ハリソン君の素晴らしいブログZ

新旧の刑事ドラマを中心に素晴らしい作品をご紹介する、実に素晴らしいブログです。

『太陽にほえろ!』#206

2019-06-25 00:00:05 | 刑事ドラマ'70年代




 
いよいよテキサス(勝野 洋)の殉職時期が発表され、まるで最終回が近づいてるかのように、次々と大きな転機が刑事たちの私生活に訪れます。

今回は、番組初期から描かれて来た山さん(露口 茂)の愛妻物語に、とうとう終止符が打たれちゃいました。


☆第206話『刑事の妻が死んだ日』

(1976.6.25.OA/脚本=鴨井達比古&小川 英/監督=竹林 進)

山さんの妻=高子(町田祥子)は心臓を患っており、度々その危機が描かれて来ました。今回もまた、ちょっとしたトラブルがきっかけで発作を起こし、高子は危篤状態に陥ります。

以前レビューした第11話『愛すればこそ』と全く同じパターンで、山さんは刑事の職務を優先して病院には行きません。

第200話のゴリさん(竜 雷太)と同じく、いや、それ以上に山さんも、刑事としてしか生きられない不器用な男。仕事人間の刑事マシーンのスットコドッコイなんです。

また、愛すればこそ、妻の無事を信じて(悪い結果を頭からシャットアウトして)あえて病院には行かないのかも知れません。

4年前は、山さんの代わりにマカロニ(萩原健一)が看病しましたが、今回はアッコ(木村理恵)が高子を見守ります。意識を取り戻した高子に、アッコは素朴な疑問を投げかけます。

「奥さん、怒ってないんですか? 山村さんって、昔からこうなんですか?」

「あなたも、刑事さんの奥さんになって、10年も経てば解るわ。そういうものなのよ」

平成、令和に生きる女性なら、10年も我慢しないで速攻別れちゃう事でしょう……って、決めつけちゃ駄目だけど、現在のTVドラマにこんな奥さんが出て来たら、やっぱり「んなヤツはおらんやろ~」って、みんな言うだろうと思います。

もちろん、中断して誰かに任せられるような捜査なら、いくら山さんでも病院に駆けつけた筈。今回の場合、強盗殺人事件の目撃者である主婦(新海百合子)から、山さんは「私が必ずあなたを守ります」と約束して強引に証言を得た、といういきさつがある。

犯人は「証言したら殺す」と予告しており、夫は出張中で彼女は数日を独りで過ごさなきゃいけない。

とは言っても、刑事は別に山さん1人じゃない。どうしても病院に行って欲しいボン(宮内 淳)は「僕たちには任せられないって事ですか!?」と山さんに怒りをぶつけます。

「病人の面倒を看るのは医者の仕事だ。善良な市民を凶悪犯から守る、それが俺たちデカの仕事なんだ」

山さんはそう言って、懐から拳銃を取り出します。

「ボン、これは人間を殺せる道具だ。こんな物を公然と持ち歩いてる商売が他にあるか?」

「…………」

「俺たちが持ってる武器はこれだけじゃない。もっと大きな、もっと強い法律という力も背負ってるんだ。だからこそ市民も俺たちに協力してくれる。それだけのものを持たされてる俺たちが、自分の都合のいい時だけ格好良くその武器を振りかざしておいて、都合の悪い時に逃げ出したらどうなる?」

他人の不幸と常に向き合う職業である刑事が、自分だけ幸せになるワケにはいかないっていう『太陽にほえろ!』の基本スピリットに通じる、山さんの信念。

それが'80年代になると、捜査よりもデートを優先する刑事が「トレンディ」とか言われてヒーローになっちゃうワケですから、世間の価値観なんてホント、明日どう変わるか分かりません。

それはともかく、山さんがそうやって強気でいられたのも、高子がそんな簡単に死ぬワケがないって、たかをくくってる部分があったかも知れません。現に、これまで何回も危機を乗り越えて来たんだし。

ところが! 無事に犯人を逮捕し、その足で病院に駆けつけた山さんを待ってたのは、泣きじゃくるアッコの姿でした。

犯人は、無事に逮捕されただろうか……それを気にしながら息を引き取ったという高子は、最後の最後まで「刑事の妻」でした。

清楚で上品で優しくて、控えめな高子という女性は、昭和の働く男たちにとって理想の(悪く言えば都合の良い)奥さん像で、もしかしたら当時から「んなヤツはおらんやろ~」って声は多々あったのかも?

だけど、町田祥子さん演じる高子には嘘っぽさが無く、そんな妻を、こうもあっけなく失ってしまった、山さんの喪失感は計り知れません。

病室で二人きりになった山さんは、高子と魂の会話を交わします。本来なら、山さんは声に出して高子に語りかける筈が、演じる露口さんが嗚咽して言葉にならなかったんだそうです。

それだけ、もはや露口さんは山村精一警部補と一体化してる。同じ役を4年も演じ続け、同じ女優さんと4年も夫婦を演じたら、露口さんほどのベテラン俳優、それも名優と言われた人でも、感情の抑制が効かなくなっちゃうんでしょう。

「ボス……明日、休ませて頂けますか」

「…………」

ボス(石原裕次郎)もまた、返す言葉が出て来ない。二人して、ただ黙って病院の窓から外の風景を見つめるというラストシーンも異色で、失ったものの大きさを物語ってます。

ある意味、レギュラー刑事の殉職よりもズシンと来る、『太陽』ファンにとってトラウマと言っても過言じゃないヘビーなエピソードでした。
 

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2 コメント

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Unknown (carp2563)
2019-06-25 10:55:34
このエピソードは本当に辛かったです。「ボス、明日休ませていただけますか」山さんのこんなセリフを聞くことになるとは辛いですね。
山さんがボンに市民を守ることと拳銃と警察権力を持っている警察官の責任を語ってますが、今の日本の警察官に聞かせてやりたいですね。警察官の責務はそれほど重いはずです。



ムーミン
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Unknown (harrison2018)
2019-06-25 12:12:44
「休ませて下さい」というだけの言葉に、これほどの重みを感じさせるのも『太陽にほえろ!』ならでは、山さんならではですよね。描かれた倫理観の重みとキャラクターの重みと、長い年月の重み。昨今のドラマじゃ到底表現できないであろうものです。
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