちゃう事の方がよっぽど不自然で、恐ろしいです。
「ええっ? 花に食べられた?」
ルリ子とひろみはスナック「アミーゴ」にケンジを連れて行き、本郷 猛らに事情を話すのですが、マスターの立花藤兵衛(小林昭二)は、にわかには信じられないご様子。
皆さんご存じかと思いますが、この立花のおやっさんは後にレーシングチームや少年ライダー隊の代表を務め、歴代の仮面ライダーたちの良き理解者として活躍する、昭和ライダーシリーズに欠かせない存在です。
演じる小林昭二さんは『ウルトラマン(初代)』の科学特捜隊キャップとしても知られており、2大特撮ヒーロー両方にレギュラー出演された偉大なる俳優さんなのですね。
ちなみに、企画初期の段階では立花藤兵衛に高品 格さん、本郷 猛に近藤正臣さん、緑川ルリ子に島田陽子さんというキャスティングが予定されてたそうです。
さて、一般市民である藤兵衛にはピンと来なくても、猛は何しろショッカーによって拉致され、改造人間にされた身ですから、ケンジの姉=ユキエが同じ目的でさらわれたであろう事を直感で察知します。
両親を亡くしたケンジが、ユキエと2人だけで暮らすアパートを訪れ、手掛かりを探す猛。
「この小さなアパートの中で、二人は力いっぱい生きてるんだ……そしてユキエさんは、ケンジ君にとっての父であり、母であり、まだ幼いケンジ君にとっての全てなんだ……ユキエさん、植物園でいったい何が起こったと言うんだ?」
猛自身も家族がいない上、改造人間であるという特殊な存在ゆえに、とてつもない孤独感を抱えてる。ケンジに同じ想いをさせない為にも、猛はユキエの救出に強い使命感を燃やします。
「ケンジ君。きっとお兄さんがね、お姉さんを探してあげる。だから、もう泣くんじゃないぞ。ね?」
ケンジを勇気づけようとして、猛は彼の手をギュッと掴みます。すると……
「痛い! 痛い!」
そばにいたルリ子が、慌てて猛をケンジから引き離します。
「手を離して! こんなに赤く腫れ上がっちゃって……痛かったでしょ、ケンちゃん?」
そう、猛は改造人間ゆえに、変身前でも人並み外れたパワーを有してる。第1話でも、普通に水を飲もうとしたら水道の蛇口を引きちぎっちゃった、なんていうショッキングな描写がありました。
「俺は……俺はショッカーによって、子供をもあやせない身体になっていたのだ……」
なんとも暗い話ですがw、そういうシビアな孤独感が強調されるのも旧1号篇ならではの特徴で、市川森一さんらしい描写とも言えましょう。
「お兄ちゃん! お兄ちゃん待って!」
たまらずアパートを出て行った猛を、飛行機のプラモデルを持ったケンジが追いかけます。
「お兄ちゃん、ボクのプラモデルあげるから、お姉ちゃん見つけて!」
プラモデルに惹かれたワケでもないでしょうがw、猛は気を取り直します。
「……分かった。必ず見つけてあげる。必ずね」
独り捜索に向かう猛の後ろ姿に、中江真司さんのナレーションが被ります。
「改造人間・本郷 猛……ショッカーの恐ろしさを知るただ1人の人間として、ショッカーとの戦いに命を懸けているのだ!」
現場百回って事で植物園を捜索する猛を、ショッカーの戦闘員たちが襲撃するのだ! 戦闘員が投げたナイフでケンジのプラモデルを真っ二つにされた本郷 猛は、怒りに燃えてショッカーのマシン(普通の日産車w)をサイクロン号で追跡するのだ!
ショッカーは日産車の排気口から毒ガスらしき煙幕を噴射するのだ! これでいいのだ!
「くっそぉ、ジャーマンガスだ!」
ジャーマンガスとは、第二次世界大戦でドイツ軍が開発・使用した毒ガスの総称なのだ! サリンもその内の1つなのだ!
「改造人間・本郷 猛は、ベルトの風車に風圧を受けると、仮面ライダーに変身するのだ!」
一世を風靡した「変身ポーズ」が、旧1号ライダーにはありません。2号ライダー役の佐々木剛さんがバイクに乗れない為、風圧を受けなくても変身出来るよう考慮した苦肉の策が、これまた怪我の功名となり、大ヒットに一役買ったのでした。いや、買ったのだ!
さて、ライダーvsショッカーの第1ラウンドは、造成地における戦闘員たちとの格闘です。怪人との一騎討ちよりも、沢山の敵をバッタバッタと倒して行くこのファイトが、私は一番好きでした。
しかも、この旧1号篇では藤岡さんご自身が実際にライダースーツを着て立ち回りされてるワケで、それを頭に置いて観るとなおさら燃えますよね。
崖から派手に転がり落ちていく、タイツ姿の戦闘員たち(大野剣友会)も命懸けだし、ライダー自身も結構な高さから飛び降りて、いつ怪我してもおかしくない本気のアクションです。
あのライダーのマスクは視界が極端に狭く、しかも吐息で曇っちゃうもんで、周りがほとんど見えない状態で藤岡さんは闘っておられるんですよね。
リハーサルを重ねて段取りを頭に叩き込み、本番は感覚だけで動いてたワケです。あんたはジェダイ騎士かよ!? フォースかよ!?ってw、尊敬を込めてツッコミを入れたくなります。武道を究めた藤岡さんでなきゃ出来ない芸当です。
もちろん相手役=大野剣友会の人達による完璧なカバー無くしては不可能な事でもあり、この番組に賭けるキャスト&スタッフの情熱とプロ根性が最もストレートに伝わって来るのが、この立ち回りシーンじゃないでしょうか。
死闘の末に戦闘員たちを蹴散らしたライダーは、その中の1人を捕獲する事に成功します。
他の連中はショッカーの秘密アジトへと逃げ帰り、怪人サラセニアンに状況を報告します。サラセニアンは「エヘ…エヘ…エヘエヘエヘ…」って唸る事しか出来ないのに、戦闘員たちはいっちょ前に日本語を話しますw
例の「ヒィー!」っていうショッカー語は2号ライダー篇以降で、旧1号篇の戦闘員は普通に喋るし、顔も出してます。(不気味なペイントを施すメイクアップに時間がかかる為、2号篇からマスク有りに変更)
「本郷 猛に1人捕まりました」
「エヘ…エヘ…エヘエヘエヘ…」
これでは会話にならないのでw、ショッカーのボス(声=納谷悟朗)がスピーカーから解説を入れます。旧1号篇ではまだ、首領とか死神博士みたいな幹部が存在しないんですね。
「ライダーに嗅ぎつけられたな? サラセニア人間よ、ショッカーの掟に従って、ナンバー3を消しにいけ!」
「エヘ…エヘ…エヘエヘエヘ…」
囚われて身動き取れなくされたユキエが、サラセニアンに話し掛けます。
「何処なんです、此処は!?」
「エヘ…エヘ…エヘエヘエヘ…」
これでは会話にならないのでw、親切なショッカーのボスが代わりに答えてくれます。
「ショッカー・サラセニア人間・地下アジト。その男には、予備注射を打ってある。今からショッカーの改造人間として、肉体改造テストを受けるのだ」
猛が改造手術を受けたのと同じ(と思われる)手術台に、無名の大部屋俳優さんが張り付けられてます。
「その男の身体に5万ボルトの電流を流す。それに耐えられれば、改造人間研究室に送り込まれ、ショッカーの改造人間として働く」
普通は死ぬだろうと思うんでw、このテストを通過した猛の肉体は、改造される前から人間離れしてたワケですね。
「うぎゃあーっ!!」
「10万ボルトに上げろ」
「うぎゃあぁぁぁ…ぁ……」
「もういい。死んだ」
そりゃ死ぬやろw
「酷い、なんて事を!」
「お前も12時から、このテストを受けるのだ」
ショッカーもちゃんとスケジュールを立てて、時計を見ながら行動するワケですねw しかし、どう見たって平凡なOLのユキエを、なんでショッカーは改造人間の候補に選んだのでしょう? いやらしい目的としか思えませんw
「いやっ! ケン坊の所へ帰して下さい! ケン坊! ケン坊ーっ!!」
「お姉ちゃんっ!」
ルリ子の部屋で寝ていたケンジが、悪夢にうなされて眼を覚まします。
「夢を見たのね? 可哀想に……でも大丈夫よ。ケンちゃんのお姉さんは、猛兄ちゃんがきっと探し出して来てくれるわよ。ね?」
そこで、ブザーの音が鳴ります。早速、猛がユキエを連れて帰って来たのか!?……と思いきや、彼に連れて来られたのは全身タイツのオッサンなのでしたw
(つづく)