メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

アカデミー賞とデジタルアーカイブ

2007-02-28 22:01:27 | 雑・一般
2月25日(日)(米国時間)に行われた第79回アカデミー賞授賞式の中ほどで、司会のエレン・デジェネレス(Ellen DeGeneres)から、映画芸術科学アカデミーは賞だけでなくいろいろな活動をやっていてこれから60秒で会長のシド・ガニスがその紹介に挑戦するとあり、映像のモンタージュと早口の解説でそれが始まった。
 
その中でポール・ニューマンの初期作品をリマスターする(?)などが示された後、新しい仕事・課題としていくつかが箇条書で表示されたが、最初に、
Digital archiving and preservation
とあった。
 
この「デジタルアーカイブ」は10年少し前に和製英語として始まり、自然な単語結合であったためか英米人に話しても違和感なく受け止められていた。
とはいうものの、向こうから最初に発せられる言葉であることは稀だっのだが、今回のように出されると、ようやくこの言葉とコンセプトの認知が一段階進んだかと、感慨ひとしおである。

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ノッティングヒルの恋人

2007-02-25 19:27:10 | 映画
「ノッティングヒルの恋人」(Notting Hill 、1999、米国、123分)
監督: ロジャー・ミッシェル、脚本: リチャード・カーチス
ジュリア・ロバーツ、ヒュー・グラント、リス・アイファンズ、ジーナ・マッキー、ティム・マキナニー、エマ・チェンバース、ヒュー・ボネヴィル
実質はイギリス映画。
 
あまり期待せずに飛行機の中で見てから今回で何度目だろうか。この脚本がリチャード・カーティスによるものと意識して見たのは初めてだ。
 
ハリウッド有名女優(ジュリア・ロバーツ)と小さな旅行本専門店を経営するバツイチ男(ヒュー・グラント)が偶然出会って、お互い好意をいだき、おきまりの障害と誤解から破局になるが、いろいろあってハッピーエンド。こういう筋書きで2時間もたせることは、今の映画では苦しいのではないか。
リチャード・カーチスも苦労しただろうと想像する。事実、何度目かの今回、進行がゆったりしすぎているなと感じることは何回かあった。しかし、これを書いたことで、「ブリジット・ジョーンズ」(脚色)を経ての「ラブ・アクチュアリー」では、オムニバスで始めながら、ポリフォニーとして大団円に持っていく傑作を書くことが可能になったのだろう。
 
そこそこの能力をもってはいるものの優柔不断な男をやらせるとその右に出るものはいないヒュー・グラントは、今回も力が入りすぎずうまい。しかしあらためて感心したのはここでのジュリア・ロバーツで、この頃で一番の出来だろう。そして、きれいで可愛い。
アンナ・スコットという役名だが、ほとんどジュリア・ロバーツherself という設定だから、彼女が演じるといっても難しいのだが、肩の力の抜けた物言い、表情が魅力的である。
少し前の「ベスト・フレンズ・ウェディング」(1997)で主役だがかなりいやな女を好演したことと対照的で興味深い。
 
このストーリー、立場を逆転させると「ラブ・アクチュアリー」の英国首相(ヒュー・グラント)と元官邸職員の女性の間柄が思い浮かぶ、というのも面白い。
そして最後の女優記者会見は明らかに「ローマの休日」を観客に思い出させるように作られている。これはこれでいい。
 
脚本家、監督、どっちのアイデアかわからないが、落ち込んだ男の主人公がロンドン下町を歩いていく場面が切れ目なくいつの間にか夏から秋、雪景色の冬そして春と後から気づくように作っているのは、遊びとしてよく出来ている。
 
男の家族、友人たちは皆、今のロンドンを反映してか、適度に変で適度にいい人たちで、俳優も皆いい。中でも、主人公が好きだったのに親友と結婚してしまい、その後事故で車椅子生活になった女を演じるジーナ・マッキーの人の良さと皮肉っぽさのバランスが絶妙だ。
 
びっくりしたのはロンドンにおせっかいに出てきた女優の(元)恋人役で出てきたアレック・ボールドウィンで、カメオ出演のような扱いなのだが、好感度のない役をうまく引き受けたという感がする。
 
テーマとして何度も流れる「She」は気分ぴったり、エルビス・コステロが歌っているらしい。どうも聴いた曲だと調べたら、これは最初シャルル・アズナブールが歌った日本題名「忘れじのおもかげ」、確かまだ持っているはずと彼のベスト版LP(1974)を取り出すとその最後に入っていた。もともとイギリスで大ヒットしたらしい。

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ヤング・ゼネレーション

2007-02-18 22:50:38 | 映画

「ヤング・ゼネレーション」(Breaking Away、1979、米、141分)監督: ピーター・イエーツ、脚本: スティーヴ・テシック デニス・クリストファー、ダニエル・スターン、デニス・クエイド、ジャッキー・アール・ヘイリー、ポール・ドゥーリイ、バーバラ・バリー

製作された時代に19歳という設定の若者4人、インディアナ州ブルーミントン付近の石切り場・工場の町に住み、大学に入ってなくて、定職があるというのでもない彼ら。一方インディアナ大学の学生たちは、町の住人や彼ら若者たちを文字通りカッターズと軽蔑している。 

そういう、「スタンド・バイミー」や「アメリカン・グラフィティ」にも通じる青春映画。しかし、この作品が他と異なるのは、親兄弟、大学の人たちなどど、決定的に対立しているわけではなく、様々な解決の機会、出口が設けられながら進められていることである。だからといって甘くはないのだが、現実の世の中、生活はこういうバランスがとれている場合が多いのだろう。 

さてその話の中心は、デニス・クリストファー演じる元カッター今中古車屋の一人息子がとにかく自転車いのちでイタリア大好き人間、アマチュアロードレーサーとしてはいいところにいく実力を持っている。彼が他3人と若さゆえの悪さをしたり、親父の無理解と衝突しながら、そして気が進まない仲間三人と最後は町のチーム耐久レースで闘うまでが、実にさわやかに、退屈せずに、描かれる。

 こう書くとなんてことはないのだが、まあ見てのお楽しみというほかない。映画というものの娯楽性、その不思議がここにある。見終わって、ああよかったというもの。こういう青春映画はその後米国ではほとんど作られなくなり、今は日本の方が得意だろう。 

デニス・クリストファーは本当に自転車向きの体型でよく似合う。そしてイタリア好きの彼が部屋でかけっぱなしにしているイタリアオペラの名曲やメンデルスゾーンの「イタリア」が音楽のほとんどをしめ、感興をうまく高めてくれる。 イタリアがこう扱われているのはもちろんイタリア一周自転車レース「ジロ・デ・イタリア」への憧れからだが、最後に対抗するフランスが登場するのは笑える。

1979年、自転車がアメリカの田舎町でこんなに人気があったというのも驚きだ。グレッグ・レモンがツール・ド・フランスで初優勝したのは1986年で、それだってここ数年のニール・アームストロングに比べれば、まだそれほどの騒ぎではなかったと思っていたけれど。

若者4人の中で、後に有名になったのはデニス・クエイドだが、ここではまだちょっと骨のありそうな不良少年という程度。この脚本でオスカーを取ったスティーヴ・テシックは「ガープの世界」も書いている。

日経土曜版で芝山幹郎氏が今週放送の一本として推薦していたもの(WOWOW)。なかなか見る機会がないようで、こういう紹介はありがたい。


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マリー・アントワネット

2007-02-13 22:50:29 | 映画
「マリー・アントワネット」(Marie Antoinette 、2006年、米、123分)
監督・脚本: ソフィア・コッポラ、衣装デザイン: ミレーナ・カノレロ、音楽: ブライアン・レイツェル
キルステン・ダンスト(マリー・アントワネット)、ジェイソン・シュワルツマン(ルイ16世)、リップ・トーン(ルイ15世)、ジュディ・デイヴィス、マーシア・アルジェント、マリアンヌ・フェイスフル
 
劇的な生涯を期待した人には肩透かしだろうが、むしろこれでも良かった。淡々とした作り、進行で、最後は少し退屈はするけれど。
ドラマチックなつくりのものは他にいくらもあるだろう。
 
ソフィア・コッポラはこの話を、関連事象全てを総合し鳥瞰的な視点から描くのではなく、あくまでマリーから見たら何がどう見えるかに限定して作ったのだろう。そうであれば、今日知られているこの激動の時代でもこんなだったかもしれない。
そう、関係あるかどうかは別として、今の日本の若くてうまい女優の演技への入り方にも、こういう視点の取り方がある。 
 
年頃の女の子から見て、何が面白く、何がきれい、何が可愛いか、そこから見ていくことに価値はないのか、それなくして人間を語ることが出来るか、それがソフィアの問い。
 
衣装、美術、食事、スウィーツ、花、みんなきれいで可愛い。そこは映画としてもうまくまとまっている。ようやく子供に恵まれ、トリアノンに移るときの大げさな変化、その趣味は今はやりの雑貨屋の雰囲気だ。
 
主役にキルステン・ダンストを選んだのは、マリーの実像についての伝聞もあるのだろうが、こういう可愛い系の中でバランスを保つという上でも成功している。それを理解していたのか、彼女としては曲者たちの中でがんばった「エターナル・サンシャイン」と比べると控えめの演技が好ましい。その上でなお子供ヴァンパイアのイメージがちらつくのは、ソフィアも計算済み?
 
音楽は、時代考証にもあったような曲と、まさに今風な曲が混在していて、意識的に違和感を抱かせようとしているのかとも考えてしまうが、マリーが馬車に乗り車窓から景色を見ている場面で後者の曲がかかると、これは今なのかと見ている方ははっとする。反則と言われればそうだけど。
 
ルイ16世は変っていて為政者としては無能かもしれないが、マリーにはいい人だったようで、役者もそれによくあっている。
 
驚きはマリーの母親マリア・テレジアを演じたマリアンヌ・フェイスフルで、アラン・ドロンと共演した「あの胸にもう一度」(1968)では、バイクを駆る時の黒い皮つなぎを直接まとった肢体のエロティシズムがあまりにも有名だった。今は女帝にふさわしい顔だが、この人の若い頃の記憶を交えて見るのも悪くない。

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ヴェニスの商人

2007-02-12 18:50:03 | 映画
「ヴェニスの商人」(The Merchant Of Venice、2004年、米、伊、英、ルクセンブルグ、130分)
監督: マイケル・ラドフォード
アル・パチーノ(シャイロック)、ジェレミー・アイアンズ(アントーニオ)、ジョセフ・ファインズ(バッサーニオ)、リン・コリンズ(ポーシャ)、クリス・マーシャル(グラシアーノ)
 
ほぼ原作に沿った映画化のようで、これを見ていると、やはり全部を読んだことはなかったようだ。例の大岡裁きのような話だけ、子供向けの本か何かから頭に入っていたのだろう。そのなるとあんまり読みたい話ではなかったのかもしれない。
  
それはともかく、シャイロックがユダヤ人ということ、シェークスピアによるその扱いの問題、そして今ユダヤ対イスラムというまた別の図式もあることなど、考え出したらややこしいのだが、映画が始まれば単に差別された商人という前提で、集中してみることが出来た。
 
シャイロックを除いた役名がでてくる人たちは皆、なんとあきれたひどい人たちだろう。
アントーニオはシャイロックを軽蔑して唾を吐き、バッサーニオは労せずして金持ちになろうと大金を借りて婿となるための競争、シャイロックの娘のジェシカの親孝行も知れたもの、ポーシャとて何か主体性のない単にいい男がこないかなという金持ちの相続者。
 
彼らが繰り広げるドラマの主役はむしろ「言葉」である。言葉が次々と立ち上がり、それらが人間を翻弄していく。もちろんローマ以降の、そして近代に通じる情報通信国家であったヴェニス、そうであれば早くもアントーニオがあきらめたように契約・法律の前に皆は平等でありそれを否定すれば国が崩壊する、また婿になるための箱選びもそれぞれにふさわしい言葉が問題になり、最後の指輪さわぎも言葉による誓いがあるからである。
 
だから、シャイロックが借金の担保として記号である貨幣でなく「肉」を要求し、それにこだわり続けたのは意味があり、アントーニオが頭でわかっても体がああいう反応を示したのは当然である。それでもあのジェレミー・アイアンズがあんなにまいってしまうとなれば、見ているほうもこわくなってくる。
 
アル・パチーノは予想通りとはいえ見事。演説、弁明となれば、あの「ゴッドファーザーPARTⅡ」(1974)、「セント・オブ・ウーマン/夢の香り」(1992)、「エニイ・ギブン・サンデー」(1999)などから連想して、彼の独壇場というのも言い過ぎではない。がしかし、シェークスピアの台詞は、それほど長いわけではないから、あとは見るほうが想像するしかない。でも、演技からそれは充分伝わってくる
 
なおエピローグでは、おそらくヴェニスの潟に船をうかべ水鳥を弓で射ているシャイロックを娘ジェシカが見つめ、その指に彼が大切にしていたトルコ石の指輪がある。彼の言い余した思いのように見える。
 
ジョセフ・ファインズは兄レイフと比べると随分目が寄っているのはともかく、ちょっと軽い感じがする。それが今回の役にはぴったりともいえるのだが。
 
リン・コリンズは男装したときの方がきれいなのだが、その前も役にははまっていた。ヘアとメイクは「ヴィーナスの誕生」(ボッティチェリ)を意識したのだろうか。
 
ポーシャとネリッサが男装したときにバッサーニオとグラシアーノから礼として指輪をせしめ、後でとっちめるというのは、後のオペラ「コジ・ファン・トゥッテ」(ダ・ポンテ/モーツァルト)を思い浮かばせる。こういう話、プロットというのはかなりポピュラーだったのか。

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