’80年代アイドル特集の第2弾、夏色のナンシーこと早見優さん!
『私鉄沿線97分署』は1984年10月から’86年9月まで、テレビ朝日系列の日曜夜8時枠で全90話が放映されたフィルム撮りの刑事ドラマ。『西部警察』シリーズの後番組で渡哲也さんも出てるけど、制作は石原プロではなく国際放映スタジオ。
コメディータッチのファミリー路線で、人情とリアリティーを前面に押し出した内容も『西部警察』とはほぼ真逆。おまけにオープニング曲とエンディング曲が共に松山千春の(私に言わせれば辛気臭い!)フォークソングと来たもんだw
だから普段「悪党は片っ端からぶっ殺せ!」とか「おっぱい見せろ!」とか言ってる私の好みに合うワケが無いんだけど、これは不思議と楽しめました。1984年当時としては内容が斬新だったからだと思います。
大都市じゃなく郊外の住宅街を舞台にし、それも庁舎移転による仮設のプレハブ庁舎に勤める刑事たちっていう設定がまずユニーク。
それより何より、扱う事件が殺人とか強盗じゃなく、万引きや詐欺など身近な犯罪ばかりで拳銃など使う機会はほぼ皆無っていう、所轄署の現実を描いてる点がとても新鮮でした。
『はぐれ刑事純情派』の登場が4年先の1988年、そして『踊る大捜査線』が10年以上先の1997年ですから、時代をかなり先取りしたテレビ番組と言えましょう。ごく稀に拳銃を使う場合は、必ず上司の許可を得てからロッカーの鍵を開けて……みたいな、現在なら当たり前のリアリズムにも当時はワクワクしたもんです。
あと、レギュラーキャストが芸達者揃いなもんで、ベタなコメディーでもしっかり笑わせてくれる安心感。これも大きかった。ほんと『西部警察』とは大違いw
そんな『私鉄沿線97分署』の最初期メンバーは、捜査課長の滝村警部(長門裕之)と、その右腕的存在の警部補=奈良龍治(鹿賀丈史)。
そして捜査課の紅一点刑事=本多杏子(坂口良子)。
ベテランの「クラさん」こと倉田警部補(高橋長英)と、中堅刑事の「ブル」こと松元良平(小西博之)、そして初代新任刑事で実質的な主人公=片山 大(時任三郎)。
なぜかこのドラマ、キャストどうしの顔と顔の距離がやたら近いw
で、97分署に常駐する検視官=榊 俊作(渡 哲也)の助手を務めるのが、早見優さん扮する相原恵子婦警。
いつも穏やかで歳下にも敬語で接する榊検視官は、質実剛健な大門団長とは対照的なキャラクター。渡さんの芝居はだいたいこの2パターンで分類できますw
☆第15話『スウィングしながらお見合いを!』
(1985.2.10.OA/脚本=渡辺千明/監督=長谷部安春)
滝村課長のお節介により、奈良さんが無理矢理お見合いをさせられる羽目に。ところがお相手の冴子(秋津万里子)にも結婚する意志は無く、バンドマンの恋人が気に食わない父親(睦 五郎)により彼女も無理強いされてのお見合いなのでした。
そんな冴子の恋を応援したくなった奈良さんだけど、こともあろうにそのバンドマンに大麻所持の容疑が掛かってしまった!
無実を主張する冴子とバンドマンを信じた97分署の刑事たちは、彼を罠にはめた大麻の密売人を捕まえるべく、その取引に使われてるホストクラブへと潜入!
で、実家の酒屋を手伝うために退職を決意した助手の恵子に、榊検視官がとある依頼をするのでした。
「ちょっと頼まれてくれないかな? この職場に、最後のオマケ」
「はい! わたし、大サービスしちゃいます!」
↑普通はこんなこと言わないと思うけどw、’80年代のドラマや映画はなぜか、若い女の子にこういう(アニメチックな)言い回しをさせるのが流行ってました。
榊さんが恵子に依頼したのは、捜査課の杏子さんと2人でホストクラブの客を装い、先にホストとして潜入した片山とブルの捜査をサポートする役目。
片山と杏子さんがチークダンスを踊ったりの見せ場もありつつ、恵子の大活躍によって事件は一件落着! 容疑が晴れたバンドマンと冴子の結婚も、奈良さんと榊さんの説得により睦五郎さんが許してくれるのでした。
危なっかしい潜入捜査にあえて恵子を参加させたのは、元は刑事志望だったのに検視官の助手を長らく務めてくれた彼女への、榊さんなりの感謝と親心なのでした。
「これからは、お父さん助けて、頑張って……いい酒屋さんになって、たまには商売物持って遊びに来てよ。それはそれで、僕の方は助かりますから」
というワケでこの第15話は、初回からレギュラー出演されて来た早見優さんの番組卒業エピソード。優さんは当時18歳でした。
人気絶頂のアイドル歌手が刑事ドラマにスペシャルゲストとして登場する流れは’70年代からあって、改編期の話題作りに大いに貢献してました。
たぶんジュリーやショーケンが『刑事くん』に(メインライター=市川森一さんとの交友から)ゲスト出演し、高視聴率を叩き出したのがキッカケで、山口百恵さんやアグネス・ラムさん等のビッグネームも続々登場するようになったと記憶します。(それ以前は大物ゲストっていう概念自体が無かったかも?)
そんな流れを受け継ぎ、当時17歳でバリバリの現役アイドルだった松本伊代さんが『西部警察 PART II 』にゲスト出演されたのも大きな話題を呼びました。しかも、その回の内容がまた衝撃的で……!
さて、うっかり暴力番組に(そうとは知らずに?)出ちゃった天下の清純派アイドルが、一体どんなムチャクチャな事をやらされたのか?(恐らく現在の芸能界だと完全NGな内容です) 乞うご期待!
☆第27話『傷だらけの天使』
(1982.12.19.OA/脚本=大野武雄/監督=澤田幸弘)
まずは当時の西部署捜査課メンバーをざっと紹介すると……
言わずと知れたグラサン殺戮爆破マシーン「団長」こと大門くぅ〜ん!(渡 哲也)
そして若手のハト(舘ひろし)、オキ(三浦友和)、イッペイ(峰 竜太)、ジョー(御木 裕)!
さらにベテランの浜さん(井上昭文)、佐川係長(高城淳一)、庶務係の美子ちゃん(小野田かずえ)!
トリは勿論この人、いつもブランデーを呑みながら仕事し、指でブラインドをこじ開ける……っていうイメージをゆうたろうに植え付けられた(けど実際にやっていたw)木暮課長(石原裕次郎)!
そして我らがセンチメンタル・ジャーニー=松本伊代さんが演じたのは、3年前に父親を亡くして以来、児童養護施設で暮らす幼い弟を1人で支える健気な看護士=月岡めぐみ。
彼女の父親は、かつて佐川係長が情報屋として使ってた男で、事件に深入りし過ぎて殺されちゃった。
それで責任を感じた佐川係長が毎月、この姉弟に匿名で送金したりなんかして「あしながおじさん」になってるという、ふだんは極端な「事なかれ主義」で団員たちに煙たがられる、彼のそんな優しい一面も明かした今回は、佐川さん好感度アップキャンペーンの回だったりもします。
ついでに言えば、七重さん(吉行和子)が経営するスナックで弾き語りの歌手を務め、頑なに同じ曲だけ唄い続けて来たアイちゃん(豊島ひとみ)の番組卒業回でもあります。別に改編期でもないのになんと盛り沢山!
で、なにが衝撃的だったかと言えば、うっかりヘロイン密売組織の秘密を知ってしまった伊代ちゃんが、拉致監禁された上に薬を打たれ、ジャブ中にされてしまう!(のりピー&エリカ様の事件を経た現在、これは絶対的なNG案件でしょう)
そんな卑劣なことする連中を束ねる、世界一卑劣な男と言えば、この人しかいませんw ↓
ほら出た! 卑劣が服を着て歩いてる男、その名は藤木敬士! 当然、伊代ちゃんの幼い弟も拉致し、姉弟もろとも抹殺しようとします。おそるべきワンパターン!w(『警視庁殺人課』#14 レビュー記事参照)
いやしかし、実はこれ、ほんの序の口です。真の衝撃シーンはここから。団長が……あの質実剛健な大門団長が、あの清純派アイドル松本伊代ちゃんを自宅マンションへと連れ込み、ベッドに押し倒して……おいちょ待てよ大門くう〜〜んっ!?↓
泣き叫ぶ伊代ちゃんを力ずくで押さえつけ、その清純なお顔に何やら液体を浴びせ、同居する妹の明子(登 亜樹子)を愕然とさせる卑劣なレイプ魔=大門圭介! 藤木敬士の立つ瀬がない!
……っていうのは実は冗談で、これは藤木敬士のアジトから救い出した伊代ちゃんを、一晩監禁してヤク抜きをする刑事ドラマ定番のシーン。それだけでケロッと治っちゃうのはテレビ番組の大嘘にせよ、現役バリバリのアイドル歌手にこれをやらせちゃうのは当時でもNGスレスレだったかも?
もちろん、怒りの団長パンチ(どう見てもホントに当たってる!)を250発ほど浴びた藤木敬士は今回も廃人となり、伊代ちゃんは晴れてクソガキ……いや可愛い弟と再会し、抱擁してハッピーエンド。珍しく銃撃戦に参加した佐川係長が、初めてみんなに敬われますw
まぁいつものごとくツッコミどころ満載のストーリーではあったけど、天下のスーパーアイドルを単なるお人形さんに終わらせず、あそこまでハードな役をやらせた石原プロモーションは称賛モノだと私は思います。そして勿論、やった伊代ちゃんも許可した所属事務所も天晴れです。素晴らしい!
同僚が配達中に交通事故を起こしました。ガードレールと接触し、車体に傷がついただけの物損事故だけど、丸2週間の乗務停止処分を食らいました。
隠蔽を謀ったりせず、すぐ正直に申告したそうだから、不正ではなくあくまで過失です。けど、今回はたまたま物損で済んだだけで、相手が車や人だったら大事故になっちゃいますから、厳しい処分が下るのは仕方がないと思います。ただ……
私自身も数年前に物損事故をやらかしたもんで、乗務復帰までどんな試練が待ち受けてるか、よく知ってます。正直、ウチの会社はやり過ぎだと思う。
事故当時の状況説明や始末書、反省文(というより誓約書)など何種類もの書類を書かされ、安全管理部のエライさんの説教とレクチャーを受け、遠く離れた主管支店(各都道府県の本部)まで何時間もかけて足を運び、もっと偉い人に謝罪し、説教を受け、教習所でやるような適正試験を受け、教育用のDVDを何種類も見せられる。
そして支店長が横に添乗しての実技試験、さらに安全管理部のエライさんが添乗しての実技試験。これがとにかく厳しくて、1回や2回じゃ済まない。運転内容はもちろん駐車位置や日常点検なんかも徹底的にチェックされ、100%完璧にこなせるまで再試験を繰り返す。
確かに、効果はあります。こんなにツラい思いは二度としたくないから、二度と事故を起こさないよう気を引き締めようって、心底思いますから。それが上の狙いであり、わざと厳しくしてるのもよく解ります。
けど……
あのとき、安全管理のエライさんに怒鳴られ、突き放されながら、私は感じてしまったんですよね。その人が、このシゴキを(無意識にだろうけど)楽しんでることを! これは決して愛のムチじゃなく、その人にとっての「プレイ」なんだと!
その人は何年も、県下の各支店を廻って年中そればっかりやってるワケです。そんなイヤな仕事、普通の人間なら絶対続かないと思う。好きで好きでしょうがないから出来るんだと思う。
あの理不尽なほどのシゴキを受けて、私はどうなったか? 確かに事故は二度と起こさない!って心に誓ったけど、それは自分が痛い思いをしたくないからです。それって、教育というより洗脳に近い。犯罪者扱いを通り越して、もはや家畜のシツケですよ! 軍隊や刑務所じゃあるまいし、そこまでやる必要があるのか?
事故を起こした時点で配達ストップだから、急遽ほかのドライバーに残りの配達を委ねなきゃいけないし、もちろん乗務停止期間中も同僚たちに迷惑と負担をかけてしまう。それだけで充分トラウマなのに、さらに追い詰めて追い詰めて、とことんツラい思いをさせ身体レベルで覚えさせる。まさに洗脳です。
確かに安全運転への意識は高まるけど、私の場合は偉い人たちに対する憎しみと会社そのものへの不信感も同時に高まりました。今の時代、一般企業でこんな事やってる会社ってあるんでしょうか?
事故対策に限らず、ウチの会社はひたすら従業員にムチを振るうばかりでアメはいっさい与えない。何年か無事故だと表彰状みたいなペラペラの紙をくれたりするけど、大して嬉しくもない。
そりゃあ事故は起こさなくて当たり前と思わなきゃいけないけど、例えば何年か無事故を通せば給料が上がるとか、そういうアメを与える方がよっぽどみんな頑張るんじゃないですか? どうせ家畜扱いするならば!
こういうもんなんですかねえ、会社って。ほんとに愛がない。トラブルが絶えない原因はそこにあるんじゃないですか?って、私は思います。
本エピソードは、第1話を撮られたメイン監督=中島貞夫さんが自ら脚本も手掛けられた入魂作。
中島貞夫さんと言えば’60年代から第一線で活躍され、85歳を越えてもなお、多部未華子さんがヒロインを演じた超パワフルなチャンバラ映画『多十郎殉愛記』(’19) を監督しちゃう等、和製クリント・イーストウッドとでも呼ぶべき筋金入りの映画人。
そんな中島監督だけに、本作もメッセージ色の濃い、パワフルで骨太なエピソードとなりました。
☆第17話『白昼の通り魔殺人事件・父を返せ!』
(1981.8.3.OA/脚本・監督=中島貞夫)
ある昼下がり、古谷(江角 英)という中年男が、まだ幼い一人息子=俊夫(加瀬悦孝)の眼の前で、いきなり出刃包丁でめった刺しにされ、即死。犯人はそのまま逃走します。
惨劇を目の当たりにした上、唯一の身寄りだったらしい父親を失ったショックで、俊夫はすっかり心を閉ざし、誰とも口を聞かなくなっちゃいます。
ミスター(菅原文太)からそんな報告を受け、今回はやけに出番の多い田丸刑事部長(鶴田浩二)が怒りを露わにします。
「狂ってるんだよ、世の中が。そういう世の中の狂いが、人間の抑制力を狂わせてしまってる。自分の欲望の為なら他人はどうでもいい、そんな人間ばかりが増えてるんだ」
そう嘆きたくなる事件が現在=2020年代も跡を絶たない現実を見ると、これが人間の本質なんだから仕方がないって、私なんぞはすぐ諦めの境地になっちゃいます。破滅です。
だけど世の中、そんなに捨てたもんでもない。身寄りの無い俊夫を「私が引き取ります!」と名乗りを上げる女性が現れました。俊夫が通う小学校の担任教師=野村美智子(山本ゆか里)です。
だけど学校のトップがそれを許可するとは思えず、田丸は「我々にそんな権限はありません」とやんわり断るのですが……
「それじゃ俊夫くんが施設に送られてしまいます! 私はイヤです! 私が引き取ります! 私に出来ることなら何でもします!!」
テコでも譲らない参っちんぐなミチコ先生は、強引に俊夫を自分のアパートに連れて帰るんだけど、そんなミチコ先生にも俊夫はなかなか心を開こうとしません。
一方、怨恨の線で捜査を進めてた殺人課の面々は、容疑者がまるで浮かんで来ないことから、これは動機なき殺人、つまり通り魔の犯行だろうと方針を切り替えます。
ミスターが再び刑事部長のオフィスを訪れ、田丸に報告します。今回に限ってやけにマメです。(たぶん中島監督が鶴田さんのファンなんでしょうw)
「あの残忍な殺し方は普通の人間じゃ出来ません。センパイの言う通り、狂ってるんですよ! 世の中も人間も!」
「通り魔だとしたら一刻も早く逮捕せねばならん。気の狂ったヤツを野放しには出来んだろう」
ちなみに、野放しに出来ない気の狂った通り魔を演じてるのは、言うまでもなくコイツですw ↓
血も涙もないガイキチ凶悪犯といえばこの人!の片桐竜次さん。ガラにもなく正義側についた『大激闘/マッドポリス’80』から解放され、まさに水を得た魚ですw
田丸による鶴の一声で、本件は極秘捜査から公開捜査へとシフト。ミチコ先生の献身でようやく心を開きつつある、俊夫の描いた似顔絵が役に立ちそうです。
ところが! そんな矢先に俊夫が何者かに誘拐されてしまい、久々にミスターのニューヨークかぶれが飛び出します。
「ガッデムッ!!」
もし誘拐したのが片桐竜次なら、俊夫が生きたまま戻って来ることは有り得ません。なぜなら片桐竜次だからです。
「私が間違ってました……私が甘かったんです。俊夫くんをこんな眼に遭わせたのは私です!」
そう言って泣き崩れるミチコ先生に、ミスターが言います。
「先生に責任は無い! 責任を取らなきゃならないとすれば、私です! 誠意って、何かね?」
ところがなんと! どういうワケか、俊夫がケロッと元気に帰って来た! 有り得ない! いたいけな子供を片桐竜次が惨殺しないなんて有り得ない!
「おばちゃん、いい人だったよ」
俊夫が言うには、連れ去ったのは片桐竜次とは正反対の、上品で知的な中年女性らしい!
殺人課の捜査により、俊夫を一時的に拉致したのは、吉野という鉄道会社副社長の妻(赤座美代子)であることが判明。もちろん、吉野夫人は犯行を否認します。
「部長、少々手荒な手を使わせてもらいますよ。俊夫くんの為です」
「五代、通り魔捜査に私情は無いだろうな?」
「大丈夫です!」
ミスターの指示により、ビショップ(中谷一郎)が吉野夫人を喫茶店に呼び出し、本当のことを言わなきゃ取調室に来てもらうと脅迫。夫人はやむなく「主人には内密で」という条件で真相を語ります。そう、すでに皆さんお察しの通りです。
「あの子は、私の子供なんです。私の産んだ子なんです」
やっぱり! 吉野夫人はかつて、殺された俊夫の父=古谷とチョメチョメな仲だった! しかし関係がこじれ、古谷が意地でも俊夫を手放さないもんで、夫人は泣く泣く身を引いたのでした。
「この事を知ったら主人が苦しみます。今の私たちの生活が壊れます。壊したくないんです!」
古谷が殺されたとニュースで知って、心配のあまり俊夫を連れ去ったものの、どうする事も出来ずにまた手放した。勝手な話だけど、それが人間ってもんかも知れません。
とはいえ、俊夫の幸せを第一に考えれば、やるべき事は1つしかありません。今度は秀才(三田村邦彦)が吉野夫人を緑地公園へと連れて行き、ミスターとすっかり打ち解け、無邪気に笑う俊夫の姿を見せつけます。これが作戦の第2段階。
「あっ、おばちゃん!」
愛情(母性?)が理性を押しのけて爆発し、吉野夫人は無心で俊夫を抱きしめます。
「俊夫、許して! お母さんを許して! これから2人で暮らそう! お母さんと一緒に暮らそう!」
やれやれ、と胸を撫で下ろすミスターなのでした。あれ?『警視庁殺人課』ってこんな番組でしたっけ?w
もちろん、そんな人情紙風船なお話で終わっちゃう番組じゃありません。なにしろまだ、あの狂犬が街をさまよってるんです。
俊夫の描いた似顔絵がなかなかのクオリティーで、追い詰められた片桐竜次は逃げた女房の母親(東郷晴子)を拉致し、破れかぶれの復讐へと向かうのでした。
「思った通り犯人は狂った野獣だ。どんな事があっても新しい犠牲者を出してはいかん!」
いやあ〜、さすがは片桐竜次! 卑劣です。凶悪です。狂ってます!
「動くな! 動いたらババア刺し殺すぞっ!!」
年配者の女性という、最もひ弱な相手を人質に取り、しかも自分の義母をババア呼ばわり。これぞ凶悪犯の鑑! これぞ片桐竜次のあるべき姿!(『相棒』では抜け殻になっちゃってます)
だけど頭はあんまり良くない片桐竜次。元女房の部屋に先回りした、殺人課の刑事たちにあっさり取り押さえられちゃいます。
「すぐに終わるからな」
俊夫と同じようにロクデナシな父親を持ってしまった、竜次の幼い娘を奥の部屋へと避難させ、さあ、今回もミスターのお仕置きが始まります。
「立たせろ」
久々に愛銃マグナム44をホルスターから引き抜いたミスターは、その銃口を片桐竜次の右腕に向けます。俊夫から父親を奪った、狂った野獣の利き腕です。
「うぎゃあああぁぁぁーっ!!」
だけどテレビ局の偉いさんやスポンサーの顔がふとチラついたんでしょう、ミスターはマグナムをビショップに預け、替わりに警棒を全力で振り下ろすという、実にコスパの良いお仕置きで済ませるのでした。(あの角度でマグナムを撃てば天井も吹っ飛びますからw)
それでも、さっきの悲鳴からすると複雑骨折は免れず、たぶん二度と右腕は使えない事でしょう。射殺がダメならこれでどうだ!?っていう、クリエイターの意地ですよね。
自分が妻子に逃げられ、ムシャクシャしてる時に幸せそうな古谷親子を見て、ついカッとなって殺した。そんな片桐竜次の供述を聞かされ、田丸刑事部長がまた嘆きます。
「やりきれんな……」
まさに、そんな輩が現実の我が国でもどんどん増殖してます。捕まえても捕まえても、たとえ全員死刑にしたとしても、根絶することは出来やしません。だって、それが人間っていう生きものだから。破滅です。
だけどその一方で、後先も考えないで俊夫を引き取ろうとした、まいっちんぐなミチコ先生みたいな人もいる。
そして夫人を許し、血のつながらない俊夫を快く家族として迎えようと言ってくれた、吉野副社長みたいな人もいる。
それもまた、同じ人間なんですよね。決して捨てたもんじゃない。中島貞夫監督はきっと、そんな想いを込めて脚本を書き、演出されたんでしょう。最新作『多十郎殉愛記』とも相通じてるように私は感じました。
まいっちんぐミチコ先生に扮した山本ゆか里さんは、当時21か22歳ぐらい。東映芸能からアイドル歌手としてデビューされた方なので『がんばれ!!ロボコン』はじめ東映系の特撮ドラマやアクション、時代劇への出演が多く、言わば我々ワールドに近しい女優さん。
刑事ドラマは他に『刑事くん』『刑事犬カール』『新 七人の刑事』『鉄道公安官』『爆走!ドーベルマン刑事』『噂の刑事トミーとマツ』『非情のライセンス』『西部警察』『新 女捜査官』『ゴリラ/警視庁捜査第8班』『さすらい刑事旅情編 II 』等々、ゲスト出演多数。やっぱり東映系の作品が多いみたいです。
1981年、しばらく続いてた刑事アクションドラマの大ブームには翳りが見えてたけど、それでもテレビ朝日は月曜の夜8時に『走れ!熱血刑事』、そして9時に『警視庁殺人課』と、2時間続けて刑事アクションを放映してくれてました。
だけど両番組とも視聴率には恵まれず、学園ドラマ調だった『走れ〜』はハード路線に、そして『警視庁〜』は逆に人情路線へと舵を切らざるを得なくなっちゃいました。
それで視聴率が上がるとは到底思えないのに、なんでそんなムダな改革をしちゃうんだろう?って、私はずっと疑問に思ってました。けど、自分が企業の歯車として働くようになってようやく理解しました。
業績不振に陥ったり不祥事を起こした企業は、何らかの改革案を提示しないと支援を受けられなくなっちゃう。個人レベルの話でも、例えば宅配ドライバーの私が誤配や交通事故を起こせば、具体的な改善策を会社に提出して認めてもらうまで乗務復帰させてもらえない。
それと全く同じなんですよね。やれクリエイターだ夢を売る商売だと言ってても、マネーが絡むかぎりサラリーマンと何も変わらない。正しいか間違ってるかじゃなく、売れるか売れないかで全てが評価されちゃう世界。
見返してやるにはBIGマネーを掴むしか無いんです。マネーマネーマネー! マネー・イズ・クレイジー! いつかヤツらに叩きつけてやる!!ってな話です。
だから、ソフトだった番組はハードに、派手だった番組は地味にと、判りやすく見た目を変えなきゃしょうがないワケです。テレビ局の偉いさんやスポンサー連中に内容の良し悪しなんて解かりゃしませんから。
そんなワケでこの『警視庁殺人課』では、ミスターがマグナムで悪党を射殺しなくなり、エンジェルが必然性なくオッパイを見せてくれなくなっちゃいました。その2つ無くして一体なにが残るねん!?って話ですw
だけどこの第14話は恐らく、路線変更が決まる前に完成されてた脚本で、ハード路線の名残りが色濃く残ってます。最後にミスターは射殺こそしないけど、見方によっちゃそれより酷い事をやってくれますw
そこに現場スタッフたちの「射殺がダメならこれでどうだっ!?」っていう反骨心、気概を私は感じました。昨今のテレビ番組からはすっかり消え去ったスピリットです。
さて、ここで警視庁殺人課のメンバーをおさらいしておきます。とりあえず体力派ナンバー1「ウルフ」こと久保刑事(剛 竜馬)は今回から出ませんw なぜ唐突に消えたのか?っていう説明も一切ありませんw
演じる剛竜馬さん(元プロレスラー)が何か警察沙汰を起こして降板になったと聞いた記憶があるけど、ウィキペディアやDVDの解説書には記載されてないので定かじゃありません。
芝居が出来る人じゃないのは一目瞭然で、番組が人情路線になったら出番も無くなっちゃうだろうから、どのみち降板する運命だったと言わざるを得ません。
ニューヨークで殺人術を学んで来た殺人課の親分「ミスター」こと五代警部(菅原文太)。前述の通り、愛銃マグナム44をぶっ放す機会がこれから激減しちゃいます。残念!(カレーライス食ってる場合じゃない!)
お色気担当だった筈の「エンジェル」こと眉村刑事(一色彩子)も前述の通り、もう二度とおっぱいを見せてくれません。無念!
ただ1人、体力派ナンバー2の「チャンス」こと村木刑事(関根大学)だけは、ナンバー1のウルフがいなくなって出番が増えるからウハウハかも知れません。まさにチャンス!
ベテランの「ビショップ」こと額田警部補(中谷一郎)も、人情路線へのシフトで見せ場が増えるからウハウハかも知れません。(関係ないけど刑事部屋にパトライトを設置してるのが微妙にダサい)
ミスターの右腕で熱血漢の「秀才」こと虎間刑事(三田村邦彦)は女性との絡みが増え、どうやら「殿下」的なキャラクターにシフトしつつある模様。今回も顔馴染みのホステスさんから有力な情報を聞き出します。
そして常にミスターの良き理解者で陰から殺人課を支援する、田丸刑事部長(鶴田浩二)は相変わらずのいぶし銀。この人が登場するとやっぱり画面が引き締まります。
というメンバーでお送りする今回の『警視庁殺人課』ですが、ストーリーはサラッと流しますw
☆第13話『連続美女殺人事件・女を喰う虫』
(1981.7.13.OA/脚本=神波史男&奥山貞行&石森史郎/監督=原田隆司)
ある昼下がり、ミスターが勤務中、誰がどう見ても場違いな代々木公園で油を売ってたら、愛車ポルシェ356の前で倒れてる少女を発見。どうやら心臓発作を起こしてる様子で、すぐに救急車を呼びます。
倒れてたのは香織(大久保和美)という女子中学生で、どうやら身寄りは歳の離れた姉の由香(鈴鹿景子)だけ。心臓を患ってる妹にアメリカで手術を受けさせる為、由香は決して本意じゃない水商売で懸命に働いてるのでした。
由香を演じる鈴鹿景子さんは当時、文学座の看板女優で刑事ドラマへの客演も多数。今回、秀才役の三田村邦彦さんと直接の絡みは無かったけど、1年後に『太陽にほえろ!』#527でがっつり共演する事になります。
その頃、ミスター率いる殺人課は高級コールガールばかりを狙った連続殺人事件を捜査中。コールガールとの関係を隠蔽したい政治家に雇われて彼女らを殺害したのは、表向きは一流カメラマンで女たらしの、椎名という男。演じたのは、卑劣なエリートや卑劣な色男と言えばこの人!の藤木敬士さんw
で、椎名は夜の店で知り合った由香ともチョメチョメな関係。香織がアメリカで手術を受ける為の、金銭的な支援を全面的に引き受けるという、椎名の甘い言葉を由香は信じてしまったのでした。
そんな姉の献身に、香織は「お姉ちゃんばっかり可哀想!」と涙を流します。この『水戸黄門』や『必殺』シリーズ的な設定と展開、イヤな予感がします。
そう、相手は藤木敬士なんです。卑劣なんです。そんな口約束を守るワケがないどころか、由香が殺人課のミスターと接点を持った事実を知るや、今度は由香の口を封じるべく入院中の香織を拉致! そしてアジトへと誘き出し、姉妹まとめて抹殺しようとします。
もちろん、我らがミスターはすぐに姉妹の危機を察知し、殺人課メンバーたちを引き連れて椎名のアジトへ急行!
これまでのミスターなら、すぐさまマグナム44を取り出し、問答無用で椎名一味を皆殺しにする筈だけど、局の偉いヤツらに改革案を提出した以上、そうはいきません。
さて今回、ミスターは射殺の代わりにどうやって悪党を懲らしめるのか?
「人間のクズめっ!」
まずは渾身のダイナマイトどんどんパンチを120発ほど浴びせるのは、まあ当たり前。もちろん、そんな程度じゃ藤木敬士の卑劣さは矯正できません。本番はこれからです。
「チャンス、こいつを運べ」
この手のチカラ仕事は本来ならウルフの担当だけど、幸か不幸か今後はチャンスの独壇場です。
さて、ビルの屋上まで椎名を運ばせたミスターが、いったい何をやらかすつもりなのか? もうお分かりですね。
「チャンス、放り投げろ」
「ええっ?」
「そんなクズは捨ててしまえ」
「…………」
なるほど! 自分の手は汚さず、部下にやらせちゃうとこが実にミスターらしい!w もちろんチャンスは逆らえません。
「ど、どうなっても知りませんよ!?」
というワケで藤木敬士、一巻の終わりですw 天罰だから仕方ありません。
まぁ、これじゃ偉いヤツらの神経を逆撫でしちゃうだけですからw、もちろんビルの下で警官隊が巨大マットを用意してました、っていうフォローは入ります。テレビというメディアの限界ですね。
だけどマグナムとは違った形で、ミスターの恐ろしさをしっかり見せてくれたスタッフの心意気に拍手!
言うまでもなく、由香&香織の姉妹は無事に救出されました。アメリカで手術を受けられるか否かには言及されなかったけど、きっと何とかなると信じるしかありません。
なお、今回のラストシーンで田丸刑事部長がミスターのマンションを訪れ、脚が不自由なミスターの妹=可奈子(里見奈保)に水着をプレゼントします。
可奈子役の里見奈保さんは、後に芸名を本名の「鶴田さやか」に改名されます。そう、田丸刑事部長を演じる鶴田浩二さんの実の娘(三女)で、このシーンが本作初のツーショット共演となりました。
鶴田さやかさんは他に『大空港』#06や『あぶない刑事』#49、『はぐれ刑事純情派』第4シリーズ#20、『愛しの刑事』#12、『さすらい刑事旅情編VI』#15 等の刑事ドラマにゲスト出演されてます。