昨日は音楽教室の発表会。今回はジャズで、出演したのはヴォーカルとピアノ。会場は銀座のヤマハで、これまでの地下スタジオではなく6階のコンサートサロン、ここはスタジオと同様100人弱入るが、壁、床、天井すべてウッドで、音響はかなりライブ、だからマイク、PAを使うようなものだと、慣れないうちは響き過ぎの感じでとまどう。
さて歌はコール・ポーターの「エニシング・ゴーズ(Anything Goes)」(1934)、これは同名のミュージカルのテーマ曲で、「今は何でもありの世の中さ、だからあなたにプロポーズしたっていいよね、、、」という軽いのりの歌詞とメロディーで、歌うほうにとってはスイングするのが楽しく、こういう機会にも気分よく歌える。
ミュージカルの中では女性が歌うらしいが、女性が歌うには大胆な歌詞で、Iとyouを変えて男性が歌ってもいいようで、これまで聴いていたのはシナトラのもの。シナトラの名唱の中でもとびきりのものだと思うが、作りも凝っていて、繰り返しのところからキーを半音一つあげ、より明るい感じが出るようにしている。またエンディングにはオリジナルとは別の追加(彼のの録音には時々ある)で「このレコード(今私が歌ってる)が終わる前に(プロポーズの)答えを聞きたいな」というしゃれたフレーズが入っている。
これをほぼ下敷きにし、オリジナル・スコアをベースにしたのでシナトラよりは少し高いキーになったが、なんとかうまく歌えたと思う。バックの教室講師の方々によるピアノ・トリオも、部分部分であおってくれたから、それにうまく乗って楽しくできた。
そのあとのピアノはアントニオ・カルロス・ジョビンのボサ・ノヴァで「デザフィナード(Desafinado)」(1959)、かなり長い曲で途中に予想もしない音が出てきたりして、扱いが難しい。それでもかなり前から練習だけはして、前回のものと同じく、左手はほとんどコードの刻みのみ。とはいえボサ・ノヴァだから実はこれがキーなのだが、それなりに形は出来た。
アドリブの作曲も苦労したが、コードの音を中心に作ってみた当初は堅い感じしかなかったものが、何度も弾いて試していくうちに面白いフレージングになってきたのは、音楽の不思議であった。それとこういうものでは、既成の録音を聴いてプロのピアニストのものを参考にしようとしても到底歯が立たないから、むしろサックスやトランペットのアドリブ・ソロの感じを取り入れるほうがいいようで、今回もスタンゲッツのテナー・サックスから影響を受けた。
また昨年の「ペイパー・ムーン」と同様、歌もつけた。前回は予告せずにマイクなしでやったが、今回はマイクつき、ただしグランド・ピアノだから口とマイクと譜面の感じはなれなくてとまどった。私の場合、弾き語りをしたいというよりは、反対に弾く方の進行をスムースにするため、つまりピアノを弾く自分を歌う自分が指揮するという感覚である。偉そうな言い方だが、グレン・グールドの耳障りな鼻歌みたいなのも、指揮者グールドではないかと考える。
さて演奏の出来栄えだが、やはり自宅での前日練習のレベルというわけにはいかず、コードを間違えたり、ミスタッチしまくったりしたが、歌を添えていたこともあったのか、なんとか中断せずなんとか最後までいけた。ジャズではこれが肝心と言われているので、まずまず。
なお歌詞はオリジナルのポルトガル語にした。ポルトガル語は初めてで、「イパネマの娘」を歌う時も英訳なのだが、セッションのヴォーカル仲間からは、ボサ・ノヴァはポルトガル語で歌った方が曲調にあう、極端に言えば単語の意味は分からなくてもいいと言われていた。
今回は確かに英訳の歌詞だとどこか不自然というか正確に歌えないところがあり、それではやってみようかと、ジョアン・ジルベルトのCDを繰り返し聴きながら(部分を何回も繰り返すのはCDだとやはり楽)なんとかカタカナで書き取った。もちろん対訳もあるから意味はだいたい理解したし、ネット上にはいろんな言語の辞書があるからキーになる言葉はそれでひいてみた。
この曲、シナトラがジョビンのバックで歌ったものがあり、ほとんど英語で歌っている。そんなにうまくないなと思ったのだが、自分でポルトガル語で歌てみると、英語であれだけ歌えるのはやはり大したものだと思った。失礼した。
実は今年はシナトラ生誕100年なのだが、あまりそういうことは言われないし、企画もきかない。時代の推移なんだろうか。でも、こうしてヴォーカルやピアノをやっていると、その選曲、スイングのしかた、フェイクなどなど、この人に感謝することは本当に多い。若いころからこの人の録音を聴いてきて、かなり体にしみついているようだ。
ところで会場のピアノ、なんか音もタッチも最近弾いたものより(どこかで弾いたスタインウェイより)いいと思ったが、後で聞いたらヤマハの最新フルコンサートグランドのCFXだそうだ。値段は確か1,900万円。