『トロイからの落人』 FUGITIVES FROM TROY 第6章 クレタ ６５

　パリヌルスは、四日前にSOUDAの浜を訪れた際の事を思い出して舟艇の進路を誘導した。彼は進行方向右手の浜を眺めた。そこは思いのほか広い浜が開けていた。
　『う～ん、なかなかいい浜だな』
　浜は広い、彼は過ぎた日々の事を瞬時思い返した。長い時を過ごしたエドレミドの浜、そして、半年足らずの短い時を過ごしたエノスの浜、それらと比べることなく眺めた。その彼の目は、新しい土地にスタンスする者の目であった。
　『統領、向かっている先、左手に見えるのがスダヌスの浜です。この入り江はとてもいい入り江です。あらゆる点で評価することができます』
　『パリヌルス、お前の言うとおりだ。このように印象のいい入り江は多くはない、全くいい入り江だ』
　『統領、もうすぐです』
　浜頭の大型の漁船が見えてきた。乗り入れしようとする浜が指呼の距離に迫ってきていた。
　パリヌルスは、『今日はいるな』と独りごちて、アヱネアスに声をかけた。
　『統領、この頃合いなら、浜頭が漁から帰ってきたところだと思われます。いいタイミングで着いたと思います』
　『そうか、そうか』
　『ギアス、あの辺りに乗り上げてくれ』
　『判りました』
　小型の漁船が３、４艘、陸揚げされている浜を指さしてギアスに指示した。パリヌルスが空を見あげる、太陽は中天にあった。