「麦の穂をゆらす風」(The wind that shakes the barley、2006、英・愛蘭、独、伊、西班牙、126分)
監督:ケン・ローチ、脚本:ポール・ラヴァーティ
キリアン・マーフィ、ポードリック・ディレーニー、リーアム・カニンガム、オーラ・フィッツジェラルド
1920年代のアイルランド独立運動の物語、こんなにひどいかという英軍、そして休戦しアイルランドは半独立になり、そこでこれをひとまず認めるかどうかに別れ、そしてそれに反対する中でさらに別れ、とどうしようもなく繰り返される悲劇が描かれる。これには一部で宗教が起因している、という示唆もこの映画の中にはある。
拷問など、今の映画で見せれば見せられるところを間接的な表現で、それでも充分に進めていく。感情的に入りすぎになることなく、叙事詩的といえばそういう風に進んでいく。
だから普遍的なドラマとしてはもう一つインパクトがたりないが、この問題に静かな理解を促すことには成功している。
最初は慎重で長期的な視点を持つ医者の卵、次第に仲間を裏切らない志と仁義に耽溺していく主人公をキリアン・マーフィが演じている。この人を最初に見たのはあの「プルートで朝食を」の女装癖の若者だが、こんなに静かな抑えた演技が出来る人なんだということは驚きだ。前作でもIRAの話があったが、この事情は一筋縄ではいかない話であり、だからこそ当事者はたまらない、ということはこの映画でよくわかる。
どぎつい場面が少ないかわりに全編で画面を覆う必ずしも豊かではない緑が記憶に残る。そう緑はアイルランドの色。