女には向かない職業(An Unsuitable Job For A Woman) (1972)
P.D.ジェイムズ(Phyllis Drothy James) 小泉喜美子 訳 ハヤカワ文庫
題名の職業とは探偵のことである。
主人公は22歳の女性、数奇な運命と育ち方の末、母国イギリスで探偵事務所の秘書になる。雇い主は彼女を探偵助手として仕込み始めたが、不治の病を苦に自殺してしまう。小説では彼が生きているところの描写は彼女の回想にしか出てこない。
彼女は事務所を継いでいくことを決心、そこへある金持ちで科学研究所を持っている男から、自殺したらしい息子について、何か背景にあるのか調べてほしいと依頼がある。そして調査の顛末が描かれる。随分細かい調査のようだし、いろいろ事件が起こるのだが、わずか4、5日のことである。
訳文は400頁弱だが、節の区切りがあまりなく、作者についてよく言われていることだが段落が少なく、必ずしも読みやすいとは言えない、ともいえる。こういう言い方をしたのは、私にとってはそう苦痛でもなかったからで、途中で本を置くのももどかしいというほど夢中になるわけではないが、もともと読むのは遅いほうだから、気にはならない。
出てくる人間の構図は、イギリスの少し上の社会だからか、なじむのに少し苦労するけれど、細かい描写はむしろ小説として心地よい。おそらく私が歳をとってからイギリスの女流作家、ブロンテ姉妹、ジェーン・オースティンなどになじんでいるからだろう。特にオースティンのような感覚はある。(後で知ったことだが、あの「高慢と偏見」の続編を書いた人がいるときいたが、それがこのジェイムズだそうだ)
ところで主人公の名前はコーデリア・グレイ、そうあの「リア王」の末娘である。この名前が読者に与えるイメージを作者はうまく使っていると思う。22歳の新人探偵がさてどうやって事件を解決していくか、応援したくなるのが自然である。
最後はあっといわせる。そしてそこに出てくるダルグリッシュ警視は相当な人だが、この人を主人公にしたものがこの作者の主なシリーズだそうだ。コーデリアが出てくるあと一作とともにこれから読んでみようかと思っている。
この作者、作品を知ったのは、このところ日経の日曜版に推理作家有栖川有栖が「ミステリー国の人々」という探偵紹介のシリーズにとりあげられていて、興味をひかれたからである。
ずいぶん長いあいだミステリーにはごぶさただが、このところ観念的な小説、小説のための小説を読む気が無くなってきて、考えてみればシェイクスピア(これは戯曲だが)、ドストエフスキー、そのほか、古今(特に少し昔)の名作はかなり娯楽性が強いわけで、そう考えると優れたミステリは、もう一度小説の分野として考えていいな、と思っている。名作といわれているもので読んでないものはたくさんあるし。
P.D.ジェイムズ(Phyllis Drothy James) 小泉喜美子 訳 ハヤカワ文庫
題名の職業とは探偵のことである。
主人公は22歳の女性、数奇な運命と育ち方の末、母国イギリスで探偵事務所の秘書になる。雇い主は彼女を探偵助手として仕込み始めたが、不治の病を苦に自殺してしまう。小説では彼が生きているところの描写は彼女の回想にしか出てこない。
彼女は事務所を継いでいくことを決心、そこへある金持ちで科学研究所を持っている男から、自殺したらしい息子について、何か背景にあるのか調べてほしいと依頼がある。そして調査の顛末が描かれる。随分細かい調査のようだし、いろいろ事件が起こるのだが、わずか4、5日のことである。
訳文は400頁弱だが、節の区切りがあまりなく、作者についてよく言われていることだが段落が少なく、必ずしも読みやすいとは言えない、ともいえる。こういう言い方をしたのは、私にとってはそう苦痛でもなかったからで、途中で本を置くのももどかしいというほど夢中になるわけではないが、もともと読むのは遅いほうだから、気にはならない。
出てくる人間の構図は、イギリスの少し上の社会だからか、なじむのに少し苦労するけれど、細かい描写はむしろ小説として心地よい。おそらく私が歳をとってからイギリスの女流作家、ブロンテ姉妹、ジェーン・オースティンなどになじんでいるからだろう。特にオースティンのような感覚はある。(後で知ったことだが、あの「高慢と偏見」の続編を書いた人がいるときいたが、それがこのジェイムズだそうだ)
ところで主人公の名前はコーデリア・グレイ、そうあの「リア王」の末娘である。この名前が読者に与えるイメージを作者はうまく使っていると思う。22歳の新人探偵がさてどうやって事件を解決していくか、応援したくなるのが自然である。
最後はあっといわせる。そしてそこに出てくるダルグリッシュ警視は相当な人だが、この人を主人公にしたものがこの作者の主なシリーズだそうだ。コーデリアが出てくるあと一作とともにこれから読んでみようかと思っている。
この作者、作品を知ったのは、このところ日経の日曜版に推理作家有栖川有栖が「ミステリー国の人々」という探偵紹介のシリーズにとりあげられていて、興味をひかれたからである。
ずいぶん長いあいだミステリーにはごぶさただが、このところ観念的な小説、小説のための小説を読む気が無くなってきて、考えてみればシェイクスピア(これは戯曲だが)、ドストエフスキー、そのほか、古今(特に少し昔)の名作はかなり娯楽性が強いわけで、そう考えると優れたミステリは、もう一度小説の分野として考えていいな、と思っている。名作といわれているもので読んでないものはたくさんあるし。