『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第6章  クレタ  76

2013-04-16 14:03:18 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 イリオネスは、昨夜、オロンテスと話し合ったところへと歩を運んだ。そこにはオロンテスひとりが立っていた。
 『おう、オロンテス、お前ひとりか。二人はまだか』
 『ここへ来るとき、声をかけてきましたから、もうほどなく来ると思います』
 『調査に出かけた者ども四人、まだ帰っていないのだ。ちょっと、気にしている』
 『あの四人に何かあったのか、心配ですね』
 『何にもなければいいが、俺は、その心配をする立場にいる』
 『彼らの顔を見るまでは安心することはできない。それが当り前です』
 パリヌルスら二人が闇の中から姿を現した。
 『おう、来たか。朝、調査に出かけたアレテスら四人の帰りがまだなのだ。軍団長がえらく心配していられる』
 『そいつは気になるな』
 『もう帰って来てもいい頃である。軍団長そいつは気になりますね』
 『それはそれとしておいて、俺たちは俺たちの話をしようではないか。話をしながら彼らの帰りを待とう』
 『よし、判った。そのようにしよう。では、打ち合わせを始める。オロンテス、例の話からだ。立っていてもしょうがない、腰を下ろそう』
 四人は砂の上に腰をおろした。
 『顔も見えない闇の中で話すのもなんだな、表情が見えないのはいただけないな。我慢するとするか』
 彼らは闇の中で顔を見合わせた。目だけが光っていた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第6章  クレタ  75

2013-04-15 08:54:32 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『ほう、テカリオンが来る?何でまた。クレタに何用なのだ』
 『それは判りません。明日ここに来ると言っていたそうです。四人で対応を話し合っておきます。それについて、明朝、打ち合わせ会を持とうと思っていますが、統領も一考していただければと思っています』
 『おう、判った。何でもいい。いずれにしてもいい機会だ。如何なることもこちらの思い通りにすることだ。我々総勢の意思はそれだ』
 『判りました。言われた通りです。対応についてしっかり話し合っておきます』
 アヱネアスは、話し合いながらの夕食であった。考えながら食べ物を噛み砕き、結論とは言えないまでも考えを食べ物とともに胃の中へ落とし込んで腹中案とした。
 イリオネスは、明日、浜へ来るテカリオン、スダヌスらとの面談、対応の段取りを頭の中に組み立てた。今晩の四者の話し合いで、それらの事についての考えをまとめておこうと意志を決めた。彼は座を立った。
 『ごちそうさまでした。統領、私はこれで』
 『おう、今日の事、三人に伝えといてくれ、いいな。イリオネス、何事にもひるむことはない、うまくいく。自信をもって事に当たっていこう。今の我々には、その力がある。以上だ』
 直観思考で意思を決める時代である。アヱネアスの対応姿勢は決まっていた。まわりくどい考えや理屈は必要ない。要は力である、それが彼の思考の根拠であった。
 一族の長としての力強い言葉であった。イリオネスは、アヱネアスの統領としての言葉に勇気づけられた。彼は宵闇の空を見上げた。月はない、星が降るように瞬いていた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第6章  クレタ  74

2013-04-12 08:18:15 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『おっ、そっか。お前らようやったな。感心感心。全員の分も滞りなくやってあるな』
 『はい、もう皆、夕食を始めています』
 『じや~、俺たちも夕飯だ』
 『おうっ!』『おうっ!』
 『お前ら、いやに力、入っているな』
 食べ始めた彼らの夕飯は、気合を入れての食事であった。よっぽど出来上がりに自信があったらしい。彼らは、互いに目を合わせ、うなづきあって食べ物を口に運ぶ風景がそこにあった。
 『おおっ、者ども、こいつはいける。お前らやったな。なかなかいけるじゃないか』
 オロンテスは感嘆の声を上げて、パンをほおばった。
 『うっう~ん、いけるいける、いい味だ』
 気合入りの食事光景であった。
 イリオネスは、統領の家族、そして、アカテスとともに夕食をとった。
 『今日の夕食、いつもと違う。ちい~っと味が違うな』
 『統領、判りますか。何となくなじめる味がしますね。今日、オロンテスは留守にしてましたから』
 『あっ、そうかそうか』
 『統領、オロンテスから急な一報が入っています。それについて夕食の後、パリヌルス、オキテス、オロンテスと私、四人で話し合います』
 『ほう、急な一報とは、何だ』
 『オロンテスがキドニアの街でテカリオンに会ったそうです。明日ここに来ると言っていたそうです』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第6章  クレタ  73

2013-04-11 10:24:01 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 オロンテスは、イリオネスが舟艇から降りてくるのを待っていた。
 『軍団長、奇遇といえば奇遇です、そうでないといえば、そうでない必然が向こうにあったのではないでしょうか』
 『何だどうした、何か変わったことか』
 『テカリオンが、このクレタに来ています。昨日の夕方にクレタに着いたと言っています。お互い詳しい話を避けました。明日、ここへ来るといっています』
 『なにつ、テカリオンがこの島に来ていると。そのうえ、明日ここへ来るとな、判った。お前はどう思う、意見を聞かせてくれ。何はともあれ今帰着したばかりだ。夕食のあとにでもどうだ。昨夕、話した場所で話し合おう。パリヌルスとオキテスもともに行く、いいな』
 『判りました。キドニアでの調査したこともその時に話します』
 『よし、判った。それでいい、スダヌスも明日の午後には、ここへ来ると言っている』
 『判りました。とりあえず用件はそれだけです。クリテスが一緒にいてくれたこと大いに助かりました』
 『そうか、ではあとで』
 イリオネスは、踵を返してアヱネアスの後を追った。
 オロンテスは、担当業務の場に戻り、業務の進捗状態をチエックした。指示したとおりに仕事がなされており、安堵の胸をなでおろした。彼は、留守を任せた者たちを身近に呼んで、事情を聞き、明日の仕事に関する準備、下仕事等について慎重に聞いた。
 『よし、いいだろう。お前たちご苦労であった。明日も多忙だ、気張ってくれ。さあ~、皆でめしにしよう』
 『オロンテス隊長、夕めしの準備はこちらにできています。こちらへ』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY      第6章  クレタ  72

2013-04-10 07:50:25 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 クリテス兄弟の長兄のアクロテスが浜衆らに指示を出していた。荷が舟艇に積み込まれた。
 『アクロテス、今日は突然押しかけて、えらく世話になったな、ありがとう。父上によろしく伝えてくれ。積み荷の品ありがたく頂戴する。ありがとう』
 『ギアス、艇を出してくれ』
 アクロテスがイリオネスに声をかけてきた。
 『軍団長殿、この船はめずらしい型をしていますね。今度、父とそちらに出向いたとき、この船をじっくり見させてください』
 『おう、判った。ギアスに言って、試しに乗せてもらったらいい。そのように手配する』
 『ありがとうございます』
 彼らとのやり取りを終えた。舟艇は、浜をゆっくりと離れた。入り江の風は気ままに吹いた。向かい風かと思えば左手側の山から吹き下ろしてくる。艇の進行は漕ぎかたにゆだねた状態であった。入り江から出た艇は北上し、半島の北のはずれで西に進路をとり帰った。帰路途中は、航走に力を貸す風を得ることは出来なかった。SOUDAの浜から帰着するまで漕走した。漕ぎかたは休むことなく懸命に漕いだ。艇は無事、日没前に帰着した。
 浜に着いた彼らをオロンテスが出迎えた。
 『統領、ご苦労様でした』
 彼は、ギアスの方に向きを変えて声をかけた。
 『ギアス、風の具合はどうであった』
 『SOUDAの浜を出て、こちらに着くまで、漕いで漕いで帰ってきたような始末だ』
 『それは、大変だったな、ご苦労』
 オロンテスは言葉でねぎらった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY      第6章  クレタ  71

2013-04-09 08:02:50 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『いやあ~、浜頭、昼めし大変、馳走になった。そのうえ、浜頭が親しくしている浜頭の皆さんにも会えた。何よりであった。我々が全く予期していなかったことである。心から礼を言う。ありがとう。ところで浜頭の予定の事だが、いつ来る?』
 『はい、そのことでしたら、今日の話し合いで目途がつきます。明日、昼までにはそちらへ行きます』
 『それは、有難い。待っている。吉報を頼む』
 『それは、もう充分、心しています。吉報を携えてまいります』
 『よろしく頼む。俺たちは、これで失礼する。昼めしは極めつきであった。大変旨かった。ありがとう』
 浜頭とのやり取りは終わった。アヱネアスは、浜頭連中の方に体の向きを変えた。
 『いやあ~、ご一同、貴方がたとここで会えたことをうれしく思っています。今後とも宜しく』
 アヱネアスは、気持ちを伝えて小屋を出た。彼は太陽を仰ぎ見て大体の頃合いを測った。
 『イリオネス、行こう』 と声をかけて舟艇を乗入れた浜へと歩を運んだ。そこには、7~8人の浜衆が屯していた。彼らは見慣れない舟艇の構造について囁きあっていた。
 『この船は、変わっている。どんな走りをするのだろうか』
 『船足は速いだろうか?』
 『船尾の三角帆は、どんな役目をしているか?気になる』
 『あれは、走りに関係がないよ。俺はそのように思う』
 彼らの話題は、走りに集中していた。イリオネスたちが近づくと話は止んだ。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY      第6章  クレタ  70

2013-04-08 09:38:57 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 昼飯は、『旨い、旨い!』で終わった。小屋外の昼めしの場でも、ギアスと漕ぎかた連中が浜頭配下の連中と昼めしをワイワイ、ガヤガヤ、旨い旨いで終わりはねていた。
 イリオネスが統領の耳にささやいた。
 『統領、このあと如何様にはかりましょうか』
 『う~ん、そうだな。昼めしの場で彼らと顔はつないだ。それでいいではないか。イリオネス、この場はこのままでよい。我々は帰ろう』
 『判りました。そのようにはからいましょう』
 彼は外へ出て、ギアスを呼び寄せた。
 『おう、ギアス。お前ら昼めしは終わったか』
 『はい、終わりました』
 『そうか、それでは我々は帰る。帰り支度だ。船、いや、舟艇の出る準備をしてくれ』
 『判りました』
 ギアスは、漕ぎかた連中を促して、出航の準備を抜かりなくやった。
 『おい、者ども艇の具合はどうだ』
 『不具合、異常はありません』
 『そうか、それは重畳、出航はいつでもいいな』
 『はい、いつ何時でも、OKです』
 『判った、ご苦労』
 ギアスはイリオネスに報告した。
 小屋では、アヱネアスが昼めしを馳走になった礼を言っていた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY      第6章  クレタ  69

2013-04-06 12:43:27 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 人が旨いものを口にする、心が和む、人と人がつながる、日常の晴の場であり、快の行事であった。
 旨い魚、クレタの魚の旬である、酒はすすむ、見ず知らずがアイアイの和気でフツフツと場の雰囲気を醸成していった。
 スダヌス浜頭の声がけで集まった浜頭連中が酒を酌み交わしながら自己紹介に及んでいった。二人はSOUDAの浜の頭である。もう二人は半島の西のキドニアの街の浜頭であった。
 浜頭はギアスの持ってきたパンを連中に配った。見た目には何の変哲もない、どこにでもあるパンである。スダヌス浜頭は口を閉じていた。連中はパンを何気ない風で口に運んだ。
 彼らは、目からウロコをはぎ落した。彼らは口をそろえて声をあげた。
 『うっう~ん、これは旨いっ!素晴らしく旨い。初めて口にする旨いパンだ』『このパンは酒にも合う。あうあう、感動、感動!』
 言葉をだぶらせて感動の表現に及んだ。浜頭はその感動風景をじいっ~と見つめた。彼は、この昼食光景を見て満足げであった。
 遠来の客とともに昼食の時を過ごした浜頭連中も久しぶりの感動に浸ったようであった。
 『おい!旨かったな』『今日の昼めしはうまかった』
 『おう、スダヌス、旨かったぞ、こんな昼めしチョイチョイ頼むわ』
 表現語彙の少ないこの時代、彼らは、その少ない語彙を連ねて感動を身体で表した。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY      第6章  クレタ  68

2013-04-05 11:21:58 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 炉の炎であぶられている朝から水揚げした魚の香ばしい匂いが列席の者たちの鼻をついた。
 『よっしゃ!ご一同、魚も焼けた。昼めしを始めよう。統領、そして、皆さん杯をお持ちください』
 一同は、勧められるままに杯を手にする、注がれる酒、大きめの杯である、注がれた酒が波だっていた。
 浜頭が口を開く、しゃわがれた大声である。
 『今日ここに遠来の客を迎えた。我々との誼み(よしみ)が今日から始まる。乾杯っ!』
 昼めしが始まった。焼けた魚の身をつまみ、塩をまぶし口に運ぶ、『旨いつ!』の一言が場にとんだ。
 浜頭もなかなかに手回しがよく、手伝いの者を呼び寄せて、ギアスに引き合わせた。
 『ギアス殿、従卒の皆さんにもと昼めしの場を浜に作りました。うちの者たちとも一緒ですが皆さんをお連れくださって、どうぞ』
 『それはかたじけない。いいのかな?』
 ギアスは、軍団長と二言三言話した。
 『浜頭、どうもありがとう。軍団長から受けてもいいと言われました。喜んでごちそうになります。私はそちらで皆とともに昼食をとります。心遣い誠にありがとうございます』
 SOUDAの浜は、一斉に昼めし時となった。しばらくしてギアスが顔を見せた。両手に大きな袋をもっての姿である。
 『浜頭、これをどうぞ』と、その大袋を手渡した。
 受け取った浜頭の顔が微笑みにくずれた。
 『いやあ~、これは、ありがとう。例のパンではないですか。喜んでいただくぞ、ギアス殿。統領に、軍団長殿、こりゃあ~、大感激だ。ありがとうございます』
 彼は、感動を体全体で表して感謝の言葉を口にした。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY     第6章  クレタ  67

2013-04-04 07:26:07 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『おう、浜頭、いいか、客人のようだが』
 イリオネスは、言葉短く問いかけた。
 『え~え、軍団長。よろしゅうございますとも、何を言われます。今日は、皆さん、いいタイミングで見えられた。私もとてもにうれしい。ここにいる者たちは、この入り江の浜の頭の連中です、のちほど紹介いたします。私ども例の件で話し合っていたところなんですわ』
 浜頭は、小屋中央にしつらえてある円形の炉の真ん中にいて、クリテスの兄弟のアクロテスとイデオスに指図して、あらたに加わった客であるアヱネアスたちを歓待した。
 『ところで、軍団長。皆さん、陸路を?それとも船で?』
 『おう、船でだ。天気具合もいい、海も落ち着いていた。そのようなわけだ』
 『そうですか。それはよろしかった。浜頭連中の紹介は、あとにして皆さんを連中に紹介しますわ。いいですね』
 彼は、浜頭連中のほうに体を向けた。
 『皆に紹介する。先ほどの話の中心であった、キドニアの浜に上陸したトロイの民の首長、いやいや、統領のアヱネアス殿だ。そのとなりが軍団長のイリオネス殿だ。次がパリヌルス隊長、となりがオキテス隊長、そして、ギアス隊長のお歴々だ』
 一応紹介が終わった。すかさず、アヱネアスが腰をあげた。浜頭連中と目線を合わせた。
 『やあ~、皆さん、私がアヱネアスです。何かとお世話になるやもしれません、宜しく。また、ここにいる者たちも宜しく』
 アヱネアスは、くだけた感じで親しみを込めて、初対面の言葉をかけた。