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シェーカークッキング

2008-05-04 23:56:12 | 音楽

Shakercooking02

 ブルーグラス・ミュージックにのめり込むと、英国から大西洋を越えてアメリカ東海岸にたどり着いた人々のことに思いが及ぶ。移民といわれる人たちだ。彼らの持ち運んだ楽器や故郷の音楽体験がこの音楽のルーツとなるからだ。新天地を求めて、と言葉は勇ましいが、貧困や生活苦、または迫害と、それぞれに事情を抱え様々なドラマがあったことだろう。

 そんなぼくの前に一冊の本が現われた。

シェーカークッキング

 発見場所は例によって山の隠れ家的喫茶店「コンドルは飛んで行く」である。ここはお宝の山で埋もれている。

 料理本といえば言えるが…、もっと深みがある。

Shakercooking01

 マザー・アン・リーら8名のシェ-カー教徒たちが英国国教会に反発してリバプールからニューヨーク港に入国したのが1774年のこと。神の啓示を支えに強い信念のもと、新大陸でひたむきで真摯な開拓が始まった。土地を入手し、種をまき、丁寧に世話するばかりか、農具や食器などを自作するなど、自給自足の暮らしの実現を目指し懸命に働いた。

「手は仕事に心は神に」

 日の出とともに目覚め、、6時の夕食までそれぞれに与えられた仕事を誠実に行った。この教団では働くことがすなわち神への祈りでもあった。

 労働が祈りであること。信仰が深ければ深いほどそれだけ稔りは大きくなる。例えば、牧畜担当者はどこよりも良質の牛乳を絞る。さらにそれが高品質のバターやチーズになる、といった具合に。家具をこしらえる信徒は、シンプルながら、頑丈で、使い勝手のよいものを作りそれが商品化されていく。教団は瞬く間に成長して行く。時に500人、果ては1000人にも及ぶ信者たちの賄い、つまり食事づくりも大切な宗教活動であることは自明である。シスターが食事作りを担当したが、祈りとしての料理がいかに素晴らしかったかが、この本で明らかにされる。

 命を紡ぐ大切な糧は、真摯なものづくりの賜というべき食材と、いささかも手を抜かない自作の調理道具や装置から、プロダクト・インダストリーのごとく全員に饗される。さぞ圧巻だったろう。

 不思議なことに執着するように惹かれてしまったが、これは料理の本であるとともに、料理に対する態度について書いた本でもあるからだろう。この言葉はあとがきにあり、強く同意する。

 耐震偽装、表示偽装と、ものづくりの丁寧さによって成長して来たこの国の、品質管理を放擲してしまったかのような最近のテイタラクを思うにつけ、この本が鮮明に輝く。

 さて、この教団の現在だが、今は消えようとしている。この教団の持つ根幹となる教義ゆえだ。

 迫害を受け投獄されたマザー・アン・リーは獄中にあってひとつの啓示を得る、

男女間の肉欲こそが、あらゆる災いの根源であるから、すべての人間は、男も女も肉欲を越えて純粋無垢な関係をもたなければいけない。

 男女間の肉体関係の否定は結婚の禁止に繋がっていく。

 今も実用に耐える家具に載せられたノートがある。シスターたちの綴り残しのレシピ、それはそれは美しい手書き文字だ。

Shakercooking03


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