ハリソン君の素晴らしいブログZ

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『太陽にほえろ!』#320

2020-02-10 20:00:20 | 刑事ドラマ'70年代










 
☆第320話『翔べないカナリア』

(1978.9.15.OA/脚本=小川 英&塩田千種/監督=木下 亮)

通常『太陽にほえろ!』は事件発生から順を追って捜査過程を見せていくスタンダードな見せ方なんだけど、本エピソードはいきなりロッキー(木之元 亮)が顔を毛むくじゃらにして人探しをする場面からスタート。

BGMもやけに少なめで、静かに淡々と話が進んでいくもんだから、当時中学生になったばかりだった私はさぞや退屈しながら観ただろうと思いますw でも大人になった今あらためて観ると、これはズッシリと胸に来ますね。

ロッキーが顔を毛むくじゃらにして探す人物は、いつもカナリアを肩に乗せて町の人々から「カナリアのシンさん」と呼ばれ、2年前に忽然と姿を消して以来ずっと行方不明の立花伸介(米倉斉加年)という中年男。

ちょっと前にロッキーが公金横領罪で逮捕しようとした宮本というサラリーマンが逃走中に事故死したんだけど、その宮本が麻薬中毒者だったことが判明し、彼に麻薬を売ったのがどうやらシンさんらしいのでした。

で、かつてシンさんがよく通ったスナック「ルナ」のマスター(橋爪 功)が、最近シンさんを町で見掛けたと証言。ロッキーはシンさんの友達を装って詳しい話を聞こうとするんだけど、そこにミツエという若い女(土部 歩)が飛び込んで来ます。

「シンさんが帰って来たの!? 今どこにいるか教えて!」

その様子から単なる知り合いとは思えないミツエに、ロッキーはやはり正体を隠して近づくんだけど、彼女は「こんな毛むくじゃらがシンさんの友達なワケがない!」と言って信用しません。うっかり信じたら食糧にされちゃうと思ったんでしょう。

それでもロッキーは、顔を毛むくじゃらにしてミツエに食い下がります。思ったとおり、ミツエはシンさんが現れそうな場所をよく知っており、お陰でいきつけの小鳥屋さんも判明しました。

が、店主(今福正雄)はシンさんが目撃されたと聞いても「そりゃ何かの見間違いだよ」と言って涼しい顔。その確信ぶりに違和感を覚えながら、顔が涼しくないロッキーはそれ以上追及できずにいるのでした。

一方、山さん(露口 茂)は元暴力団の幹部で、立花を売人として操ってた武藤老人(宮口精二)をマーク。折しも武藤の自宅が賊に荒らされる事件が発生し、その現場にカナリアの羽根が落ちていたことから、藤堂チームはシンさんが麻薬を盗みに入ったと睨んで捜査を進めます。

けれど、町の人々から話を聞けば聞くほど、シンさんの人柄は麻薬を売りさばくような悪魔とは程遠く、「あの男と話をしてると、みんな他人への優しさを取り戻すんだよ」とまで言う人もいて、混乱したロッキーはますます顔が毛むくじゃらになります。

「この町のカナリアのシンさんは、まるで立花伸介とは別人のような気がするんです。人が好くて親切で……」

そんなロッキーに、ボス(石原裕次郎)は「噂に惑わされるな」とゲキを飛ばします。そりゃそうです。俺様は麻薬を売りさばく悪魔だぞ参ったか?なんて自己紹介して回るようなヤツはいないのです。

さて、武藤宅に侵入した容疑者として、村上というかつてシンさんと同じように武藤に使われてたチンピラが浮かぶんだけど、そいつが他殺死体で発見され、その現場にもカナリアの羽根が落ちてたもんだから、シンさんの容疑はますます濃くなります。

けど、カナリアのシンさんが殺人まで犯すとはどうしても思えないロッキーは、今度は自分が刑事であることを隠さず、ミツエにアタックします。その気持ちが通じたのか、彼女はようやく重い口を開くのでした。

鹿児島から独りで上京するも東京に馴染めず、死に場所を探して町をさ迷うミツエに声を掛けて来たのが、肩にカナリアを乗せたシンさんだった。

シンさんは、そのカナリアを公園で拾ったんだと言いました。

「逃げないの?」

「逃げたくても飛べないんだ。可哀想に、羽根を切られて…… 可愛がってくれるなら、あげてもいいよ?」

「ダメ、私……自分一人でもちゃんとやっていけないのに……」

「誰だってそうだよ」

「え?」

「誰だって、このカナリアと大して違いは無いんだよ。逃げたくたって、逃げ場はない……跳びたくても、跳べない……少しずつしか歩けない……みんなおんなじだ。みんな哀しいんだよ」

そんなシンさんの言葉には、当時よりも今の若者たちにこそ響く何かがあるかも知れません。

それから何日も一緒にいて話を聞いてくれたシンさんは、ミツエにとって生まれて初めての、本当の意味で友達と言える存在でした。

「友達って、本当にいるんだなって……わたし初めて思った……だから今まで生きて来れた」

ロッキーは、ますます分からなくなります。果たして本当のシンさんは天使なのか、それとも悪魔なのか?

その答えを知りたいロッキーは再び小鳥屋を訪ねますが、店主は相変わらず「いくら探しても無駄だから諦めなさい」と涼しい顔。殺人容疑が懸かってることを告げても「あいつが人殺しなんかするワケない」と信じて疑いません。

なぜそう断言できるのか? あらためて強い違和感を覚えたロッキーは、小鳥屋を張り込みます。すると独りで暮らしてる筈の店主が、2人分の食事を出前で取り寄せたもんだから驚いた! もしかしたらこの店には!?

いよいよロッキーは顔じゅう毛だらけにして店の2階に踏み込みます。そこにいたのは、壁を見つめてただボ~っと座ってる、ゾンビみたいな姿のシンさんだった!

かつて暴力団から栄養剤だと騙されクスリ浸けにされ、麻薬を買う金を稼ぐために売人をせざるを得なかったシンさんは2年前、警察に追われてこの店に逃げ込んだ。店主は彼を匿い、部屋に監禁してヤク抜きさせたんだけど、すでに麻薬で侵された脳は元に戻らなかった。

ボーゼンとするロッキーに店主は言います。

「カナリアのシンさんは死んだんだ……みんなに夢を与えて、2年前に死んだんだ。そう思ってくれんかね、刑事さん?」

もはや廃人状態のシンさんに、窃盗や殺人が犯せる筈がありません。彼に罪をなすりつけようと細工した真犯人がどこかにいる。ボスは言います。

「そいつは多分、立花伸介を最近見たと嘘をついたヤツだ」

そう、橋爪功さんが演じるスナックのマスターが、単なる目撃者のままで終わるワケがありません。もちろん『七人の侍』の宮口精二さんが演じる武藤老人が黒幕で、全ては麻薬ルートを発覚させないための策略なのでした。

そんなワケで、事件は無事解決。だけどロッキーは、カナリアのシンさんの悲惨な末路を、ミツエに告げることを躊躇います。

「教えて、お願い。教えてくれなきゃ私、いつまでもシンさんを待ってなきゃなんないのよ。一生シンさんを探さなきゃなんないのよ!」

「……どうしても知りたいのか?」

その後の顛末を具体的には見せず、無言で小鳥屋から去っていくロッキーとミツエ、その後ろ姿を見つめる店主の表情だけで悟らせる脚本&演出が素晴らしいです。時に多くを語りすぎるBGMも今回はほとんど使用せず、モーツァルトの静かなピアノソナタをワンポイント的に使っただけ。それがまた切なさを倍増させてます。

けど、『太陽にほえろ!』は希望のドラマです。単なる悲劇だけで終わることは絶対ありません。

「大丈夫です、私。もう、カナリアのシンさんだけが友達だなんて思わない」

そう言ってミツエは、ロッキーに初めて笑顔を見せます。最後まで真剣に向き合ってくれた彼に、ミツエは天使のシンさんと通じるものを感じたのかも知れません。

ロッキーはロッキーで、シンさんとミツエから大事なことを学んだようで、ボスにラストシーンでこう言いました。

「俺も結局、跳べないカナリアなんだなって、そう思ったんです。跳べないカナリアだから、みんな助け合わなきゃいけないんだって」

確かに1年経ってもなかなか人気が出ないロッキー刑事は、跳べないカナリアそのものかも知れませんw

それにしてもめちゃくちゃ怖い話です。シンさんは本当に優しい人だったからこそ悪党につけ入られ、骨の髄までしゃぶり尽くされたワケで、反社会勢力と違法薬物の恐ろしさがダイレクトに伝わって来ます。のりピーやエリカ様はもっと早く生まれてこれを観るべきでした。

米倉斉加年さん、橋爪功さん、宮口精二さん、今福正雄さんと、ゲスト陣がまた名優揃いで迫力倍増、当時の『太陽にほえろ!』の無敵ぶりがキャスティングからも伺えます。

ミツエに扮した土部歩(はにべ あゆみ)さんは当時27歳。「劇団民藝」に所属し、後に「劇団四季」そして「東京乾電池」にも所属され、舞台を中心に現在も活躍中の本格女優さん。

テレビドラマへのご出演は日テレ『俺たちの朝』、NHK『なっちゃんの写真館』『雲』、TBS『花嫁の父』ぐらいしかプロフィールに記されておらず、刑事ドラマへのゲスト出演は恐らく本作が唯一。これまた貴重なフィルムと言えましょう。
 


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