『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  318

2014-07-17 07:17:35 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『おう、ヨッシャ!ヨッシャ!上々の出来だ』
 ドックスは満足の笑みを浮かべた。作業員の一人が彼の許へと駆けてくる。
 『棟梁っ!帆が出来あがりました』
 『おっ!そうか、行こう』
 二人は帆のところへ向かった。ドックスは厳しい目で仕上がりを確かめた。
 『横桁を帆柱に結び付けて立ててみろ!』
 『はい、判りました』
 作業に携わっている者たち総がかりで帆柱を立てた。それを見るドックスとパリヌルス。二人は目を合わせて頷き合った。
 『おう、ドックス、いい出来だ!グッド!』パリヌルスが言う。
 『では、船体に帆柱を立てます』
 ドックスは青空を背にして立つ帆柱を仰ぎ見た。どう説明していいかわからない感動が胸中を通過した。
 『隊長、もうこの時間です。あと小一時間、船を海上に浮かべて、舵の取り付けを行って完了です』
 『おう、判った。ドックス、帆柱の先に風見の吹流しの布きれを取り付けるのを忘れるな』
 『判りました』
 作業は仕上げに向かって進んでいる。彼はじい~っとその風景を見つめた。彼の右手には酒の入った壺が握られていた。
 彼ははっとした。
 『忘れていた。これはいかん!操舵担当を決めなければ、、、』
 彼は、手にしていた酒壺をドックスに託して、リナウスのいる広場へ走った。
 『お~い、リナウス!』と大声をあげてリナウスを手で招きよせた。
 『リナウス、頼みだ。小船の操舵を任せられる者、調査隊に同行だ。一人を選んで、俺のところへよこしてくれ。俺は浜にいる。急いでくれ、大至急だ』
 『判りました』
 パリヌルスは浜に戻った。
 『あ~、隊長、いいところへ、タールの乾き具合を見てください。私はいいと思うのですが、、、』
 彼は、タールの乾燥状態を二人で確かめた。
 『おう、これで良しとしよう』
 二人は、帆柱が立ちあがった小船をしげしげと見つめた。パリヌルスの胸に去来した感動は久々の感動であった。
 『いいもんだな、ドックス。製作を思い立った工作物が出来上がる、そうして目にする。この感動は格別なものなのだ』
 彼は『パリヌルス隊長!』と呼ぶ声を耳にした。振り返る、そこにはリナウスと選ばれた操舵の者の二人が立っていた。
 『おう、リナウス、ご苦労!』
 『隊長、ホーカスです。適任だと思います』
 『おう、判った。リナウス、彼に用務について説明したか?』
 『はい、隊長が言われたのみを伝えてあります』
 『判った、ところで、ホーカスの剣の腕前は?』
 『中の上といったところです』
 『判った。いいだろう』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  317

2014-07-16 07:28:07 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『よしっ!それは重畳!明日は俺も早朝からここに来る』
 『判りました。お願いします』
 ドックスは作業している者たちに声をかけた。
 『今日はこれまで、これで終わる。一同ご苦労であった』
 彼らは、『おう!おう!』とドックスの言葉に答えて引きあげた。
 パリヌルスは、くすぶる焚き火の薄明かりで、タールの塗り具合と乾き具合を点検した。
 『うう~ん、まあ~、これで良しとしよう。乾きも明日の午前中で、それなりだろう』
 それから、船の中を覗き視た。すでに帆柱を保持する桁が組み込まれていた。手で触れてみ、る。力を入れて確かめた。微動もしない。『上出来だ』彼は作業の進捗を確かめて浜をあとにした。
  
 夜が明ける、朝の気配の薄明の頃合いである、パリヌルスは浜へと急いだ。改造中の小船の周りには三人の人影が見える、彼は近づいていった。ひとりはドックスである。
 『や~、君たち早いではないか、朝行事は終えたのか?』
 『いえ、まだです』
 『一緒に入ろう』
 彼は三人を誘った。四人は海に身を浸しながら朝のあいさつを交わした。ドックスがパリヌルスに声をかけてくる。
 『隊長、早ですね』
 『そういうお前も早いではないか』
 『え~え、いい仕事をしたい。仕事に対する心意気といったところだと思っています』
 『そうか、それはありがとう』
 朝行事に来る者たちが続く、小船の改造に携わっている者たちである。パリヌルスは感動した。彼らの心意気と所作に心が揺さぶられた。
 朝行事を終えたドックスは、小船の傍らに立って集まってくる者たちと言葉を交わしている。ドックスは、すでに作業結果のチエックを終えていた。彼は大方の作業員が顔をそろえるのを待って、作業の段取りを組み立てていた。
 『おう、一同、そろったようだな。皆、こちらへ寄ってくれ。今日の作業手順を説明する』
 彼は、作業について説明を始めた。
 『ーーーー。ということだ。判ったな。以上だ。急いで仕上げたから、仕事が雑だ、ということは許さん!入念、丁寧な仕上げを心がけて作業により組むこと。仕事は、太陽がこの位置に来るまでに完了させる。いいな!作業にかかってくれ』
 彼らは一斉に作業に取り掛かった。
 ドックスは浜に帆布を広げて、その上に帆柱を寝かせて横桁を組み合わせて、帆布の形を整えた。舵部の作業は、舵の保持部の取り付けも念を入れて仕上げた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  316

2014-07-15 06:36:04 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 イリオネスは、調査隊の打ち合わせを終えて、一行を引き連れて浜に降りてきた。彼らは改造作業の進む船の傍らに立った。船体はこうこうと燃える焚き火の明るさに映えていた。
彼らはタールを塗り立てた黒々とした船体に見とれた。イリオネスが口を開いた。
 『君らを目的地に運ぶ船だ。まだ帆柱がたってはいない。船の全体像が見えないが、この船で目的地に向かう、いいな。明後日未明、夜が明けないうちに出航する。ガイドは、クリテスが責任担当する。明日、昼めし前に最終の打ち合わせを行う。以上だ。尚、打ち合わせには、漕ぎかたの6人、操舵を担当する1人が加わる、では解散する』
 彼らは改めて、進んでいる船の改造作業を見つめた。
 調査隊の中にあって副長役を担当するアレテスは、三人に向かって声をかけた。
 『君たち、ご苦労であったな。明日、太陽がこのくらいの位置にあるころ、軍団長の宿舎前に集合してくれ。解散!』
 彼は、宵闇の迫りくる空の一郭を手で指し示していた。次いで船の改造作業を指揮しているドックスに声をかけ、パリヌルスの所在を尋ねた。
 『あ~あ、隊長ね。隊長は、いま舟艇の方にいると思いますが』
 アレテスは、ドックスの指さす方へと歩を向けた。パリヌルスはギアスと話し合っていた。
 『おう、アレテス、調査隊の打合せ終わったのか』
 『終わりました。小島へ戻りたいのですが、、、』
 『おっ、そうか。ハシケでいいか』
 『はい。それでよろしいです』
 パリヌルスは、アレテスとともにハシケの場所へと歩を運んだ。
 『そうか、調査隊の副長役か。道中、気を付けていって来いよ』と励ましの口調で言葉をかけた。
 彼は、『お~いっ!』と声をあげた。ハシケの漕ぎかたの一人が小走りでやってくる。
 『おう、頼む。アレテス隊長を小島へ送ってくれ』
 『判りました』
 パリヌルスは、ドックスのいる作業現場へと歩を向けた。作業現場では、ドックスを真ん中に作業員たちが集まっている。
 『おう、ドックス、打ち合わせ中か』
 彼は話しかけを控えた。
 『諸君。今日は大変にご苦労であった。明日の段取りを伝える。帆柱担当、舵担当は、早朝から仕事にかかること。タール塗り担当は、今日やった作業の仕上がりをチエックしたあと、修正箇所があれば、これを修正して作業を完了する。以上だ、いいな』
 『ドックス、どんな具合だ?』
 『はい、報告します。順調に仕事が進行しています。予定どおりです。タールの乾き具合もいいようです』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  315

2014-07-14 07:30:11 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『おう、ドックス、帆だ!これを切り取って使ってくれ。それから、帆柱の横桁だが、、、』の問いかけにドックスは答えを返した。
 『隊長、横桁の事ですが、心配はいりません。それは、ちゃんと持ち帰っています』
 『そうか、それはよかった。帆の横幅を決めるようになったら俺を呼んでくれ』
 『判りました』
 パリヌルスは、船体改造の手配を終えてひと息ついた。オキテスが姿を見せた。
 『おう、パリヌルスご苦労!漕ぎかたの6人は決めた。操舵する者はお前が決めてくれ』
 『判った。その6人の者たちだが、明日、昼めしを終えたら、この浜に集まるようにしておいてくれ』
 『判った。船の改造の部材の準備うまくいったのか?』
 『おう、それは、うまくいった、安心してくれ。今、総動員で仕事に当たっている。タールの乾き具合を気にしている』
 『そうだな、時間的なリミットがあることだ。出たとこ勝負だな。結果云々ではないだろう』
 『そうだな、『全て順調にうまくいけ』と念じている』
 二人は肩を並べて、やや距離のあるところから船の改造作業を眺めた。パリヌルスは、作業現場の傍らに来て、ドックスに進捗状況をたづねた。
 『船体の損傷は少なかったですね。傷んでいた箇所は5箇所余り、もう修復は終えています。よく手入れされていた船ですね。船体外部のタールも塗り替えを必要としないくらいです。付着物の除去はもう終わります。今夕にはタール塗りも終わります。隊長、舵の大きさも先ほど決めた大きさがちょうどいいようです』
 『そうか、よし!判った』
 『隊長の工具、釘等の見立ての確かさが、作業をとても楽にしてくれています。これはおかげさまといったところです』
 『それはよかった』
 『特に鋸の使い勝手の良さには、目からウロコといったところです』
 『ほう、そうか。お前が言うのなら間違いのないところだ』
 二人は言葉を交わしながら、サイズを決めた舵を眺めた。
 『よし、操舵棒の長さは、これくらいでどうだ』
 『いいですね。それでやりましょう』
 舵の操舵棒の長さはすぐに決まった。ドックスは作業を、いけ、いけ、どんどん!で進めた。宵が迫るころには、船の周囲に焚き火を燃やし、塗りあげたタールの乾燥に配慮した。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  314

2014-07-11 07:17:52 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 浜に降り立ったパリヌルスは、浜にいる者たち全員を招集した。彼は、船の改造に関する指示を発した。
 『以上だ。事はとにかく急いでいる、心してくれ。作業に関する責任者はドックスである。彼の指示に従って事に当たってくれ!作業の遅滞は許さん!念を押す、心して事に当たるのだ、いいな!』
 彼は語気鋭く言い渡した。
 『おう、ドックス。帆柱の高さを決めよう。また、舵についても検討する』
 『隊長、舟艇の帆柱の高さが目安です』
 『おまえの言うとおりだ』
 二人は船のサイドに立った。
 『ドックス、帆柱をもって、その位置に立ってみてくれ』
 パリヌルスは、船から離れて帆柱を眺めた。
 『よし、決めた。帆柱をもって来てくれ』
 彼は、帆柱の高さの見当をつけた箇所に目印となる縄を結びつけた。
 『ドックス、もう一度、帆柱をもって先ほどの箇所に立ってみてくれ』
 彼は、帆柱の立った様子を眺めて、帆を張った小船の全体像をイメージした。
 『ドックス、帆柱自体に傷んだところがあるか?』
 『いえ、それはありません。はい、大丈夫、使えます』
 『よし!帆柱の高さは、見当をつけた縄部分の高さでいってくれ』
 『判りました』
 『よし、次は舵の件だ。舵を見せてくれ』
 二人は舵を見た。
 『ややっ!これは、でっかいな!これは、でかすぎる』
 パリヌルスは、思案して、決断を下した。
 『このサイズにして、少し軽くなるように細工してくれないか。舵の操作棒の長さは、海に浮かべた上で決める』
 『判りました』
 『では早速、作業に取り掛かってくれ』
 パリヌルスは、帆布の事にあたった。彼は、各船の帆布の予備を格納している6番船に歩を向けた。軍船に使っていた傷みのない一枚の帆を選んだ。持ち上げてみる、『ううっ!重いっ!』
 彼は船上にいる一人の者を呼んだ。
 『おう、ちょっと力を貸せ』『はい』その者の力を借りてパリヌルスは、船から帆布を下ろした。
 『隊長、私が持ちます。このようにすれば、持ち運びが楽になります』
 彼は、帆布を細長く丸めるように畳んで、その一端を肩に担いだ。
 『隊長は、帆布のうしろの先端を肩に担いでください。これでいい、行きましょう』
 二人は、帆布を船のところへ運んだ。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  313

2014-07-10 07:10:12 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスは、船を島の北西端の廃船の在り場所に向わせた。船体の帆柱部分と舵部分の解体作業が終わりかけていた。
 『おうおう、ご苦労ご苦労!作業はもう終わるかな?どうだ』
 『はい、舵部分の取り付け部のとりはずしが終われば終了です』
 パリヌルスは、『そうか』と言って現場を見渡し、解体して取り外した部材の船積みを命じた。部材等の積み込みを終えた彼らは、ギョリダに声をかけて島を離れた。
 船は、島の西岸に沿って南下した。彼は、船上で一同に声をかけた。
 『諸君!ご苦労であった。今日、これからの作業について話す。浜に着いたら、この船を浜に引き上げて、先ず、船全体を念入りにチエックする、いいな。次に傷んだ箇所があれば修理だ。そして、船体に付着している貝殻等の除去だ、それを終えて船体外部を乾かす、そして、タール塗りだ。これ等の作業の同時進行だ。次に、解体して積んできた帆柱と舵の取り付け作業にかかる。判ったな。作業に着手する前に船の清掃を忘れるな。明日も引き続きこの作業を実行する。尚、作業を明日の午前中に完了すること、絶対命令である。判ったな!以上申し渡したぞ!遅滞は許さん。責任担当はドックスお前だ、責任をもって作業を遂行してくれ!尚、海上の試走は、タールの乾き具合をみて明日の午後に行う、以上だ。ドックス、何か聞いておきたいことがあるか』
 『了解しました。隊長の説明で十分です。舵の取り付けに関してですが、大きさの決定。また、帆柱の高さについては、どのように考えておられるかですが、、、』
 『その件については、浜についた時点で検討する』
 『判りました。作業にできるだけ多くの者を動員するよう計ってください。今日の作業の進み具合が勝負どころです』
 『判った。了解した』
 船は浜に着いた。彼らは、船から飛び降りた。所作がてきぱきとしている。
 パリヌルスの作業指示が、モチベーションマインドに点火し、ドックスの檄が彼らを動かした。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   大7章  築砦  312

2014-07-09 07:52:21 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 イリオネスは、木札100枚を入れた袋をもってきてパリヌルスに手渡した。
 『パリヌルス、この袋には集散所で使用する木札が100枚入っている。これで足りるか足らないかはわからないが、入用なものを調達してくれ。少々の不足の場合は、オロンテスに言って、今日受け取った木札を使っていい、そのように計らってくれ』
 『判りました。ありがとうございます。私は、今からキドニアに行ってきます。船の状態チエックの事もありますので、、、』
 『判った、行って来い』
 『この時間だと、昼過ぎまでに帰ってきます。その予定です』
 パリヌルスは、浜に降りて要員を集めた。廃船の解体要員と漕ぎかた10人を集めて小島に渡った。
 小島に着いたパリヌルスは、ギョリダと打ち合わせて、解体要員を連れて廃船の在り場所へと向かった。彼は、目的に沿って船の解体要領を説明して、細かく指示を言い渡した。解体の責任者には造船要領に詳しいドックスを責任者とした。
 小島における用件を終えたパリヌルスはキドニアへと船を向かわせた。
 船上のパリヌルスは、波の状態と船体の微妙な反応、櫂操作による船の進み具合等について、念入りにチエックして、不具合のあるなしを確かめた。そのうえで帆柱の接地箇所、そして舵機構の取り付けをどのようにするかを検討した。
 キドニアの船溜まりに着いたパリヌルスは、船番役を残して集散所に向かった。集散所に着いた彼は、オロンテスにひと声をかけて用向きの売り場へと向かった。
 彼は使用目的の工具をいろいろと物色のうえ決め、使う消耗品をも求めた。イリオネスから預かって来た木札で十分に足りた。彼らは集散所を後にした。
 船溜まりに着いた彼は、空を見上げて時を確かめ、一同に呼びかけた。
 『ここでの用事は終わった。全員持ち場についてくれ。帰るぞ!』
 10本の櫂が海面を泡立てた。帰路に就いた船の船上では、パリヌルスは展帆した船の進み具合を想像した。その時、漕ぎかたの一人から声がかかった。
 『隊長!浜へ向かいますか、それとも小島へ向かいますか?』
 『おう、向かう先は小島だ』
 すかさず、櫂操作の指示を飛ばした。
 『そうだな、舵は必要不可欠のものだな』
 船は小島へと波を割った。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  311

2014-07-08 06:02:07 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 彼は廃船の検分を終えた。検分したすべての部材を持ち帰り、船の改造に使えるかどうかを確かめたうえで使用するとした。
 帆柱は部材として採用することは決めていた。クレタ島には、船の帆柱に使用することのできる杉の良材が乏しいのである。クレタで建造される船舶に使われている杉の木は、レバノンから輸入した、レバノン杉が使われていたのである。パリヌルスはそれを知っていた。彼は帆柱、舵部分に限らず、船に使っている板材をも持ち帰ることを決めた。
 彼は歩きながら船の改造に関する段取りを決めた。
 朝めしを終えたアレテスは、島のなぎさでパリヌルスの来るのを待っていた。
 『おう、アレテス、待ったか』
 『いえ、そんなに』と答えて、パリヌルスと目を合わせた。
 『船の方はいかがでしたか?』
 『予定していた部材は充分にいける、使える。あとから取りに来る』
 『そうですか、判りました。その旨、ギョリダに伝えてきます。少々お待ちください』
 『おう、ありがとう』
 用件を終えて二人は島を後にした。二人のささやかな気配り、感謝のやり取り、このような気使いが意志の疎通を促し、団結と集団運営のモチベーションをより良いものにしていた。
 パリヌルスの胸中では今日、明日の段取りができていた。
 彼は、集散所の売り場を見て歩いた時のことを思い起こしていた。工具などを取り扱っている売り場の事である。そこに並べてあった鋸や鉋、釘等の事を思い浮かべた。パリヌルスらの使用している鋸に比べて、クレタ人らが使う鋸が進化していることに気づいていた。彼は、段取りと相まって、それら工具、消耗品を準備することを心に決めた。
 浜に着いた二人は、連れだってイリオネスの宿舎に向かった。イリオネスは、まだ宿舎の中らしい、パリヌルスは、戸口に立って呼びかけた。
 『おう、おはよう。パリッ!お前ら速いじゃないか、何か急ぐ用事でもあるのか?』 
 『おはようございます。小島に用件がありましたので出かけてきました。アレテスを同道しました。私の用件は別です』
 『その別の用件とは何だ?聞こう』
 彼は、イリオネスに工具の事について語った。船の改造にあたって、船の状態を確かめること、加えて、改造作業に使用する工具について話した。
 『ーーー。というわけで、キドニアまで出かけてきます』
 『よし!判った』と言って、イリオネスは宿舎の中へ入っていった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  310

2014-07-07 07:47:56 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『判りました。日程の後半に食すパンは、少々硬めに焼いておきます。クリテスの件は承知しています。明日、アサイチに軍団長の許に行くように指示します』
 『判った。オロンテスありがとう』
 イリオネスは統領と目を合わせた。
 『統領、今、聞かれたように、私ら調査隊一行は、その役務を遂行するために、出入り7日の予定で行ってきます。宜しくお願いします』
 『おう、判った。気を付けて行ってきてくれ。留守中の事は気に掛けなくてもいい。安心して行って来い』
 『ありがとうございます』
 彼は言葉を継いだ。
 『では、諸君。宜しく頼む。打ち合わせは終了だ』
 一同は、アヱネアスの宿舎を辞した。

 日は替わった。空にはまだ星がある、東の空が明るみ始めている。パリヌルスは、朝行事を終えて部下の一人にハシケを漕がせて小島に向かった。
 島の北端に放置している廃船の検分にである。目的は、帆柱と舵の調達である。島の者たちは、朝早いパリヌルスの来島に目を見張った。朝行事最中の者たちは、海に身を浸しながらパリヌルスを見つめた。アレテスが走り寄ってくる。
 『おう、アレテス、おはよう』
 『おはようございます。隊長、こんなに朝早く如何がされましたか?』
 『おう、ちょっと、わけがあって放置している廃船を見に来た。急遽必要とする部材の調達だ。それが準備できるか、どうかを見に来たのだ。それと、お前に伝える用件もある』
 『用件?それは何でしょうか』
 『いよいよだ、お前が軍団長に同道する調査隊の件だ。打ち合わせを今日やることになっている。早く朝食を済ませろ。俺の帰り船で一緒に行こう。俺は船を見てくる』
 『判りました。誰かつけましょうか』
 『そうだな。誰か手すきの者がいたらでいい』
 パリヌルスは、廃船のあり場所に向けて歩み始めた。数分歩いて目当ての船の在り場所に着く、心は急いていた。
 早速、目当ての帆柱の状態を見た。一見して、安心めいた気持ちで帆柱を検分した。
 『おう、いける!申し分ない、これなら十分に行ける、使える、よし!』
 次いで、帆柱を支えてる部材を見た。これも十分に行けることを確かめた。彼は、記憶をたどって帆柱を設置する箇所の船体の幅を思い起こし、部材のサイズ等をチエックした。これも十分にいけることを確認した。次に船尾の舵を点検した。廃船は部材を取り付ける船に比べて大き目である、彼は、部材の大きさの適正を思案した。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  309

2014-07-04 07:07:53 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 一同が来たことに気づいたアヱネアスは、立ち止まって顔を向けた。
 『おうおう、ご苦労、ご苦労。軍団長が旅に出る。周りが緊張する、やむを得ないことか、しかるべきことか。留守にする軍団長も留守中の事を気に掛ける。まあ~、それが集団の自然体なのかもしれん』
 アヱネアスは、一同の心情を思いやった。
 『統領、そのように思い下さって、ありがとうございます』
 イリオネスはアヱネアスの言葉に礼を述べた。アヱネアスは言葉を継いだ。
 『俺がお前らの打ち合わせに臨むことで、今、そして、明日、集団がどこに向かって歩んでいるかを知ることができる。俺の安心がそこにあるのだ』
 この言葉を聞いてイリオネスは、統領としてのアヱネアスの心情を理解した。
 『どうだ、夜気が少々寒い、中でやるか』
 『はい、そうさせていただければ幸いです』
 一同はアヱネアスの宿舎の中へと入った。雑なつくりだが、頑丈そうなテーブルを中にして一同は席に着いた。
 イリオネスが打ち合わせの開始を告げた。
 『諸君、夜分にご苦労。調査隊の編成メンバー、旅程について決めた。諸君に伝える。その上にと言ってなんだが、一同に負担を強いるようだが、軍団長としての我がままを聞いてほしい』と言って、旅程の概要を説明した。
 一同は納得した。イリオネスは話を継いで述べた。
 『その様なわけで、明日、明後日の二日間で準備を整えてほしいことがある』
 『判りました。申し付けてくださいください』
 『俺は、始めに行き帰りに使う船を舟艇をと考えた。しかし、あれでは現地住民の注意をひきつけすぎる。そのようなわけでスダヌスから借り受けた、あの船が適当と思われる。そこでパリヌルスに頼みだ。あの船に帆柱構造を施して帆をつけてほしい、それに加えて舵もつけてほしい。二日間でやれるか』
 『やれます!大丈夫です。了解しました』
 『それから、漕ぎかたの者を六人、操舵の者を一人頼みたい。人選は、オキテス、パリヌルス、君たちに任す。調査隊は三日後の未明、夜の明けきらないうちに浜を離れる。明日、メンバー全員を招集して、旅の詳細を打ち合わせる。彼らを私の許によこしてくれ。次に、オロンテス。クリテスは、もう俺の許へよこせるな。それと頼みは、旅行中の食料の事だ。パンの事だが、全日程のプラス二日分を頼む、都合、七日分くらいになるかな、よろしく頼む』