ルドンの掛け声で船は、船首を北に転じた。
太陽は真上にあり、この季節特有の南風が来た。帆は満帆に風をはらみ、船は波を割って快調に進んだ。
『隊長。この風です、帰りは帆走でいけそうですね。少々お休みください。何か変事の折には直ちに連絡します』
『おう、ありがとう。お前もアミクス、タルトスと話し合って、身体を休めろ』 彼らは互いにいたわりあった。
オキテスは、船倉に下りて身体を横たえた。船倉には、闘いの血の匂いが残っていた。櫂座の覗き窓から入る風は少ないが、疲れた身体を癒した。
肩の荷を降ろしたオキテスのまどろみの中に海賊との死闘の思いが渦巻いていた。臆病さに根ざした用心深さが、乗り組んだ者たち全員の生命を守り、オキテス自身の身をも守った。この感謝の念を誰かに告げたい思いに駆られた。それともうひとつ、彼の頭の中を駆け抜ける思いがあった。『生かされている』といった感覚であった。しかし、その思いはとどまらなかった。瞬時に頭の中を駆け抜けて消えた。
船は、航跡を残して、一路エノスへと向かっていた。
太陽は真上にあり、この季節特有の南風が来た。帆は満帆に風をはらみ、船は波を割って快調に進んだ。
『隊長。この風です、帰りは帆走でいけそうですね。少々お休みください。何か変事の折には直ちに連絡します』
『おう、ありがとう。お前もアミクス、タルトスと話し合って、身体を休めろ』 彼らは互いにいたわりあった。
オキテスは、船倉に下りて身体を横たえた。船倉には、闘いの血の匂いが残っていた。櫂座の覗き窓から入る風は少ないが、疲れた身体を癒した。
肩の荷を降ろしたオキテスのまどろみの中に海賊との死闘の思いが渦巻いていた。臆病さに根ざした用心深さが、乗り組んだ者たち全員の生命を守り、オキテス自身の身をも守った。この感謝の念を誰かに告げたい思いに駆られた。それともうひとつ、彼の頭の中を駆け抜ける思いがあった。『生かされている』といった感覚であった。しかし、その思いはとどまらなかった。瞬時に頭の中を駆け抜けて消えた。
船は、航跡を残して、一路エノスへと向かっていた。