メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

膝を打つ(丸谷才一エッセイ傑作選2)

2015-11-26 10:10:14 | 本と雑誌
「膝を打つ」(丸谷才一エッセイ傑作選2)2015年2月 文春文庫
 
しばらく前に書いた傑作選1「腹を抱える」と同様、軽妙で暇つぶしにはなる。今回は座談が多く、それは世代的にも私が若いころに現役で新聞などでなじみだった人たちより前の里見、堀口大學から中村勘九郎(後の勘三郎)まで、分野も多岐にわたっていて、丸谷の博識と多岐にわたる興味を反映している。
  
食べ物やその店の話がかなりあるけれども、このあたりは文士でないとなかなかという世界、それも文春あたりの文化なんだろうか、ちょっと縁遠い世界である。まあ当時の文芸・出版の世界の雰囲気を反映していると思えば、その資料と位置づけられるかもしれない。
井上光晴、井上ひさしなどというちょっと反体制的な、庶民よりな感じの人たちも、案外贅沢なんだなと思う。
 
座談で面白いのは、二つ収録されているが、やはり吉行淳之介で、本気で言ってるのかどうか、しかしなるほどという面白さがある。
またこの十数年、金沢へは何度も行っているから、山本健吉との対談で当地の食べ物について豊富な話題が展開されたのは、楽しく読んだ。

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エニシング・ゴーズとデザフィナード(ジャズ発表会)

2015-11-22 17:18:56 | 音楽
昨日は音楽教室の発表会。今回はジャズで、出演したのはヴォーカルとピアノ。会場は銀座のヤマハで、これまでの地下スタジオではなく6階のコンサートサロン、ここはスタジオと同様100人弱入るが、壁、床、天井すべてウッドで、音響はかなりライブ、だからマイク、PAを使うようなものだと、慣れないうちは響き過ぎの感じでとまどう。
 
さて歌はコール・ポーターの「エニシング・ゴーズ(Anything Goes)」(1934)、これは同名のミュージカルのテーマ曲で、「今は何でもありの世の中さ、だからあなたにプロポーズしたっていいよね、、、」という軽いのりの歌詞とメロディーで、歌うほうにとってはスイングするのが楽しく、こういう機会にも気分よく歌える。
 
ミュージカルの中では女性が歌うらしいが、女性が歌うには大胆な歌詞で、Iとyouを変えて男性が歌ってもいいようで、これまで聴いていたのはシナトラのもの。シナトラの名唱の中でもとびきりのものだと思うが、作りも凝っていて、繰り返しのところからキーを半音一つあげ、より明るい感じが出るようにしている。またエンディングにはオリジナルとは別の追加(彼のの録音には時々ある)で「このレコード(今私が歌ってる)が終わる前に(プロポーズの)答えを聞きたいな」というしゃれたフレーズが入っている。
 
これをほぼ下敷きにし、オリジナル・スコアをベースにしたのでシナトラよりは少し高いキーになったが、なんとかうまく歌えたと思う。バックの教室講師の方々によるピアノ・トリオも、部分部分であおってくれたから、それにうまく乗って楽しくできた。
 
そのあとのピアノはアントニオ・カルロス・ジョビンのボサ・ノヴァで「デザフィナード(Desafinado)」(1959)、かなり長い曲で途中に予想もしない音が出てきたりして、扱いが難しい。それでもかなり前から練習だけはして、前回のものと同じく、左手はほとんどコードの刻みのみ。とはいえボサ・ノヴァだから実はこれがキーなのだが、それなりに形は出来た。
 
アドリブの作曲も苦労したが、コードの音を中心に作ってみた当初は堅い感じしかなかったものが、何度も弾いて試していくうちに面白いフレージングになってきたのは、音楽の不思議であった。それとこういうものでは、既成の録音を聴いてプロのピアニストのものを参考にしようとしても到底歯が立たないから、むしろサックスやトランペットのアドリブ・ソロの感じを取り入れるほうがいいようで、今回もスタンゲッツのテナー・サックスから影響を受けた。
 
また昨年の「ペイパー・ムーン」と同様、歌もつけた。前回は予告せずにマイクなしでやったが、今回はマイクつき、ただしグランド・ピアノだから口とマイクと譜面の感じはなれなくてとまどった。私の場合、弾き語りをしたいというよりは、反対に弾く方の進行をスムースにするため、つまりピアノを弾く自分を歌う自分が指揮するという感覚である。偉そうな言い方だが、グレン・グールドの耳障りな鼻歌みたいなのも、指揮者グールドではないかと考える。
 
さて演奏の出来栄えだが、やはり自宅での前日練習のレベルというわけにはいかず、コードを間違えたり、ミスタッチしまくったりしたが、歌を添えていたこともあったのか、なんとか中断せずなんとか最後までいけた。ジャズではこれが肝心と言われているので、まずまず。
 
なお歌詞はオリジナルのポルトガル語にした。ポルトガル語は初めてで、「イパネマの娘」を歌う時も英訳なのだが、セッションのヴォーカル仲間からは、ボサ・ノヴァはポルトガル語で歌った方が曲調にあう、極端に言えば単語の意味は分からなくてもいいと言われていた。
今回は確かに英訳の歌詞だとどこか不自然というか正確に歌えないところがあり、それではやってみようかと、ジョアン・ジルベルトのCDを繰り返し聴きながら(部分を何回も繰り返すのはCDだとやはり楽)なんとかカタカナで書き取った。もちろん対訳もあるから意味はだいたい理解したし、ネット上にはいろんな言語の辞書があるからキーになる言葉はそれでひいてみた。
 
この曲、シナトラがジョビンのバックで歌ったものがあり、ほとんど英語で歌っている。そんなにうまくないなと思ったのだが、自分でポルトガル語で歌てみると、英語であれだけ歌えるのはやはり大したものだと思った。失礼した。
実は今年はシナトラ生誕100年なのだが、あまりそういうことは言われないし、企画もきかない。時代の推移なんだろうか。でも、こうしてヴォーカルやピアノをやっていると、その選曲、スイングのしかた、フェイクなどなど、この人に感謝することは本当に多い。若いころからこの人の録音を聴いてきて、かなり体にしみついているようだ。
 
ところで会場のピアノ、なんか音もタッチも最近弾いたものより(どこかで弾いたスタインウェイより)いいと思ったが、後で聞いたらヤマハの最新フルコンサートグランドのCFXだそうだ。値段は確か1,900万円。



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ANNIE/アニー

2015-11-17 14:23:11 | 映画
ANNIE/アニー(ANNIE、2014米、118分)
監督:ウィル・グラック、作曲:チャールズ・ストラウス
ジェイミー・フォックス、クヴェンジャネ・ウォレス、ローズ・ハーン、ボビー・カナヴェイル、キャメロン・ディアス
 
1977年初演のブロードウェイ大ヒット・ミュージカルで、その存在は知っていたし、わが国でも継続して上演され、代々の少女アニー役からはその後有名タレントが何人か出ていることも知っているが、1982年版の映画も見ておらず、どういう話か知ったのも今回が初めてである。
 
ニューヨークの里子施設にいるきわめて元気がよく、ダンスや歌がうまいアニー(ウォレス)がひょんなことから市長選に出るらしい携帯電話会社の社長スタックス(フォックス)と知り合う。選挙戦で不利なスタックスはいかにもアメリカらしい広告会社の参謀の入れ知恵で彼女を預かり、本当の両親を探してやるという美談を作ろうとする。これはうまくいきそうになるが、結局ほころびが出て、最後は真実の愛に皆が目覚めるという、予定調和のお話。
 
べたといえばべたで、これはアメリカの大衆向けミュージカルなんだからと思って見ていれば腹はたたないだろう、と言われているみたいである。
 
もちろん音楽とダンスで勝負なのだが、何かの機会にすでに耳に入っているものもあり、早い動きによくマッチはしている。ただ総じてテンションが高すぎ、しっとりとしたところはあまりない。
多分オリジナルは携帯会社ではなく、選挙というのも違っていたのだろうが、そのアレンジはまあいいだろう。
 
フォックスは予想したより軽妙でまずまず。アニーのウォレスはさすが多数から選ばれただけのことはある。予想に反してよかったのはキャメロン・ディアスで、彼女のファンとしては心配したのだが、里子施設を仕切る強欲女、癖が強い役を見事に演じきっている。でも考えてみれば、若いころからこれまでかなり変な役をやっていて、二枚目中心という風でもなかった。
 
ところでこのキャメロン、私が覚えている限り「モネ・ゲーム(2012)」や「ベスト・フレンズ・ウェディング(1997)」では音痴という設定で、本当に下手なんだと思っていた。それをそのまま演じるのはあっぱれなのだが、今回はそうでない。本当は音痴ではなくあの二つの映画は単なる演技なのか、この映画のために猛練習したのか、ここでは吹き替えなのか、想像するのも楽しい。

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