木々に覆われた山道はトンネルのように暗い。足元は石が混じった赤土と粘土。ビブラムソールをしっかりと押しつけて登る。登る。次第に足が上がらなくなってくる。つま先が木の根に引っかかり転びそうだ。
“何でこんなことしてるんだ?”
小一時間ほど登り続けたとき、杉の間に古びた鳥居が見えた。何とか今夜の宿泊予定地に着いたのである。

雨が激しくなってきた。草地にザックを降ろしてテントを広げる。登山を終えた人々が下ってきて声を掛けてきた。
「明日登るんですか?」
「天気次第ですね。道はどうでしたか?」
「だいぶ荒れてますよ。気を付けて」
もう少しいろんな情報を聞きたかったがそうもいかない。彼らは下山を急いでいるし、僕は荷物がなるべく濡れないうちにテントを張らなければならない。家で練習しておいて良かった。
フライシートをしっかりと引っ張ってペグを打つと立派な前室が出来た。雨に降り込められたときにはこんなテントが心強いのだ。荷物を全て収納してジッパーを閉める。土砂降りだ。
今回持参した食料は、フリーズドライのパスタ類6食、アルファ米2食、チキンラーメン4食と行動食だ。
すっかり腹が減っていたが、調理する気力が沸いてこない。
「固い背骨、固い背骨...」と呟きながら、カタいビーフジャーキーを囓って空腹をごまかす。
シュラフを広げたり枕を作ったりと内装を整えたあとでモスキートネットのジッパーをいじっていると、つまみの紐が取れてしまった。観察してみるとこれは設計ミスである。暫く考えてからナイロンの予備紐を取り出して修理をした。上手くいったようだ。

気温がぐんぐん下がっていく。シュラフに潜りこんでモブログにトライし、日記をつける。
チキンラーメンを生で囓っているところで、自分がずっと微笑していることに気付いた。
幸せなのである。
そのことに心の底から満足し、歯も磨かず、ランプを消した。
冷たく湿った空気、すぐそばで鳴いているコオロギ。
この二年間、こんな時間を切望していたのだ。ずいぶんと時間がかかったものだ。
つづく
その1へ
“何でこんなことしてるんだ?”
小一時間ほど登り続けたとき、杉の間に古びた鳥居が見えた。何とか今夜の宿泊予定地に着いたのである。

雨が激しくなってきた。草地にザックを降ろしてテントを広げる。登山を終えた人々が下ってきて声を掛けてきた。
「明日登るんですか?」
「天気次第ですね。道はどうでしたか?」
「だいぶ荒れてますよ。気を付けて」
もう少しいろんな情報を聞きたかったがそうもいかない。彼らは下山を急いでいるし、僕は荷物がなるべく濡れないうちにテントを張らなければならない。家で練習しておいて良かった。
フライシートをしっかりと引っ張ってペグを打つと立派な前室が出来た。雨に降り込められたときにはこんなテントが心強いのだ。荷物を全て収納してジッパーを閉める。土砂降りだ。
今回持参した食料は、フリーズドライのパスタ類6食、アルファ米2食、チキンラーメン4食と行動食だ。
すっかり腹が減っていたが、調理する気力が沸いてこない。
「固い背骨、固い背骨...」と呟きながら、カタいビーフジャーキーを囓って空腹をごまかす。
シュラフを広げたり枕を作ったりと内装を整えたあとでモスキートネットのジッパーをいじっていると、つまみの紐が取れてしまった。観察してみるとこれは設計ミスである。暫く考えてからナイロンの予備紐を取り出して修理をした。上手くいったようだ。

気温がぐんぐん下がっていく。シュラフに潜りこんでモブログにトライし、日記をつける。
チキンラーメンを生で囓っているところで、自分がずっと微笑していることに気付いた。
幸せなのである。
そのことに心の底から満足し、歯も磨かず、ランプを消した。
冷たく湿った空気、すぐそばで鳴いているコオロギ。
この二年間、こんな時間を切望していたのだ。ずいぶんと時間がかかったものだ。
つづく
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