歌劇「ランメルモールのルチア」 作曲:ドニゼッティ
指揮:パトリック・サマーズ、演出:メアリー・ジマーマン
ナタリー・デセイ(ルチア)、ジョセフ・カレーヤ(エドガルト)、ルードヴィック・テジエ(エンリーコ)、クワンチュル・ユン(ライモンド)、マシュー・ブレンク(アルトゥーロ)
2011年3月19日、ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場 (WOWOWで放送されたもの)
クラシック音楽の中で特にオペラが好きというほどでもないからか、この種のオペラはあまり熱心に聴いていなかった。このルチアも、かのマリア・カラスのレコードは持っていても、一度聴いたかどうか。
こういうとき、映像それもMETの豪華なものは入りやすくていい。といった気持ちで聴き始めたら、やはり「狂乱の場」はすごかった。
ウオルター・スコットの原作によるスコットランドの話らしい。イタリアオペラでも、シェークスピアにしろ、このスコットにしろ、イギリスの話の方がおどろおどろしくてもよくて、またすごみがあるからだろうか。
話しは単純というか単純すぎるくらいで、対立する家(勢力)と恋人同志の間違いの悲劇、そうつまり「ロミオとジュリエット」のようなものだが、シェークスピアのようには細部を工夫していない。それがこの種の、歌手を表に出すオペラには向くのだろう。
主役の二人、特にやはりナタリー・デセイの歌唱、それに演技を堪能できる。終末の「狂乱の場」、15分続く、それも長いファルセット、死ぬ間際といっても強烈な表現が要求されるこの場面、彼女がすべてを支配する。 圧巻!
この人、下の方からファルセットの最上部まで、少し暗めの音色をたたえ、それが感情表現としても聴く側が浸れるものとなっている。よくあるようにキーキー、キンキンした感じがない。
小柄だけれど、アップで見ると上体、上腕の筋肉よく鍛えられている。なにしろあの階段に横たわって声を張り上げ、三段くらいをそのままごろごろ転がって床によこたわり、さらに歌い続けるのだから、これくらいの体でないといけないのだろう。自身に関する、また役に関する彼女のチャーミングなコメントは、幕間に恒例の、これまたうまいルネ・フレミングによるインタビューで聴くことが出来る。
演出のメアリー・ジマーマンもインタビューにこたえている。びっくりするのは幽霊がでてくること。ルチアが死んで、それをきいたエドガルドが嘆きの歌をうたい息絶えるところで、ルチア(デセイ)が幽霊として現れる(あちらだから足がある)。そして彼はそれを見た表情になり、二人の情死になる。
ジマーマンはこれが不自然でないように、最初の方で泉にまつわる不吉な伝説が語られる場面で、その話の女の幽霊を見せている。インタビューでは幽霊の登場は女の演出家でないと思いつかないだろう、ということだったが、そうなんだろう???
音楽はこれも言われている通り、ヴェルディに先行しヴェルディが影響を受けたのもなるほどと思わせる。例えばアリアが始まる前の何小節とかフレージングも。ドラマとしても、音楽としてもヴェルディの「椿姫」に通じるところがある。もっともヴェルディは一つ一つの場面をこんなにくどく描かないで、全体のドラマ構成を重視しているが。
デセイは近々ヴェルディ「椿姫」を予定しているというから楽しみである。
以前の日本語表記は「ランメルムーアのルチア」であったが、最近はなぜか「ランメルモールのルチア」らしい。