プッチーニ:歌劇「蝶々夫人」
指揮:カレル・マーク・シション、演出:アンソニー・ミンゲラ
クリスティーヌ・オポライス(蝶々夫人)、ロベルト・アラーニャ(ピンカートン)、マリア・ジフチャック(スズキ)、ドゥウェイン・クロフト(領事シャープレス)
2016年4月2日 ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場 2017年5月 WOWOW
プッチーニの作品のなかでも、音楽的として極めて優れた作品、1904年の初演だから近代のもの、しかし特に日本人としては何かオリエンタリズムが素直に受け取れず、とりわけ衣装、装置、しぐさなどリアリズムでやられるとたまらないところがあったこの「蝶々夫人」、このミンゲラ演出はそれらを一切振り切り、一人の女性が一つの完全な世界を完成する様を見事に表出し、感動させる。
それぞれの幕で、オーケストラが始まる前に主人公と相手との関係を静的に示す像と光を配置し、装置・背景はふすま・障子、後方の段くらい、それらと照明を効果的に使い、ふすまの動きで登場人物の各場での関係を制御している。
また、蝶々夫人とピンカートンの間に生まれた子供はなんと文楽の流れをくむ人形(操るのは米国の人たち)で、最初はアップになると違和感もあったが、見事な動きは天才子役も及ばないし、主人公の歌と演技に完璧に合わせられていて、それが大きな意味を持っていることが理解されてきた。
そういう中で蝶々夫人を演じるオポライスは、この演出と音楽をよく理解し、その美貌、スタイルも駆使した歌唱と演技。日本に来た米国士官にもてあそばれた女性の悲劇という単純なものではなく、途中、終盤には、自らが考える完璧な愛の世界を完成させるとでもいう流れに持っていく。したがってその最後も絶望で自害というよりは、世界を完成させるための最後の一閃とでもいうように思わせる。まるであのイゾルデの死のように。
衣装も特に主人公については、着物ではあるが、かなりモダーンにデザインされ、その演出される動きを想定したもので、これも魅力的。
ジフチャックのスズキは、長年いろんな演出でやってきたらしいが、この役の意味を、つまり主人公の世界を完成させるためのサポートとしての部分を、うまく表現していた。
ピンカートンのアラーニャ、この人こういう役は合っている。ちょっといい加減な二枚目役というか。
シャープレスのクロフトも、説得力があった。
シションの指揮は、曲のよさをうまく引き出していたと言えるだろう。
それにしてもこのオポライスといい、カルメン、シンデレラなどで見てきたエリーナ・ガランチャ(今回の指揮者シションは夫君)といい、ラトヴィアからはいい歌手が出てくる。それに二人とも美人。
ミンゲラ(1954-2008)は、映画監督として、それも「イングリッシュ・ペイシェント」のそれとしてしか知らなかったが、他にもいくつもの印象的な映画の製作にかかわっていたようだ。54歳で逝ってしまったとは惜しい。
指揮:カレル・マーク・シション、演出:アンソニー・ミンゲラ
クリスティーヌ・オポライス(蝶々夫人)、ロベルト・アラーニャ(ピンカートン)、マリア・ジフチャック(スズキ)、ドゥウェイン・クロフト(領事シャープレス)
2016年4月2日 ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場 2017年5月 WOWOW
プッチーニの作品のなかでも、音楽的として極めて優れた作品、1904年の初演だから近代のもの、しかし特に日本人としては何かオリエンタリズムが素直に受け取れず、とりわけ衣装、装置、しぐさなどリアリズムでやられるとたまらないところがあったこの「蝶々夫人」、このミンゲラ演出はそれらを一切振り切り、一人の女性が一つの完全な世界を完成する様を見事に表出し、感動させる。
それぞれの幕で、オーケストラが始まる前に主人公と相手との関係を静的に示す像と光を配置し、装置・背景はふすま・障子、後方の段くらい、それらと照明を効果的に使い、ふすまの動きで登場人物の各場での関係を制御している。
また、蝶々夫人とピンカートンの間に生まれた子供はなんと文楽の流れをくむ人形(操るのは米国の人たち)で、最初はアップになると違和感もあったが、見事な動きは天才子役も及ばないし、主人公の歌と演技に完璧に合わせられていて、それが大きな意味を持っていることが理解されてきた。
そういう中で蝶々夫人を演じるオポライスは、この演出と音楽をよく理解し、その美貌、スタイルも駆使した歌唱と演技。日本に来た米国士官にもてあそばれた女性の悲劇という単純なものではなく、途中、終盤には、自らが考える完璧な愛の世界を完成させるとでもいう流れに持っていく。したがってその最後も絶望で自害というよりは、世界を完成させるための最後の一閃とでもいうように思わせる。まるであのイゾルデの死のように。
衣装も特に主人公については、着物ではあるが、かなりモダーンにデザインされ、その演出される動きを想定したもので、これも魅力的。
ジフチャックのスズキは、長年いろんな演出でやってきたらしいが、この役の意味を、つまり主人公の世界を完成させるためのサポートとしての部分を、うまく表現していた。
ピンカートンのアラーニャ、この人こういう役は合っている。ちょっといい加減な二枚目役というか。
シャープレスのクロフトも、説得力があった。
シションの指揮は、曲のよさをうまく引き出していたと言えるだろう。
それにしてもこのオポライスといい、カルメン、シンデレラなどで見てきたエリーナ・ガランチャ(今回の指揮者シションは夫君)といい、ラトヴィアからはいい歌手が出てくる。それに二人とも美人。
ミンゲラ(1954-2008)は、映画監督として、それも「イングリッシュ・ペイシェント」のそれとしてしか知らなかったが、他にもいくつもの印象的な映画の製作にかかわっていたようだ。54歳で逝ってしまったとは惜しい。