さて、『太陽にほえろ!』が陰鬱の泥沼にはまりつつあった頃、卒業生のボンボン刑事=宮内淳さんは何をしていたかと言えば、『太陽~』の生みの親=岡田晋吉さんの企画による学園ドラマ『あさひが丘の大統領』の破天荒教師「ハンソク」こと大西元として、実に楽しそうに主演を張っておられました。
ユニオン映画制作&中村雅俊主演『ゆうひが丘の総理大臣』の後番組で、1979年の10月から日本テレビ系列の水曜夜8時枠で全36話が放映されることになります。
☆第2話『あんなバカな先生はクビだ!』
(1979.10.24.OA/脚本=畑 嶺明/監督=土屋統吾郎)
以前、鎌田敏夫さんの脚本による第1話をレビューしましたが、あれは内容が盛り沢山すぎて消化不良だった感があり、この第2話の方が『あさひが丘~』というドラマの本質を掴みやすいかも知れません。
破天荒すぎてメチャクチャとしか言いようがないハンソク先生の、その破天荒さにも意味があることを示したストーリーで、ちゃんと最後まで観れば彼の魅力に気づける仕掛けになってるんですよね。
だけど、そこまで我慢出来ずに途中でチャンネルを変えちゃった視聴者が、たぶん結構おられたんじゃないでしょうか? そこがドラマ創りの難しさです。初回レビューにもさんざん書きましたけど、とにかく主人公の好感度がケタ外れに低いんですよねw
まず、出勤したハンソク先生が最初に何をしたかと言えば、高岩校長(宍戸 錠)や竹内教頭(高城淳一)に「オレ、給料いくら貰えるんスか? えっ、たったそれだけ!?」としつこくギャラ交渉。さっそく清廉潔白な「タックル」こと涼子先生(片平なぎさ)を怒らせちゃいます。
次に美人スクールドクターのしのぶ先生(金沢 碧)に保健室で「服を脱いで」と言われて劣情を催し、パンツ1丁で叩き出されて女子生徒たちに悲鳴を上げさせるわ、悪戯でドリフのコントよろしく白粉まみれにされて走り回るわと、あまりに子供じみたドタバタ劇が次々と展開され、ここらで早くも辟易しちゃった視聴者が多数おられたかと思います。
さらにハンソク先生は、学園寮に引っ越すことを最初は嫌がってたクセに、みんなから「絶対来るな!」と拒絶されるや「反対されると逆らいたくなるタチなんだ」と言って野口先生(秋野太作)の部屋に無理やり押しかけちゃう。そういった幼稚な発想&粗野な振る舞いには宮内淳ファンである私ですらイラッとしましたw
まだまだ止まりません。今度はラグビー部員の水野(井上純一)らを教師自ら煽動して女子寮を覗きに行くという暴走ぶり。覗きたい気持ちはよく解るんだけどw、さすがにこれは犯罪行為なのでやり過ぎです。
もちろん涼子先生に見つかってこっぴどく叱られるんだけど、そこでハンソク先生が言うんですよね。
「あんなフニャフニャした奴らはあれ位のことした方がいいんだよ。連中には無いのかね? こう、自分でドバーッとやりたいコトっていうのが」
学生時代に規則という規則を片っ端から破って「ハンソク」と呼ばれるようになった彼からすると、理不尽なほど細かい寮の規則に黙って従い、ただ無気力に日々を過ごす生徒たちの方がよっぽど異常ってワケです。
その点に関しては涼子先生も「私だってこのままでいいとは思ってません」と同意するんだけど、正攻法でじっくり改革していきたい彼女からすれば、ハンソク先生の粗暴なやり方は迷惑以外の何物でもない。
「真剣に教育に取り組もうとする教師が来ることを期待してたのに、失望しました!」
さて、この覗き騒動の裏で、1つのささやかな事件が起こってました。見張り役を押しつけられたラグビー部の山下(長谷川 諭)が、着替え中だった女子生徒=森下(上田美恵)のヌードを偶然見てしまったのです。第1話に続いて、今回も8時台の青春ドラマで女子高生のおっぱいが登場!
このシーン、ノベライズにもDVDの解説書にも、着替えを見られるのは別の生徒=白石(北村優子)と記されており、どうやら脚本では白石だったのが撮影段階で森下に変更されたみたいです。
グラビアの仕事を一切されてなかった北村さん(の事務所)からNGが出たのかも知れません。おっぱい自体は横からアップで撮られており、たぶん吹き替えなんだけど、タレントとしてのイメージを守りたかったんでしょう。(だけど代役を引き受けた上田美恵さんの方が後に連ドラ『生徒諸君!』の主役に抜擢され、北村さんよりメジャーになられるのは皮肉なことです)
それはともかく、山下は以前から森下が好きだったもんで、大変なショックを受けて落ち込んじゃう。好きな女の子の裸を見て落ち込む気持ちが私にはサッパリ解らないんだけどw、まあ純情な性格ゆえ罪悪感に苛まれたって事なんでしょう。
そんな山下を涼子先生や水野たちが大いに心配するんだけど、ハンソク先生は「男のくせにメソメソしやがって、だらしないぞ!」とあくまでブレない姿勢。山下が授業に出て来なくなっても知らん顔する先生に、水野たちは怒りを募らせます。
で、今度は水野と山下を含むラグビー部全員が行方不明になっちゃう。涼子先生に無理やり引っ張られ、仕方なく探しに行ったハンソク先生は、夜の公園でしょんぼり佇む彼らを発見するのでした。
山下がこうなったのはアンタのせいだ!と息巻く水野らを見て、ハンソク先生はなぜか嬉しそうに笑います。
「お前たちは何はともあれ規則を破ったんだ。これからもその調子で、ガーッとぶちかましてみろ!」
「うるせえ!」
「おっ? 今度は本気で怒ったようだな。かかって来るか? さあ、思いっきりぶちかまして来い!」
そうしてハンソク先生に挑発された水野たちは、ついに怒りを爆発させ、飛びかかって行きます。ずっとションボリしてた山下も、いつしか全力で叫び、全力で先生に立ち向かってました。
「おうっ、来たかお前も!」
そう、ハンソク先生は、そうして無気力な生徒たちを何とか奮起させたかった。やり方はメチャクチャだけどw、涼子先生がなかなか出来なかったことをハンソク先生は着任してすぐにやってのけたワケです。
もちろん、生徒たち相手に乱闘したワケだから上から問題視され、校長や教頭は弁明を求めるんだけど、ハンソク先生は「オレが一方的に喧嘩を吹っ掛けたんです」と男気を示したもんだから、涼子先生の彼を見る眼も少し変わります。
寮で野口先生と同居し、常に監視されることを条件にクビを免れたハンソク先生に、涼子先生は言います。
「たとえ反則でも、今まで他人の意思でしか動かなかったあの子たちが、初めて自分の意思で動いたんです。なんだか、それが嬉しくて…… あの子たちには、あなたみたいな人が必要なのかも知れません」
こうして、全く対照的な二人の若い教師=ハンソク&タックルによる改革がスタートするのでした。
創り手はたぶん、涼子先生の理想的教育を否定する気はさらさら無く、だけど画一的なやり方じゃこれからの時代に対応できない、もっと柔軟に多角的にやらなきゃダメなんじゃないか?と考えて、対照的な教師二人を主役にすることを決めたんだろうと思います。
極めて真っ当な涼子先生が隣にいるからこそ、ハンソク先生は思う存分メチャクチャが出来るワケです。そこが『あさひが丘の大統領』の面白さ。
だけど、そりゃどうしても破天荒な方が目立っちゃいますから、視聴者は番組そのものが「不真面目でナンセンスなドタバタ喜劇」だと誤解しちゃったのかも知れません。『あさひが丘~』は前作ほどの評価を得られず、これをもって日テレ青春シリーズに終止符が打たれる結果となりました。そもそも二番煎じ丸出しのタイトルで損しましたよね。
もちろん、同時期に他局で『3年B組金八先生』という斬新な学園ドラマがスタートしたのも痛かった。『あさひが丘~』もそれなりに青春ドラマの新しい形を示したのに、すっかり話題をさらわれちゃいました。『金八』だけはホント一生許しません。
そんなこんなで、正当な評価が得られなかった(と私は思う)『あさひが丘の大統領』ですが、ちゃんと観ればちゃんと面白いです。少なくとも初期は。(回を重ねるにつれ批判に負けたハンソク先生が普通の教師に変貌し、見所が無くなっていきます)
でも、面白い作品が必ずしも人気を得られるとは限らない。そこがほんとドラマ創りの難しさです。
セクシーショットは当時20歳の片平なぎささん。ハツラツとした新米教師「タックル」役は実に初々しくて可愛くて、大映ドラマ『スチュワーデス物語』における怖い怖い手袋女や2時間サスペンスの女王となられる未来像は想像もつきませんでしたw
☆第385話『死』(1979.12.14.OA/脚本=小川 英&四十物光男/監督=児玉 進)
前回のサブタイトルが『命』で、今回が『死』ですよw 作品としてはそれぞれ力作で見応えあるんだけど、とにかく刑事たちの躍動こそを求めてた当時中学生の私にとって、この暗~い2連発は本当にキツかったです。
特にこの#385はメガトン級に重い内容で、もしかすると『太陽にほえろ!』全エピソードの中でも一番の問題作かも知れません。
でも、繰り返しますが、作品としては決して悪くないんです。出来るだけ重苦しくならないように書きますので、是非とも読んで頂きたいです。
歯科医の息子で浪人生の清(三輪和蔵)が誘拐され、両親に3千万の身代金を要求する電話がかかって来て、藤堂チームが始動します。
すると、かつて清が家庭教師を務めた先の娘で小学生の圭子(中島香葉子)が、怪我をした清が怪しい男に車で連れ去られる現場を見たらしいと、圭子の母親(執行佐智子)から連絡が入ります。
殿下(小野寺 昭)と長さん(下川辰平)が圭子と一緒に現場へ行ってみると、確かに大量の血痕があり、鑑識の結果、それが清の血液であることも確定されます。
刑事たちの捜査により、歯科医である清の父親の患者だった桑山(金井進二)が有力容疑者として浮上、彼が借りてたレンタカーからも清の血痕が発見され、容疑はほぼ確定します。
そして、清の遺体が八王子で発見されます。恐らくレンタカーで清をはねてしまった桑山が、清の学生証を見て歯医者の息子であることに気づき、遺体を埋めた後で身代金を要求したんだろうと刑事たちは推理します。
そこで、圭子から桑山らしき男に追いかけられた!という電話が七曲署に入ります。桑山はしっかり圭子の顔を憶えていたのでした。
急遽ボディーガードを務めることになった殿下は、行動を共にする内に圭子と、その母親の意外な一面を知ることになります。
それは、死んでしまったペットの熱帯魚に対する、彼女たちの反応。圭子は台所にあった食器の皿にその死骸を捨て、母親は「臭いが付いちゃうでしょ!」という理由で娘をたしなめ、ゴミ箱にポイしちゃったのでした。これが衝撃のクライマックスへの重要な伏線になってます。
さて、事件は急転直下。桑山は通りがかりの軽トラに放火して殿下の眼を逸らし、まんまと圭子を拉致しちゃうんだけど、なぜか清が拉致されたのと同じ場所で、遺体となって発見されます。そこは建築中のビルの下で、どうやら桑山は7階から転落したらしい。
そして、圭子はケロッと無事に戻って来ます。殿下は、厭な予感を覚えるのでした。
ビルの7階を調べてみると注射器が残されており、覚醒剤が検出されます。桑山が使ったものかと思いきや、注射器からは清の指紋が発見された!
監察の結果、清は車にはねられて死んだのではなく、桑山と同じようにビルの7階から転落して死んだことが判明。すなわち、清も桑山も同じビルの同じ場所から転落して死んだことになるんだけど、そんな偶然が果たしてあり得るのか?
殿下は、死んだ熱帯魚のことを思い出します。もしかして、そんな……そんなバカなことが?
「圭子ちゃん……あの時、あのビルの7階にいたんだね? 清くんと一緒にいたんだね?」
「…………」
恐らく、浪人生活のストレスから逃れたくて覚醒剤を使ってた清が、クスリの作用によって錯乱し、圭子に……そして!
「清くんを突き落としたのは、圭子ちゃんなんだね?」
「……つまんない、遊園地に行く!」
急に不機嫌になった圭子を、殿下は遊園地にしてはやけに地味な施設へと連れて行きます。
「なあに、ここ?」
「監察医務院と言ってね、人間が変わった死に方をすると、ここへ連れて来られるんだ」
「遊園地の方がいい!」
そりゃそうでしょうw だけど殿下は、心を鬼にして圭子を霊安室へ連れて行きます。そこではちょうど、薬を飲んで自殺した青年の母親と妹が、遺体にすがりついて号泣する修羅場が展開されてました。それを見て圭子は衝撃を受けます。
さらに殿下は、例のビルの7階に圭子を連れて行きます。
「お母さんや妹さん、友達のみんなが、あんなに悲しい思いをすると分かっていたら、彼だって、きっと自殺なんかしなかったと思うんだ。彼は、死ぬってことがどんなことか、よく分からなかったんだな」
殿下の言葉を理解しているのかどうか、黙って石を積み上げて遊ぶ圭子の表情からは読み取れません。
「オモチャは、壊れたら新しいのを買ってもらえる。だけどね、人間の命っていうのは、かけがえの無いものだ。オモチャのように新しいものに取り替えたりすることは出来ないんだよ」
殿下は辛抱強く、あくまでも穏やかな口調で圭子に語りかけます。
「熱帯魚にだって、命はあるんだよ? 生きものが死ぬっていうのは、悲しいことなんだ。とてもツラいことなんだ」
そこでようやく、圭子が口を開きます。
「……清お兄ちゃん、怖い眼で睨んだの。誰にも言うなよって、とっても怖い顔で言ったの。だから……」
「だから?」
「お兄ちゃんが帰ろうとした時、背中を押したの」
「…………」
そして圭子は、拉致しようと迫って来た桑山もこの7階まで誘き寄せ、物陰に隠れて背後から忍び寄り……
「怖い顔するんだもの! 怖い顔するんだもの!」
そこで初めて、圭子が涙を流します。自分がやったことの意味が、ようやく理解出来たんでしょう。
真相を聞かされた圭子の両親は、8歳の子供を2日間も取り調べるとは何事だ!と殿下に抗議します。突き落としたら人が死ぬってことが、圭子は子供だから分からなかったんだ、というのが両親の主張なんだけど、殿下は毅然とこう返します。
「いえ、知っていました。突き落とせば人が死ぬことは、ちゃんと知ってました。知らなかったのは、死というものの意味です」
いいや、情操教育はちゃんとして来た!と言い張る両親に、殿下は言います。
「でも、人の命については何も教えませんでしたね? 生きものの命すべてについてです」
そう、あの死んだ熱帯魚の扱い方に、全てが象徴されてました。この両親の情操教育には、たぶん肝心なことが抜け落ちてた。
両親との長い面談を終えた殿下を、ボス(石原裕次郎)がねぎらいます。
「分かってくれたか?」
「はい。教護院に送られることは納得してくれました。それから、あの子は今、人を殺した罪をハッキリ自覚していることも、分かってくれました」
「そうか……分かってくれたか。よかったな、殿下」
「はい……」
いつものコミカルなBGMは無く、バラード曲も流されず、異例の静けさでこのエピソードは幕を下ろしました。
これは当時、実際に小学生による殺人事件が起こり、世間に衝撃を与えたことを受けて、生真面目な『太陽にほえろ!』スタッフの皆さんが考えに考えた末、再発防止に向けた1つの提言として世に放たれた作品。その言わんとすることは全て、殿下の台詞に集約されてると思います。
この切実なメッセージに、私は大いに同意します。もちろん現実に起こる低年齢者の殺人事件には、もっと多種多様で複雑な原因があるんだろうけど、大人が「命」についてちゃんと教えてない、あるいはその大人自身がふだん考えてないっていう例はかなり多いんじゃないかと思います。
私自身、父親は小学校の教師だったけど、そういうことをしっかり教わったような記憶はありません。(私がバカだから忘れてるだけかも知れないけど)
「命」について私が初めて深く考えたのは、自分の通ってた小学校で『蜘蛛の糸』の絵本が回覧された時だったと思います。それまではけっこう残虐な方法で無意味に虫を殺したりしてたのが、まぁ明らかな害虫は別として出来なくなりました。
その他の道徳的なことも、親じゃなくてテレビや漫画、それこそ『太陽にほえろ!』から大半を教わったような気がします。わざわざ教えなくてもそれくらい解るだろうって、親は意外と思い込んじゃうもんなのかも知れません。
でも、実際はちゃんと教えなきゃ子供は解らない。解らないまま大きくなったら、取り返しのつかないことをやらかしちゃう可能性はかなり高いでしょう。
だから、その警鐘を鳴らすことには大いに意義があると思います。今回のエピソードは子供に対してじゃなく、その親たちに対する強いメッセージ。大人向けの番組を目指す当時の『太陽にほえろ!』の制作姿勢がここにも如実に表れてます。
だけど当時の私は中学2年生、まだまだガキンチョです。メッセージの意味を理解したかどうかは憶えてないけど、毎回続く暗い作風に死ぬほどウンザリしてたのだけは確かです。
いや、もしかすると私がウンザリしてたのは作風じゃなくて、必要以上に複雑な作劇の方かも知れません。今回『秋深く』『命』『死』と続けてレビューして来て、いずれも事件の構造がやたら入り組んでるもんだから書いててホント疲れました。
もっとシンプルにした方がテーマは伝わり易いだろうと思うんだけど、これも番組が大人向けを意識しすぎた結果なのかも知れません。こんなのが毎週続いたら、そりゃ浅いファンはどんどん離れて行っちゃいます。当たり前です。
今回はそれに加えて、8歳の女の子が2人の人間を死に追いやっちゃうヘビーな内容。いずれも正当防衛という救いどころはあるにせよ、その罪を自覚した彼女がこれから一体どんな人生を歩んでいくのか、想像すると胸が締めつけられます。
圭子を演じた中島香葉子さんがまた、この世代の子役としては非常に上手いんですよね。かといって最近の子役ほど上手すぎないのがかえってリアルで、だから余計に胸が苦しくなっちゃう。
如何でしょうか、皆さん。この時期の『太陽にほえろ!』がどんな感じだったか、それをコメディ&アクション好きの私が毎週どんな気持ちで観ていたか、よく解って頂けたんじゃないかと思います。
一方ではトミーとマツが弾けまくり、団長がショットガンをぶっ放し、Gメンが香港でブルース・リーしてたワケです。時代は明らかに軽妙洒脱&荒唐無稽な方向へと進む中、『太陽にほえろ!』よ、どこへゆく?
☆第384話『命』(1979.12.7.OA/脚本=小川 英&古内一成/監督=櫻井一孝)
ある夜、商事会社で総務課長を務める佐久間という中年男(梅野泰靖)が、建築中のビルの屋上から転落死します。佐久間はその翌朝に友人と釣りに行く約束をしており、自殺とは考えにくく、藤堂チームは事故か他殺の線で捜査を始めます。
ところが、佐久間はノイローゼ気味で3週間も会社を休んでいた事実も判明。その原因はどうやら、学生時代の親友だった不動産会社の社長=黒崎(梅津 栄)に使い物にならない土地を売りつけられ、積み上げて来た財産をほとんど失った事にあるらしい。
調べてみると黒崎のアリバイは曖昧で、現場近くに当夜、黒崎のものらしき車が停まっていたこと、そして屋上で発見されたタバコの吸い殻も彼のものと判明。
佐久間が会社を3週間も休んでいたのは、黒崎の悪徳商法の実態を調べる為だったことも判り、それで弱味を握られた黒崎が佐久間を屋上から突き落とした疑いが濃厚となります。
佐久間と残された家族に同情するスニーカー(山下真司)は、すぐさま黒崎を逮捕せんと息巻くんだけど、先輩刑事たちはあまりに状況証拠が揃い過ぎてることに違和感を抱きます。海千山千の黒崎がそんなヘマをするだろうか?
しかも死んだ佐久間は3週間前に五千万円の生命保険に加入しており、だけど1年以内の自殺は保険金が下りないことから、これは殺人に見せかけた自殺である可能性も浮上。
取り調べに対して黒崎は、電話であの夜、女性に呼び出されて現場に行ったんだと供述します。愛人の友達を名乗ったその女は結局現れず、黒崎は何もしないで現場を去った。すべての謎の鍵は、その女性が握っているに違いない!
それでスニーカーは、佐久間が死んだ場所に献花していた女子高生のことを思い出し、その行方を探します。
するとゴリラみたいな顔をした後輩の吉野巡査(横谷雄二)が、10日ほど前に自殺しそうな女の子がビルの屋上にいるとの通報を受け、自分が駆けつけた時に出会った少女と、その女子高生が「よく似ているであります!」とゴリラみたいな声で叫びます。しかもその時、女子高生は佐久間らしき中年男と一緒にいたという!
「佐久間さんが助けてくれなかったら、私、死んでました」
やっとスニーカーが探し当てた女子高生=良子(柿崎澄子)は、ビルの屋上から飛び降りて死のうとしたところを、佐久間に止められた事実を打ち明けます。
病気で半年間、学校を休んだせいでクラスで浮いてしまったのが原因なんだけど、偶然居合わせた佐久間に本気で叱られ、あんみつをご馳走になった上、文具店で「キミの未来をここに貼るんだよ」とアルバムを買ってもらい、お陰ですっかり立ち直ったと良子は言います。
「あんないい人を殺すなんて、ひどい!」
スニーカーは、ふと疑問に思います。素朴で優しそうで、見るからに正直そうな良子だけど、この事件で死んだのが名前も写真も公開されてない佐久間であることを、彼女はどうして知ったのか?
「刑事さん、犯人はまだ捕まらないんですか?」
「……まだ、ハッキリした証拠が無いんだよ」
「本当に何も無いんですか?」
「そうなんだよ……せめて、現場の屋上に、犯人の遺留品でも落ちてたらバッチリなんだけど……」
「…………」
後ろめたさを背負いながら刑事部屋に戻って来たスニーカーに、ボスが問います。
「電話の女の正体は判ったのか?」
「……その女というのは、高校2年の女の子なんですよ。自殺しようとしたところを佐久間さんに助けられて、今では明るく生きてるんです。俺はそんな女の子を騙して、汚い手を打ちました」
「…………」
「ボス、俺は知りたくないんですよ! その子が何をしたか、そんなこと知りたくないです!」
「真相を知りたくない奴にデカは務まらんぞ」
「!!」
「お前がデカを辞めたいなら無理に引き留めはせん。だがな、今は事件解明のために全力を尽くせ。今のお前は、デカなんだぞ?」
「…………」
そしてその夜、先輩刑事たちと一緒に事件現場を張り込みながら、スニーカーは祈ります。
「来ないでくれ……頼む、来ないでくれ!」
だけど、良子は来てしまいます。屋上に置いといた黒崎のタバコの吸い殻を、もっと見つかり易い場所に置き直すために……
「それをそこに置いたのはキミなんだね?」
スニーカーは心を鬼にして、良子を問い詰めます。
「黒崎に電話をしたのもキミなんだね?」
観念した良子は、生前の佐久間に「からかってやりたいヤツがいるから」恋人の友達を装ってこのビルに呼び出すよう頼まれたことを打ち明けます。
薄々、その相手が佐久間を酷い目に遭わせた人間であることを察した良子は、現場まで様子を見に行った。すると黒崎が待ちくたびれて立ち去った直後、佐久間が屋上から飛び降りてしまった。
「分かったんです、おじさんの計画が……私には生きろって言いながら、自分は死ぬ気だったおじさんの気持ちが……そうするほか、どうしょうもなかったおじさんの気持ちが……」
騙されて財産を失った佐久間は、せめて保険金を家族に残すため、そして黒崎に復讐するために、言わば良子を利用したワケです。
「本当は、今度は私が助けてあげたかった……でも、私に出来ることは、もうそれしか無かったの」
かくして、佐久間の死は自殺であることが確定しました。それはすなわち、家族に保険金が下りないことを意味します。
「すみません、俺が余計なことしたばっかりに」
佐久間の墓前で、スニーカーは残された妻(高田敏江)に謝罪します。
「いいえ、刑事さん。これで良かったんです。息子はこう言ってました。とにかく親父は、一人の娘さんの命を救ったんだって……お金のことより、そういう親父を持った誇りの方がずっと大きいって」
「誇り……そうですか……そうですか!」
いい話だし、スニーカーの切なさも伝わって来るし、誰も逮捕されない異色作で私はけっこう好きなんだけど、こうして文章にしてみると内容が複雑で、やっぱり暗いし、映像で観るほどハートに響いて来ないのが残念です。
映像で観ると感動できるのは多分、良子役の柿崎澄子さんと佐久間役の梅野泰靖さんがとてもハマリ役で素晴らしかったから。お二人とも実に「儚い」んですよね!
柿崎澄子さんは第272話『秘密』でもチョイ役ながら強い印象を残されてるし、私の大好きな大林宣彦監督の映画『転校生』や『さびしんぼう』にも出演され、'78年の特撮ファンタジードラマ『透明ドリちゃん』では主演も務められた実力派。
特撮や時代劇への出演が多く、『太陽~』以外の刑事ドラマは『私鉄沿線97分署』第16話ぐらいしかWikipediaに記されてないけど、子役時代にまだまだ出演されてたかも知れません。
梅野泰靖さんは『太陽~』に限らず刑事ドラマでお馴染みの名優で、後にドック刑事(神田正輝)の父親役としてセミレギュラーにもなられます。
さらに梅津栄さんの悪役ぶりもさすがだし、暗いストーリーの中で吉野巡査=横谷雄二さんの無邪気すぎる演技は良い息抜きになったしw、今回は俳優陣の力量でかなり救われたかも知れません。
☆第377話『秋深く』(1979.10.19.OA/脚本=小川 英&渡辺由自/監督=櫻井一孝)
南郷建設の重役=田沼(渥美国泰)から、一人娘の貴子(森田あけみ)が不審な男につきまとわれているとの通報があり、ロッキー(木之元 亮)が顔を毛むくじゃらにしながら捜査することになります。
田沼の話によると、ちょっと前に不祥事を起こしてクビにした、志垣(明石 勤)という元社員がそのストーカーに間違いないらしく、ロッキーは行方を追います。
ところが、外出を控えるよう釘を刺したはずの貴子が誘拐され、志垣から5千万円の身代金要求があったと田沼が連絡して来て、いよいよ藤堂チームが本格始動。
なのに田沼は、歯医者に行くフリをして勝手に志垣(?)と取引を済ませちゃう。警察が毛むくじゃらで信用出来なかったからと釈明する田沼だけど、自分で通報しておきながら矛盾も甚だしい。
それで戻って来た貴子は拉致監禁されてた割りにケロッとしてるし、何より容疑者・志垣の行方が一向に掴めないばかりか、目撃者すら一人も浮かんで来ない。
どうやらこの誘拐事件は田沼父娘による自作自演で、ロッキーはその証人として利用されただけ。怒ったロッキーは、娘につきまとう志垣を田沼が殺したに違いない!と決めつけ、顔から毛を撒き散らしながら空き地や土手を片っ端から掘り返し、本当に志垣の遺体を見つけてしまいます。
そして娘の口から真相を聞き出すべく、遺体を見つけたことをロッキーが告げた途端、貴子は「違う! お父様は悪くなんかないわ!」と狂ったように叫び、自宅の池に飛び込んで、ポリ袋に包まれたテニスラケットと血に染まった衣服を拾い上げるのでした。
そう、貴子をつけ回し、テニスをする彼女のミニスカート姿に欲情した志垣は、帰宅しようとする彼女の車に押し入った。それでとっさにラケットで反撃した貴子は、無我夢中で…… そして田沼は、娘の殺人を隠蔽するために必死で偽装誘拐を企てたのでした。
そんな余計な小細工しないで、知らん顔しとけば何も発覚しなかったんじゃないの?って思うんだけど、そこは娘を溺愛する父親のご乱心と思えば納得出来なくもありません。
ストーカー被害だけでまだ事件になってない内から刑事が捜査するなど、リアリティーに欠ける部分も多々あるんだけど、まぁそんなのは些末な問題です。
ただ看過しがたいのは、このエピソードが典型的な「若手刑事が恋した相手が実は……!」のパターンに沿った話なのに、主人公=ロッキーの切なさがまるで伝わって来ないこと。
もしスニーカー(山下真司)が「先輩、やけに張り切ってるなあ」とか「先輩は彼女に個人的な好意を持ってるんですね」なんてベタなツッコミ(解説)を入れてなかったら、我々視聴者(少なくとも私)はロッキーがそんな感情を抱いてることに全く気づかなかったと思います。
相変わらず、木之元亮さんはそういう芝居がほんと苦手……と言うより、ロマンス的な話がまったく似合わない人なんですよね。
ロッキーのそういう感情が伝わって来ないと、このエピソードは単に「意外な人が真犯人だった!」っていうだけの辛気くさいミステリーに過ぎなくなっちゃいます。それじゃ面白くない。
刑事部屋におけるラストシーンも、田沼父娘の仮釈放申請書を書いて捺印を求めてくるロッキーに、ボス(石原裕次郎)がただ苦笑いするだけという、何のオチにもなってなければ悲劇の余韻もまったく残らない、お粗末な締めくくりとしか言いようありません。
相変わらず見せ場を与えてもらえないスニーカーはじめ、藤堂チーム全員になんだか覇気が感じられないし、ゲストの森田あけみさんも演技が硬く、ロマンスの相手役としては魅力に欠けました。良かったと思うのは同じくゲストの渥美国泰さんや頭師孝雄さんの実直な演技ぐらい。
まさに、これがあの時期の『太陽にほえろ!』なんですよね。手堅く創られてはいるんだけど、観ててワクワクさせられるような場面が1つも無い。王座陥落は当然の結果だったと、つくづく思います。
メディアでは主に『西部警察』の映像や写真が使われるでしょうから、ここではあえて『太陽にほえろ!』出演時(1986年)の画像を使わせて頂きます。
奇しくも、ちょうど『西部警察』の幕開けをここで振り返ったその日に、渡哲也さんの訃報が飛び込んで来てしまいました。享年78、肺炎だったそうです。
最近、お姿を拝見してなかったので、もしかしたら……とは思ってました。でも、まさかこのタイミングで……
今回載っけた画像を見ると、石原裕次郎さんも、地井武男さんも、又野誠治さんもすでに逝かれてることをあらためて思い出し、なんとも言えない気持ちになります。
渡さんって、裕次郎さんだけじゃなく地井さんともかなり仲良しだったそうで、きっと今ごろ再会を喜び合っておられるんじゃないでしょうか。いやホント、もしあの世があるとするならば、今のこの世にいるよりよっぽど居心地良いかも知れません。
いい歳して俺はいつまでショットガンを振り回してんだ?なんてウンザリしながらも、石原プロ存続のために団長を演じ続けて下さった渡さん。
裕次郎さんが倒れた時には代理ボスとして『太陽にほえろ!』を救って下さった渡さん。
復活版『西部警察』で事故が起こった時、あらゆる責任者たちが模範にすべき謝罪のあり方を、ごく自然に示して下さった渡さん。
本来ならもっとワガママに、自分の演じたい役だけを演じられた筈の大スターなのに、いつも他の誰かのために働き、その生涯を捧げて来られた渡さん。
そんな生き方、とても出来るもんじゃありません。だからこそ松田優作さんや舘ひろしさんといったカリスマたちが酔いしれたんですよね。
「団長の為なら喜んで死ねる」なんて台詞、私は「気持ち悪い」って書いちゃいましたけどw、あれも団長=渡哲也さんだからこそ軍団の皆さんが照れずに言えた。もし団長がムロツヨシさんじゃギャグにしかなりませんw
団長、お疲れさまでした。本当に有難うございました!