「仲代達矢が語る日本映画黄金時代」 春日太一著 PHP新書(2013年)
1932年生まれ、80歳になった仲代達矢に、その60年近くの映画人生をインタビューしたもの。1977年生まれで若い春日太一は、映画研究者でインタビューには定評があるらしい。
確かにこの本、書評などの評判通り面白い。仲代が語る戦後の黄金時代の映画について、私はよい観客ではなかった。そして見たものの多くは洋画であり、2000年からの数年、日本映画を多く見たに過ぎない。したがって、仲代を映画でみたこともあまりないはずなのだが、読み進めていって違和感がないのは、ここに語られているいろんなエピソードが、一般に芸能情報としてその都度知られていたからだろう。それほど映画は世の中と密着していたといえる。
黒澤明、小林正樹、岡本喜八、市川崑、市川雷蔵、五社英雄、勝新太郎、丹波哲郎、成瀬巳喜男、木下惠介、山本薩夫、三船敏郎、、、
彼らについての話で、その映画を見ていなくても、まったく知らない世界だと思えないのはなぜだろう。
仲代というひとも、この対談でみるかぎり、これまでのイメージとは反対のところが多い。いわゆる典型的な新劇のひと、ではなく、劇が半分、映画が半分、それもどちらかというと映画を大事にするということらしい。台詞重視の映画はだめだというくらいで、映像を主に見ていて感じられない映画はだめだという。そういうところからいくと、洋画もよほど原語がわかる人でない限り、字幕よりは吹き替えがいいはずで、私も数年前からそう思うようになってきたのだけれど、日本の事情はかなり特異なのかもしれない。
若くして俳優座からすんなり出てきたイメージがあるけれど、生まれてからそれまでは数奇な人生だったようだ。
ともあれ、映画史へのいい資料でもあるだろう。