メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

ムソルグスキー「ボリス・ゴドノフ」(ミラノ・スカラ座)

2023-03-27 09:10:33 | 音楽
ムソルグスキー:歌劇「ボリス・ゴドノフ」(原典版)
指揮:リッカルド・シャイー、演出:カスパー・ホルテン 
イルダザール・アブドラザコフ(ボリス)、ノルベルト・エルンスト(シェイスキー公爵)、アイン・アンゲル(ピーメン)、ドミトリー・ゴロヴニン(グリゴリー)、ヤロスラフ・アバイモフ(聖愚者ユロディヴィ)
2022年12月7日 ミラノ・スカラ座 2023年3月 NHK BSP
 
イワン雷帝時代の後のロシア、跡継ぎのとなる皇子(甥)を殺したらしいボリスは皇帝になるが内心の罪の意識は消えず、それを探り記録追求するピーメンとその弟子クリゴリー、おそらく全体を知り智謀をめぐらすシェイスキー、追われるグリゴリーの逃亡先はリトアニア、そして最後はこれらがまた集まり、ボリスの死で終わる。
 
1~2回、映像でも見たと思うが、はてもっと豪奢な宮廷シーン、迫力ある群衆シーンなどがあり、長時間ではなかったか。今回は原典版で、娯楽性も求められる歌劇場のレパートリーには向かない面もある。だから求められて改訂版も作られ、リムスキー・コルサコフによるオーケストレーションも生まれたのらしい。
 
ただもう何度も上演され、そこは作曲者の意図を忠実に再現してもいいとスカラもシャイーも考えたのだろう。ボリス、記録者ピーメン、グリゴリー、そしてシェイスキーの衣装が近現代なのは物語の本質のみに集中したいというところか。
 
ただ、こうなると音楽にひたるということはあまりない。今回あらためて歴史というモノがあるのでなくあるのは事実といってもその記録ということ(司馬遷「史記」が思い浮かぶ)、そして、ロシアとその群衆の苦しみ・悲哀というテーマ、そこに流れるキリスト教(正教)(聖愚者とボリスのやりとりは一つのクライマックス)などが感じられた。
 
歌手たちは皆うまく歌っているとは思うし、シャイーの指揮も手堅いという感じではある。

上演は2022年~2023年シーズンの幕開け、しかしこれをこの時期にという企画は2月のロシアによるウクライナ侵攻の前でないとできないだろう。むしろそれをそのままにしたのがスカラの見識というべきである。昨今、チャイコフスキーもふくめロシアの作曲家の作品を避ける意味のない傾向がかなりあるけれど、それはないだろう。
ボリスからプーチンを連想する人もいるだろうが、それは別のはなし。 


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絵本読み聞かせ(2023年3月)

2023-03-24 09:52:33 | 本と雑誌
今年度最後、3月の絵本読み聞かせ

年少
ぶーぶー じどうしゃ(山本忠敬)
にんじん(せな けいこ)
ごぶごぶ ごぼごぼ(駒形克己)
年中
にんじん
しろくまちゃんのほっとけーき(わかやま けん)
はらぺこあおむし(エリック=カール/もり ひさし)
年長
しろくまちゃんのほっとけーき
はらぺこあおむし
スイミー(レオ=レオニ 訳 谷川俊太郎)

年少の三つはどれも数か月前にやったことがある。「 ぶーぶー じどうしゃ」の絵は今走ってる車の中では少し古いが、子供たちはこの歳から自動車は好きで、その色、かたち、やる仕事など、入り込んでくる。

「にんじん」はやはりせなさんの切り絵のすばらしさ、この歳で意外に動物はよく知っている、動物園か映像か?

「ごぶごぶごぼごぼ」は作者の子供が生まれる前に関する想像をもとにしているわけだが、これは子供たちの前でやってみないと評価はできない。今回はちょっとおとなしかったが、聞いてみたら好きな色は青と黄色のようだ。赤という声はなかった。

「しろくまちゃんのほっとけーき」はあまりにも有名で家庭にもかなりある。それでも年長組でも突っ込むところはかなりあるようで、にぎやかになる。こんな幼稚なものやらないでということはなく、プログラム編成で考えておくべき要素である。
 
「はらぺこあおむし」、これはあまりにも有名だが春だし、何度見ても盛り上がるのだが、今回は途中はそれほどではなく、最後の大きな見事な蝶の絵、特に色に歓声があがった。これがエリック・カールの力だろう。
 
「スイミー」はこの教訓的なところ、大人が旅立つ子供に教え諭すようなところがあまり好きではないのだが(それが評価されているのもよく知っているけれど)、まあ卒園して小学校という子たちも何人かいるので、一度やっておこうと毎年入れている。

谷川俊太郎の訳、このひと絵本はずいぶん作っているけれど、今だったら文章はちょっとちがうんじゃないか。私がすきなのは「もこもこもこ」とか、言葉のリズムが勝ったもの。
それでも海の中をさまざまに描いたレオニの絵は、ちょっと他に見ないものでこれだけでも子供たちに見ておいてほしいと思う。





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オートクチュール

2023-03-14 16:36:59 | 映画
オートクチュール(Haute Couture、2021仏、100分)
監督:シルヴィ・オハヨン、音楽:パスカル・ランガニュ
ナタリー・バイ(エステル)、リナ・クードリ(ジャド)
 
ディオールのオートクチュール・ドレス部門で実際に仕立てる人たちのトップを長年続けてきたエステルが引退前の最後の製作段階に入ったところで、若者グループにバッグをひったくられるが、なぜかその一人の若い娘ジャドが盗んだものからエステルを知り訪ねてくる。

そしてこれがこの話のキーなのだが、やりとりの中でエステルはジャドの手が彼女たちの仕事すなわちお針子にきわめて向いていることを見抜き、やる気を見せなかったり反発するジャドと試行を重ねて引っ張り込んでいく。
 
この話、背景にいくつかの差別が配置されている。エステルもここの長とはいえディオールの客たちとは格差が大きく、他のお針子たちと同様、パリの壁の外の生まれ、居住である。ジャドもアラブ系で同様に郊外、衰えた母親をかかえ、交友関係もいろいろな人種、ゲイなど。
 
そういう中でもエステルはプロの仕事をそしてお針子たちとジャドは前記の差別を貫いて生きていくという軸で、この映画の展開、その細部の表現が見せるところとなっている。
 
最後にエステルの母親が実は、そしてエステルの娘との関係が、というところで結びとなっていて、そこはときどきある話かもしれない。
 
ただ、この映画、登場人物と主要なやりとりはほぼすべて女性、女性間の話で、特に母と娘の関係は難しいということは想像できるが、そこのところなかなか多層的な表現が納得させるものがある。
 
全体に地味ではあるが、振り返ると結構深いところがフランス的ともいえるだろう。

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